第29話「芝井区危機一髪!」
夏が過ぎ、進もヘラクレスカンパニーの一員として、
ヒーローの仕事に慣れてきた頃。
この日もヘラクレスカンパニーは絶賛活動中であった。
6Fのオフィスエリアでは、パソコンと睨めっこをするスタッフ達と、
書類の手続きに来たヒーロー達で溢れ返っている。
その中で、白い事務服の女性と、黒いパンツスタイルの中性的な青年が、
スタッフたちに交じって事務作業に勤しんでいた。
彼らはAランクヒーローとスタッフを兼業する「鳴神姉弟」である。
白い事務服の女性が姉の「禰音」で、黒服の青年が弟の「李夢」だ。
そして彼らは、物理現象を操る能力を持っており、
禰音は電撃、李夢は有向力を扱う事ができる。
その力と今までの戦闘経験が合わさり、
姉弟でAランクヒーローの筆頭として広く知られているのだ。
「会社では挨拶が何よりも基本なのです!
そして、人は服装を見て相手を判断しますからね。」
毎朝、カンパニーの社員に社会人のマナーを説く禰音。
「君、スプレッドシートでの報告書作成が分からないのかい?
じゃあ、僕と佐藤さんで教えるから待っててよ。」
仕事で困った社員に対し、ダウナーながらも優しく助け舟を出す李夢。
鳴神姉弟はオフィスワークにおいても、厳しい部分は有れど、
基本的にスタッフ達への面倒見が良く、多くの者から慕われていた。
今日も何時もの通り、カンパニーでの日々が過ぎる──と思われていた。
◆
時刻は11時半となり、昼休憩が近付いていた時であった。
この時、進は禰音の指導の下、報告書のデータ化作業を行っていた。
「禰音様、午前分の手書きの報告書をデータ化致しました。」
「ありがとうございます、何時も仕事が早いわね佐藤さんは。」
そんな他愛もない仕事の会話をしていた所、
突如としてデスクに置かれた固定電話のベルが鳴り響く。
受話器を最初に取ったのは、禰音であった。
「はい、もしもし!こちらはヘラクレスカンパニーAランク、
鳴神禰音です!一体どうされましたでしょうか!」
電話に出たのは、ヘラクレスカンパニーのオペレーターであった。
「こちらはカンパニーのオペレーティングルームです!
只今、芝井区にて2体の怪人の破壊活動を確認!
場所はイルカ公園…バズーカ砲の様なものでイルカ像を破壊されています!
そして周囲には、棘状の物体により怪我をしている者も確認済み……!
怪人の特徴は、虎型とヤマアラシ型!危険度は目視で双方ともにAランク!
つきましては、Aランクヒーローの出動を要請します!」
オペレーティングルームの中にあるモニターには、
無惨に破壊しつくされた公園と、2体の怪人の姿が映っていた。
「見ただがや!?おらのバズーカ砲の威力を!イルカの像が粉々だがや!」
「ヒャッハー!!さあさあ逃げ惑え人間共!俺の棘はよく飛ぶぜぇ~!?」
彼らは出酢泥井の怪人、タイガーバズーカとバレットヤマアラシであった。
オペレーターからの電話を聞いた禰音は、歯を食い縛って怒る。
「……よくも何の罪もない市民を危険に晒して……マナーが成ってないわ。
李夢、緊急の任務よ。一緒に怪人を倒しに行きましょう!
進さんも申し訳ないけど、後方支援として一緒に来てくれるかしら!」
禰音の要請を聞き、李夢と進は二つ返事で了解した。
「あはは……了解。姉さ……じゃなかった、
禰音さんの守る街を壊すなんて、絶対に許さないから。」
「ええ、怪人達の身勝手は許されません。私も微力ながら力になります。」
こうしてオフィスを出た3人は、スタッフの須田さんの運転する車で、
芝井区へと向かったのであった。
◆
芝井区は、古来から楽しい伝統芸能と水族館で名を馳せている。
特に、水族館近くにある『イルカ公園』は、
透き通った青色のイルカの像があり、市民の憩いの場でもあった。
しかし禰音たちがイルカ公園に辿り着くと、そこは地獄であった。
人々が逃げ惑う中、既にサップを持っていたと思しきモヒカンのヒーロー、
ダンビラ使いのヒーロー、そしてガタイの良いヒーローが倒れていた。
「……何て事。うちのチンピラと言えども力はあるのに、
こんなに呆気なく倒されるなんて……危険な怪人ね。」
禰音が息を飲んでいると、人混みと硝煙の奥から、二つの影が歩み寄って来る。
影の主は、タイガーバズーカとバレットヤマアラシであった。
「ヒャッハー……どうやらヒーローくじは当たりみたいだなァ!!
Aランクの鳴神姉弟と、佐藤進とかいう馬鹿野郎が出てきやがったぜ!」
「ヘラカンの拝金派閥共はまるで相手にならなかっただがや。
お前達は、今度こそ吾輩たちを楽しませてくれるかいな?」
今、ヘラクレスカンパニーと出酢泥井の精鋭同士の戦いが始まる。
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