第18話「宇出太志というヒーロー」
宇出が倒れ伏し、コロシアムに静寂が訪れる。
そして一瞬の静寂の後──名状しがたい髪型のレフェリーが、
戦いの勝者の名を告げる。
「……勝者、Cランクヒーロー『佐藤 進』選手ーーーーー!!」
そのレフェリーのコールと共に、観客席からは大歓声が溢れ出した。
「うおおぉぉ!!」「すげええぇ!」
「あの佐藤って奴、本当にやりやがった……!」
進によるまさかの番狂わせに、興奮冷めやらぬファン達。
そして勿論、進を応援していた禰音と虎次は、彼を褒め称えた。
「Bランクヒーローを一撃……くうぅ~!!憧れが止まらないっすよ!!」
「あのムカつくリーゼントを一発で……佐藤さん、今日の貴方は最高よ!」
そんなギャラリーの様子を見た進は、
少し照れた様子を見せつつも、努めて冷静に手を振り返した。
一方、宇出を応援していた拝金派閥のヒーローや幹部は、
まさかの結末を前にして、あんぐりと口を広げて固まっていた。
その様子の、さも滑稽な事。
「な、何だと……あの宇出君が一撃で……?」
「ハハ……冗談だろ、宇出さん?何かの間違いだよな?」
拝金派閥の狼狽える姿を見た禰音は、一瞬したり顔を浮かべつつも、
直ぐに空気を読み、冷静な顔へと戻った。
進の勝利により、三者三様に色めき立つコロシアム。
その最中、宇出は自身が一瞬で倒された事に理解が追いついておらず、
ぽかんと口を上げながら、仰向けになっていた。
(……何だったんだ……今のパンチは……まるで交通事故じゃねぇか……。)
進は観客たちへの挨拶を終えると、
固まっている宇出の下へと駆け寄り、彼の肩を叩き起こそうとする。
「宇出さん……申し訳ございませんが、今回の戦いは私の勝ちです。」
進の顔を見た宇出は我を取り戻し、一瞬手を振り払おうとするも、
心身共にボロボロとなり、憎まれ口を返す事しか出来なかった。
「……クソ、何で只の事務員がそんなに強いんだよ。
これじゃあ、俺の今までの努力が馬鹿みてえじゃねえか……。」
投げやりになる宇出に対し、進は言葉を返す。
「……私の強さも、学生の時から基礎を積み重ねてきた事によるものです。
具体的には、空手にジム、その他ビデオを見ての適当な特訓などですね。
因みに、習い事の際には、ランニングで施設に向かっていました。」
進の驕らない淡々とした回答に対し、宇出は唖然となるも、
その様子に毒気を抜かれたのか、次第に素直になり始めた。
「そうか……佐藤、お前も一生懸命鍛えてきた口なのか。
それじゃあ、俺が破られるのも、おかしくはねぇか……。」
その言葉を聞いた進は、ふと宇出に問い掛ける。
「……ところで宇出さん、一つだけ宜しいでしょうか。
貴方は先程、『努力した』とおっしゃっていましたが、
何故ヒーローを目指されていたのですか?」
進の問いに対し、一瞬宇出はバツの悪そうな顔をするが、
やがて負けを認めたのか、ため息をつきながら話し始めた。
「……俺だって、昔は全うにヒーローを目指していたさ。」
◆
宇出太志は元々、両親と2人の弟と共に、5人家族で暮らしていた。
そして性格も今とは違い、純粋で夢見がちだけど、
運動が好きで家族思いの少年であった。
特に、ボクシングに関しては学校で一二を争う成績であった。
彼は、毎週テレビで見ていたヒーロー番組から、
将来は「ヒーローになりたい」と常々思っていた。
しかし家は貧しく、両親は共働きで家を空ける事が多かった。
それを見かねた太志少年は、恵まれた体力と体格を活かし、
幾つものアルバイトを掛け持ちし、家へと仕送りをしていた。
そんな生活が続いていたある日、大人となった太志は、
とあるテレビCMを目にする。
それは、「ヘラクレスカンパニーにてヒーロー募集!」と言うものであった。
太志はそのCMを見るなり、ヘラクレスカンパニーへと応募し、
ボクシングなどで鍛えた身体能力により、ヒーローの座を勝ち取った。
こうして、彼は晴れてヒーローとなったものの、世間は残酷であった。
太志が泥臭く怪人との戦いやボランティアを進めていく中、
周りのヒーロー達は、派手な技で怪人をなぎ倒しているではないか。
しかも、スターとして注目される者も現れる始末。
(折角、家や街を救うためにヒーローになったのに……
このままでは、約束した人たちに合わせる顔が無いじゃないか。)
太志は才能という壁に阻まれ、絶望と挫折を味わっていた。
そんなある日、彼の下に「背古」と名乗る、
ヘラクレスカンパニーの役員が現れたのだ。
挫折を味わっている太志を前に、背古は囁いてきた。
「流石は鍛えられた腕ですわ、素晴らしい。
良いでっか……ヒーローの世界、舐められては終わりですわ。
大切なのは『俺さえいれば良い』という箔。
これこそが、荒波を生き抜く秘訣でっせ。」
その言葉を聞いた太志は、暫く葛藤をした。しかし──
「周りに舐められたままでは、華々しく活躍などできはしない。
俺の帰りを待つ者の為にも、自分を変えて見せる」
という思いが太志の中に芽生えてしまい、悪魔に魂を売ってしまった。
それ以来、太志は自分を大きく見せようと、髪型をリーゼントにし、
ヒーローには似つかわしくない不良行為に手を染め始めたのであった。
しかし、それにより太志は、自身の悪性を慕う者達と、
拝金派閥の幹部と言う強力な広告塔を手に入れたのであった。
勿論、周りから見れば痛々しい光景であったのだが、
当時の太志はそれを悪いとも思わず、寧ろ堂々と誇っていた。
純粋なる少年の夢の果て──それが拝金派閥のヒーローなのであった。
◆
「……ハハッ、笑えるよな。ヒーローを目指していた俺が、
こんな風に怪人みたいに呆気なく倒されるなんてよ。
さあ、佐藤進……お前も笑いたきゃ笑えよ、俺の事を。」
自身の半生を振り返り、自嘲の笑みを浮かべる太志──
──もとい、Bランクのヒーロー・宇出。
そんな彼の様子を見た進であったが、
進は彼を馬鹿にしたり憐れむ様子もなく、静かに言った。
「……誰かの為に身体を張れる。それは立派な事です。」
思わぬ進の言葉に、宇出は驚きの表情を浮かべる。
「私には、貴方の家族の事は分かりかねますが、
今の話を聞き、貴方が元々家族の為に努力して、
ヒーローになろうとした事はよく分かりました。
私も学生だった頃は、自分を弄ってきた人たちに、
何も言い返せなかった時もありましたので……
……それを考えれば、随分立派な事であると、私は思いますよ?」
進は宇出の努力を否定せず、優しく受け入れた。
その様子を見た宇出は、その場に崩れ落ち、突如として咽び泣く。
「う……う……うおおおおぉん……っ!!
ありがとう……こんなクズみたいな俺の事を……褒めてくれて……
そんな事を言われたのは、ずっと無くて……本当に久し振りかった!!
佐藤さん……今まで本当に、申し訳ないです……!!」
その様子を見た進は、ふっと笑みを浮かべる。
宇出の涙を見た禰音と虎次は、驚きの表情を浮かべるも、
やがて笑顔となり、進に感心の視線を向けた。
「……まさか、あの宇出の心を呼び戻すなんてね。
宇出の奴も、少しは見直しても良い……かも知れないわね。」
「ホント……アニキはヒーローにして相談屋っすね……!」
一方、拝金派閥の面々は、
「クソッ、所詮は茶番だ。あんな情に流される奴は必要ない。」
とだけ吐き捨て、コロシアムを冷徹に去っていった。
進の言葉を受け取って、一目を憚らず男泣きする宇出。
しかし次の瞬間、進は何時もの死んだ目に戻り、冷徹に言い放った。
「……さて宇出さん。泣いておられる所で申し訳ございませんが、
改心したというのであれば、先ずは貴方が今までにパワハラを働いた方々に、
謝罪と然るべき賠償金の支払いをお願いしたく思います。」
「……え……?」
進の直前までの態度の落差に、思わず固まる宇出。
そんな宇出の様子も気にせず、進は言葉を続ける。
「はい。そして今までにあなたが辞めさせたヒーローや、
迷惑を掛けた街の人々に対しても、出来る限り思い出し、
謝罪の文章を書いた手紙を送ってください。
また、今までの行為に関連する始末書も、よろしくお願いいたします。」
(……ぐうぅ……俺が悪いとは分かってはいるが、佐藤進、容赦がない…!!)
進の冷徹な、しかし正論である説教に、すっかりタジタジの宇出。
その様子を見た禰音は、フフッと笑ったのであった。
「流石佐藤さん、相変わらずの調子でお涙展開をぶち壊しすわね。
でも、ここまでされれば、宇出の奴も本当に心を改めるでしょうね。」
雨降って地固まる──宇出は、拝金派閥の呪縛から逃れ、
佐藤進という真の理解者を手に入れたのであった。
進の優しさと厳しさが見えましたね。宇出さんもこれを機に改心する事でしょう!
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