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異世界と混ざった現実世界でデスゲームとスキルライフを満喫する!~原生林に飲み込まれたキャンプ場からお送りします~  作者: 黄玉八重


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EP007[人類の叡智を避難させよう]

「明日はお昼から雨が降るかもしれないわね」

 今日の朝食は三枝家の瓦礫から妙子が回収して来た食パンが提供された。残念ながらトースターは無いのでサンドイッチとなって杉浦たちの朝食となり腹の中に消えて行った。腹が満たされ食後ののんびりとした空気が流れる時間に妙子の母である千代が空を見上げ雲の動きを追っているなぁと眺めていたら、ふと千代が呟いた言葉に杉浦は思わず妙子に振り返る。

「お妙さん。どのぐらいの信憑性ですか?」

「流石に時間までは正確じゃないけど雨が降るって部分は概ね正しいと思うよ。明日は雨だね」

 幸い杉浦と三枝家のテントは雨が降っても問題が無いタイプだ。そこはいい。杉浦は早期に対応しなければならない事を思い浮かべながら駒原に声を掛けた。


「管理人さん。倉に物を置くスペースってありますか?」

 杉浦の問い掛けに駒原は少し脳内で記憶にある倉を見回してから回答する。

「どのくらいかにもよるけど、大丈夫だよ。移動を手伝ってもらえたらもっと置けるよ」

「量は……際限ないと思いますけど、時間的問題もあるし厳選すればなんとか絞れると思います」

 続いて、駒原は当然の疑問を投げ掛けた。

「杉浦君は何を置きたいんだい?」

「図書館の本です。スキルを覚えれば要領や知識はインストールされますけど、アイデアとかはやっぱり本から得る必要はあると思うので雨が降る前に回収しておきたいんです」

 その説明に駒原だけではなく妙子も千代も納得の表情を浮かべた。


「確かに新しいスキル獲得の為にも実践して成功させる必要があるもんね。下地も無いイメージだけだと時間ばかり掛かるから本はあって損はないかも」

「薬の本とかあれば私がスキルを取得するからお願いね」

 妙子も千代も新スキル取得に前向きな発言をする。こうして、杉浦と妙子の本日の業務は図書館とキャンプ場を往復する事に決まった。


 * * * * *

 食後の後に身体を大きく変化させたストレルカに乗った杉浦と妙子は街の図書館へとやって来た。

 ここに来るまでに生存者と遭遇しなかったのは、全員亡くなったか避難所である公民館に移動したからだろう。もしも、公民館が倒壊していたとしても駒原の倉の様に地下室に非常食は確保している事は想像に難くない為、しばらくは食料問題が勃発することは無いと杉浦は考えつつも時間が有れば覗きに行こうかとも思っていた。


 乗り込んだ図書館はほぼ倒壊しており人が避難する場所としては利用出来そうになかった。

 このまま明日になれば雨で貴重な叡智の多くが失われかねないので非常に火事場泥棒感はあるが、心を鬼にして杉浦と妙子は瓦礫を登り始めた。目指すはニッチでスペシャルでユニークな本全てだ。

 中国拳法の本でも良いし、建築様式の歴史本でも良い。千代が希望した薬学の本も発掘したいところだ。


 大きな岩や瓦礫の一部は上手く自在倉を用いる事で一旦転がし入れては邪魔にならない場所で捨てるを繰り返し除去していく。その間に妙子は隙間から本を引っこ抜いてはジャンルの確認をしてある程度の位置を計算してもらう事で必要な本の回収を楽にしようと画策した。結果的に歴史、薬学、産業を探し出す事に成功した。

「まぁある程度の位置ってだけだから色々と混ざっちゃってるけどね……」

「一冊一冊目を通す時間もないですし片っ端から自在倉に入れて行きましょう。互いに限界まで詰めたら管理人さんの倉に移してまた来ればいいので。植物図鑑があれば絶対に回収お願いします」

 妙子が疑問を浮かべた表情で見て来る。


「調味料とかいずれ尽きるでしょ? 料理のさしすせその内、砂糖、酢、醤油は植物由来だし、胡椒とか一味とかも植物なんだから今後の安定した美味しい食事をしたいなら早めに千代さんに植物図鑑は渡しておきたい」

「大地君、サバイバル生活でもしたことあるの? まだ五日目だよ。普通はそんな先まで考えられないって……」

 妙子は袋口と容量にバランス良くSPを振り分けているので袋口だけに極振りしている杉浦に比べて多く入る。午前中のうちは瓦礫撤去の時間もあったので1回の回収に留めてキャンプ場で休憩と昼食を挟み、午後からは三度ほど往復する事にした。


 その最後の往復時に三人の青年と道中に出会った。

 ストレルカには鞍を付けられていないので軽く駆けるだけで杉浦と妙子の腰が浮き落犬しかねない為、早歩き程度の速度で道中移動してもらっていたのだが急にストレルカが止まり何者かの接近を教えてくれた。

「お妙さん、降りましょう。生存者が三人近づいて来てるみたいです」

「はいはい。このままじゃ勘違いされかねないもんね」

 チャーチグリムのストレルカは魔物だ。しかも通常の犬サイズではなく今は人を二人も乗せられるほどに巨大化している事も手伝って相手が善良な生存者でも驚き警戒させてしまう。まだ世界が破壊されて五日目だ。略奪を目当てにする無法者が幅を利かせているとは考えづらい。

 杉浦の意図を察した妙子と共に地面に降り立つとストレルカも中型サイズに身体を縮めてくれた。出迎える準備を整えてから少し待つと正面の三叉路の曲がり角から三人の青年が現れた。杉浦たちは青年たちの登場を知っていたので驚きはない、が。青年たちの方は飛び上がらんばかりの勢いで身体を硬直させてまじまじとこちらを見定め始めた。


「こんにちわ。避難所の方達ですか?」

 交渉を有利にする為、杉浦はあえて青年たちの気持ちが整う前に声を掛けた。当然青年たちはまだ状況が飲み込めておらず、杉浦、妙子、ストレルカの顔を順々に見つめるだけだ。

「聞こえていますよね? それとも答えられませんか?」

 二度目の誰何でやっと三人のうちの一人が慌てた様子で答える。

「あ、お、俺達は避難所の自警団だ。時折魔物が徘徊している事があるからこうして見回りをしている。お前達こそ見ない顔だがどこから来たんだ」

 彼らの手には武器が握られている。返事をした青年は剣道経験者なのか竹刀を持っているが残り二人はバット装備だ。

 それにしても自警団とは……。警察も自衛隊も機能していない事は間違いなさそうだ。


「俺達は少数のグループで共同生活している。敵対するつもりが無いなら情報共有をしたい」

 明らかに年上のリーダー格を相手に杉浦は敬語を使わなかった。味方かどうかも分からないのだ。警戒している相手に敬語を使う馬鹿は居ない。そんな杉浦の言動にバット組は不機嫌な表情をするのに対し竹刀の男は気にした素振りを見せずに答えた。

「わかった。お互い信用し切れない状況だろうから、こちらは俺が代表して対応する。そちらも一人前に出て来てくれ。もちろん竹刀はここに置いて行く」

 杉浦は竹刀男の話に乗る事にした。目配せで妙子に残る事、ストレルカには後ろの二人を警戒する様に伝えると前進を始める。同様に竹刀男も前進してきて互いの距離が2m程になったところで合図も無く足を止めた。口を先に開いたのは年上の竹刀男。


「俺は宮内という。営業マンをしていた社会人だ。後ろの二人は大学の時の後輩で先ほども言った通り今は自警団をしている」

「杉浦です。大学1年で後ろの女性は同級生。犬はチャーチグリムという魔物で仲間になりました。今は共同生活向上の為に本の回収をしています」

「杉浦君、と呼ばせて貰って良いか?」

「俺の方が年下ですのでどうぞ。こっちは宮内さんと呼ばせていただきます」

 とりあえず名乗りは終わり互いの立場も明確になった。さっそく質問を口にしようとした宮内だったが、人数を聞いたところで今は答えられないだろうと質問を撤回し改めて別の質問をする事にした。


「本を回収と言っていたね。何故だい? 食料とか他にも回収すべきものがあるんじゃないか?」

 その質問に杉浦は素直に答えた。

「仲間の一人が明日の昼過ぎから雨が降るかもしれないと言い始めたので図書館の本の回収をしているんです」

「なるほど……。雨に濡れて本がダメになる事を懸念しての行動か。その本はこちらにも共有してもらえるんだろうか?」

 この質問は流石に仲間の意見を聞きたい所だったが脳内の駒原と千代は二つ返事でOKを出すし、脳内妙子も「大地君に任せるわ」と丸投げして来たのでここも素直に答える事にした。


「共有は出来るでしょうが、本自体を渡すつもりはありません。必要な知識があるならば我々の下へ少数で来ることが条件です」

「わかった、検討する。ちなみに全部は回収出来ないだろう? どんなジャンルを回収しているんだ?」

 至極真っ当な質問だ。ただ、植物と言えば千代の様な農業系スキルを疑われ、薬学と言えば薬師を疑われ、歴史と言えばこんな時に何故歴史?と馬鹿にされる。ならば馬鹿正直に答えるよりははぐらかそう。

「瓦礫に埋もれている本の回収ですから中身は二の次にしています。どうせ十数冊程度しか回収出来ないでしょうから」

 納得はしていないが筋は通っていると同じように宮内は考え悩む。彼からしても杉浦たちが暴徒なのかどうか判断をしている最中なのだ。次は杉浦の質問タイムに代わった。


「そちらは公民館の避難所ですよね? 魔物が街中に出るんですか?」

「あぁ。大きいネズミのウェアラットとスライムだな」

 杉浦の必死のポーカーフェイスに宮内が気付いた様子はない。この人たちと別れた後にでもスライムを確保してキャンプ場に連れ帰って駒原にテイムさせなきゃ! その前にど(・)こ(・)ま(・)で(・)溶(・)か(・)す(・)の(・)か(・)と問い質す。

「ドロップ品は分かりますか? あと脅威度も教えてもらえると助かります」

「……先にこちらが折れるべきだな。ウェアラットは一人でも倒せるし倒すとネズミ肉を落とす。ただ、2~3匹で行動する事が多いから1匹だけと油断した奴が怪我を負う事もあった。スライムは想定通りと言うのか包んだ対象をゆっくりと消化するタイプだから危険は少ない。打撃は効かず小さい切り傷なら自分で修復してしまうから半ばまで切断してしまえば絶命する。ドロップ品はスライムゼリーという味のしないゼリーだ」

 スライムは合格だろう。1匹で十分だと杉浦の思惑は順調に進んでいた。さらに鑑定系スキル持ちも居る事が判明した以上あまり仲良くすべきではないかもしれない。自在倉にしろ豊穣作業にしろ大勢で生活している彼らにとっては喉から手が出るほど欲しいスキルだろう。そして千代の豊穣作業は取得方法がわからない限り彼らのグループに存在を知られると千代誘拐の危険性が孕んで来る。


「こちらの生存者は100人にも満たない。他の避難所もおおよそ同程度しか生き残っていないだろうな……。だから非常食でなんとか食い繋いでいる状況だ。杉浦君たちは大丈夫なのか?」

 100人と聞いた時点で杉浦は関わりたくないと思えた。その内の何人が働かずにヒステリックを起こしているかと考えるだけで嫌な気持ちになって来る。それに寝所も屋根があるのか? 非常食や水もいつまで持つのか。

「俺達は10人に満たないので大丈夫です。持ち寄った食料で今は食い繋いでいますが今後の食糧事情改善に向けて動き出しているのでなんとかなると算段が付いています」

 本当は4人のところを10人未満と言ったのは、もしも訪問があったとしても暴れればタコ殴りにされるという危機感を持たせる為だ。彼らグループの中でキャンプ場まで行こうという気概がある奴は少数だろうと判断した結果の10人未満だった。


「……俺のスキルは剣術だ。杉浦君は何を持っている?」

 宮内の突然の暴露に杉浦はパニックを起こしかける。完全なる不意打ちで生き残る為に必須で開示には慎重さを求められるスキルを口にするとは正気の沙汰じゃない。しかし、宮内は胸襟を開くべきと考えた結果の開示だった。宮内の瞳を見た杉浦は彼も極度の緊張状態である事を理解し、それほどの覚悟を持って口にしたのだともわかった。その覚悟に免じて回答と一緒に取得条件の一部をわざと溢す。

「俺はナイフで魔物を倒したので【短刀術】を取得しましたよ。宮内さんの剣術スキルは初回ボーナスですか?」

「何? 初回ボーナスとはなんだ?」

 疑問を呈して来た宮内に杉浦は初回ボーナスについて説明した。

 どうやら宮内は駒原と同じで初回ボーナスを取得する前に魔物を討伐してしまった事でその恩恵に預かれなかったらしい。避難民の中に何もスキルを取得していない者がいるならば今後の共同生活で必要になりそうなスキルを初回ボーナスで取得する事を提案すると宮内はその話に飛びついて来た。


「いやぁ、いい話を聞いた!これは本当に助かる。とは言っても既に数日経っているからな、何人未取得者がいるかわからないが調べてみるよ。今後も俺達はこの辺りを見回っているから、もし気が向けば声を掛けてくれ。都度情報交換がしたい」

「こちらはどうしても貴方方に比べると少数です。なので自分達を守る為にも一線の超える情報は伝える気はありません。ただ、互いに生き残る為の情報共有は率先して行いたいと思います。出来れば今後も宮内さんを窓口に希望します」

 杉浦の言い分に宮内は納得するように頷いた。

「こちらも一枚岩じゃない。下手に杉浦君達の情報は広めないと誓おう。また会えた時にスキルによって生活が改善していれば物々交換も検討してほしい」

「わかりました。仲間達に伝えます」

 時刻は黄昏時だ。そろそろ帰りたいと杉浦たちも考えていたので会話を終わらせる方向に舵を切ってくれた宮内に感謝し便乗する。


「それじゃあ今日はここで失礼します。暗くなる前に帰らないと真っ暗になっちゃうので」

「それはそうだな。こちらもそろそろ撤収時間だ。また会えたらよろしく頼む。じゃあまた」

 別れの言葉を交わし杉浦はわざと隙だらけの背中を見せながら妙子とストレルカの下へと戻っていく。その間はストレルカが睨みを利かせてくれるので杉浦は必要以上に恐れを抱くことなく無事に戻って来た。

「見てるこっちがドキドキする緊張感だったよ」

「わん」

 短い時間だったけれど慣れない事をした杉浦は疲れ切っていた。妙子の心配そうな言葉を聞きつつもアニマルセラピーを身体と精神が求めたのは必然かもしれない。ストレルカを抱き締め1分ほどモフモフを堪能すると削れていた精神力も幾分か回復したので立ち上がり妙子に顔を向ける。


「疲れたから帰りたいけど最後に本は持ち帰りましょう。念の為に歩いて図書館まで行って自在倉ではなく鞄に詰めるだけ詰めましょう。もちろんしばらくはストレルカもそのままで居てくれ」

 少なくともキャンプ場に戻るまでは警戒を解くつもりがない杉浦の言葉に妙子は呆れつつも了承する。ストレルカも不満そうではあるがひと鳴きして文句を飲み込んでくれ、歩き始めた杉浦の隣に駆け寄る妙子と足に擦り寄りながら歩くストレルカの影が夕日に照らされ長く伸びていた。

読み終わり『続きが気になる』『面白かった』など思われましたらぜひ、

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