第14話「腕の強い男・宇出太志」
紅唐区において、進や禰音らがマグロナイフ達を倒した事は、
程なくして黒幕である「出酢泥井」にも伝わっていた。
──ヒノカ首都某所・「出酢泥井」秘密基地のモニター室にて。
モニターには、ヘラクレスカンパニーのヒーロー達と、
マグロナイフ率いる怪人たちの戦いの様子が映されていた。
倉次博士は、リーダーである恐山へと戦いの記録について話していた。
「──この通り、私が虫型小型カメラで撮影した映像では、
Bランククルーである『マグロナイフ』並びに他2名が、
満足な一撃を与えられずに一方的に倒されています。
そして、最近ヘラクレスカンパニーに登録した『葦原虎次』……
……彼についても警戒が必要です。
以前の戦いではカリラを敗北寸前にまで追い詰めた上、
今回はエビパンチャーを単独で撃破しております。」
倉次は今回の戦いについて、少し焦った様子で説明をしたが、
恐山はどっしりと構え、口髭を撫でて言った。
「ふむ……我らのクルーがこうも容易く倒されるとはな……。
流石はヘラクレスカンパニー、と言った所か。
暫くは、プロモーショオン活動も休息の時かも知れぬな。
だが、我々の活動自体に休みはない……さて、倉次。
『タイガーバズーカ』と『バレットヤマアラシ』を呼べ。
今度こそ我ら『出酢泥井』の覇権を広げる為、
地獄の鍛錬の準備をするのだ!」
「……は、はい!」
こうして出酢泥井は暫しの間、休養期間に入った。
しかしそれは、彼らが次の戦いへと向けて、
牙を研いでいる時に過ぎないのであった。
◆
──所変わって、ヒノカ首都・鬼灯区。
鬼灯区は昔から土地神に対する信仰が深い町で、
多くの寺院や土産物店で賑わう。海外からの来客も絶えないのだ。
しかし今朝のは、不届きな怪人によってその町は荒されていた。
町の商店街からは、人々の悲鳴と、怪人の名乗りが聞こえて来る。
商店街では、赤い肌をした鬼の如き怪人が、
ハンマーを振り回して暴れていた。序でに、黒の海パンが目を惹く。
「俺様の名前はタンスクラッシャー!
隣の奴らが勝手に置いたタンスで足の小指を1000回ぶつけた怒りで、
最近怪人になった者だ!どいつもこいつも収納を使いやがって……
気に入らん!!まずはここらの陳列棚を全部壊してやる!!」
(ドガァン!!バリィィン!!)
タンスクラッシャーはそう言うと、ハンマーを振り回し、
土産物店のショーウィンドウを破壊し始めた。
周囲の観光客は、あまりの狂気に堪らず逃げ出していく。
その様子を見て、馬鹿笑いするタンスクラッシャー。
その時、鬼灯区を見回っていた金色のスーツの男が、
曲がり角の死角から飛び出して来たのであった。
ハリセンを持った金ずくめの男は、威勢よく怪人に叫ぶ。
「おい怪人、人様の店を荒してるんじゃねぇよぉ!
ワイの魂の籠ったハリセン、受けてみぃ!!」
それを見て、一人の観光客が声を挙げた。
「見ろ、新鋭ヒーローの『つっこみ屋』だ!これで勝てる……!」
一方のタンスクラッシャーは、ハリセンマンの奇襲に気付くも、
時すでに遅し。つっこみ屋のハリセンが、怪人の頭部を打ち据える。
「……決まった!」と確信したつっこみ屋。
しかし、タンスクラッシャーはむくりと起き上がり、
怒り笑いの表情でつっこみ屋の方を見る。
「……ほう、今の一撃は中々じゃないか。
ただ、俺は既に怪人手術も受けているんでね……
生半可な一撃では倒れないんだよ。さて、お返しをしないとな……」
何とか致命傷を避けたタンスクラッシャー。
つっこみ屋が絶体絶命となった……と思われたその時、
遠くから威勢の良い声がした。
「そこまでだ!審美眼のカケラの無い怪人め!」
タンスクラッシャーが声の聞こえてきた方を見ると、
そこには一人のマッチョな男が立っていた。
その男は、黒い立派なリーゼントを持っており、
着ているタンクトップには『力こそ正義』と描かれていた。
そして、腕が特にムキムキであった。
「初めまして、だな。俺の名前は宇出太志!
ヘラクレスカンパニー・Bランク筆頭……にも等しいヒーローよ!
生憎、困っているヒーローは見過せないタチなんでね。
この俺様が、お前さんに引導を渡してやろう。」
宇出の名乗りを聞いたタンスクラッシャーであったが、
相も変わらずハンマーを掲げて襲い掛かって来た。
「うるせぇ!お前も序でにスクラップにしてやるぜぇぇ!!」
対する宇出も、大きく息を吸いながら、一直線に怪人へと立ち向かう。
タンスクラッシャーが宇出を視界に捉え、ハンマーを振り下ろす!
しかし宇出はそれを左へと躱したかと思うと、
直ぐにすれ違った怪人の方を向き、右手でのパンチの構えを取る。
「……脳筋め、見るが良い。これが俺の鍛えた大技だ……!」
タンスクラッシャーも、ハンマーを再度掲げて立ち向かうが、
宇出はそれを見据えて、渾身のアッパーを放つ!
「必殺……『フトショット』!!」
(……ドゴォォン!!)
タンスクラッシャーがハンマーを振り下ろすよりも早く、
鳩尾に宇出の拳が刺さる。
タンスクラッシャーはハンマー諸共、前方へと吹き飛び気絶した。
そんな彼を見つめて、宇出は自慢げに言う。
「俺様の『フトショット』は、常人の倍以上の深呼吸で、
全身に酸素を送り、最高のパンチを放つ俺だけの技なのだ!」
タンスクラッシャーが倒された事により、
逃げ出していた人々が、宇出の周りへと駆け付ける。
「宇出様カッコいいわ~!!」
「サイン頂戴~!!」
そんな民衆の黄色い声に対し、宇出は一礼しながら手を振り返す。
そして、目の前で唖然としていたつっこみ屋も、
程なくして我に返り、宇出に駆け寄っていった。
「ありがとうやで……宇出先輩!
あんさんがいなければ、今頃わては金槌の餌食でしたわ!」
宇出はつっこみ屋の礼を聞き、優しい笑顔で返す。
「うんうん、気にしないでくれたまえ。
後輩を守るのも、先輩の務めだからね。
……さて、俺は後輩との話があるからね。
君たちは気を付けて帰りたまえ。」
宇出は周囲のギャラリーに挨拶をし、つっこみ屋と共に裏道へと行った。
◆
鬼灯区の商店街にある、一目のつかない裏道に来た二人。
つっこみ屋は二人きりに慣れた事で、改めてお礼を言おうとする。
「宇出先輩……ほんまに助かりましたわぁ!さっきは碌に礼も言え……」
そこで宇出の口から出てきたのは、信じがたい言葉であった。
「お礼なんか良いさ。ただ、『先立つ物』さえくれればなぁ。
俺とお前は、『先輩後輩』なんだからよぉ?」
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