母に伝える事
キンクウの村を守ったカル、それから3年の時が過ぎた。カルは15歳になり、背も少しだけ高くなり、優しい好青年に成長していた。相変わらず、修行の日々は続いている。
カルは最近いつも考えていた。それは、父のような冒険者になるという事だ。修行ももちろん続けて行きたいとは思っているが、自分の気持ちに嘘はつけなかった。
カルは、ステラに相談してみようと思い、話しかける。
「ステラさん、ちょっと良いですか?」
「あら、どうしたのカルちゃん?」
「実は僕、村を出て冒険者になりたいと思っているんです。今のように、村を守っているのも間違いでは無いと思います。でも、僕は父のような冒険者になりたいんです」
ステラは顎に指を当てて、少し考えてから答える。
「うーん、そうね、私は良いと思うな。カルちゃんかなり強くなっているし、外の世界を見るのも悪く無いんじゃないかな?」
何処から現れたのか、サンドラが突然話に加わってきた。
「うむ、カルよ、村を出るのも良いかもしれぬのう。魔族もここのところ大人しくしているようじゃ、お前の村で何かある場合には、すぐ行けるようにゲートを作っておこう」
「お師匠様、いいんですか?」
「昔から可愛い子には旅をさせるものじゃ」
「ありがとうございます!ところでお二人にお願いがあるのですが…」
翌日、カルは二人を自宅に呼んだ。少し戸惑ってはいたが、二人は快く受け入れてくれた。
祠の扉から二人とともにカルは歩いてくる。村人達は、カルが美人な女性を従え歩いているのを見て、何があったのか、興味深々で見ている。
「我らはそんなに珍しいのか?カル、ここに女子はおらぬのか?」
「ちゃんといます。お二人が綺麗だからみんな見ているんです」
「カルちゃん、お世辞言えるようになったの?成長したわね」
「いえ、事実を言ってるまでです。お二人とも王族です。村ではほぼ会える事はないと思います。それに美しい」
「ステラよ、我が弟子は愚直なまでに真面目じゃ。嘘をつくような真似はせん。褒めるとか世辞など言えるはずもなかろう…一応それが褒めているつもりなのじゃろう…」
「あはは、そうね、それがカルちゃんね」
「お師匠様、ステラさん、何か仰いましたか?」
「何も言うておらんぞ」
「そうそう」
「そ、そうですか…?」
そんなカルの仕草かおかしかったのか、二人は顔を見合わせて笑った。
そんな会話をしてるうちに、カルの家に着いた。何故かシンも待っていた。
「あれ、シンさんまでどうしたんですか?」
「カル坊、どうしたじゃねえ!こんな美人を連れて歩いて来るだけで、大騒ぎじゃねえか。誰なんだい、ちゃんと教えろ」
ステラが眩しい笑顔でシンに挨拶する。
「初めまして、シン・グレースさんですわね?私はステラ、こちらはカルの師であるサンドラさんです」
「あ、あなたが…そうでしたか。こりゃ、ただごとじゃねえな。おーいアンナ…」
「あれ、シンさん…?」
シンは慌ただしく自宅に戻って行った。そんなシンをカルが見ていると、何か冷たーい視線を感じた…。
セシルがジーッとカルを見ている。怖い…。
カルは目をそらし、コホンと咳払いし、中に二人を通した。
「母さん連れて来たよ」
カレンがもてなし用の食事や果物、飲み物を用意していた。手を休めて挨拶する。
「初めまして、カルの母親のカレン・エイバースです。いつも息子がお世話になっています」
と言って深々と頭を下げる。
「我はサンドラと申す。以後よしなに」
「初めまして、カレンさん。私はステラと申します。よろしくお願いします」
二人を席に通し、カルは今までの経緯を話し始める。
カルがサンドラの元でずっと修行をして来た事、実際に相手をしてくれたステラの事、村の危機をカルが救った事など全てを話した。サンドラが実はドラゴンの王である事を話すと、最初は信じなかったカレンが、サンドラの魔法を見て、キョトンと目を見開いたまま倒れそうになったりしたが、だいたいの理解はしてくれたようだ。
カルは自分の気持ちを母に伝える。
「母さん、僕は父さんの様な冒険者になりたいんです。村を出て、大きな街に行こうと思ってます。許してくれますか?」
「たまには帰って来てくれるんでしょ?それならば行って来なさい」
「はい、母さんありがとう!」
「やっぱり、あなたはスレイの息子ね。ちょっと寂しくなるけど、いい経験になるでしょう」
そう言って快く了承してくれた。
すると突然、ドアがガチャっと開き、大勢の村人が立っている。
「馬鹿やろう、押すなって言ったろうが!」
シンがそう言って申し訳無さそうにこっちを見ている。
「いや、村の恩人にせっかく来て頂いたので、恐縮ですがこれを…」
「俺もこれを」
「俺も…」
「家はこれを…」
村人達は、それぞれ自宅から食べ物や酒などを持参していた。みんな一緒に話したいという意思が如実に感じられる…
…まさにお祭り騒ぎだった…
こうなったらもう止めようがない。村中の人を集めて宴会が始まってしまった。カレンも笑顔で受け入れた。
サンドラやステラもまんざらでは無いらしく、一緒に楽しんでいた。
何時間もの間、飲めや歌えのお祭り騒ぎが続く。やがて酔い潰れる者や帰る者も出始める。
みんなが帰った後に、カレンが二人を送って行くようにカルに伝えた。カルは二人とともに家を出て行った。
「今日は何だか、申し訳ありませんでした。こんな騒ぎになるとは…」
「カルよ、我も楽しんだ問題ないぞ」
「そうね、久しぶりに楽しい時間だったな」
「そう言って頂けると助かります」
「それより、お前にもう一つ教えねばならぬ事があるのう」
「はい、何でしょうか?」
「お前に飛ぶ事を教えておらんかった、明日必ず覚えるのじゃ、良いな」
「飛ぶとは、空を飛ぶということですか?」
「当たり前じゃ、ドラゴンは空を飛ぶのじゃ」
「ぼ、僕も飛べるんですか?」
「ちょっとしたコツがあってのう、それを教える」
「ありがとうございます!」
「うむ、ちなみにステラは飛べんがな」
「飛べなくても大丈夫よ」
「ほほう、負け惜しみか?」
「あら、お嬢、グリムちゃんに頼めば飛べるわよ」
「我は普通に飛べるがの」
「飛べなくたって同じくらい速く移動できるわ…」
そんな二人の会話がカルにとって、大好きな時間だった。そんな事を考えながらカルは祠に向かう。
二人と別れて帰る途中、セシルが待っていた
何故か緊張してしまう…
「カル、冒険者になるって本当?」
「うわっごめんなさい」
「何謝ってるの?」
「え、あ、いや…」
「ねえ、冒険者になるって本当なの?」
「うん、そのつもりだよ」
「ふーん、本当に遠くに行っちゃうんだね」
「うん…」
「決めた!私もカルと一緒に行く!」
「たまには帰って、って、ええー?」
「一緒に冒険者になる!」
「ちょ、ちょっとシンさんは?アンナおばさんは?」
「ふふふ、実はね…お母さんのお腹大きいのよ」
「ええっ?弟か妹ができるの?」
「うん、私の兄弟」
「でも面倒見ないといけないんじゃ?」
「だって、カレンおばさんもいるじゃない」
「母さん?」
「そうよ、あんたがいなくなったら寂しくなるし、ちょうどいいんじゃない?」
「ええー、そこまで考えてるの?」
「あんたについて行きたいのよ!カルのバカ!」
そう言ってセシルがカルに抱きついてきた。カルはびっくりしたけど、何となくセシルのさせるがままになっている。
「遠くに行かないって言ったのに….グスッ」
セシルが泣いている。何でだろう?僕がセシルに悪い事をしたから?違う、僕と離れるのが嫌なんだ、セシル…
いつから一緒なんだろう、セシルはいつも側にいてくれた。そうか、そうだったんだ。
「わかったよセシル、僕達はいつも一緒だよ」
「うん、カル…」
カルはセシルを優しく抱きしめた…




