EP005[災害世界、初日の終わり]
トントントントン。ジュージュー。シャカシャカシャカ。
キャンプ場で使用する調理場は所謂、焚火台の事を指す。家庭で利用するコンロや持ち運びできるカセットコンロと違って火力調整は自分達で炭を移動させたり配置する事で行う必要があった。
「杉浦君。スープをテーブルにおいてもらえる?」
完成したばかりのスープが波打つ鍋を三枝千代に手渡された杉浦大地は平行な場所に設置したテーブルに静かに移動させる。流石に水道が止まってしまっている状況で風呂には入れないので、千代の娘である三枝妙子は現在、三枝家用に建てたテントの中で自身の身体をタオルで水拭きしている。
水に関しては水道は止まっているものの、以前キャンプ場を作る際にオーナーでもある駒原昭吉郎が塩ビパイプを用いて湧き水をキャンプ場にも引いてくれていたおかげで飲食用と身体を清潔に保つ為の水に困ることは無かった。ただ、やはり地震の影響で水源に何かあったのか、それとも塩ビパイプに問題が発生したのかは不明だが勢いは死んでいて、ジョボジョボと勢い無い水を鍋に溜めるのも時間が掛かり苦労する点だけ不満なので今後調査をしなければならない。
もちろん鑑定眼を用いて水質の安全性は確認している。
「杉浦君。妙子と駒原さんも呼んできて貰える?」
「わかりました」
今日のメニューは野菜スープと兎肉野菜炒めだ。ご飯も土鍋で炊いたけど、直火でもちゃんと炊くことが出来る千代の料理技術は本物だと杉浦は拍手で称賛した。
食材の収集が完了した後に千代の提案で駒原も夕飯に誘ったらどうかと提案があったので、これに杉浦と妙子は賛成を表明するとさっそく駒原の家に向かって誘いを伝えた所「喜んでご相伴に預からせていただくよ。」と、返事をもらったのであちらもそろそろかと待っているかもしれないと考えた杉浦は急いでキャンプ場から道路に出るとガタガタで歩きづらいアスファルトを抜けて駒原宅の倉へ向かい声を掛けた。
「管理人さん。そろそろご飯出来るみたいです」
「は~い。すぐに向かうよ。先に戻っていて大丈夫だよ」
準備は出来ていなかったらしい。まぁ遅くなることは無いだろうと考えた杉浦は駒原の言葉に従い先に戻る事にした。
踵を返したその時。駒原が痛風であった事を思い出した杉浦は再び踵を返して駒原に確認を取る。
「あっ!ウサギ肉が入ってるんですけど抜いた方がいいですか?」
「少しなら食べられるよ。気持ち多めに抜いてもらえると助かるね」
「了解です。先に戻っていますね~!」
杉浦はキャンプ場に戻るなり三枝家のテントに近づいていく。既に暗くなっているのでテントの中のランタンが妙子の影を映し出す様子に変な考えが浮かびそうになった杉浦は必死に邪念を振り払ってテントに呼び掛けた。
「お妙さん!ご飯出来たそうですよ!」
「は~い。ごっ飯ご飯~♪おっ腹が空いた~♪」
残念ながらすでに身体を清め終わっていた妙子はすぐにテントから姿を現し、陽気な歌を歌いながら杉浦の前に立った。
身体だけではなく髪も洗ったのか水気を帯びていたので杉浦はどうやって洗ったのかと質問すると。
「ちゃんと洗えたわけじゃないけど濡れタオルとシャンプーで何とか。リンスとかコンディショナーまでは流石に無理だって諦めたわ。ねぇ、大地君。今後水回りってどうにか出来る予定というか考えってある感じ?」
期待した妙子の視線に応えたいのはやまやまだが、大工技能もDIY技能も持っていない杉浦にはイメージは浮かんでも実際に作れるとは思えなかった。水回りといっても希望はシャワーやお風呂を指しての事だろう。どちらにしろTV番組で作っていた様な物でも素人の杉浦が作製する為にはスキルを生やすしか無いだろう。
「誰かがスキルを取得するかリアル技能を持つ人に協力してもらうか、だね。正直難しいよ」
「だよね~。文明社会が壊されるとひとつひとつ不満を見つけちゃって嫌になるわ……」
スキルは希望通りのモノを取得出来るかも怪しいうえ、世界が壊れてしまった状況で信用できる人材に出会える確率も怪しいものだ。今日は初日なのでまだ混乱はしつつも常識的な行動が出来るかもしれないけれど、日数が過ぎて行けば人それぞれ荒んだ行動を取り始めるかもしれないので仲間を増やすなら今のうち、とも杉浦は考えていた。
妙子を連れて千代の元へ戻り、肉少なめの事情を説明すると駒原のお皿に盛っていた肉野菜炒めの肉が千代の手によって杉浦の皿に移っていく。そして、駒原の事情を知らない妙子は母親が杉浦にサービスしている姿を唖然とした顔で目撃したあとに杉浦の皿から肉を少し強奪していくのであった。
「お妙さん……」
「あによ」
食い意地の張る乙女に杉浦が声を掛けるとアンタだけ狡いとばかりに睨みを利かせ黙らされる。
やがて、駒原もキャンプ場に姿を現したので混同世界初日の夕飯が幕を上げた。杉浦の足元にはストレルカが伏せて身を寄せており、その脇で駒原がテイムしたラージラビットが用意されたサラダをモリモリ食べている。人間たちの話題は専ら今後の生活についてが主題となった。
「とりあえず自己紹介というかスキル以外に出来る事とか勉強した知識とか共有しておきたいと思うんですけど……」
「良いんじゃない? じゃあ言い出しっぺの大地君からどうぞ」
杉浦の提案に妙子が合いの手を返し互いの手札を見せ合う運びになる。最初は杉浦だ。
「えっと、杉浦大地です。趣味はアニメ、ゲーム、小説が大好きでキャンプを少々嗜みます。スキルに関しては【視覚拡張】と【使い魔契約】を取得しています。使い魔のチャーチグリム、名前はストレルカ。何が出来るのかはこれから調べて行く予定です。特筆して何か技能を持っているわけではありませんがスキルの相談や力仕事は任せてください」
杉浦の自己紹介が終わると三人が拍手をしてくれたので恐縮してペコペコしてしまう。
続いて妙子が立ち上がった。
「じゃあ次は私ね。三枝千代の娘、三枝妙子です。趣味は散歩とウインドウショッピング。狭い路地とかが特に大好きでどこに抜けるのかワクワク出来て最高です。高校では英語の成績が良かったので、もし外国人がキャンプ場に来ても案内出来ます!スキルは【自在倉】で荷物持ちが出来ますので持ち運びや移動させたいものがあれば大きさに限度はありますが声を掛けてください!以上!」
再び拍手が起こり、目配せをした千代に駒原は先を譲った為次は千代が立ち上がる。
「先ほど名前は出ましたが妙子の母、三枝千代です。普段は事務員をしていますのでPC作業は任せてください。実家は農家なので畑仕事や野菜の目利きは得意です。料理も任せてください。スキルは【豊穣作業】を取得しましたのでキャンプ場の隅で畑を作って食材の確保を担当する予定です。宜しくお願いします」
正直今後の生活で絶対必要になるスキルの一つが既に取得出来ている点は凄くラッキーだったと感慨深い杉浦は人一倍拍手した。妙子からはジト目を向けられても気にせず拍手する杉浦の隣で最後に駒原が立ち上がる。
「え~、三枝さん達は今日が初めましてですね。僕はこのキャンプ場のオーナーをしている駒原昭吉郎と申します。杉浦君とは2年くらいの付き合いになりますね。自宅が近くにあり倉が無事だったのでしばらくは倉での生活をするつもりです。何か入用になれば色々と道具は揃っていますので相談いただければお貸出しします。昔の杵柄で道具の使い方もちゃんと理解しているので指導も出来ると思います。スキルは【調教】で、テイミングしたラージラビットの名前はフジです。共々よろしくお願いしますね」
皆で最後の拍手をする中で駒原は席に座った。ラージラビットも名前が決まって良かった。
とりあえず、今日が初日なので今後生活の中で不便と感じたことは各々メモに残す事が決まった。スキルやDIYでどうにか出来そうな事は協力して生活を楽にする為にモノを作製する方向で話は進み、駒原がチェーンソウと斧をそれぞれ持っているとの事なので近いうちに伐採出来そうな樹の選定に向かう事も同時に決まった。
目下必要と女性陣が言って来るのはキッチンとお風呂の2点なので、杉浦と駒原は食後に頭を突き合わせてどうするか検討を重ねて夜は更けて行くのであった。
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