第2話「最強の男が生まれた訳」
ヒノカ国の首都を恐怖に陥れた魔王『アンコドリア』が斃れて数日後。
魔王を倒した張本人である佐藤進は、待ちに待った週末を迎えて、
ハンティングゲーム『カオススレイヤー』にのめり込んでいた。
(はぁ、週末はやはりこれです。『カオスレ』の時間…。
私はこの為に生きてきた、というのは大袈裟ですが)
進は実家を離れて、マンションで一人暮らしをしている。
だから、一人で優雅に自由を謳歌する事ができるのだ。
そして進の住むマンションは、ヒノカ首都まで電車で30分、
しかも家賃も郊外の物件と変わらない。羨ましい限りである。
そんなこんなで、進は『カオスレ』の日々のタスクを終え、
布団で一眠りすることにした。
(さて…ログインボーナスも、週替わりの怪物討伐も終わりました。
ちょうど目が疲れましたので、一休みとしましょう。)
こうして、進は寝室へと行き、マットレスとタオルケットを取り出し、
広げたマットレスの上に、そのまま転がりタオルケットにくるまった。
そして進は、ふと昔の記憶を思い出しながら、眠りにつくのであった。
◆
時間は11年前、進が13歳、中学2年生だった頃に遡る。
当時の進は、今と変わらぬ大人しく模範的な生徒であったが、
ただ一つ違うのは、まだ運動能力は人並みという点であった。
そして進の周りには、悪戯が高じて、
時に心無い遊びを行う者も少なくなかった。
「進ー、プロレスごっこしようぜ!?」
「はいはいはい!進のちょっと良いとこ見てみたい!」
元々自己主張の控えめであった進は、波風を立てたくない事もあり、
なすがままにプロレス技を受けたり、隠し芸を捻り出していた。
しかし同時に、進はそんな不条理に抵抗しなかった自分を恥じてもいた。
(何故人は、不条理を押し付ける者に屈服しなければいけないのでしょうか。)
(本来、人という物は、迷惑を掛けない限り、自分が思うように生きる権利がある筈です。)
(しかし、私はあの時「抵抗」を諦めていた…負けっ放しも同然でしたね。)
その考えが胸の奥にあった進は、自分を変えたいと強く思い、
中学3年生を迎えた後、両親に頼み込んで空手の教室に通い始めた。
そして進は、空手の厳しい稽古の傍ら、
教室への行き来においても、ランニングで行くことを徹底していた。
進は慣れない鍛錬にへばりそうになりながらも、
持ち前の我慢強さで食い下がり続けた。
(…この程度でへばっていてどうするのです、自分。)
(ここを超えなければ、世の中の不条理から身を守る事は出来ません。)
やがて進が中学を卒業し、高校へ入学した後は、
空手の他にもジムへと通うようになった。
その甲斐もあり、進は高校を卒業する頃になると、
体格の良いクラスメイトでさえも、体育の試合で軽くのせる力を手に入れた。
それでも進は、一心不乱に鍛錬を続け、
大学生となる頃には、鬼神の如き強さを手にしたのであった。
ある時、進の日課のジョギング中に立ちはだかり、
「おいお前、アツアツの豚骨スープに漬けて食っちゃるけんよ!」
──などと宣い、様々な生物を喰らおうとしていた豚怪人「トンコッツ」。
そんなトンコッツは、進にコンビニの割り箸を眉間に刺され、昏倒させられた。
また、ある時は悪い金持ちの家から逃げ出し、
下水道で進化した大蛇「スネーク加西」が、
「街の人間を全員丸呑みにしてやるざんす!」
と息巻き進の前に立ちはだかるも、進に蹴り飛ばされて瞬殺された。
(因みに悪い金持ちは、その後色々な罪で捕まったらしい)
しかし進は、凄まじい強さと引き換えに、心が燃え尽きてしまい、
顔つきもすっかりと死んだ目が目立つようになってしまった。
その後、進は就活の時期を迎えるも、
勉強に運動、趣味をどれも頑張り続けたせいで、確たる目標が見出せなかった。
その為、取り敢えず「手に職を付ける」という意味合いで、
IT会社の事務に就いたのであった。
◆
(…やれやれ、懐かしいやら気が滅入るやら、複雑な記憶ですね)
進が目を覚ますと、布団に入ってから約1時間経ち、夕日が見えていた。
「そろそろ夕食の時間ですね。ゆっくりする為に、先に料理を買いましょう。」
進は夕食を買いに、リュックサックに財布を詰めた後、
エレベーターを降りて、近所のコンビニへと向かう。
その道中の通り道で、進は人間大の倒れたセミを目にする。
(…よくできた細工でしょうか。それとも怪人か…)
進が見入っていると、倒れたセミが突如として飛び上がり、進に襲い掛かる。
「俺の名前はファイナルセミ!地上は我々が…ごべしっ!?」
巨大セミ──もといファイナルセミは何かを言おうとしていたが、
進が先に振り回したリュックサックに当たり、転がって飛んでいった。
「…やはり怪人でしたか。まあ、いつもの事です。」
そして、進は何事も無かったかのようにその場を後にし、
コンビニへと行き、お握りやパン、そしてリッチなスイーツを買ったのであった。
「そして夜は更けていく…という奴です。チャンチャン。」
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