13『揉め事』
「……つまり、あの海岸で遊ぶとバカデカイ竜に襲われるのね」
「まぁ、そういうことです」
一通り俺が見て聞いた事は話した、アヤメさんはそれに理解を示してくれた。くれたんだが、さっきからちょっと恐い、顔はいつも変わらないのだが、何故か恐い。出来れば近寄りたくないレベルで。
「はぁ~、そう言うことなら仕方ないわね、ビウム、水遊び禁止ね」
「え~~~!?」
「もし、行くなら1人で行きなさい、そして、死んで来なさい、電撃で芯まで痺れて苦痛を味わって」
「アヤメちゃん!? 落ち着こう、ね? ほら、ここはゲームなんだから、ね!?」
お~、あの、のんびりした語尾のカンナさんが語尾を伸ばさずに必死にアヤメさんを宥めてる。そんなにヤバい状態なんだ、あれ。
「カンナ」
「アヤメちゃん、……痛い」
アヤメさんは顔を上げカンナさんに向き合うと、突然カンナさんの胸を揉んだ、いや、掴んだ。
えっと、なにが起こっているのでしょうか?
「いいわよねカンナは、こんな大きな脂肪が付いてて、どうして男ってのはこんな無駄肉を求めるのかしらねぇ?」
「アヤメちゃん、元に戻って、痛いから、ねぇ?」
あっ、これはマズイ、嫌な感じしかしない。早くここから離れなければ、気力を足に集中して、
「ネリネさん、俺はここで失礼します、それでは」
「えっ? ちょっ」
「姉さん、僕も行くね」
「はっ!? 待ちな──」
俺がネリネさんに別れを告げながら、後ろにバックステップ、何故か一緒にユキムラ君も下がってきた。そして、ほぼ同時に反転して、
「失礼しまーす!」
と叫んで猛ダッシュ、俺達はその場を後にした。背後から何か聞こえる気がするが、振り返らない。極力デリケートな問題には近付かない、特に異性が関わる問題は。面倒しか呼ばないからね。
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「とりあえず、ここまで来れば、大丈夫、かな?」
「そうですね、アヤメさんも、ああなると長いですから、しばらくはなんとか」
俺達は砂浜に戻って来ていた、まっすぐ来た道を戻ればそうなるの必然だけどね。
砂浜にはたくさんのプレイヤーが集まっていた、しかし、海ではしゃいでいる者はいない。よく見ると、さっき海で遊んでいたエルフの女性達が、皆に何か訴えているようだ。
「行ってみるか?」
「良いんですか? 結構海に近いですけど」
「……大丈夫だ、今、反応はない、出たら速攻で逃げるけど」
「それなら、警戒はお願い出来ますか?」
「任せてくれ、それじゃあ行くか」
ユキムラ君と一緒に集団に近付いていく。ちなみに、ゲンジロウはユキムラ君の肩に、春夏秋冬に説明している最中に目を覚ましたネイはまた指輪になっている。とりあえず俺が注目される事は無いはずだ。
集団に近付いていくと、会話の内容がハッキリしてきた、あれ? これ、口論になってる。責められているのは、エルフの女性達のようだ。
「──だから、テメェらが海なんかで遊んだからあれが出たんだろうが! おかげでこっちは来た瞬間に死に戻っただろうが! 責任取れやクソが!」
「何よ!? それは最初に謝ったじゃない!? 責任? ちょっとイベントを始めるのが遅くなっただけで、なんでそんなの取らないといけないのよ!?」
あ~、こっちも面倒な事になってる。嫌だね喧嘩なんて、誰も特なんてしないのに。
まぁ、状況は理解した、俺は見てたから内容も知ってる。迷惑行為と言えばその通りだが、誰も予想なんて出来るわけもない。責めている犬っぽい顔した獣人の気持ちも分かるが、あれは初見殺し、諦めるのが1番だ。
それに、ここで騒いでいたらまた奴がここに来るかもしれないし、関わって矛先がこっちに向くのもごめんだ。さっさと離れよう。と思っていたら、
「あの人達はどうしたんですか?」
ユキムラ君が野次馬の1人の赤い長髪の女性に話しかけちゃった。ユキムラ君も俺の話は聞いていたから、状況は理解できてるはずだけど、何故?
「え~と、ですね。イベントその物を楽しみたいエンジョイ勢のエルフさん達と、イベント上位を目指したいガチ勢の獣人さん達が言い争ってるんですよ、スタートダッシュに失敗した責任取れぇーって、不毛ですよね~、そんなこと言ってる暇あるならさっさと探しに行けばいいのに」
「なるほど、ありがとうございました」
「いえいえ、これくらいどうって事ないですよ~、イベント頑張ってね」
「はい、それでは」
「って事らしいです」
「あぁ、うん、聞いてた」
エンジョイ勢とガチ勢、ね、よく聞く話だな。俺? もちろんエンジョイだよ。
「余計な事に巻き込まれない内に行こう、俺にも目標があるからな」
「そうなんですか? 僕もです」
「それなら尚更だ、期限もあることだしな」
「分かりました、それで、何処に行くんですか?」
「そうだな、まずはこの辺りを海岸に沿って進んでみよう、ここからだと遺跡に行く人の方が多い気がするし」
目線を森に向けると、野次馬から離れて森の中へ向かう人の姿がチラホラと、言ってる間にこの集まりも自然消滅するだろう。
「大丈夫なんですか? 海岸で」
「今、奴の反応はない、騒がなければ大丈夫だと思う、な~に、もし来たら森の奥に逃げ込めばいいさ」
「じゃあ、作戦は『虎穴には近付かない』ですね」
「なんだそりゃ? 意味はなんとなく分かるけどそれなら海岸に近寄っちゃダメじゃないかな? 『命を大事に戦略的撤退』でどうよ?」
「え~、なんか堅いですよ、もっとユーモアをですね」
「いやいや、こういうのは分かりやすい方が……なんだ!?」
そんな事を相談していた時だった。突然ボォォン、と爆発音が鳴り響いた。周囲を見渡すとさっきの赤い髪の女性が煙が立ち上る大砲のような大筒を海に向けていた。そして、何かが海に落ち大きな水柱が立った。
それを見届けた女性は言い争いをしていたエルフと獣人に振り向き、
「いつまでスタート地点でもたついてますか!! 迷惑です! 言い争うなら他所でやりなさい!!」
と、叫んだ。
だけど、俺は今それどころじゃない、急いでここから離れなければ、
「ユキムラ君、ダッシュだ! 奴が来る!!」
「!? はい!」
彼女が撃ち込んだ砲弾が奴を刺激したようだ。既に【気配察知】の範囲に奴の影が、猶予は、ない。
俺とユキムラ君は森に向かって駆け出した、もちろん【気力操作】もフル稼働で。それに付いてくるユキムラ君、彼も【気力操作】を持っているということだろう。まぁ、それは後だ、それより今は、
「スタミナが切れてもいい!! 全力で走れ!!」
「はい!!」
俺達は全力で限界まで走った、その最中後ろから奴の咆哮が聞こえた、更にその後に複数の爆発音。
まさかあの女性、奴に撃ち込んだのか? すげぇな。俺には出来ん、だって倒せる手段がない。目潰しくらいなら出来る気もするが、そのあとやられるのは目に見えてるし、流石にグレイウルフリーダーの時のような無茶を何度もする気もない。例えゲームでも死にたくないしね。
結果、俺達は逃げ延びた。代償は暫くの【虚脱】状態と現在地不明、つまり、俺達は迷子になったのだった。




