第19話「鳴神李夢は重力系」
進がカンパニー地下コロシアムにて、
宇出との勝負を終えてから暫く経ったある日。
ヒノカ国首都・犬守区にて。
犬守区は古来より犬が「魔除けの獣」「神の使い」として親しまれており、
街では犬の美術品やお土産が沢山並んでいる他、犬の飼育率も高い。
その中でも、この犬守区の土地を整備したと言われている名士──
──の飼い犬を象った銅像のある広場は、象徴的な場所でもあった。
しかし、今日は犬守区の広場にて、一大事が起きていたのだ。
「ヘハハハハ!さあ、我がA4ノートを買え!人間共!!」
広場に響き渡る、個性的な笑い声とハキハキした声。
その声の主は、A4ノートに人の顔と簡素な手足が付いたような、
どこからどう見ても怪人そのものの見てくれであった。
しかも、下半身にはご丁寧に『WOXO』というロゴが描かれている。
周囲の人間は、俄かには名状し難い存在が現れた事により、
ポカンと見つめていた。そんな彼らに対し、怪人は話し始める。
「……ふぅ、失礼したな。
我が名はノート男……A4ノートが好きすぎて、
自分をノートそのものに改造して貰った怪人なのだよ。
さて……人間よ。突然で悪いが、
お前達にもノートの良さを知って貰おうと、
今日は我お手製の豪華なA4ノートを持って来たのだよ。
因みに値段は、10冊1万円……どうかね?買わないか?」
A4ノートが1冊1000円……何とも大層な値段であろうか。
当然、この馬鹿げた値段で買おうとする者等おらず、
「引っ込め!」と抗議を行う者も現れた。
しかし次の瞬間、ノート男の表情が一変する。
「あぁ?……何だって?我がノートを買わないと……。
そうか。ならばノートで斬られるが良い!」
ノート男はそう言うと、自らの身体の側面を弄り、
ノートの頁を千切り、次々と投げ付ける。
(ブゥン!ビュン!ビュン!!)
その質量や威力は、最早刃物に等しいものであった。
人々は堪らず逃げるが、周囲の建物は傷つき、人々の肌を掠めていく。
「ふはははは……!良い光景だな、貴様等!
これは罰だ!我ら物の有難みを理解しない者のなぁ!」
逃げ惑う人々を見て、高笑いをするノート男。
その時、ノート男の後ろから、ハスキーな声が聞こえてきた。
「……はぁ……随分と派手に暴れていたね、君?」
ノート男が振り向くと、そこには20代前半程の青年が立っていた。
黒い髪を後ろで結び、黒いシャツとパンツを着こなしている。
顔立ちは中性的で美しく、目は澄んだような青色であった。
「ほう、新たな人間か?早速で悪いが、
お前も我がノートを買っていけ!そうだな……1冊900円でどうだ!」
ノート男は青年を見ても、相変わらずノートを押し付けんとする。
しかし、青年は困惑しつつも、にべもなく言葉を返した。
「え……会って早々、いきなりノートを押し付けるの?
んー……やっぱり、こんな趣味の悪いノート、僕はいらないや。」
ノート男はその言葉を聞き、怒りで眉を吊り上がらせる。
そんなノート男の様子を余所に、青年は言葉を続ける。
「……まあ良いや。僕の名前は鳴神李夢……。
一応、ヘラクレスカンパニーのAランクヒーローなんだよね。
それよりも、どうして君は暴れていたの?
こんなに紙を投げてさ……拾う人の気持ちにもなりなよ。」
ダウナーな調子ながらも、ノート男の行いを問い詰める李夢。
そんな彼に対し、ノート男は醜悪な言葉を返す。
「フッ、理由だと?そんな物、
我がノートを買わないからに決まっている。
物を大切にできない者など、罰を受けて当然なのだよ!!」
李夢はノート男の論理を聞いて、静かに頷きつつも、それを一蹴した。
「……うん、つまりは自分の商品を買って貰えなかったから、
それで犬守区の広場で大暴れをしたって事?」
「ああ、それ以外に理由などあるものか!
さあ、お前も命が惜しければ、今すぐノートを買うのだ!!」
ノート男は、李夢の問い掛けなどどこ吹く風で、
自分の行いを正当化していた。
しかし次の瞬間、李夢が一瞬静かになったかと思うと、
息を吐きながら、口元を狂気的に歪ませ笑い始める。
「……あはは、それが君の論理なんだ……
……マジでふざけてるね。人を切り刻んでまで、
自分のノートを押し付けたいなんてさ……。
僕、君の事を通報で聞いた時から、意外と怒っているんだ。
だから……君はここで消し炭になって死んじゃってよ。」
李夢はそう言うと、右手の平を目の前に突き出す。
「ヘハハハハ、手を目の前に出して、それは何の冗談だ?
お前も、我がノート手裏剣の餌食にしてやるわ。」
目の前の李夢の動きを一蹴し、笑い飛ばすノート男。
だが、その高笑いもここまでであった。
李夢は手を差し出した次の瞬間──
「圧縮」
と短く言葉を発し、右手を内側へと握る。
するとノート男の身体は突如として内側から丸められ、
直ぐさま球状となる。そして──
(ボッ!!)
──凄まじい爆発音と共に、黒焦げの玉へと姿を変えたのであった。
黒焦げの燃えカスとなったノート男は、当然機能を停止していた。
それを見て、静かに言い放つ李夢。
「……悪いけど、君みたいな奴と話す時間は無駄なんだよね。
だから、僕の『重力』で地獄へ行ってきなよ……。」
そう言い終えると、李夢は周りの人々を見て、事件の終わりを告げる。
「……皆、もう大丈夫だから……気を付けて帰ってよ。」
その後、李夢や周囲の通報により、
被害に遭った人々はフォローされたのであった。
◆
そして、李夢はノート男を倒した後、帰り道の道路にて、
一人思案しながら歩いていた。
(……それにしても、あの宇出を倒したというCランクヒーロー、
佐藤進……あの人は最近、『姉さん』と一緒にいる事が多いけど……。
今度、彼とは少し『お話』をしないといけなさそうだな……。)
どうやら、進の元にまたイベントが舞い込みそうな予感がするのであった。
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