28『ゴブリン砦~救出編~5』
「私、必死に頑張ってたのに」
「それはよく分かってる、だから、不貞腐れないで早く先行してくれ。こっちは潜入の初心者なんだから」
「あの人ももう少し空気を読んでくれれば良いのに」
「あっちはそれどころじゃないのはわかってるだろ」
「む~~~~~」
「ほら、もう敵陣の中に居るんだ、早く機嫌を直してくれ。口調も無くなってるから、見た目だけのなんちゃって忍になってるから。上で皆も待ってるから、なっ!」
目的の場所が判明したので、シノブの作業を途中で止めさせたのだが、それが気に入らなかったようだ。今は建物の中の二階に上がる階段の裏に隠れて、膝を抱えて動かないシノブを説得中だ。なんでも、自分の努力が実らなかったのが、相当不服らしい。
『しょうがないだろ! 成果が出る前に判明したんだから!』
と言いたいが、そんなこといったら作戦すら放棄しそうな程の落ち込み具合だ。どうしたもんか。
そう思っていると、
「分かり、ました」
シノブはそう言うと立ち上がり、拳を突き上げ、
「私の努力をふいにしたあの人を、ゴブリンの群れの中に蹴り飛ばしてやりましょう! 」
「何でだよ!? 」
「大丈夫でござる! 服が剥かれた辺りで勘弁してやるでござる」
「そういう問題じゃない! 」
「さぁ、拙者に続くでござる」
「人の話を聞け! 」
「ジン殿、そのように声を荒げては、ゴブリンと言えど見つかるでござるよ、もっと静かにするでござる」
「くっ、コイツ」
ござる口調に戻り、普段のペースを取り戻したようだが、言ってることがめちゃくちゃだ。
かといって今までの動き、そしてその知識から俺が止められるとは思えない。
もしもの時は、俺が守ろう。なに、ゴブリン相手ならなんとかなるさ。多分。
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改めてこの施設の構造を確認しよう。
正面の玄関から入ると、左側に隣と繋がる大きな扉がある。そこに一番近い部屋は厨房だ、調理器具等は見当たらない。ここを引き払った時にでも持っていったのだろう。この部屋が一階の大半を占めている。
その隣の部屋は、地下に行く階段があった。一応確認したが、人は居なかった。場所から考えて、食料庫だったと思われる。裏口はここに繋がっていた。
食料庫前の扉はトイレだった、その隣には二階に上がる階段。先程まで俺達がいたのは、ここの裏の小さな空間だ。
階段を上がると、建物の中央を抜ける廊下。廊下の奥には一階と同様の扉が見える、あれも隣に繋がっているのだろう。
廊下を挟むように、均等に扉が向かい合っている。一応、扉を開けて確認したが、八畳程の部屋に二段ベッドが、二つ置いてあるだけだ。
騎士や冒険者が寝泊まりでもしていたのだろう。
階段は廊下の奥の扉の右側にあった。
三階に上がるとまず目につくのは、またもや隣に繋がる扉。よほど大事な施設なのだろうか?
この階は、廊下がL字になっており、窓があった。そこからは玄関前の戦いを見ることが出来た。
「苦戦してるな」
「コマンダーは指示だけして、動いておらぬようでござるな」
「出来れば玄関から離れてくれると助かるんだが、な。それにしても」
この階にある扉は四つだけ、階段前のを除くと三つだ。
だからこそ、気になってしまう。
「ゴブリンが見当たらない、どうなってんだ? 外にはあんなに居たのに」
「皆出払っているにしても、違和感があるでござるな」
「建物を守っているなら、内部も普通守るよな? 」
「拙者も、ゴブリンの種類なら知ってるでござるが、どのような思考をするのかまでは分からぬでござる」
「・・・嫌な感じがする、上手く行きすぎてる」
「一応、各部屋の前で【気配察知】は行ってきたでござるが」
「帰りも居ないとは限らない、警戒は続けてくれ」
「任せてくだされ、・・・ふむ、あちらの部屋が目的の部屋でござるかな。気配が大量にあるでござる」
シノブは迷いなく扉に近付き、ドアノブに指をかけ、勢いよく扉を開いた。そして、
「助けにきたでござるよ! 」
「もっとよく確認しろ! ゴブリンだったらどうすんだ! 」
「痛い! 叩かなくてもいいでござろう! 周りにゴブリンの気配はないでござるし、問題は……」
「あ、あのっ! 」
シノブの頭を勢いよく叩いたら、部屋の中から遠慮がちに声がかけられた。
見た目は地味なワンピースを着た、ショートカットの女性だった。さっき手を振っていた女性なのだろう、シノブが、
「先程のご婦人でござるな。拙者、シノブと申す者でござる。ギルドの依頼で調査、及び救助に参った。こちらはジン殿でござる。まだまだ弱いでござるが、どちらかと言えば、頭は切れるので安心するでござ痛い! 」
「余計な事は言わんで良い! 」
俺がシノブの頭をもう一度叩くのを見て、呆然とした様子の女性は確認するように、呟いた。
「た、助けに来てくれたんですよ、ね? 」
「あぁ、その通りだ」
「良かった! なら早く逃げましょう! 皆! 助けが来たわよ! 」
部屋の中に女性が呼び掛けると、安堵と不安が入り雑じった声が聞こえてきた。中には号泣するものまでいた、相当辛かったようだ。それにしても
「俺が思ってた以上にいるぞ。とても今日一日で集めたとは思えないんだが、こういうものなのか? 」
「そんな訳無い、筈でござる。ですが拙者もこの規模は聞いたことが無いでござる」
「ふむ、済まない。ここに一番長く居るのは誰だ」
「わ、私です」
女性達は、目線を一人の女性に送った。その女性の姿は軽装の革鎧姿、つまり、冒険者だ。
「さっきそこの猫忍が紹介したが、俺はジン。貴女は? 」
シノブが後ろで『ちょっ!? 何纏めてるんですか!? 』と文句を言っている。
えぇ~い、うるさい、今大事なところなんだよ。
「ハナ、です。その、プレじゃなかった。異人の、冒険者です」
「異人!? なんでまたこんな所に? 」
「その、拐われちゃって」
「いや、そうじゃなくて、異人なら逃げようと思えば簡単に逃げられるだろう!? 」
「それには死なないといけないじゃないですか!! 例え仮想とはいえ、死ぬ程の痛みはちょっと」
「オプションで痛覚設定を切れば良いだろう」
「えっ!? そんなこと出来るんですか? 」
「知らなかったのか、あ~それじゃ緊急脱出は? 」
「えと、一回なら街に帰れるってやつですよね。その、三日前に使っちゃって」
「そうか」
ゴブリンには、異人かノルンか、なんて分かるわけないもんな。こう言うこともあるか。とりあえずこの娘には、後でオプションについて教えるとして、
「パーティーは組んでるか? 」
「いつもは組んでるんですけど、今日は朝から一人で魔法の訓練をやってまして」
「そこを狙われたか、時間は? 」
「襲われた時間は、覚えてないですけど、ここに連れて来られたのは、ゲーム時間で一三時前です」
「朝からならログインしてからすぐか? 」
「はい」
「皆ここにいるのか? 途中で誰か居なくなったりは? 」
「少なくても、ここから人が居なくなったりはしてません」
「ありがとう。話は分かった。シノブ」
「なんでござるか? 」
「少なくてもあと二人冒険者がいる筈だ、集めて出来ることを聞いてくれ。全員でここを出る」
「心得たでござる」
シノブが女性達の中の冒険者を探しに行った直後だった。急に背後が明るくなった。
まさか、俺は慌てて廊下に出て窓の外を見た。光っているのは砦の入り口の向こうの空、つまり、これは、合図だ。
「くそったれっ!! 」
時計も確認する時刻はPM6:50、三〇分は既に過ぎていた。少しは待ってくれたのだろう。しかし、状況はまだ、
俺は急いで部屋に戻り、叫ぶ。
「シノブ!! 合図だ!! 」
「なっ! まことでござるか!? 」
「あぁ、間違いない」
「なんと、ここまで来て」
「ね、ねぇ。何があったの? 合図って!? 」
「・・・作戦の強制終了だ。救助は諦めて撤退する事になってる」
「そんな……。でも、貴方達は私達のところまで来たじゃない!? それでも駄目なの」
「それは……」
くっ、どうする。どうすれば良い。元々ここには、一人でも多く助けるために来た。しかし、それをなすには、外で戦っている冒険者を、否応なく巻き込むのが前提だ。
だが、窓の外にはゴブリン達から逃げ、もとい離れていく姿が確認できる。玄関から飛び出して、戦闘が始まっても、彼等が帰ってくる可能性は低い。戻ってきたとしても、それなりの時間がかかるだろう。
全滅覚悟で特攻するか? それともこの大人数で隠れながら進む? どちらも現実的じゃないが、他に方法が……。
「ジン殿」
「何だ? 」
「拙者に考えがあるでござる」
考え混んでいると、シノブがそんな事を言い出した。俺には失敗する作戦しか思い付かない、だけど、シノブにはあるのか?
「この状況を打破出来るのか? 」
「それは分からぬ、ですが、最も確実な方法かと。まぁ、多少賭けになるでござるが。ここにいる全員の意思も確認したでござる。そしてやるなら、迅速に行う必要があるでござる」
「・・・俺は何をしたら良い」
「ジン殿の役割は簡単に言うと囮でござる」
「分かった。それで囮として何をするんだ」
「では手短に行くでござるよ、ジン殿に囮としてやってほしいのは……」
更新出来ました
しかしあれだな
なんでこんなに長くなってんだろ?
もっと短かった筈なんだけど
まぁ、もう少し続いちゃうんで
よろしくお願いします




