表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

交際3日目

 朝、身支度を整え、朝食を食べ終わると、昨日の夜、見つけた検証動画のURLを古野見有紗このみありさに送った。

『運命の赤い糸はただの赤い糸だった』というタイトルの動画。

 別に新しい情報じゃないが、『運命の赤い糸』が、いかに根拠のない説であるかを分かりやすく説明している。


 運命の相手ではなく遺伝子の一部に同じ因子を持っている相手を示していたんじゃないか、という説が有力だそうだ。同じ因子といっても血のつながりがあるというわけではないそうだ。

 まあ、その説も論拠の薄い仮説だが、それでも『運命の赤い糸』に比べればまだしも科学的に思える。仮説では、その因子は性交渉で同じものに変わる可能性があり、だからこそ夫婦や恋人で赤い糸がつながっているという事象に結びついたのでは、ということらしい。

 要するに『運命の赤い糸』説は因果を逆転してとらえていたわけだな。

『赤い糸』があるから結ばれたのではなく、結ばれたから『赤い糸』がつながった、というわけだ。


 古野見有紗からのリアクションは早かった。

 ショートメッセージが入る。



ーーーーーーーーーーーー

おはよう

今日の予定は?

ーーーーーーーーーーーー



 まったく。

 人がせっかく送った動画を観ろよ。 


 俺は実に綿密なスケジュールを古野見有紗に返信した。

 昨夜のうちに今日の予定はバッチリ立ててあるからな。

 大まかにいえば、午前中は1週間の授業内容の復習に当て、午後は数学をたしなむ時間なのだが。

 その午後の内容が自分でも惚れ惚れするほどに無駄がない。

 くくっ、最高の土曜日になることだろう。



ーーーーーーーーーーーー

午後は空いてるんだ?

じゃあ会おうよ

ーーーーーーーーーーーー



 どうしてそうなる?

 ちゃんと30分単位でぎっしりと予定が入っているだろ。

 午前中はともかく午後は空いている時間などないぞ。

  

 午後の予定をより詳しく送ろうとメッセージを作成していると、またしても古野見有紗が送ってきた。



ーーーーーーーーーーーー

1時に駅前ね

遅れたら殴るから

ーーーーーーーーーーーー



 なんということだ。決定事項になってしまった。

 とにかく、拒否だ。



ーーーーーーーーーーーー

待つ

ーーーーーーーーーーーー



 しまった。待て、と入れようとして間違えた。

 しかも送信してしまった。承諾したように見えるじゃないか。



ーーーーーーーーーーーー

うん

忘れないでね

ーーーーーーーーーーーー



 こうなったら電話だ。すぐに古野見有紗にかける。


「なに? 声が聴きたくなった?」

 古野見有紗が明るい声音こわねで言った。


「いや違う」


「ちょっと。嘘でも、そうだって答えなさいよ。彼氏でしょ」


「そうなのか?」


 彼氏というのは、中々、忖度そんたくしなくてはならないことが多いようだな。


「強引だった?」

 古野見有紗が声のトーンを落とす。


「なにがだ?」


「午後のこと。予定いっぱい書いてあったじゃん」

 口調に不安がにじみ出ている。

「……嫌なら」


「いや、問題ない」

 答えた直後、愕然がくぜんとした。

 なにを言っているんだ、俺は。


「そう? じゃあ、1時ね。遅刻とかやめてよ」


「あ、ああ」


 驚愕からまだ立ち直れない。

 どうした、俺。


「ねっ、そういえば、イギリス、どうだった?」


「あ、まあ、それなりに、だ」


「なにそれ。あっちで友達できた?」


「まあな。日本人が珍しかったんだろう、最初はチヤホヤされて気分が良かったな」


「最初だけ?」


「そんなものだろ。だが、おかげで友人を作るきっかけにはなった。中でも俺と趣味を同じくする同志とも出会えた。今でもメールで連絡を取り合っている」


「へえ。良かったじゃん。あっ、でも、あんたと同じ趣味って、数学オタク? うえっ」


「失礼な奴だな。数学は真理だけでなく至高の美をも持っているんだぞ」


「はっ?」


「バートランド・ラッセルの言葉だ」


「知らないし」


「イギリスの偉大な数学者だ。まあ、論理学者もあり、哲学者でもあるわけだが。中でも彼の最大の功績は『プリンキピア・マテマティカ(数学原理)』という……」


「いいから、そういうの。それより、あっちの話もっとしてよ」


「いまさら、帰国子女気分を味わうことになるとはな」


 日本に帰ってきたのは中学1年の秋だ。当初は帰国子女だともてはやされたものだが、すぐに飽きられ。そしてボッチになった。

 うん。どうやら俺のこの性格が鼻についたらしい。


 ともかく、俺はここぞとばかりにイギリスでの体験を話してやった。

 合間合間に数学の楽しさも織り交ぜてな。


 結局、30分以上話してしまった。これで午後も潰れるとか悪夢でしかない。なぜ、俺は断らなかったんだ。自分の発言が悔やまれてならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ