怒れ、鳴神禰音
カリラ──それは、進が過去の面接で紅唐区に来た際に、
偶然戦いとなり倒した蚊とゴリラの怪人であった。
進は、マグロナイフがそれを知っていた事に驚くも、
直ぐに調子を取り戻し、目の前の彼に向けて言い放つ。
「成る程……簡単に言えば貴方は、
前に私が倒した怪人の仲間という事ですね。
それで──どうして私を狙う必要があるのです?」
マグロナイフは進の問い掛けに、笑いながら答えた。
「ハッハ、どうせお前達は刺身になるんだ。
刺身になる奴に教えてやる事は一つもない……
……と言いたいところだが、一つだけ教えてやろう。
俺達のボスは、お前達ヒーローのデータを手に入れる事で、
世界を支配するに相応しい『究極生物』を作るのが目的だ。」
マグロナイフの主張は、あまりにもスケールが大きいものであった。
しかし同時に、目の前の怪人の存在が、
「究極生物が出来ても可笑しくはない」という説得力を持たせていた。
それでも禰音は怯まずに、マグロナイフに言い返す。
「……ふん、結局どれだけ綺麗に取り繕っても、
アンタ達のやりたい事は、所詮『ただ世界が欲しい』とかいう、
悪ガキの考えそうな我儘じゃないのかしら?
まあ良いわ。取り敢えず、私が骨の髄まで道徳を叩き込んであげる。」
禰音は腰に下げたポケットからナイフを取り出すと同時に、
両腕から稲光を迸らせる。そして、その顔は凛とした表情であった。
「私はヘラクレスカンパニー・Aランクヒーロー……鳴神禰音よ。
ヘラクレスカンパニー社則第13条に基づき、貴方をここで排除するわ。」
その立ち姿は、神話の戦士を思い起こさせる勇壮なものであった。
しかしマグロナイフの方も、不敵な笑みを浮かべていた。
「フン……馬鹿どもが!この俺が、何の準備もしていないと思ったか!
おいお前ら、調子乗りのヘラカンの馬鹿どもを刺身にするぞ!」
マグロナイフが指をパチンと鳴らすと、物陰から二つの影が現れた。
そして、すぐさまマグロナイフの隣へと駆け付ける。
一人はテナガエビの如き姿をした女性型の怪人、
もう一人はテッポウウオの頭部を持った男性型の怪人であった。
「トトスナイパー、お前はAランクの電撃女を……
……エビパンチャー、お前はサイボーグの奴を狙え!
佐藤進……お前はこの俺が、直々に相手をしてやる!
『究極生物』による、無駄なき社会の実現の第一歩……
……お前達ヒーローはその礎として、精々役に立つが良い!」
マグロナイフの号令と共に、三体の怪人が一斉に動き出した。
まずはテッポウウオの怪人──トトスナイパーが禰音と相対する。
禰音は左手の指先を突き付けて、短く詠唱する。
「サンダーボルト」
(バチバチィッ……ピシャアッ!!)
彼女がそう言うと、指先が光り、
トトスナイパーに向けて電撃を発射された。
しかし、相手の出方を警戒していたトトスナイパーは、
左に跳んで躱し、振り向くと同時に水鉄砲を口から出す。
禰音の方も地面を転がり、水鉄砲を躱す。
禰音は痛手を負わなかったが、水鉄砲の当たった地面は、
凄まじい音と共に、ブロックが砕けていた。
「ちょっと、街を壊すなんてマナーが成ってないわ!
アンタは一体どんな教育を受けてきたの!?絶対賠償させるから!!」
禰音は街を破壊するトトスナイパーに怒りつつも、
次々と放たれる水鉄砲をステップで回避する。
こうして、禰音と怪人は互いに遠距離戦を繰り広げる中、
禰音はつぶさに怪人の動きを観察していた。
(……このトトスナイパーとかいう怪人、
水鉄砲を放つ度に、エラと喉の部分が動いている……
恐らく、必要な空気と水分を取り込んでいるのかも知れないわ。)
一方のトトスナイパーは、水鉄砲を避け続ける禰音を笑いながら、
彼女を確実に始末しようと、体内の水を口の中へと充填し始める。
「ギョハハ……ちょこまかと小賢しい電撃女だ!
だが、その頑張りもここで終わりよ。たたきになれ……『水大砲』!」
そしてトトスナイパーが一呼吸した次の瞬間、
彼の口からは巨大な水の塊が発射された。
その塊は禰音の下へと向かい、着弾する。
ザバアァンという轟音と共に、辺り一帯の床が爆散した。
着弾した跡からは、水分と共に土煙が巻き起こる。
その様子を見て、トトスナイパーは勝ち誇った様子であった。
「ギョーハッハッハ……!何が『マナーを守れ』だ!
所詮は人間……このトトスナイパー様に掛かれば、
一瞬でバラバラのたたきになるだけよ……!」
しかし次の瞬間、トトスナイパーの左腕に痛みが走る。
「……ぐぅっ!?」
トトスナイパーが痛む左腕を見ると、
何と禰音が腕を掴みながら、ナイフを突き立てているではないか。
「……残念だったわね、トトスナイパー。私はこの通り無傷よ?」
「電撃女……貴様、何故生きていやがる!!?」
静かに笑う禰音に対し、トトスナイパーが問い返す。
そして禰音は、得意げに解説を始めた。
「私は、貴方の動きを秘かに観察させて貰っていたわ。
水を発射している以上、水鉄砲のリソースは有限だから、
必ず何らかの手段で水を溜める隙が生まれる……
……だから、私は追い詰められている様に見せかけて、
貴方の大技とやらを引き出させたの。
その後隙に、私が電気で筋肉を強化させて、
貴方の後ろへと気付かれない様に回り込んだ、という訳。」
「ぐぬぬ……ちくしょう……ちくしょおおおおおう!!」
自分の最高の技が通じなかった屈辱に、トトスナイパーは悔しがる。
加えて、彼は遠距離戦の専門であった事から、
戦いの痛みに慣れていなかったのだ。
そんなトトスナイパーをよそに、禰音は尋問を始めた。
「私の能力はもうご存じよね?そう……電撃を操る能力よ。
今このまま電撃を流し込めば、貴方は魚の怪人だから、
こんがりと焼き魚になってしまうでしょう?
でも……私も鬼じゃないから、『取引』をしない?
もしも貴方の雇い主を言えば、助けるかどうか考えてあげる。」
禰音がそう言うと、トトスナイパーは直ぐに手の平を返し、
必死に組織の情報を放し始めた。
「俺達は……『出酢泥井』という組織で造られた怪人なんです……!
ボスの名前は恐山強介、そしてお付きの科学者が倉次貝蔵と言います!
彼らは『現代人は暮らしで無駄な事をしている』という理由から、
私達を利用して、怪人による世界征服を企んでおります……。」
(出酢泥井……噂では聞いた事があるけど、情報は少なかったわ。
これはまた、面倒な問題になりそうね……。)
禰音はトトスナイパーの口から「出酢泥井」という名前を聞き、
ナイフをガッチリと持ちつつも、更なる戦いへの懸念を強めた。
「はい……以上です!私の知っている事は全部話しました!
どうか……この私を助けて下さいませんか!?」
トトスナイパーは情報を話し終え、必死に禰音へと命乞いをする。
しかし──
「……何を勘違いしているのかしら?
私は『助けるかどうか考える』と言っただけで、
『助けてあげる』とは一言も言っていないわよ?
私たちの大切な街や住民を危険に晒しておいて、
許される訳がないじゃない。さあ……覚悟なさい。」
禰音はトトスナイパーの命乞いを一蹴し、腕から電撃を放つ。
電撃はナイフを通して、トトスナイパーの体内へと流れ込んでいく!
(バチバチバチィッ……!!)
「ギョボボボボボ……!!?」
禰音の放つ高出力の電撃を浴び、身悶えするトトスナイパー。
そして2分後には、彼は物言わぬ黒焦げの残骸となった。
戦いを終えて、禰音が直ぐに進と虎次の身を案ずる。
(さて……あの二人は大丈夫かしら……。)
禰音の鮮烈なる一撃……トトスナイパー、敗れたり!
さて、残りの怪人はエビパンチャーとマグロナイフの2体です!!
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