第37話「パーフェクト・マニュアル・モンスター」
ミズミズクラゲを撃破した進たち5人は、一息つきつつも、
出酢泥井の中枢へと近付いている事を肌で感じていた。
「──取り敢えず、僕が不意を突かれたとはいえ、
『ミズミズクラゲ』の水を纏う能力はかなり厄介だった。
でも裏を返せば、このレベルの怪人が配置されているという事は、
僕達が出酢泥井の本隊にまで近付いている証の筈さ。
そうなれば、作戦完了まではあと少し。皆、気を引き締めて行くよ。」
「了解!」
李夢の合図と共に、他の4人もアジトの奥へと進まんとする。
しかしその最中、進が突如として部屋の中で駆け出していく。
そして落ちていた瓦礫を手に取ると、それを何個か持っていたポーチへと忍ばせた。
その光景を見た虎次は、思わず疑問に思い進に質問する。
「あの……進のアニキ、そろそろボスの所へ向かう予定っすけど……
そんなガラクタを集めて、一体どうするつもりなんですか?」
それに対して、進は飽くまでも丁寧に詫びを入れて返す。
「お時間を取らせてしまい申し訳ございません。
いざという時の武器として、少し瓦礫を拝借させて頂きました。」
こうして、改めて一行はミズミズクラゲのいたエリアを抜けて、
出酢泥井のアジトの奥へと向かっていく。
「ガアアアアッ!!」
「シャアアアアアッ!!!」
その道中では、鷹や獅子など、強力な動物の力を持った怪人も現れたが、
それらは李夢や禰音によりあっさりと露払いされてしまった。
その後も暫く地下道を駆けていくと、やがて大きな広間が見えてきた。
広間の中には、一際大きい赤い扉が鎮座している。
扉の上には、『DESTROY ON STAGE』という派手な看板が掛けられていた。
それを見た禰音は、わざわざ目立つ看板を出している事に呆れつつも、
静かに出酢泥井への闘志を燃やしていた。
「……何ていう壊滅的なセンスの看板なの?
これなら拝金派閥のヒーローの報告書でも見ている方がマシだわ。
──でも、ここまで派手に部屋の存在を示しているという事は……
……恐らく、私達ヘラクレスカンパニーを招く心算らしいわね。
良いわ……だったら、こっちも本気であんた達を叩き潰してあげるから。」
禰音が勢いよく扉を開けると、進達4人も後に続く。
部屋に入った5人が見たものは、サイケデリックな動物の壁紙と、
光り輝くファンキーな装飾の舞台であった。
そして舞台の上には、スーツを着た髭の男性と、白衣の男性が乗っていた。
彼らこそ出酢泥井のボスである恐山と、科学者の倉次であった。
恐山の隣には、謎の人型の生命体が入った、培養液のカプセルが置かれている。
中身の生物は、青と白の無機質でサイバーな装甲に包まれていた。
恐山はヘラクレスカンパニーのヒーロー達を見るなり、
声高々に笑いながら話し掛ける。
「はっはっは……ごきげんよう、ヘラクレスカンパニーの諸君。
こうして会うのは初めまして……かな?
私こそが出酢泥井のボス『恐山 強介』である。」
「あ……はい……一応、科学者の倉次貝蔵でござりまする。」
その自己紹介を聞いた禰音は、真剣な表情になる。
「……貴方達が、出酢泥井のボスと科学者ね。
よくもまあ、これまで随分派手に私たちの街を荒してくれたじゃない。
世界征服でもするつもりだったのかしら?」
その問いに対し、恐山はやれやれといった表情で答える。
「……半分正解だが、我々『出酢泥井』の野望はそんな安いものではない。
我々が世界を支配しようとする理由……
それは、『無駄の多い現代人の暮らしを管理する』事なのだよ。
現代の人間は、些細な事で互いに争い、不和を撒き散らし、
時として大きな争いで社会の停滞を招く。
だからこそ、我々のような新生物やそれを従える者達が、
力を以て暮らしを監視し、マニュアル通りに平和を保っていく、という訳さ。」
しかし禰音や李夢たちは、今までの出酢泥井の非道を忘れていない。
彼らは怪人を放ち、多くの街を混乱に陥れていたのだ。
「ふざけないで頂戴!貴方達の独り善がりな計画の為に、
怪人に街を壊させて良いと思っているの!?
今、街に住んでいる人たちが、貴方達に石でも投げたのかしら!?」
「あはは……流石に笑えないよ、恐山さん。
アンタの計画で、どれだけの人が泣いたか分からないのかい?
はい決定。お前にはこの世の苦痛を全て叩き込むから。」
禰音と李夢は怒りを顕わにして、恐山に噛みつく。
一方の恐山は、禰音の主張を一蹴し、ふてぶてしい態度で話し始める。
「……お嬢さん、君は君は分かっていないね。
今までの街での騒ぎ──これは自分達の堕落に気付いていない、
人類への罰なのだよ。『このままではお前達は滅びるぞ』という、
我々なりの警告でもある……だが、これ以上話すのも飽きてきたな。
もう良い。こうなれば、皆纏めて我々の究極兵器──
『パーフェクト・マニュアル・モンスター』こと『PMM』の手で、
データとなって有効活用されるが良い。」
倉次がそう言い、指パッチンをした次の瞬間──
進が突如として瓦礫を取り出し、舞台に向かって勢い良く投げたのだ。
(ギュオンッ……!)
──回転しながら勢い良く飛んでいく石の瓦礫。
その勢いはさながら時速150kmの剛速球であった。
(……ガシャァンッ!!)
──そしてそれは、怪人の入ったカプセルのガラスを直撃したのだ。
それを見て、恐山と倉次は、一瞬ポカンとしつつも、
直ぐに目玉が飛び出る勢いで驚愕した。
「え……な……なああああっ!!?」
一方の進は、そんな二人を無視し、
カプセルに向かって2個目、3個目の瓦礫を投げ付けていく。
瓦礫の投げられる勢いに、思わず恐山と倉次は飛び退く。
(ギュウウウン……ゴッ!……ガシャアアン!!)
残されたカプセルには、瓦礫がダイレクトで直撃しガラスを割っていく。
鳴神姉弟や虎次達は、瓦礫のぶつかる音に思わず耳を塞いでいた。
──それから暫く時間が経った後、音が止んだ事により、
ヒーロー達や出酢泥井上層部が、カプセルの方を見る。
すると、何とそこには木っ端みじんになったカプセルと、
謎の生命体のものと思わしき肉片が飛び散っていた。
その様子を見た倉次は、思わずあんぐりと口を開けて呟く。
「ああ……何という事でしょう……私が丹精込めて作った『PMM』が……」
続け様に虎次も、進が目の前で繰り広げた殲滅撃に唖然としていた。
「……え、あれ、どう見ても最終兵器っすよね?
それを只の投球でやっつけるとは……凄さオーバーフローっす、アニキ。」
進も「ふぅ……これで、終わりでしょうか」と一息ついた。
しかし──ボスの恐山は、まだ諦めていない様子であった。
「……くく、くくく……これで勝った気になっているな。
佐藤進……PMMがお前に倒される事を、私が予想していないと思っていたか?」
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