イセに到着
カル達一行は、馬車に乗り街道を南に進んでいた。やがて眼前に海が広がる。穏やかな海だった。
穏やかな海と比べ、カルの内心は穏やかでは無かった。
これから起こりうる激しい戦いの事を考えると、思わず力が入ってしまい、無意識に拳を強く握ってしまう。そんなカルを見て、何か感じたのか、セシルが声をかける。
「カル、大丈夫?緊張してるの?」
「うん、大丈夫。ちょっと力が入ってるだけだよ」
「不安かも知れないけど、安心して。私も皆んなも強くなってるわ」
カルは皆を見渡す。ブリトニーもヨウも頼もしい顔つきをしていた。ウーリは馬に変わっている。その姿は逞しく、雄々しく見える。
これまでの経験や修行で皆確実に強くなっている。カルはそんな仲間達を持ち、とても嬉しい気持ちと感謝の気持ちが溢れてきた。そして、不思議と安心感が込み上げて来る。
そんなカルを見てセシルが再び声をかける。
「ね、大丈夫でしょ?」
「うん、ありがとうセシル」
「私もいつも考えちゃうの、自分が足を引っ張ってないかとか自分が弱いんじゃないかとか…でも、そんな時皆を見るの…、そうすると不思議と力が湧いてくるの、大丈夫だ、この仲間となら絶対負けないって」
「そうだね、僕たちは負けないよ!」
「えへへ、元気出た?」
「ありがとう、セシル」
そんな会話をしながら進んで行くと、見慣れた人物が現れた。クリスだった。
カルはヒラリと馬車から降り、クリスのところに走り寄る。
「クリスさん、状況はどうですか?」
「…カル、どうしても行くのか?戦況はかなり厳しいぞ…。斎宮は禁忌の地で、容易くは侵入出来ない。しかも敵はかなりの手練れだ」
「…それでも、僕たちは行きます」
「…全く、お前は本当に面倒だな」
「…ごめんなさい」
「…だが、嫌いじゃない」
「えっ?」
「手間のかかる弟のようなものか…今日はこれからどうする?」
「あっ、はい、近くの街で宿を取るつもりです」
「そうか…ならばここに行くといい、同志だ…」
「クリスさんはどうしますか?」
「私も、お前達と一緒に行動した方がいいだろう、夜になったら合流しよう、しかしまだやる事がある」
クリスはそう言って宿の書かれた紙を渡してその場を立ち去る。
カルはその紙を受け取り、立ち去るクリスに声をかける。
「クリスさん、ありがとうございます!」
クリスは振り向かずに、右手を軽く上げ、その場から立ち去って行った。
カル達は海沿いの街道を進み、宿のある街へと到着した。クリスに教えてもらった宿まではもうすぐだった。
詳しい場所をヨウが町の人に聞き、その場所は直ぐにわかった。
街道から少し入った場所にある、こじんまりとした宿だった。
カル達が馬車を降りると、宿の店主がすぐに姿を現した。
「カル様でしょうか?手前は宿の主のヨシタカと申します、お見知り置きを」
「初めまして、カル・エイバースです。よろしくお願いします」
「さあ、どうぞこちらに。直ぐに食事の用意を致します」
ヨシタカと名乗る主はスキが無かった。見た目は40代くらいに見える。
カル達は通されたまま、ヨシタカの後に続く。いつの間にかウーリも少年の姿になっていた。
「あー、僕はお腹が空いたよ…」
「ウーリは本当にお腹が空くのが早いな」
「うーん、変身するとお腹が減るのかな?」
「いや、多分しなくても減ると思う」
「ま、いっか!いっぱい食べれるし」
ウーリは本当に変わらない。緊張感もほぼ無いけど…
そんな会話をしながら、カルはヨシタカに話しかける。
「ヨシタカさん、僕たちの状況は聞いていますか?」
「ええ、先程クリスより伺っております。あれとは何度も顔を合わせておりまして、よく知っております」
「ここも襲われるかも知れません」
「わかっております、非常通路もここにはあります心配なさらずに」
「わかりました、ありがとうございます」
「ご安心ください、我々も戦う準備は整っておりますので」
「ありがとうヨシタカさん」
「すぐ食事にいたしますので、お待ち下さい。今日は良いものを取り揃えておりますので」
「ありがとうございます」
ウバクの民の組織力は底が知れない、とカルは思った。それは「食す者」イーターも同じなのだろう。
カル達は宿の2階の部屋に通された。部屋からは海が良く見えた。太陽がオレンジ色に輝き、海に沈もうとしている。
奥の部屋から、ウーリがご飯と連呼しているのを、ヨウが我慢しなさいと嗜めているのが聞こえた。セシルとブリトニーの笑う声が響いてきた。
カルも自分が空腹だった事を思い出した。




