29『ゴブリン砦~救出編~6』
シノブの作戦を実現させるには、あまり時間はない。よって、
「速攻で行くぞ! 突撃だー!! 」
ラプターに跨がり、玄関を突き破る。
外に出るとゴブリン達が背中を向けている。メイズ達を追って行かなかった個体が、それを見て声を上げている。相手が逃げて調子に乗ってるようだ。こちらにとっては好都合だ。
「ラプター! 燃やせ!! 」
「ゴァーーーー!! 」
扉を勢いよく開いたのに気付いた奴は、炎を回避した。だがそうじゃない奴らは、背中から炎を浴びた。
ラプターは、避けた奴も燃やそうと首を振る、当然、ゴブリンはそれを避ける。そして、炎はその後ろにいるゴブリンをまた燃やす。それを繰り返す。
十分にゴブリン達に、火の恐怖を教え込んだところで、
「よし、ここだ! グレイス! シロツキ! 」
「キュ! 」
俺の合図で、シロツキは、グレイスが銜えている瓶の蓋を外す。
グレイスは、それを傾けて扉から半円を描くように走る。瓶からは黒い液体が流れ出す。
そして、燃える体の火を消そうと転がるゴブリンが、液体に触れると、炎が液体をなぞるように燃え拡がった。
そう、グレイスが撒いたの"油"だ、シノブの忍道具の一つらしい。これでしばらく扉には近づかないだろう。
しかし、コマンダーだけは、それをものともせず突っ込んでくる。
「来たな、お前はこっちだ」
炎で作った半円の陣は、一部だけ燃やさずに道になっている。そこを抜けてコマンダーを誘きだす。
陣の外にいるゴブリンは、鞭を振り回して散らす。もちろん先端には魔力を纏わせいる。形状は球、それがゴブリンに当たると、周りを巻き込みながら吹っ飛んでいく。
これは、ゴブリンの死体が道を塞がないようにするためだ。このあとの作戦のためにも、道は歩きやすい方が良いしな。
コマンダーは狙い通りこちらを追ってくる。ゴブリン達は道を塞ごうとするも、ラプターが口から吐く炎と、振り回す鞭で近付けない。グレイスとシロツキは、後ろから近寄るゴブリンを牽制している。そして、ついにゴブリンの包囲網を抜ける。
「よし! 引き離し過ぎないように頼む」
「グァ! 」
ラプターは返事をして、速度を上げる。それでもコマンダーと同じくらいに調整してくれている。
こちらの指示を聞いてくれるようにはなった。だけどまだ、テイム可能にならない。何が足らないのだろうか?
まぁ、今は目的地に向かう事を第一に考えないとな。さぁ、上手く行ってくれよ。
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指示を聞いてくれると言っても、まだ細かい微調整は出来ない。そのせいか、ゴブリンに追い付かれる事もある。
さすがに、ラプターもコマンダーからは逃げるのだが、コマンダーよりも足の早い個体には追い付かれる。今まで確認できなかった個体だが、その正体も分かった。
【ゴブリンアサシン】対応rank:C
『ゴブリンの中で足の速い個体が進化する
立体的な動きで相手を翻弄し、武装による攻撃を行う
主な武器はナイフと弓矢、毒を使う個体もいる』
今追ってきているのは、ナイフ持ちだ。グレイス達も上手く裁けず、徐々に押されている。
力はそれほどでもないが、速さで圧倒されてしまっている。それに対抗出来ているのはラプターだけだ。
アサシンがナイフを振ると、鋭利な爪で受け止め弾く。そして体を回転させ、尻尾で薙ぎ払う。
そして俺は、
「おぉぉぉ!? おぉぉぉ!? 」
あまりの回転の速さに目を回し、落ちかけるが、それを必死で耐える。
ってかアサシン、あんま来るな。これ、結構辛い。
そんな事を繰り返して、ようやく目的の場所、いや人物を見つけた。さすがトビカゲ! ピンポイトだ。
「ランディ!! 」
「ジン!? 何してんだこんなところで!? 撤退の合図はもう出たぞ!! 」
「そんなの知ってる! 手を貸してくれ、コマンダーが居て拐われた人が脱出出来ない! 」
「!? 見つけたのか! 」
「あぁ、ただ、あれが二体、邪魔してな」
俺は親指で後ろを指差す。
指の先にはアサシンとコマンダー、そして、走り疲れた感じのゴブリンたちがまばらに見える。
それを見たランディは、
「なるほど、そっちに集中してたか。道理でザコしか釣れない訳だ」
「悪いけど、手を貸して貰えるなら急いで貰えるか? シノブが言うには、ジェネラルが居る可能性が高いそうだ」
「根拠は? 」
「コマンダー三体の存在、一切手出しされてない女性達、だ、そうだ」
「・・・そいつは、急がなねぇと、な。おい! 野郎共! もう一踏ん張り出来るか!? 」
ランディの声かけに、冒険者達は、
「任せてくれ」「おうよ! 」「問題ない」「むしろ大歓迎だ! 暴れ足りなかったしな」
等と返ってきた、なんとも頼もしい限りだ。
「よっしゃ! じゃあまずは、目の前の奴らを」
そこで、ランディは大きく息を吸い、
「ぶっ潰せぇぇ!! 」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!! 」」」」」」」」」」
冒険者達は各々の武器を構えゴブリン達に突撃する。軽装の冒険者がアサシンに向かい、剣を持った者はソルジャーに、そして、ランディはコマンダーに向かって行った。
ちなみに、俺はラプターを降り、従魔達と共にゴブリンの中を駆け抜ける。いちいち目を回して足手まといなんて嫌だしね。ただ、
「あのラプター、すげぇな」
「あぁ、ただでさえめんどくさい相手が火を吹くとか、敵だったら最悪だな」
「味方で良かったよな」
・・・皆済まない。まだ、テイムしてないから完全な味方じゃないんだよ、今は言うこと聞いてくれるけど、いつ聞かなくなるかも分からん不安要素なんだよ。
まぁ、聞いてる間は助けて貰うけどね。
ここで一番見応えのある戦いをしているのは、間違いなくランディだ。大剣を持ったコマンダーと一騎討ちだ。
コマンダーが剣を横に振るうなら、見事なタイミングでしゃがんで躱し、一気に懐に潜り込む。そうはさせるかと、コマンダーも無理な体勢から蹴りを放つ。ランディはそれを、前進しながら横に躱し、腹に一撃叩き込む。
それを受けてコマンダーは後ろに吹き飛び、倒れる。しかしすぐさま立ちあがり、剣を肩に乗せるように構え、ランディに飛び掛かり、降り下ろす。
ランディはそれをステップで躱し、宙に浮いているコマンダーに更なる一撃を加える。
またも吹っ飛ばされたコマンダーに対し、ランディは高く跳び上がり、叫ぶ。
「これで終わりだ! 『流星破蹴』!! 」
すると、地面に倒れたコマンダーに向かって、勢いよく落ちていく。そして衝突の瞬間、轟音と振動が響き渡る。その衝撃で俺達もゴブリンも、立って居られず尻餅をつく。
「終わったのか? 」
「あぁ、ありゃランディの必殺技だ」
ゴブリン達が、コマンダーが殺られたのを見て散っていく中、斧を持った冒険者に話し掛けられた。
「ランディも持ってんだな」
「あのrankになる頃には、異人のあんたでも持ってるさ」
「そいうや俺、ランディのrank知らないな」
「ランディはrank:Aの冒険者さ。そんな事も知らずに話してたのか? 」
「あぁ、確か、受付のレインさんの話で盛り上がって」
「あの姉ちゃんか。俺は苦手なんだよな。あの人、説教も長くてな」
「そうなんだ」
「他人事じゃねぇぞ、帰ったらあんたもそうなる。何せ駆け出しでこのクエストに参加してんだからな」
「オッケー。街に帰ったら速攻で雲隠れするわ」
「あの姉ちゃん、週五で受付やってるから、まず逃げらんねぇぞ」
「・・・とりあえず明日にしてもらうわ」
「おう、頑張れよ。さぁ行こうぜ! ここからが本番なんだろ」
「その通りだ。あんた、良い人だな。名前は何て言うんだ? 」
「フッ、マルコーだ。よろしくな。異人のジン」
「よろしく、マルコー。さて、ランディのところに行くか」
周囲のゴブリンの討伐、撤退を確認しランディの元へ集まる。
「よし、誰もやられてねぇな。それじゃあ行くか、って肝心の場所を聞いてねぇな」
「場所なら目印が見えてるよ、あそこに」
指差す先にあるのは立ち昇る煙、さっき燃やした炎の陣から上がっているものだ。本来ならもう消えているものだが、シノブと拐われた女性冒険者達が、絶えないように調整しながら耐えている、筈だ。
「ってことで俺は先行して、皆に援軍が来ることを伝えたいんだが」
「あぁ、そうしてくれ。出来ればこっち側に逃がしてくれると助かる。こっちもやらなきゃいけないことがあるんでな」
「分かった。じゃあ、先に行ってる」
「後で必ず合流する、踏ん張ってくれ」
ラプターに跨がり、急いで来た道を戻る。後は皆を逃がすだけだ。だから、もう少しだけ付き合ってくれ、ラプター。
ゴブリン砦なかなか終わりません
出来れば五月中に終わりたい
と、自分でも出来なさそうな事を言ってみる
とにかく早めに終われるようにします
それでは