第11話
「武田様、大成功でしたね!」
トムは嬉しそうに俺を褒める。
「うむ、あんな見事にシナリオ通り行くとは思いもしなかった」
途中で拾ったハクロウも大喜びだ。
「我もお役に立てて、うれしい」
俺はトムとハクロウの頭に手を置いてなでる。
「んーーんーーーんーーー!」
おっと忘れていた。
立花を透明のじゅうたんの上に下ろす。
「いいか立花、口のやつは外してやるから大声で怒鳴ったりするなよ?」
立花がうなずいたのを見て猿ぐつわを緩めた。
「武田!君はいったいなにをしムグ、ンーー!」
怒鳴ると思っていたのですぐに触手さんに仕事をしてもらった。
「だから怒鳴るなって言っただろ」
立花は額に怒りマークを浮かび上がらせ、んーんーんー!と怒鳴る。
「これだけは使いたくなたっかが…日本には触手プレイというそれはもう危険な遊びがるのだが、お前も遊んでみるか?」
俺のその言葉に立花は青ざめる。
どうやらお灸が効いたようだ。
触手をすべて外してやった。
「君が変態だとは思いもしなかったよ」
立花がジト目で睨んでくる。
「失礼な事を言うな。お前が言う事を聞かなかったせいだろ」
「…一体これは何なのだ?」
やはりいちから説明をしないといけないか。
立花と別れてからの事をダイジェストで話してやった。
ネズミの件は必要ないだろうと省いたが。
俺の長い話しを聞いて立花は大きなため息をひとつ。
「君は本当に無茶な奴だな」
「そうでもないだろう、とりあえずお前が言ってた予言はこれで大体終っただろ?」
立花は少しうつむき顎に手を添える。
「まだ終ってない」
「はあ、なに言ってんだ?」
「まだ続きがあるでしょうが、君の魔王の件がね!」
「それならさっきも言っただろ、適当な勇者に討たれたことにすればいいって」
「そう言う訳にはいかないんだよ!君はもう名実ともに魔王なんだから」
なにいってんだ?
なぜ俺が魔王なんだ?
「君は魔物に名前を与えてるって聞いたときから僕は思ってたよ。君は魔王になっちゃったんだなって」
「立花さん、一体何をおっしゃっておられるのですか?」
つい敬語になってしまった。
俺が魔王?
why?
「名前をつけるくらい簡単だろ?それに自称魔王ならだれでもなれるだろうし」
「いえ武田様、普通の人間や動物や魔物は名前をつけると、ほとんどの魔力を失い死んでしまいます」
おっと、そういえばそうだった。
「いやしかし魔力を多い奴だっているだろう?」
「いえ、武田様ほどの魔力をもった者など多分存在しません」
な、なんだってーー!
存在しないのか?
「そうだよ、ビックリしたよ。空飛んでたり触手とか操ったり黒い翼を生やしたりと。同時にそれほどの魔力を使える人なんて存在しないよ。なのにみんなの前で俺は魔王だ、なんて宣言しちゃってるから」
んー。
ってことは?
「もしかしてやりすぎた?」
「やりすぎよ!」
「ま、まあでも予言では大いなる者の仕業なんだろ?だったら大いなる存在に戻ればいいだけだろ」
「…戻れるの?」
またもや立花のジト目が俺に炸裂する。
「皆が君の事を魔王じゃなくて大いなる者だって認めてくれると思うの?」
うう…。
「い、いや待て」
「なによ!なにかあるなら言ってみな」
「別にさ、皆に認められなくても問題なくね?俺は大いなる者で予言どおりの事を実行しただけだろ。だったらまったく問題ないはずだ」
「だーかーら!君はもう名実共に魔王なんだって」
「待て待て、それは大いなる者が魔王になっただけだろ。俺はそのつもりはないがな。予言はさっきの騒ぎで終了ってことでいいんだろ?」
「君はそれでいいかもしれないけどこっちは困るんだよ」
「だからなんでだよ、魔王は適当な勇者に倒されて終わりでいだろう?」
「だからだめなんだ!」
何がダメなのかさっぱりわからん。
立花はなにか隠してるようだがそれを聞かない事には先に進まないな。
「なあお前、何か隠してる事あるだろ。それを話せ」
「別に隠してなんかないよ。国民や周辺国だって知ってる事だ」
なるほど、俺は別世界の人間だから知らない事か。
「武田、この国の最初の王の事は知ってる?」
「ああ、知ってるぜ。男の王様だったらしいじゃないか」
「それだけ?」
「ああ、それしか知らないな」
「この国の初代の王は魔王なんだ」
な、なにー!
魔王が国を興したってのか?
「じゃあお前は魔王の末裔なのか?」
「違う。魔王は養女にした娘を次の国王にしたんだ」
「魔王なのに養女を取ったのか。その養女ってのは人間なのか?」
「そうだ、魔王にこの国を奪われた亡国の姫を養女にしたんだ」
「魔王って圧倒的な力を持って一人でこの国を奪い取ったのか?」
「違う、魔王は魔法は使えなかったそうだ。なので軍勢を持ってこの国を攻めたんだ」
「え、どういうこと?魔王って別に国をもってたのか?」
「違う。軍勢というのはこの森の動物たちだ」
「…じゃあこの森で喋る動物はその魔王のせいなのか?」
「そう言われている。真意の程はわからないけど」
動物を率いて城に攻め込む魔王…なかなか想像しにくいな。
「多分君と同じで名前を授けたのだろうと思う。そしてその時の魔物はリス、犬、熊、ワニ、うさぎで、そして城内からネズミが蜂起したんだ」
リス、犬、熊、ワニ、うさぎ、やべえ俺が名づけた種族じゃないか。
あとネズミ…あいつはもしかしたらその魔王の配下で今も生きつづけてるのかもしれないな。
「ま、まあなかなかに壮絶な戦いになったんだろうな」
「いやその戦争で死んだのは誰一人いないそうだ。城は内外から攻められてすぐに降伏したそうだ」
「まあその状況じゃ戦にならないだろうな」
「もともと国はかなり荒廃していたらしい。飢饉や他国の侵略のせいで」
「なるほど、元から戦える状態ではなかったって事か」
「魔王が国王になってから農業や工業が飛躍的に進歩したらしい」
そんな歴史があるのか。
「だから魔王はこの国では特別な存在でもあるんだ」
そんな話先にいっとけよ!
「しかも君はうさぎも犬も使っていたしね」
「ってことは簡単に死ぬのはまずいってことか?」
「今の話は王家では正史で伝わっているけど、民間では御伽噺程度さ。だけどそれでも魔王という存在は特別なのさ。だからそう簡単に討たれる訳にはいかないんだよ」
「もうちょっと悪逆非道で行けばよかったか?全国民から恨まれるような酷いやつをだ。いやしかし俺にはそんな度胸は無い。あれで精一杯だった」
ぶつぶつとつぶやいていた俺を見て武田はクスクスと笑う。
「魔王になっても武田はやっぱ武田か。安心したよ」
「俺は俺だ。魔王になった覚えもない」
「そうだね君は君だ。ところで勇者は誰にする予定だったんだい?まさかドワルナンゴ侯爵だったのかい?」
侯爵のおっさんの名前が出ておもわず笑ってしまった。
「僕はなにかおかしなことを言ったかい?」
「いやお前も大変だなって思ってさ。あんなのと結婚しないといけないなんて。感謝しろよ。俺のおかげでお前の純潔が守られたんだからな」
顔を赤くして誰が感謝なんかを、とそっぽを向く。
「勇者にはレイニーになってもらおうかなって思ってたよ。お前あいつの事好きなんだろう?」
「ちょ、なにいってんの。誤解だよ。僕がレイニーのことなんて好きな訳ないだろ。うはははは」
さっき赤らめていた顔がさらに真っ赤に染めにらんでくる。
「だってお前、俺がレイニーを撃退した時、すごい目で俺を睨んでたじゃないか」
「違う違う違う!全部でたらめだ、君の妄想にはあきれるよ、ほんと!」
真っ赤な顔のまま俺からそっぽを向く。
まあこれ以上からかうと弾薬庫に火を入れかねないしこれくらいにしておくか。
「まあ話を戻すが勇者がダメなら、そうだな。いっそのこと御伽噺通りに国を奪うって手もあるが。さすがにそれは不可能か」
「当たり前でしょ。当時とは国の状況が違うんだし」
「お前のかーちゃんは話通じる方か?」
「かーちゃんって、女王陛下よ。失礼でしょ」
「いやまあその女王陛下が国を譲ってくれないかなって思ったんだけど、だめかな?」
「だめにきまってるでしょ。なに考えてるの君は?そんなことしたら周辺国家との軋轢も考えてよ。それに君が国王になるってことになるんだよ。普通人を自称する君には荷が重いでしょ?」
畳み込まれてしまった。
確かに普通人の俺には国王は無理だ。
「すぐお前に国を譲ればいいんじゃないか?」
「ダメに決まってるだろ」
「だったら王位継承に魔王が口を挟んだって事にしたら?」
「それじゃ何も解決になってないだろ」
「そうだな…なんで俺は魔王なんて名乗ってしまったんだ!」
「自分のせいだろ!」
さてどうしたものか。
「ところでどこに向かってるの?」
「ああ、知り合いの町だ。森付近にいたらすぐに見つかりそうだしな」
「君の知り合いの町…嫌な予感しかしないんだけど」
そうだな、お前の予感は多分命中するだろうさ。
「ちょっと!何で裸なの!服着てよ服!」
グリズを見た立花は顔を真っ赤にして目を背ける。
やっぱぶらぶらのままか。
「グリス、さすがに婦女子の前でその恰好はだめだ」
「そうか、しょうがない」
そう言うと元のクマの姿に戻った。
「……」
「おい、立花?」
「……」
「平気か?」
「……」
「どうやらグリス殿を見て立ったまま気を失ってしまったようですね」
人の姿の時のグリスはもちろん立っていた。
そのままの状態で変身したのだからもちろん立ったままだ。
そしてクマの姿のグリスは3メートルはある巨漢だったからな。
こうなる事はまあ予想していたよ。
「武田様。この女性は誰なんだ?高貴なお方だと見受けるが」
「女王の国の第一王女だよ。俺の同級生でもあるが。さっきさらってきた」
「人間の国の王女か。さらってきたと言ったがどんな理由があるのだ?」
「話せば長くなるんだが…」
グリスにかいつまんで話した。
「なるほど。武田様は大いなる者だったのか。そして今は魔王なのか」
「成り行きでな。ここにも申し訳ないが迷惑をかけるかもしれない」
「それは全く問題無い。武田様のお力になれるのであればこの町すべての住人が武田様の指示に従うだろう」
「助かるよ」
「とりあえず立花をどこかで休ませてやるか。
腕を肩にかけて運ぼうとしたが、なんか運びにくい。
そのまあ膝を抱えてお姫様抱っこな状態にしたが…結構腰に来るな。
そのままグリスの家に運んだ。
グリスが差し入れで木の実を出してくれた。
見たことのない木の実だ。
「シマリからもらった木の実だ。少し不思議な味がするが悪くない味だ」
ふむ、早速口に運んだ。
…んん?
苦くはない…が甘みもない。
しかし食べれないとって訳でもない。
無味というわけでもないけど味がするって感じもしない。
うーーん。
グリスの言っていた不思議な味というのは的を得てるな。
しかもボリボリとやめられない止まらない。
なんとも不思議な木の実だ。
「これからどうなさるおつもりですか?」
トムがボリボリとかじりながら聞いてきた。
どうしたものか。
「女王を何とかこちらの味方につけたいところだが…」
そうなれば一気に解決出来そうなんだけけどな。
「確かに敵の大将と話が出来れば解決は早そうだ」
グリスも木の実を食べながらうなずく。
忍び込むか。
女王の部屋の場所は立花に聞くとして、どうやって話し合いへ持っていくかだ。
先手必勝、触手で拘束してから話をする。
うーん、それだと心証が悪いよな。
なにかお土産を持っていけばどうだろう。
…何を持っていけばいいんだ?
立花か?
人質という立場であるがもはや必要ないしな。
それで話を聞いてくれるのであれば願ったり叶ったりだ。
しかしどうやて交渉するかが問題だ。
夜に立花を連れて忍び込む。
悠長なことをしてたら人を呼ばれる可能性もあるし
「そういえば女王の国の第二王女は毒殺されて意識不明だそうですね。治療方法とかわかればいいのですが」
考え込んでいた俺を見てトムが案を提示してくれた。
「ふむ、それならこの町に住んでいる者で薬草に詳しい者がいる。症状を王女から聞いた後に相談してみよう」
それはナイスアイデアだ。
うまくいけば交渉材料になるかもしれない。




