ラムドール
船上で襲撃されてから一夜が明けた。怪我をした船員達もほぼ問題無く動けているようだった。セシルやヨウは怪我人の世話を良くしていた。カルはそんな2人に声をかける。
「2人ともお疲れ様、はいこれ」
カルはタラスで汲んでおいたクリスタルクリアの水を2人に渡す。
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
ブリトニーはまだ体調が回復してないようだった。セシルとヨウは美味しそうに水を飲み干す。
「やっぱり美味しいね」
「はい、美味しい水です」
カルはそんな2人を見ながら、少しクリスが気になっていた。ボーっと考えているところでセシルが声をかける。
「カル、カルっ!どうしたのボーっとして」
「あ…うん、ちょっとクリスさんが気になって…」
「カル、話してくればいいのではないですか?」
「私もそう思う」
「う、うん」
「カルらしくないよ!」
「そうです、カルはいつも前向きじゃないと」
「そうか…そうだよね、2人ともありがとう!」
セシルとヨウは嬉しそうな笑顔だった。カルはその場を去り、クリスを探す。ダウニングを目にし、聞いてみる。
「船長、クリスさんを見ませんでしたか?」
「ああ、クリスならいつものところですな」
「いつものところ…ですか?」
「クリスはいつも厨房の食堂か、儂の部屋だと思います」
「わかりました、ありがとうございます」
「カル様、くれぐれもクリスをよろしく頼みます」
「はい!」
カルは厨房に向かった。入ってみると料理人以外には見当たらない。船長室に行ってみる。ガチャリと扉を開けて中を見ると、クリスがグラスに入った酒を飲んでいた。暗い表情は変わらない。
「クリスさん…あの…」
「カル、すまなかったな」
「いえ、僕もクリスさんの気持ちを考えてませんでした」
「…お前は主人だろうに、全く面白い奴だな」
「そういうクリスさんこそ、僕の部下って感じではないですね?」
「…そう言えばそうか」
「はい」
「まあ、今後は何かあったらお前に聞く事にする」
「はい、わかりました」
「ああ」
「それとクリスさん」
「…なんだ?」
「余り飲み過ぎないで下さいね、僕の知り合いで大酒飲みがいますが、後で大変な事になったりしてますので…」
「…考えておく」
カルは船長室を出る。クリスと話が出来て少し安心した。
カルはブリトニーの様子を見に行く事にした。ウーリがついているはずだった。
「ブリトニー、大丈夫?」
ブリトニーは横になっていたが、顔色は昨日程悪くなかった。ヨウの薬が効いたのだろう。
「ああ、もう大分良いぞ、そろそろ起き上がれそうだ」
「カル、外の様子はどう?」
「うん、怪我した人達も、もう大丈夫そうだね」
「そうか、良かった」
「すまん、私は何の力にもなれなくて…」
「大丈夫、セシルとヨウが頑張ってくれてる」
カルは部屋を出て、セシル達のところに戻った。2人ともまだ世話をしていた。カルに気づき近寄って来る。
「カル、クリスさんと話出来た?」
「うん話して来たよ、もう大丈夫そうだね」
「そうですか、安心しました」
「やっぱり自分の気持ちを伝えるのは大切だよね」
「そうよね、難しいけど」
「はい、必ずしもそれが相手の為になるとは限らないですから…」
「そうだね…でも僕もまだまだ頑張るよ」
「そうだね」
「はい」
その後天候も穏やかな日が続き、安定した航海になった。もうすぐ次の停泊地に到着する。
次の停泊地はラムドールという街だった。この街はキスクやヴィスニーの連邦国とは違う、独自の宗教国になる。国民は敬虔な宗教徒で、巨大な寺院が存在していると言う。ラムドールからヨウの故郷のヤマトまでは10日程の日程だった。
カルは船室で皆に話しかける。
「もうすぐ次の停泊地に着くみたいだね」
「次はラムドールって聞いたけど」
「ラムドールは宗教の国ですね」
「やっと体も船に慣れたな、私も大丈夫だぞ」
「僕は次の街に早く行きたいな」
カルはヨウに尋ねる。
「ヨウはラムドールに行った事があるの?」
「はい、私が西方に行く時に立ち寄った港です。ラムドールの人々は敬虔な宗教徒で、とても優しいですね」
「そうなんだね、何も無ければいいけど…」
「そうですね」
やがて船は港に到着する。今まで見た事の無い街並みだった。建物は金や赤などの色で彩られていた。
この港では2日程停泊し、物資を補給する。また交易も行う為商人と話をするとの事だった。
「今日はこの街の宿屋に泊まる事になりそうだね」
「すごい、今までに見た事の無い街並みね」
「はい、私の故郷はまた違う街並みですよ」
「派手な色使いだが、何というか違和感がないな」
「僕はこの街好きだな」
街は色々な人で溢れている。西方の者、ヨウと同じく東国の者、地元の人々、更には陸の旅で北方から来ている者も見かけられた。
「しかしここには色んな人がいるね」
「そうね、ここは文化圏が交わる場所なのかしら?」
「そうですね、ここは陸からも海からも来られる、交易の要所ですから、色々な国から交易に来ている人が沢山います」
「ここには他の種族はいるのだろうか?」
「あまり見かけませんね…」
「あははぁーっ、家も金に塗ってあるねぇ…」
ウーリは金に反応してしまっているらしい……
突然声をかける者が現れる。
「いやぁ、久しぶりだね、カル君」
黒い服に黒いブーツ、黒髪の男性だった。
「あっ、オーリーさん?」
「久しぶりだね、元気だった?」
「どうしてここに?」
「お嬢にカル君が東国に行くと伝えられて、僕はこの街で待ってたんだ」
カル以外の4人はキョトンとしていたが、カルに聞いてくる。
「カル、知ってる人?」
「あの、もしかして…」
「うむ、教えてくれるか?」
「…あれ、どこかで会ったことあるような…」
オーリーが答える。
「ああ、皆さん初めまして、私はオロチと申します。オーリーとお呼び下さい」
ヨウが突然その場で両膝をつき、頭を下げてオーリーに話す。
「オロチ様、私はタンゴの巫女、ヨウ・アマミと申します。龍神様にお会い出来て光栄に存じます」
オーリーはヨウを慌てて立ち上がらせ、話す。
「いやいやいや、ヨウさん、この場所ではそんなにかしこまらないで、恥ずかしいから」
「ですが、私は竜の巫女ですので…」
「大丈夫、僕が言ってるんだから、ね?」
「は、はい、わかりました」
「アマミって、君はアマミの一族なのかな?」
「はい、アマミ家の次期総代、ヨウと申します」
「そう、君が次の斎王になるのか…初めまして」
カルはオーリーに尋ねる。
「オーリーさん、斎王って何ですか?」
「うん、神の言葉を聞く者で宝珠を守りし者かな」
「神の言葉って、オーリーさんの言葉ですか?」
「まあ、そうなるね」
「はい、龍神様とこうして会えるなんて…」
「まあ、今日は堅苦しいのはやめよう」
「わかりました」
カル達は近くの酒場に移動する事になった。クリスが突然現れる。オーリーの前に立ちはだかる。
「貴様は何者か?」
カルはクリスに説明する。
「いえ、クリスさん僕達の大切な知人です、大丈夫」
「…そうか、わかった」
クリスは去って行った。
オーリーが話しかける。
「今の女性は面白い力を持っているみたいですね?」
「はい、僕達を守ってくれてるんです」
「そうですか、とにかく中に入りましょう」
酒場に入って行く。色んな国の人々が目につく。席に着き、この国独自のお茶を注文した。
カルはオーリーに旅の目的を話し、東国に行く事を伝えた。
「…不滅の灯りね…カル君のその槍もその鍛治が作ったものなんだね?」
「はい、そうです」
「うーん、確かに東国には優れた刀工が存在するけど…
あ、もしかして…」
「何かご存知なんですか?」
「ああ、思い出したんだけど、イセという場所に変わった刀工がいると聞いた事がある。その刀工は不思議な刀を作るって噂だよ」
「イセは私の故郷よりも少し南東に行ったところです」
「オーリーさんありがとうございます」
そんな話をしていると、注文した茶が届く。紅茶に生姜が入っている飲み物で、牛の乳が混ぜてあった。
「私も何かわかったら君たちに連絡しよう」
「はい、ありがとうございます」
「龍神様、これからもよろしくお願いします」
ウーリはじっとオーリーを見ている。
「オロチ、僕に会った事ある?」
「ウルスラグナ、もちろんあるよ」
「かなり昔の事だったよね、僕は余り覚えて無いんだけど」
「まあ、昔の話だからね」
「そっか」
他の4人は2人に何かあったのか少し気になっていた。
今日はこれから宿に泊まる事になる。色々オーリーに聞きたい事もあったが、また会う事もあるだろう。そんな事を考えながらカルはお茶を一口すする。少し熱かったけどそれ以上に生姜がきいていて辛く感じた…




