30『ゴブリン砦~救出編~7』
ランディ達と別れ、シノブ達が持ち堪えている筈の建物に戻って来たのだが、
「なんで建物そのものが燃えてんだ? シノブ達はどうなった? 」
建物の周りからゴブリン達の姿が消えている、コマンダーもいない。こちらとしてもそれは助かるのだが、何故、火事にまで発展しているんだろうか?
シノブは火は絶やさないと言っていた。言ってはいたが、
「こう言う意味だったのか? 」
「これが一番手っ取り早かったので」
「そうか、ってえっ!? 誰? 何処から声が!? 」
「ここでござる」
返事と共に、炎で照らされた隣の建物の影の中からシノブが現れた。影には水のような波紋が現れ、シノブが頭からゆっくりと浮上してくる。それも、水の様な、泥の様な真っ黒い液体を身体に滴らせながら、
「なにそのスキル!? 怖っ!! 」
「怖っ!? 女性に対して失礼であろう!! そしてこれはスキルではござらん! 拙者の闇複合魔法『ウェアハウス・シャドウ』でござる! 」
「なにその魔法? 」
「簡単に言うと、影の中が拙者のアイテムボックスになってるのでござる。影の大きさ次第で、どんなものでも入れられるのでござる。そして最大の特徴は、これには人も入れるでござるよ」
「え~と、つまり、皆は」
シノブは足下を指差し、
「この中でござる」
「それならそのまま逃げたら良いじゃないか。俺、必要ないだろ」
「何事にも長所と短所はあるものでござる。この魔法、入れる量には制限はないのでござるが、入れた分の重さがそのまま影の重さになるのでござる」
少し、沈黙が流れる。聞こえるのはシノブの後ろの建物が、勢いよく燃える音だけ、
「おい・・・つまりそれは」
「拙者の影は今、女性四十六人に、トビカゲとトカゲの体重が加算されて、とんでもない重さになってるのでござる」
「なにしてんだ? お前は。ところでトカゲって誰? 」
「拙者を乗せていたラプターでござる」
シノブは【騎竜の試練】をパスしたようだ。これに関しては素直に賛辞を送っておこう。しかし、
「それは、おめでとう。で、これからシノブはどうするつもりだ? 自分の重さで動けないんだろう? 」
「拙者自身が重くなった訳ではござらん! 拙者の影が重くなったのでござる! そこは勘違いしないでくだされ! まぁ、影の外には出られぬが、自分の影が重なった影の上なら、地に足が付いてる限り、自由に移動可能でござる。故に建物を燃やし影を伸ばし、ここから離れるつもりでござった。火事に巻き込まれるつもりはないでござるしな。ただ……」
「ただ、なんだ? 」
「燃やした事で影が広がり、皆を一編に入れられた事は幸いでござったが、その、周りの建物が予想より遠くて、影が届かなかったのでござる」
それは仕方ないだろう、ここは砦と言っても元は村。それなりに大きいとはいえ、建物が並んでいるわけではない。それに火が激しく燃えればそれだけ早く建物が崩れる。そして、それだけ影は減っていく。つまり、
「誰かが来ないと逃げられないんだな? 」
「正しく」
「影が重いと言ったな? 具体的にはどんな感じなんだ? 」
「影から出ようとすると、いきなり足の裏に重石が付く。と言う感じでござる」
「ふむ、ちなみに、俺の影の上に移動したとして、ラプターがシノブより早く走って影から出てしまった場合はどうなる」
「影に引きずられる形になるでござる。まぁ、そんなときの為に、下に引く板は準備してるでござるから問題ないでござるよ」
「今の状態でLPが無くなったら? 」
「倉庫に入ってる物の内、拙者の所有物で無いものは、全てその場に排出されるでござる」
「自分の影の上では動けないのか? 」
「あくまで、重なった影の上だけでござる。だからジン殿、早くこっちに来て影を重ねて下さると助かるのでござるが」
「最後の質問だ。ランディ達を呼んだ理由は? 」
「単純に護衛が多くなれば、何人か外に出てもらって、影を軽く出来ればと思って。冒険者もいますし。あ、あと、影の重なる部分を増やせば移動範囲も広がりますし、エヘヘ」
「エヘヘ、じゃねぇよ! 声が変だから気持ち悪いんだよ! ・・・はぁ~、とりあえずランディ達のところに行くぞ。今襲われたら俺と従魔達で対応しなくちゃならないからな。あと、トビカゲとトカゲも出せ、まさか従魔も同じようになってる訳じゃないだろ」
「それがその、・・・そのまさかでして」
「完全なお荷物じゃないか。・・・あ~も~、とりあえず行くぞ! 早く合流して安全の確保だ! 」
「りょ、了解でござる」
シノブがいる影の上に移動、シノブがラプターの影の上に移動したのを確認してから、燃える建物を背に走り出す。
「あ、あの、投擲武器は使えるので牽制ぐらいならなんとか」
「大丈夫だ、安心しろ。今のシノブには一切期待してない。今のシノブの仕事は、ラプターの影の上をひたすら走ることだ。分かったな? 」
「はい、でござる」
「よし、それじゃスピードを上げるぞ」
シノブを追いたてるようにスピードを上げる、シノブは地面から足を離さないよう器用に走っている。とても走りにくそうだが、ラプターとの距離は一定を保っている、この調子ならすぐにでもランディ達と合流出来るだろう。気掛かりなのは火元から離れることで影が短くなる事だが、その時は危険ではあるが、皆に影から出てきてもらうとしよう。
考えがまとまった辺りで後ろから大きな音がした。ついに崩れたかな? そう思った矢先、
「グゥアアアアアアアアアアアアアアアアァ!! 」
巨大な叫び声を聞き思わず振り返る。そこにいたのは人型の魔物、この状況ならゴブリンの一種であろう。
コマンダーよりも大きな体躯、両肩には、背中を通して繋がった狼の毛皮、両手に持っているのはトゲ付き鉄球の付いた棒(この場合は柄だろうか? )、鉄球と棒の付け根には鎖が付いて繋がっている。所謂モーニングスターと呼ばれるものだろうか? 。・・・あれを両手でそれぞれ振り回すつもりか?
見た感じ装備と呼べる物はこれだけだ、あとは腰に巻いた布ぐらいだろうか? しかし、それなりに距離があるのにも関わらず感じるこの威圧感、もしや、あいつが、
「シノブ、一応聞くがあれが? 」
「そう、ゴブリンジェネラルでござる」
やはり、そうなのか。さっきから【識別】をかけている筈なのだが、名前すら出てこない。Lvが足りない、と言う事だろう。
ところで、
「あいつ、こっち見てないか? 」
「で、ござるな」
「どうすると思う? 」
「それはもちろん」
シノブが予想を言う前にジェネラルは動いた。鉄球を伸ばし地面を削りながらこっちに向かってきた。
「追ってくるでござろう!! 」
「そんなの見たらわかる!! 言ってないで走れ! 頼む、ラプター!! 」
ジェネラルから逃げるために更にスピードを上げる。しかし、徐々に距離が詰められる。そして、
「ぎゃっ! 」
「ちょっ! 」
シノブが転び、ラプターが跳び越える。既にジェネラルの影の範囲に入っていてシノブは引きずられることなく倒れたままだ。そこにジェネラルの鉄球が飛んでくる、それを素早く転がり躱す。鉄球が落ちた場所には小さなクレーターが出来ている。
シノブは転がったあと、仰向けになって足を曲げて丸くなり、手を地面に当て、足が頂点になるまで回し、後ろに逆立ちするように跳び上がった。更に、跳び上がってすぐ足を曲げ、そのまますごい勢いで地面に落ちた。しかし、足の裏でしっかりと着地したらしく、直ぐに立ちあがりうしろに下がった。
「スゲーな。ところで、地面から足は離せないんじゃなかったっけ? 」
「地面に身体の一部がついていれば足でなくても問題はござらん。それよりも」
「分かってる、だが俺じゃ何にも出来ないぞ。正しくLvが違うってやつだ」
「一瞬、一瞬でいいでござる。奴の注意を逸らせれば、拙者がなんとかするでござる」
「・・・一瞬でいいんだな」
シノブが首肯く、一瞬、それなら一応の手はある。
「一応やってみるが、上手く行くか分からないぞ」
「やらないよりはマシでござる」
「分かった。それじゃ行くぞ!! 」
俺はMソードを操り飛ばす。
ジェネラルの装備から『魔力が見えない』と言う希望的観測からの見えない奇襲攻撃だ。
シノブも牽制程度にナイフ(忍者ならクナイかな)を投げているが、皮膚に刺さらず鈍い金属音の様な音を鳴らし、地面に落ちていく。グレイスの魔法を撃っているが、意味をなしている様には見えない。どんな筋肉してんだあいつ!?
よって、俺が狙うのは奴の目だ。たとえ金属のような筋肉を持つゴブリンジェネラルと言えど、目は鍛えられないだろう。
Mソードは、振り回される鉄球を躱しながら奴の元に近づく。そして、
「そこだ!! 」
「!? 」
Mソードは左目に当たった瞬間、霧散した。ジェネラルの防御力に耐えられなかった様だ。
駄目だったか。そう思った、その時、
「ガァァァァァァァァァァァァァァ!! 」
武器を落とし、両手で顔を押さえている。
どうやら成功したようだ。しかし、
「まずいでござる!? 」
「なんで!? 注意は逸らしたぞ!? 」
「やり過ぎでござる。このままでは、!? 避けるでござる!! 」
シノブの叫びでジェネラルを見ると、左手で顔を押えながら、右手で鉄球を上空から降り下ろそうとしていた。
「まずい、ラプター!! 」
降り下ろされた鉄球を、ラプターはなんとか躱した。が、地面に衝突した瞬間の風圧と地響きでラプター共々吹き飛ばされ、ラプターから落ちた。少し転がり止まったところで立ち上がろうと上を見たら、そこには拳を降り下ろそうとしているジェネラルの姿があった。
「あっ、終わったな。これ」
「ガァァァァァ!! 」
呆然と呟く俺に向かって、叫びと共に拳が降り下ろされる。
目の前に迫る死の恐怖から少しでも逃げるためか、俺は思わず目を瞑った。
闇複合型魔法
『ウェアハウス・シャドウ』
自分の影を倉庫にすることの出来る魔法
発動コマンドを任意に設定可能
影を重ね範囲を広げれば大きな物も収納可能、生物も可、MP消費は発動した時のみと便利に聞こえる魔法だが、
倉庫に入れた物の重さがそのまま影の重さになるため、影のある地面から離れようとすると、足の裏に重りが付いた状態になる。
自分の影と交差した影の上なら、影から身体が離れない限り重さは感じない。
自分も中に入れるが、入った地点に影が無くなると、同じ場所に影が出来ないと出る事が出来なくなる
倉庫に何か入っていると光系統魔法が使用できない
複合型魔法
三種類以上の属性魔法を混ぜ合わせた魔法
一応補足です




