アマミ家にて
女子達が風呂から帰って来たが、何故かブリトニーだけが逆上せたような状態だった。何かあったのかカルは少し心配だったが、ブリトニーは大丈夫だと答えた。
カルとウーリは2人で風呂に向かう。大きな風呂だった。ブリトニーは気持ちが良かったから浸かり過ぎてしまったのだろうと思った。
「ウーリ、この国の風呂は広くていいね」
「ああ、そうだね、昔のウバクの共同風呂を思い出すよ」
「え?昔のウバクはそんな文化があったの?」
「うん、まあ言うなれば第2次ウバク国だと思うけど、その頃はそんな感じだったね」
「そうか…ウーリはさすがに色んな事を知ってるよね」
「まあ、長く生きてるからね」
「それにしても気持ちいいね」
「うーぃ、本当だね…」
2人して湯船に溶けそうになるほど浸かった。旅の疲れや汚れが落ちていく様な気がした。
…カルとウーリが風呂から上ると夕食の準備が出来ていた。キスクの東国料理屋とは比べ物にならない程のご馳走だった。ウーリの目が輝いている。
「うふふふっ、お刺し身、お寿司!」
料理が並べ終わると、東国の服装の男性と女性が部屋に入って来る。男性は若々しく見えるが、年齢はそれなりに重ねているのかも知れない。女性は美しく、大人の女性らしい落ち着いた感じがする。ヨウに良く似ていた。後ろからマイも入って来た。
ヨウが皆の方を向いて話し出す。
「皆さん、こちらが私の両親です」
ヨウの父親が声をかける。
「皆さん、娘がお世話になっております、私がアマミ家当主、ヒョウゴ・アマミと申します、こちらがヨウの母親サナエです」
「皆さん、初めまして、ヨウの母サナエと申します。よろしくお願いします」
2人が頭を下げる。マイもそれに習って頭を下げた。カルが答える。
「初めまして、僕は西方の連邦領、キンクウの出身のカル・エイバースです。いつもヨウさんに助けられています」
「同じくセシル・グレースです」
「西方の迷いの森のダークエルフ族、族長のブリトニー・エリシア・アレンダート・エルフィンと申す。ヨウさんには大変お世話になっております」
「僕はウルスラグナ、よろしく」
皆改まって挨拶を返す。ヒョウゴは笑って声をかける。
「はははっ、皆さん改まらず、食事を楽しんでくだされ」
「さあ皆さん、召し上がってください」
マイが飲み物を皆に注いでいく。カルとセシルはお酒は飲めないので、ブリトニーが頂く。
ヒョウゴが旅の無事に乾杯の音頭をとる。それを機に皆が料理に手を伸ばす。東国の料理屋のものとは比べ物にならない美味しさだった。特にウーリは、テーブルまで食べそうな勢いだった。
ヒョウゴとサナエもヨウが無事帰って来たのが嬉しいのか、笑顔が崩れなかった。ヨウは2人にこれまでに旅して来た事や修行の事などを話している。特にオロチの事を話すと、2人は目の色を変えて聞いていた。
しばらくするとヒョウゴがカルに声をかける。
「カル様、しばしよろしいでしょうか?」
「いえいえ、カルとお呼びください」
「そうか、ではカル、あなたは竜神様と知り合いなのですか?」
「はい、正確には僕のお師匠様と知り合いなのですが」
「お師匠様?」
「ええ、信じられない話かも知れませんが、僕の師匠は竜の王なのです」
「な、なんと…」
「お師匠様は色々とオーリー…オロチ様に協力をお願いする事がありまして…」
「ほう…なんとも…我々はオロチ様に仕える神官にございます、滅多にお会い出来る機会は無いのですが」
「オロチ様は竜の時はどんな姿になるのですか?」
「うむ、オロチ様は荒ぶる神と呼ばれております、その姿は8つの頭を持つ竜神で、ヤマタノオロチと呼ばれております」
「えっ?頭が8つもあるのですか?」
「はい、そう聞いております」
「人の姿のオロチ様には想像出来ませんね…」
「はは、もっともその姿を見たものはありませんが、これはあくまでも伝説ですが」
カルはヤマトの刀工について聞いてみる事にした。
「ヒョウゴ様、この国の刀工…これはオロチ様に聞いたのですが、イセという場所にすごい刀工がいると伺ったのですが、何か知りませんか?」
「ほほう、イセの刀工…そう言えば新しい技術を手に入れた名工がいるとの話を聞いたな」
「新しい技術ですか?」
「うむ、なんでも隕鉄を鍛えて刀を作ったとか…」
「隕鉄?って空から落ちて来た石に含まれる鉄の事ですか?」
「ああ、そう聞いた」
「では行ってみようと思います」
「そうか、うむ、それがいいでしょう」
カルは目標が決まった。この後はイセの刀工を訪ねる事になった。
ヨウは母のサナエと深刻な話をしていた。
「母上、叔母上はお元気ですか?」
「ええ、斎王様は元気です、お会いして行けば良いでしょう?」
「はい、私がお会いしても大丈夫ですか?」
「斎王様はあなたを心配しているのですよ」
「…私は叔母上に嫌われているのではありませんか?」
「そんな事はありません、あなたを愛しているから厳しくしているだけです」
「そうだといいのですが…」
「大丈夫、斎王様を信じて」
「わかりました」
セシルとブリトニーはマイの相手をしている。マイは子供らしくとても可愛いらしく感じるのだろう。ヨウの妹だと、自分達の妹みたいなものかも知れない。
ウーリはひたすらに食べ続けていた。無言でひたすらに………。
その夜は過ぎていく。皆楽しそうに笑い、美味しいものをたくさん食べた。寝室に行くと、後ろからヨウに声をかけられる。
「カル、少しよろしいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「実は明日行ってもらいたい場所があるのですが…」
「もちろん構わないよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「どこに行くの?」
「私の叔母、斎王の元に行って欲しいのです」
「オーリーさんの言ってた?」
「はい、お願いします」
「わかった、明日にでも行ってみよう」
ヨウはそう言って自室に向かった。その背中は何となく悲しそうに見えた。
カルはヨウと叔母の関係はどんなものなのか少し気になった。明日にははっきりするだろう、そう思って寝ようと思った。その時眠っていたウーリが、赤身よりも油の方が美味しい…と叫んだ。カルは本当にウーリは寝ているのだろうかと思ったが、幸せそうな寝顔を確認して自分も少しだけ幸せな気分になった…




