第6話「ヘラクレスカンパニー」
カリラとの戦いから数日後、進は何とかSEの面接を受ける事ができた。
(因みにその後、SEの面接は惜しくも不合格となった。残念。)
そしてある日、進はカリラから助け出した青年・葦原虎次から、
メッセージアプリ『Musubi』経由で食事に誘われたのであった。
自宅で寝転んでいた進は、手元のスマホから虎次のメッセージを見る。
『進のアニキ、この間はどうもありがとうございました!
それで今度、あの時約束させて頂きました通り、
自分の行きつけの定食屋さんで奢らせて頂きます!
日時は今週末の土曜日、場所は紅唐区の……』
(……正直、こういった他者様との食事会は慣れませんがね…。
ですが、折角の好意を無碍にするわけにもいきません。
それに、一食用意する手間が省けたので、感謝の気持ちで一杯です。)
進は慣れない人付き合いに緊張しながらも、
期待を胸にアプリを閉じた。
──そして、土曜日の昼。
進は再び、電車で紅唐区を訪れていた。
この間はカリラに襲われ、街の一部を破壊されていたが、
数日経った現在は、多くの店舗や会社が普段通り活動している。
(先日、怪人に襲われていたというのに……。
本当に、この街の人は逞しいですね。良い事です。)
進が紅唐区の住民のタフネスに感心しながら歩いていると、
目的の建物である定食屋へとたどり着いた。
「……確か、虎次さんのメッセージによれば、
ここであったと思います。『和食処 かざみどり』。」
進の目の前には、二階建ての古き良き古民家が聳えていた。
その内の1階部分には、鶏の描かれた立派な暖簾と、
豪華な食品サンプルが並んだショーウィンドウがある。
進が暇つぶしで『かざみどり』の建物を眺めていると、
「アニキ~!」と呼ぶ声が遠くから響いてきた。
ふと見ると、葦原虎次が全力疾走でやって来ていた。
そして虎次は進の前で急停止し、肩で息をする。
「はーはー、遅れてしまって申し訳ないっす、アニキ…!
自分が約束の張本人なのに、遅れてちゃ世話が無いっすね…。」
実際は、約束の時間には間に合っているのであるが。
進は息を切らす虎次に、思わず心配して問いかける。
「いえ、私は全然大丈夫ですが…そんなに走ってお疲れでは?
それに、怪人と闘った時の怪我は…。」
「大丈夫っす!怪人との喧嘩と比べれば朝飯前ですよ!
傷も殆ど癒えてますし!さあ行きましょう、進のアニキ!」
虎次は全力疾走してもへばる事なく、進を店へと案内した。
──『和食処 かざみどり』店内
虎次が入り口の引き戸を開き「こんにちはー!」と挨拶する。
中には昔ながらのカウンター席とテーブル席が並んでおり、
サラリーマンや親子連れの客たちが、賑やかに食事をしている。
店前のレジカウンターには、初老の男性がいた。
『和食処 かざみどり』の店主、風見さんである。
虎次の挨拶を聞いた風見さんは、にこやかに挨拶を返してきた。
「おお、よく来たねぇ虎次君!ん、今日はお友達さんも一緒かい。
ようこそ『かざみどり』へ。早速ですまないが、
お兄ちゃんの名前を教えてくれるかい。」
風見さんの質問に対し、進が丁寧に答える。
「お初にお目にかかります。私は『佐藤 進』です。
一般事務として、ぼちぼちやらせて頂いています。」
すると、風見さんの目の色が変わった。
「佐藤……進……おお、ひょっとすると虎次君の言っていた、
『進のアニキ』ってえのは、お兄ちゃんの事かい。」
(……絶対カリラを始末した件ですよね、コレ……。)
進は正体を隠し通せそうにないと思い、経緯を全部話した。
その結果、「虎次君を守ってくれて感謝だねぇ!」と、
風見さんに唐揚げを1個おまけしてくれる事となった。
そんなこんなで、進と虎次が席に着く。
メニューには、焼魚定食や豚カツ定食、パンのセットなど、
色々なメニューが並んでいるが、一番のお勧めは唐揚げ定食であった。
(私も唐揚げは好きですし、これにしますかね。)
そして、虎次と進は揃って唐揚げ定食を注文し、食べ始めた。
その流れで、進と虎次は世間話を始める。
先ずは、進が口を開いた。
「虎次さん……貴方はどうして、
危険を冒してまでヒーローをされているのですか?
私としては、無理をして怪我をして欲しくはないのですが。」
それに対して、虎次は真剣な表情で答える。
「それは……恩返しの為なんすよ。」
「恩返し……ですか?」
「はい……自分は嘗て、居眠りトラックの事故で父を失い、
おまけに左腕も失ったんです。正直、絶望の連続でした。
ですが、ある日に紹介して貰ったお医者の大先生のお陰で、
今のカッコいい機械の左腕を手に入れたんすよ。」
虎次がそう答えると、スマホで写真を見せる。
「はい、これが俺の恩人の『田貫福蔵』大先生の写真っすよ!」
進が写真を見てみると、スキンヘッドに黒い眼鏡の男性が写っていた。
白衣と満面の笑顔も相まって、正直マフィアの闇医者にも見える。
進の神妙なリアクションを見た虎次は、
「確かに怪しいかもですけど、腕は本物っすよ!」とフォローした。
(おっと、考えが読まれていましたか。これは失礼。)
続いて、虎次が進に話を振る。
「そんな事よりも、この間のアニキの戦いぶりは凄かったっすよ!
自分が苦戦した怪人を、一瞬でバーンとやっつけてしまうなんて…!」
「いえ…私は只、目の前に怪人がいたので倒したまでですが。」
「謙遜しないでくださいよ、アニキ!
そうだ……進のアニキ、もしもヒーロー志望でしたら、
フリーのヒーローは稼ぎづらいっす。もしかしたら、
あの企業の方が良いかも知れないっすね。」
「企業……?いえ、私はただ、会社員として……」
進が疑問を考える間もなく、虎次がスマホでとあるページを見せる。
画面には、ヘラクレスオオカブトのマークが映っていた。
「……大手ヒーロー会社『ヘラクレスカンパニー』っす。」
(……What?)
進は思わず閉口した。
(ヒーロー会社……これは絶対、面倒事が増える予感しかしません。
いえ、私は腕っぷしには自信があるのですが……
……平穏な会社員生活とは絶対程遠い環境ですよ、コレ。
しかし事務作業があれば……悪くはないかも知れないですね。)
進からすれば、ヒーロー業は御免被りたいところであったが、
食事を奢って貰った手前、話だけでも聞く事にした。
そして、ノリノリの虎次が、ヘラクレスカンパニーの話を始める。
「ヘラクレスカンパニーは、元々『西光英雄』さんという方が、
社会貢献として始めたヒーロー派遣会社っす。
『ヒーロー業を始めるならこの会社』と太鼓判を押されていて、
怪人退治やボランティアで、色々なヒーローが活躍されていますよ!
進のアニキなら、きっと人気ヒーローになれるっす!」
しかし、そんな虎次の話に、風見さんが口を挟んだ。
「……虎次君。悪い事は言わないから、あそこは止めておきなさい。」
思わぬ話に、虎次は思わず「何で止めるんすか。」と聞き返した。
それに対して、風見さんが真剣な眼差しで言う。
「確かにヘラクレスカンパニーには、良いヒーローも沢山いるよ。
だが、最近はそこのお上の方針かは分からないが、
素行の悪いヒーローが増えているんだ……。
まるで、兎に角強い奴を集めてきた、という言葉が似合う感じの。
虎次君も進の兄ちゃんも、そんな所で使い潰される事はない。
もっと良い企業に出会える筈だから、止めておきなさい。」
しかし、虎次はその話を聞いても、一ミリもブレずに答える。
「大丈夫っす!そんな奴らに喧嘩を売られても、
ガツンとぶっ飛ばしてやるっすよ!
それに進のアニキなら、どんな奴が相手でもイチコロっす!」
虎次の純粋な瞳と、人伝の進の圧倒的実力を前にしては、
流石の風見さんも「う、うん……」と頷くより他はなかった。
「自分はヘラクレスカンパニーを志望しますけど、
進のアニキはどうします?やっぱり、止めておくっすか?」
進はそんな虎次の質問に対し、こう答えたのであった。
「……分かりました。私もこの会社を一度受けてみましょう。」
(しかし、進が見ていたのは事務員募集の欄であった。)
この度は第6話の投稿時刻が遅れてしまい、大変申し訳ございません。
明日以降のスケジュールは、また追って連絡させていただきます。
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