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ムラサメ




 ーーーーーーーーーーイセの国山間の村落。日没後…。



 一人の鍛冶職人が、作業する手を止める。ふと手を止めた職人に助手が声をかける。


 「あれあれ、ムラサメ様、どうかしましたか?」


 声をかけた助手はまだ子供だった。見た目は普通の女の子の様に見えるが、頭の両脇に耳があり、二股の尻尾が生えている。猫又と呼ばれる霊獣だった。

 仔猫のように愛らしい顔をしているが、既に数百年の時を過ごしていた。


 「…ふむ、どうした事だ?何やら騒がしくしているぞ…」


 ムラサメと呼ばれた職人は、武器の飾ってある壁に目を移す。

  そこには東国のものとは別の剣が飾ってあった。美しい装飾を施され、柄は黄金を用い、剣先は美しく輝いている。

  施された装飾の一部である宝石から光を発し、剣全体に光が及ぶ…。

 それを見た猫又の助手が声を上げる。


 「あれあれ、なんか光ってます…」

「もしや、コヤツの兄弟が近くにおるか…?」


 職人は袴もはかず、フンドシにさらしをまいた姿である。しかし、さらしは腹周りだけでなく、胸の位置まで巻いてある。

  さらしを巻いても、胸の隆起は収まらず、谷間を隠しきる事はできなかった。


 ムラサメと呼ばれる職人は紛れも無く女性だった。


 長い髪を後に縛り、髷を結っている。職人らしく筋骨はしっかりとし、顔は野性味溢れているが美形だった。


 ムラサメは手を止め、手ぬぐいで汗を拭き、小袴と羽織を身につける。


 「ムラサメ様、お出かけてすか?」

「今日の分は大体終わっているからな、残りは後日で大丈夫だろう…。ネネ、しばらくあけるかも知れぬ、戸締まり頼むぞ」

「はい、お気をつけて!」


 ムラサメは飾ってある剣ともう一本の刀を手にすると腰の帯にはさみ、身につけた。

 

  ガラリと引き戸を開け、そのまま外に出て行った。


  一人取り残されたネネと呼ばれる猫又は少し考え、ポツリと呟く…。


 「アレアレ、ムラサメ様が刀を持って出かけるなんて、ただ事ではありませんね…。片付け終わったら私も見に行った方がいいでしょうか…?」


 そう呟いて、いそいそと片付けを始める。


  ムラサメは一人何処かに向かい歩いて行く。腰に収めた剣はまた輝きを増した。


 「お前が騒ぐのは何百年ぶりだ?なあ、ヴルークよ…。」


 ムラサメに語りかけられ、ヴルークと呼ばれた剣は、答えるように輝きを増す。


 もう辺りは暗く、通りには誰もいなかった。その暗闇の中、ムラサメは一人進んで行く。進むべき場所はムラサメにはわかっているようだった。


 「お前の兄弟が、この東国に来るとは…長生きはするものだな…」


 ヴルークは答えるように輝く。


 「やっと師匠の願いが、叶えられるかも知れぬな…」


 ムラサメはそう呟き、空を見上げる。月が半円状に輝いていた。風が吹くと少し寒く感じられる。澄んだ空には星が良く見えていた。


  ヴルークはムラサメの呟きに答えるようにもう一度輝いた。


 

 

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