ムラサメの話
カル達は朝からムラサメの工房に向け移動してしている。
移動中、皆何となく物足りなさを感じていた。
パーティの1人がいないだけで、何となく空虚感や淋しさのようなものを感じてしまうのだった。
そんな皆にセシルが声をかける。
「皆思ってるとおもうけど、やっぱりヨウがいないと不思議な感じよね」
「本当に…やっぱり誰一人いないなんて考えられないね」
「ああ、改めてヨウの存在感の大きさを感じる」
「僕がお腹すいたって言うと、いつも怒るんだけど、言われないのも淋しいものだね」
ひとりひとり、ヨウの事を考え心配している。カルが皆を見て声をかける。
「僕達が元気でいて、ヨウにとってここが居場所なんだって思えるようにしよう。オーリーさんは任せてって言ってたから大丈夫だと思う」
皆は笑顔で答える。
そんな事を話しながら、ムラサメの住む山間の工房にたどり着いた。
カルは扉を叩き声をかける。
「今日は!カル・エイバースです」
しばらくすると、扉が開き、ネネが現れる。
「あれあれ、カルさん…少々お待ち下さい…」
奥に向かってムラサメ様と、ネネが叫ぶのが聞こえる。ネネは戻ってきて、中に入るように即す。
元気そうなネネにカルは声をかけた。
「ネネさん、体調はもう大丈夫ですか?」
「はい、問題ありませんよ。じきにムラサメ様もやってくると思います」
工房内に通され、座敷で待つようネネに言われる。工房の中は思ったよりも広く、更に奥に作業部屋があった。それぞれ別の作業を行う場所のようだ。
しばらく待っていると、眠そうなムラサメがやってくる。もう昼は過ぎていた。
「ふぁーっ…よう、来たな…」
寝起きらしきムラサメは、サラシにふんどしの格好だった。流石にカルは目を逸らし、
「ムラサメさん、その格好はまずいです!」
「…うん…ちゃんと隠れておろうに…」
「いやいや、そういうことじゃなくて…」
別の場所からネネがやってきて叫ぶ。
「ムラサメ様!もう、もっと羞恥心を持ってくださいにゃ!」
「…やれやれ、仕方ないのう」
ネネは皆に頭を下げ声をかける。
「お見苦しいところをお見せしました…」
着替えたムラサメがやってきて、口を開く。
「見苦しいとはなんじゃ、それに見られたところで減るものでもあるまいに…」
「その考えがダメなのです!」
「わかった、わかった…それで、まず何から話そうかのう…」
ムラサメは作業着姿で戻ってきた。カルはホッとしてムラサメに答える。セシルとブリトニーは何となく端が悪そうな感じだったが、ウーリは工房の中にあるものをキョロキョロと見ていた。
「ではまずヴルークについてお願いします」
「うむ、そうじゃな…まず、儂がイモータル・ライトの弟子と言うことは知っておるかの?」
「…やはりそうだったのですね」
「ふむ、それならば話が早い。シュネブが作った4つの武器、カルのガーランド、そちらのエルフの姉さん、ブリトニーのラッテア、そして儂のヴルーク、そしてもう一つが杖のグランクェス、これがシュネブの精霊武器じゃ」
「僕達はある本から、4つの武器は引き合う運命にあると読んだのですが…」
「うむ、そのようじゃが、未だ4つの武器は揃っておらぬ。じゃが今こうして3つが揃った。もうひとつもじきに見つかるはずじゃ」
「4つの武器か揃うと幸運が訪れるとも書かれてました。一体どのような事なのでしょう?」
「ほう、そんなところまで知っておるとは…やはりこれは運命なのかも知れんのう。実は儂にも分からんのじゃ…しかし、儂が思うに4つの武器は、何かの鍵なのではないかのう」
「鍵ですか?」
「うむ、師匠がその4つの武器を何らかの意図を持って作ったのは確かじゃが、詳しくことは儂にも教えてくれなんだ」
「ムラサメさんは精霊界にどうやって行く事が出来たのですか?」
「ふむ、その前に儂の話を少ししよう…」
ネネが皆にお茶を配る。手際が良かった。ムラサメはどこからかキセルを取り出し、火をつける。吐いた煙が広がっていく。
ムラサメは話を続ける。
「儂は元々隣の国、シナという場所にいた。今よりも数千年の昔、その大陸に神の覇権争いが起こってのう…赤帝と呼ばれる神と黄帝と呼ばれる神が争ったのじゃ。儂は赤帝の血族で、色々な武器を提供する立場にあった。黄帝の方が団結力が強く、赤帝は物資こそ勝っておったが、団結力に欠けておったのじゃ。やがて赤帝は敗れ、残った儂達も最後に足掻いたものの、結局は敗れた。儂は何とか逃れ、ある場所に辿り着く事ができた。その場所はこの世と異世界の交わる場所とでも言うのかのう…とにかく不思議な場所じゃった…」
「この世と異世界が交わる場所…?」
「うむ…そこで儂は理を知ったのじゃ…人、物質、気、地脈…目に見えないエネルギーのことなどじゃな。どのくらいの時間そこにいたのかも分からぬのじゃがな」
「それが昨日の術に繋がるのですね?」
「まあ、そうなのじゃが、その全てを覚えている訳ではないのじゃ…儂は触りの部分だけ知ったに過ぎぬ」
「…」
「つまりじゃ、地脈の事は龍に、魔力の事は精霊に、聖なる力は神に、闇の力は魔族に聞いた方がもっと知識を得られるという訳じゃな」
「なるほど…」
「それで儂はその場所、あえて《混沌》とでも呼ぶかのう…にいた時に、己の知識と併せて、鍛冶について知る事が出来た。どうすれば良い物が出来るかなどといったところじゃな」
「その《混沌》という場所は今でも存在するのでしょうか?」
「儂にも分からんのじゃ…儂はその場所に行こうと思って行った訳では無かったのじゃ…単独敵から逃れ、瀕死の状態で辿り着いた場所じゃった。もしかしたら、儂は精神だけその場所に存在していたのかも知れんのう…その場所からいつの間にかこの世界に戻って来ておった。儂は一族の元に戻り、《混沌》で得た知識を伝えた。しかしその知識は黄帝の一族に奪われてしまったようじゃ…儂は道を教えただけじゃがのう」
「道…」
「儂は、回復すると精霊界に向かう為に旅に出た。精霊界に行くのは大変じゃったが何とか辿り着く事が出来たのじゃ。しかし精霊界は排他的で儂も苦労したのじゃが、ある人物に助けられた」
「それがシュネブ・ジェリコットなのですね」
「その通りじゃ。儂が何か仕事を手伝いたいと伝えると、師匠の仕事を見させて貰う事ができた。元々儂は鍛冶の仕事もしておったからのう…しかし、師匠は儂が今まで見た事もない方法で作業をしておったのじゃ…魔法と技術の融合じゃった。」
「魔法と技術…」
「うむ…師匠はどうすれば、良い物を作れるのかを知っておったのじゃろう。そして物資よりも魔力を用いた方がより高温の釜戸が作れる。そこで魔法を使い、温度の調整をしておったのじゃな。それを続けると不思議な現象が起こったと聞いた。魔力により、武器が意志を持つようになったのじゃ。もちろん、全ての武器がそうなった訳では無かったのじゃ。意志を持った武器が4つ生まれたのじゃな」
「それがガーランド達なのですね?」
「そういう事じゃな。儂は師匠の技術を見て、儂には師匠と同じ事はできぬと理解した。じゃが、それに近い物はできると感じたのじゃ。儂は師匠のように魔法を使って武器を精製するという事はできぬが、普通の方法に師匠のやっていた技術を応用することにしたのじゃ。儂は《混沌》の中で得た知識と師匠から得た知識を融合させて刀鍛冶をしておる」
「では、武器が意志を持つというのは…?」
「ああ、ヴルークのことじゃ」
「そういうことだったのですね…ムラサメさんがヴルークを手にしたのは…?」
「ふむふむ…儂はしばらく師匠の元におったのじゃが、自分の技術を試したくなり、師匠にそう伝えたのじゃ。すると、師匠から餞別にヴルークを送られた。そして別れ際に姉妹を探し、幸運を掴めと言い渡されたのじゃ、師匠もかなりの高齢じゃったからのう、儂は帰るのを躊躇っておったが、自分の道を進めと言われ、精霊界を後にしたのじゃ」
「それからこのヤマトに…?」
「うむ、しかし不思議な事に、精霊界から儂が帰ると何千年もの時が過ぎておった。シナでは、儂は悪魔とか悪神と蔑まされておった…。ここに儂の居場所はないと感じシナを出た。それから、儂が《混沌》で得た知識のひとつ、最も優れた金属を求めヤマトに移り住む事になったのじゃ。」
「…それはオリハルコンを超えるものでしょうか?」
「おお、よう知っておる。その名を(ヒヒイロカネ)と言う物質じゃ」
「ヒヒイロカネですか…」
「ここ東国にあると知識では知っておっても、未だ見つからぬ…儂の目的はヒヒイロカネで武器を作る事なのじゃ」
セシルがムラサメに聞く。
「あの…精霊界にはまだ行けるのですか?」
「ふむ、行ける…が、難しいじゃろう。昔は人間界と交流があったらしいのじゃが、今は向こうからこちらに扉を開かないと無理じゃろう。つまり、人間界から精霊界には行けないが、精霊界から人間界には来れるということじゃな」
「ありがとうございます」
ウーリがムラサメに尋ねる。
「君の本当の名前は、もしかして蚩尤?」
ムラサメは少し驚いた表情をする。
「…さすが聖獣じゃ、よう知っておる。しかしその名は捨てたのじゃ」
「ふーん、そうか…」
「今はヤマトのムラサメじゃ」
ムラサメは少し悲しそうな笑顔で答えた。
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