第16話「カンパニーは何故出来た」
──昼12時過ぎ、ヘラクレスカンパニー6F・オフィスエリアにて。
今朝、宇出から一方的に果たし状を送り付けられた進は、
ヒーロー活動から帰還した禰音にその件を相談した。
進からその話を聞き、果たし状を見た禰音は、
顔を真っ赤にして怒り出した。
「はぁ!?あんの拝金派閥の馬鹿リーゼント……
よりにもよって、私がいない隙に佐藤さんを追い出そうとしたの!?
本当に最低よ!無駄に筋肉ばかり自慢して……!!」
彼女は、自分が世話をしている後輩の進に危害を与えられた事で、
何時にもなく怒りを露わにしていた。
その様子を見かねた進は、思わず禰音を宥める。
「……鳴神さん、私の事を心配して頂き、誠にありがとうございます。
ですが、私はこの通り五体満足ですので、心配は必要ありませんよ。」
禰音は進が何時もの調子である事を確認し、一先ず安心するが、
直ぐに真剣な顔となり、進に向かって話し出す。
「それなら一先ず安心……だけど、宇出の奴は何をするか分からないわ。
宇出太志……あいつは、拝金派閥のヒーローの一人。
電車の席は譲らないわ、いびりで後輩ヒーローを辞めさせるわ、
もう本当にマナー違反上等のムカつく奴よ。
あいつは上層部の『お気に入り』でクビにならないの。
私だったら、あんなの今すぐ電撃ビリビリの刑に処しているわ!」
進は宇出に関する話を聞き、静かに頷く。
(成る程……前に行った定食屋の主人が、
「ヘラクレスカンパニーはやめておけ」と忠告されていた理由が、
これでよく分かった気がします。)
「……兎に角、佐藤さん。宇出の事は私が解決をしておくわ。
だから貴方は気にせずに、自分の仕事を……」
禰音は考え込む進を見て、気遣いの言葉を与える。
しかし、進の目には決意が宿っていた。
「……いいえ、鳴神さん……お気持ちは有り難いですが、
これは元々私と宇出氏の問題です。鳴神さんの手を焼かせる訳にはいきません。
それに、自慢をするつもりではないですが、
私はこれでも鍛えている方ですし、実際に怪人も倒しております。
ですので、ここは一つ、私自らの手でこの件を解決させてはくれませんか?」
進の優しくも、揺るがぬ確固たる意志。
この言葉を聞いた禰音は、ため息をつきつつも、進の方を向いて微笑する。
「……そう、そこまで言うなら、私は止めはしないわ。
でも……一つだけですが、貴方に話しておきたいことがあります。」
「はい、何でしょうか?」
「……何故、今のヘラクレスカンパニーが生まれたかについてよ。」
禰音の口からは出たのは、「ヘラクレスカンパニーのルーツ」という思わぬ話題。
「何故、その話を新入社員の私にしてくださるのですか?」
「本当ならば、貴方を巻き込むつもりではなかったけど、
あの宇出とかいう馬鹿が貴方に絡んできた以上、
いっその事、この会社の事情を知って貰う方が良いと思ったの。」
進はその言葉を聞き、禰音に話を求める。
そして禰音は、ヘラクレスカンパニーの事について話し始めた。
◆
ヘラクレスカンパニーは元々、実業家である故・西光英雄氏により、
数十年前に作られたヒーロー派遣会社であった。
彼は怪人から人間を守る組織を作る為に、
異能を持つ者たちを集めて、社会貢献の一環として会社を立ち上げた。
しかし、会社の運営費や都市の復興費用といった予算の問題は、
怪人との戦いにおいて、ヘラクレスカンパニーの悩みの種となっていた。
その事もあり、ヘラクレスカンパニーは多大な成果を上げつつも、
常に自転車操業に近い状態となっていた。
そんな時、その事態を解決すべく、一人の男が立ち上がる。
その男こそ、ヘラクレスカンパニーの現CEO「黒崎巌」である。
彼は誰よりも会社の未来を憂い、本気で社内の改革に乗り出した。
その正義感は純粋たるものであったのだが、
同時に狂気とも言えるものであった。
黒崎は先ず、
「兎に角、ヒノカ中から強い奴を集めてこい。
そうすれば社会における悪事はある程度統制できるであろう。
それにこの会社も、上場企業……ひいては、最強傭兵軍団になる。」
という意見を出し、ヒノカ中で暴れていたゴロツキ達を、
経歴には目もくれず、力だけを基準に自社のヒーローとして雇い始めた。
その結果、数や能力の暴力で怪人達を楽に倒せるようになり、
会社の売り上げも次第に伸びていった。
しかし、そうして集まったヒーローたちは、直ぐにまともな生活を送れる筈もなく、
やがて社会において、横柄な態度で迷惑を掛けるようになっていった。
それでも、黒崎の施策により、
社会的な犯罪者の割合は減っているというデータも記録されていた為、
黒崎に表立って意見を言える者は少なかった。
現在、黒崎は圧倒的な成果を元手にヘラクレスカンパニーのCEOとなり、
今もなお拝金主義の派閥を率いて、会社を押し広げているのだ。
◆
「──という理由で、ヘラクレスカンパニーには、
ヒーローという肩書に反して、性格の悪い人物が多いのよ。」
禰音から聞いたあまりにも生々しく、悲しい話。
正義を掲げるにも、金が要るという残酷な真理。
進は禰音の話を聞き、彼女に問い掛ける。
「──だったら何故、貴方はこの会社で働かれているですか?」
進の問いに対し、禰音は遠くの方を少し見つめた後、静かに口を開いた。
「……私が今もこの会社にいるのは、
社会から落ちこぼれた私を拾ってくれた、師匠さんへの恩返しのため。
その人の名前は、『神山善康』。ヘラクレスカンパニーの幹部よ。」
禰音の何時にもない切なそうな顔を見て、進は静かに話を聞き入っていた。
しかし、禰音は直ぐに話を切り替え、進を鼓舞した。
「……ごめんなさい、少し私の自分語りが過ぎたわね。
佐藤さん……兎に角、あの悪趣味なリーゼント野郎に、
一泡吹かせてやりなさい!私との約束よ!」
「はい、絶対に理不尽には負けません。」
こうして、禰音からの思わぬ話を聞き終えた進は、
会社を終えた後、早速トレーニングジムまで走り出していったのであった。
そして進が特訓を続ける事3日、遂に運命の日は訪れたのであった。
明かされし会社の闇……そして迫る、宇出との決闘の時!
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