第7話「いざ、面接へ!」
虎次との食事会から暫く経った日のこと。
──ヒノカ首都のマンション・進の一室
その日、進は現職である一般事務にて休暇を取り、
かっちりとしたスーツに身を包んでいた。
(さて……とうとう来てしまいましたね。
私の将来が賭かった、一大行事の日が…。)
そう、進は食事会の時に虎次から教えられたヒーロー会社である、
「ヘラクレスカンパニー」……の事務の面接に挑むのだ。
(食事会の時に見ましたが……事務職で月26万円は美味しいです。
ヒーロー会社なので、相応の肉体労働はあるでしょうが、
私の基礎体力であれば、まあ何とか乗り越えられるでしょう。)
因みに、ヒーロー会社「ヘラクレスカンパニー」の求人は、
花形となるヒーロー部門と、それ以外の部門の求人で大別される。
基本的に、求人の選考自体は書類審査や面接で行われるが、
ヒーロー部門は体力測定・座学での試験により合否が決まるのだ。
(因みに、面接に参加した者に対しても、
特典としてヒーロー部門を兼業する権利が存在している)
◆
そして、ヘラクレスカンパニーまで電車で向かった進は。
最寄り駅前のカフェで、進は虎次と出会う。
虎次とは事前に、メッセージアプリ『Musubi』において、
面接の日に会う約束をしていた。
進の姿を見た虎次は、ワクワクした様子で挨拶を行う。
「こんにちはっす、進のアニキ!
今日はいよいよヘラクレスカンパニーの面接っすね。
一緒に最高のヒーローを目指しましょう!」
(ん……ヒーロー、ですか?)
しかし、進は微妙に会話が噛み合っていない事に気付いた。
何故なら、自分の希望は事務職であってヒーローではないからだ。
「あー……申し訳ございません。今更ではございますが、
私はヒーローでは無く、事務職の枠で応募しているのですよ。」
進の言葉を聞いた虎次は、一瞬ショックを受けた顔をしたが、
直ぐに調子を取り戻して言った。
「事務職っすか……自分はパソコンが苦手なんで、
スプレッドシートとか触れる気がしないんすけど、
会社を支えるって点で見れば、間違いなくヒーローっすよね!」
それを聞いて、進は虎次のヒーロー部門推しに呆れつつも、
この純粋な心は嫌いじゃない、と思っていた。
そんなこんなで、ヘラクレスカンパニーの面接の時間がやって来る。
進は、カンパニー社内のスタッフの案内でエレベーターに乗り、
面接会場である応接室へと通された。
(因みに、虎次はヒーロー部門にて試験を受けている。)
進は型通りにはまり過ぎてるとも言うべき所作で、
足さばきとノック、そして分離礼で応接室へと入る。
勿論、普段から鍛え抜いた敬語も添えて。
(正直、この会社はヒーロー業界では大手ですので……
納得いくまで型を反復するのは、流石に疲れました。)
進が応接室に入ると、スーツを着た社内スタッフ数名と、
金髪のお団子頭の女性がデスクに待機していた。
その内、金髪の女性は、可愛らしいヘアースタイルとは裏腹に、
目元は凛としていて、白い事務服をビシッと着こなしている。
金髪の女性は、入室した進に対して言う。
「本日はお忙しい中、ご足労いただきありがとうございます。
私はヘラクレスカンパニー所属のスタッフに加えて、
Aランクヒーローを兼務する『鳴神禰音』です。
本日は佐藤さんの面接を担当させて頂きますので、
どうかよろしくお願いいたします。」
禰音がこう言い終わると、進も軽い自己紹介を返し、
改めて席へと着いた。
一方、禰音は手元にある進の履歴書と、目の前の進を眺め、
品定めするように見比べていた。
(……佐藤進……彼は、何だかお堅い感じがするわ。
でも、うちのヒーロー達は荒々しい連中も多いから……
マナーを真面目に学んでいる、という点は評価に値するわね。)
そして、進の面接が始まった。
◆
禰音は進の人となりを知る為に、質問を重ねていく。
「……普段は、趣味として、どんなことをされていますか?」
「空手とジムでの運動ですが、偶に息抜きでゲームをしています。」
(へえ……運動が趣味なのね。ストイックで悪くないじゃない。)
「前職の経歴には『一般事務』とありましたが……
当社はヒーローの派遣会社である為、戦闘後の後処理や、
現場への同行スタッフという形で肉体労働が伴います。
その点につきましては、大丈夫でしょうか。」
「はい。学生時代のアルバイトであった倉庫業務や、
現職の事務での備品整理、そして日々の運動により、
身体を動かす業務は経験しております。」
(怪人の後始末やヒーローの戦いを、普段の事務職と同列に!?
……これは、将来大物になる可能性も高いわね。)
◆
「面接は以上で終了といたします。
結果につきましては、後日メールでお伝えいたします。」
禰音の締めの挨拶に対して、進は一例を返す。
そして、禰音が付け加えて言う。
「……もし宜しければ、当社では面接の特典として、
ヒーロー部門への申請も可能となっております。
Cランクからのスタートとなりますが、申請いたしますか?」
進はヒーローという言葉に対し、一瞬怪訝な顔となるが、
(ヒーロー業ですか……。
確かに、私は今までに怪人を倒してきましたし……
普段の運動代わりには丁度良いでしょう。)
と思い直した事により、禰音の申し出を承諾した。
そして禰音はスタッフと共に進を送り出すと、
進の様子を思い返し、一人で盛り上がっていた。
(……今日の彼、久しぶりに大当たりの逸材だったわね。
あの鍛え上げられた肉体、手本のような所作、
そして怪人にも動じなさそうな荒事への強さ……
お金や名誉を追い掛けてばかりの奴らにも見習って欲しいわ。
もしも彼の採用が決まれば、何れ私の夢に……
……いいえ、無理に巻き込むのは良くないわね。)
──所変わって、ここはヘラクレスカンパニーの役員室。
中には優しそうなおばさんと、タバコを燻らせた中年の男性、
そしてふてぶてしそうなスーツの男性数人が座っていた。
彼らは面接に来た進の話をしているようであった。
スーツの男性たちは、進の履歴書を見ながら、
人を食ったような態度で話す。
「ふん……今日の佐藤とかいうひよっ子など、
所詮は武術を齧っただけの素人だろう……
……我が社のヒーローには値せぬわ。」
「まあまあ王大様……こういう世間の常識をしらない奴は、
一番利用しやすい人材なんですよ。音を上げて辞めるまで、
精々いい様にこき使ってやりましょう。」
「わても舞田さんの意見に賛成しますわ。」
しかし、タバコを燻らせていた男性が口を挟んだ。
「いいや、あの子の奥には光るモノがある。
オジサンの長年の勘だけどな……あまり油断していると、
思わぬところでハッとさせられるかも知れないぜ。」
その男性の台詞に、スーツの上役たちは面白くなさそうにするも、
おばさんがお茶を運んできたため、その場は有耶無耶になった。
──そして、その時の彼らは知らなかった。
後にこの佐藤進が、ヘラクレスカンパニーにおいて、
会社を揺るがす台風の目となっていくことを。
佐藤進、遂にヘラクレスカンパニーと邂逅しました……。
ここから、本格的に進のヒーロー活動が始まっていきますよ!!
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