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これまで幾度もの戦闘を熟し、そのたびに幾度となく闘気を使い続けてきた。
闘気で体を強化し、剣や盾、義足に纏わせ、浸透させ、時に放出する。そうしている内、だんだん闘気という力について、僕の中で感覚的な理解が深まって来ていた。
魔力は水のように流動的で常に一定の力を持っている(と錬金術の本に書いてあった)のに対し、闘気は燃え上がる炎のような性質を持っている。
揺れ動くような性質があるからか、その力にはムラがあり、常に一定の力を維持できないピーキーさがある。
ただ闘気の強みは、なんといっても圧倒的なエネルギーにある。
爆発力とも言えるそれは、一瞬の内に大量のエネルギーを消費することができ、瞬発力と破壊力に優れている。
扱いも相応に難しくなっていくが、力も籠めれば込めるほど強くなっていく。
そうなると、すぐに闘気を使い切ってしまう懸念が浮上するが、決してそんなことにはならない。
なぜなら闘気のエネルギー効率は、魔力などとは比較にならないほど高いからだ。
ステータスを見ながら取り出した闘気と、師匠の本で確認した同質量の液体魔力で実験を行ったところ、エネルギー効率に二十倍もの差があることが分かった。
それだけでも一騎当千と言われる理由が分かるというものだが、闘気において僕が一番重要だと思う部分がもう一つある。
それは、僕の意志に答えてくれることだ。
闘気とは生きる意志そのものだとリルが言った通り、この力には僕の意志を反映させる力がある。
それは主観的というか観念的な部分が強く、具体性に欠けるようなことなのだが、僕は確かにそれを感じている。
もっと強く、もっと柔軟に。
力と共に強い意志を込めると、闘気は僕の思いに応えるように、力の性質さえ変えてしまうかのような変化を見せる。
場合によっては、敵を切断しない闘気の刃だって作れるかもしれない。
そういった不可思議で恣意的な部分が闘気にはあるようなのだ。
長くなったが、何が言いたいかというと——僕は盾に闘気を込めながら思ったのだ。
鼻先に当てて、脳を揺らしてやる!と。
猪の鼻先を闘気を纏った盾で殴打すると、激しい衝撃音と共に巨体を浮かせるほどの威力となった。
『ビギャアァァァァ』
闘気は波のような性質へと変わり、巨獣の頭部を揺らす。狙い通り猪は脳震盪を起こし、よろめいた。
着地した後、畳みかけるように前足を攻撃する。足を切断して転ばせる。だが——
キィィン
巨獣の体は、巨大な岩を鎧のように纏わせていて、剣が弾かれてしまった。
「硬いな」
闘気を纏っていても剣による切断は難しいか。
ならと、ふらついている足にもう一度盾を食らわせる。
今度は振動ではなく吹き飛ばす力を、意志を込めて。
振りぬいた盾が足に当たると、強い衝撃が僕の方にも伝わってきた。
足は弾かれたように内側へ吹き飛び、巨獣の体はバランスを失い、倒れ込んだ。
ズドオオォォォォン
家一軒を丸ごと飲み込めてしまえそうなほどの巨体が倒れ込んだ衝撃は凄まじく、地震でも起こったのではないかと思うほどの強い揺れが起こった。
『プギィエエェェェェェェェ』
倒れた隙に追撃を、と思ったが先の強い揺れで周囲の人たちが無事か気になった。
とりわけ負傷者の様子が気にかかり、僕は巨獣から視線を外した。
戦闘中も見えていたが、改めて見ると負傷者多数とアグリが言った通り、酷いありさまだった。
この集団はトカゲの獣人(リザードマンと言うのだろうか)が多く、全体の半分ほどを占めているようだが、その大半が地に伏せ、鱗がはがれ、血が滴っていた。
だが、どの人たちも致命傷に至る傷は無いようで、大きな体の欠損も見られない。
血を出しながらも戦闘の様子を見る余裕があったようで、突然現れた僕に驚いたのか、誰もが目を見開いたままぽかんと僕を見ていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。助太刀感謝いたします」
リーダーらしき男性が僕に挨拶をしてくる。
「水滸の蛟のリーダーをしているウーフェンです」
「どうも。蒲生 樹です。ひとまずこれを負傷者に使ってあげてください。回復薬です」
「ポーションですか。ありがたい」
「すぐ僕の仲間が来ます。それまで離れていてください」
「あなた一人では危険です。我々も——」
「必要ありません。今はパーティーを立て直すことを優先してください」
「……わかりました。ご厚意感謝いたします」
ウーフェンは、申し訳なさそうに頭を下げると、仲間の元まで下がっていった。
さて、猪が起き上がるまでに、ステータスを確認してみるか。
僕は瞳に力を籠め、猪の巨獣を注視した。
Enemy:Field of principal. act 3 Level:50
Name:Hefring
Status: 体力:3400 魔力:700
筋力:1400 防御:2300
俊敏:500 器用:550
Skill: 武技 鼻頭突進 曲牙乱舞
身体 甲鎧剛毛 脚力増強
感覚 視覚弱化・嗅覚超強化
魔技 土属性 中
血統 大地ノ御霊 眷属召喚
基本的に塔の迷宮の魔獣はエネミーと出る。
種族や年齢、性別などの項目はなく、ステータスも端数切捨てで十の位からの数値となっている。
エネミーの部分は英語でクチャっと書かれていて覚える気にはならないが、想像するに魔獣の括りが書かれているのだろうと思う。
比較対象に、二階層にいた狼のステータスを思い返す。
Enemy:Grassland No.15 Level:20
Status: 体力:270 魔力:100
筋力:150 防御:80
俊敏:120 器用:50
Skill: 武技 咬合 集団戦闘
感覚 嗅覚強化
名前と言い、ステータスと言い、まるで作られたように個性がない。
この命名は、草原地帯の十五番目の魔獣ってことだろうか。
そうなると、この巨獣は特別な括りの魔獣なのだと推測できる。
そうでなくとも、明らかに周囲の魔獣と釣り合わない力を持っているし、巨獣などと呼ばれて恐れられているのだ。
何かあるに違いない。
そうなると……倒したら何かアイテムが貰えそうな気がするぞ。
御大層に名前が付いているのもプラスポイントだ。フィールドボスを倒せば報酬がたんまり貰えるのはゲームでは常套だよね。
宝箱なんか出てきてくれたらうれしいな~。
脳震盪から回復し立ち上がる巨獣は、〈眷属召喚〉で大量の猪とウリ坊を召喚し始めた。
そんな巨獣を前に、僕は呑気にそんなことを考えた。
§〈リル〉
私たちが息を切らせて巨獣のもとに辿り着いた時、そこには不可解な光景が広がっていた。
「なんだよ、これ……」
先に辿り着いていたジザは、負傷者の救護も忘れ、立ち尽くしていた。
いや、ジザだけじゃない。その場にいた全員が避難も、傷の手当ても、言葉すら忘れ、その光景に見入っていた。
どうしてそんなことになっているのか、なんて聞かずともわかった。
私もまた、皆と同じように見つめてしまったから。
イツキが巨獣を圧倒しているそのさまを。
目に負えない速度で移動しているのか、私の視界に紫色の線が走る。
それは巨獣に当たるたび、激しく火花を散らして巨獣の動きを封じていた。
巨獣は要塞のように体を土で固め分厚い装甲を纏っていたが、紫の線が走るたび見る間に装甲が砕けていき、内側の皮膚から激しい血が噴き出す。
魔獣の巨体を見上げるようにして見つめている私たちは、おのずと空が目に入る。雲一つない青空が。
そして、一度目に入れば、私の視線はそこに釘付けになってしまった。
だって、そこには数えるのも馬鹿らしくなるほど無数の光の剣が浮かんでいたんだから。
巨獣が小さな猪を召喚するたびに空から輝く剣が打ち出され、猪は光の粒となって消えていく。
それは、さながら流星群のよう。
太陽の照り付ける昼下がりの真っ青な空に、紫色の星々が輝いている。とても不思議な光景だった。
上空に待機していたアグリも、いつの間にか地上に降りて来ていた。
「イツキって僕たちよりレベルが下のはずだよね」
「……そのはずよ」
「ならなんで!……なんでこんなに強いのさ」
「……」
「なにか変だよ……おかしいよ」
いつもならすごいすごいと誉めそやすアグリも、今回ばかりは勝手が違うようだった。
でも、それも仕方がない。
こんな光景を見せれられてしまえば誰だってそうなってしまう。
私も知らず握る手に力が籠っていた。
イツキ、あなたは一体何者なの。




