3-6
名前が似通ってしまっていたので、キャラの名前を変えました。
✕ 花山院 琴音
〇 花山院 心依
天武八梢とは、類稀なる力と、抜きんでた実力を兼ね備えた人物を称えるため、迷宮連盟日本支部の長にして、日ノ本の祖である皇の代弁者、黒老から下賜される姓。およびそれを持ちし者たちのこと。
姓は数えて八つ。真人・朝臣・宿禰・忌寸・道師・臣・連・稲置と続く。
彼らはその力を持って迷宮の維持・管理を行う調整者であり、日本支部の最高戦力でもある。
迷宮に愛されし者たち。彼らは迷宮連盟において幾つかの特権を持ち、他の何ものより自由に、縛られることなく迷宮を探訪することができる。
天武八梢を羨むものは数多あれど、姓を詐称する者はいない。
姓を詐称するということは、迷宮連盟に背を向ける行いであり、それすなわち国に、ひいては皇に弓引く行為である。
酷く重たい罪に問われることはもちろんだが、それ以外にもう一つ、詐称できない理由がある。
それは、偽ることのできない証があるからである。
姓を賜るための条件は三つ。
一つ、日本を代表する七つの名家の出であること。
一つ、姓の席が空いていること。空いていなければ、他の条件を満たした上で黒老立ち合いの下、姓を掛けた決闘を行うこととなる。
そして、もう一つは……
花山院 心依と名乗る人物は、僕に気さくに話しかけて来た。
「稲置ちゃん来てくれてマジ助かったよ。ここってホント会話の弾む奴いないんだよね」
「そ、そうなんですか」
「末永くよろよろ~」
……完全にロックオンされてしまった。
会ってまだ数分の間柄のはずなのに、すでに友達のような距離感で接してくる。
コミュ力お化け。マジ怖い。
「花山院さ「みよっちって呼んでよ」……花ざ「みよっち!」……みよっち」
押しに弱いのかな、僕って。
みよっちは、満面の笑みで頷いている。
「みよっちと年の近そうな人、意外といそうに見えるけど」
「それが、ぜんっぜんなんだよ。あいつらマジ宇宙人かっつうぐらい話合わないの。軍人はお堅いし、お面は喋んないし、双子は二人の世界作ってっし、チャラ男はまじ陰キャだし」
「おい、聞こえてんぞ!」
チャラ男と呼ばれた男性が強く反応する。
確か、彼は吉雄と呼ばれていたっけか。
吉雄は指輪にピアス、ネックレスと、至る所にこれでもかとシルバーアクセサリーをつけていて、動くたびにジャラジャラとアクセサリーが音を立てる。
チェーンも腰にぶら下げて、いかにも危なそうな見た目をしている。
しかし、シルバー以外はいたって普通の姿をしていた。
奇抜な髪形をしているわけでもなし、鼻や舌にピアスをつけているわけでもない。ジーンズにTシャツ。靴はニューバ〇ンス。実に普通だ。
「聞こえるように言ってんだし。てかなに、自分が陰キャだって気づいてないわけ」
「はぁ?こんなイカすアクセつけてるやつのどこが陰キャなんだよ」
吉雄さんは腕につけたシルバーをジャラリと見せびらかす。
「ゴテゴテしすぎ。とりあえず盛っとけばいいみたいなんは、デコラだけで十分だっつの。もっとシルバー減らして、少し髪を遊ばせたりすればさぁ」
「は、おめぇみてぇな時代遅れのギャルみてぇなやつに俺のファッションセンスはわかんねぇよ」
「はぁ……あんたはサービスエリアで売ってる龍の巻き付いた剣がお似合いよ」
「そんなん喜ぶの小学生までだろうが!」
「小学生並みのセンスだっつってんの」
「はっ倒すぞ」
「女の子を押し倒したこともないくせに」
「あ!?……あるに決まってんだろ!」
「どうだか」
吉雄さん、そこで動揺しちゃだめだよ。
「俺みたいな選ばれし男となりゃぁ、女の一つや二つ、とっかえひっかえ……」
「はいうそ~。そんなガキんちょみたいなこと言ってイキんないでよ。あ~恥ずかし」
「なめやがって!ぶち殺してやる!」
「殺すとか言って、どうせそっちも童貞なんでしょ」
「ど、童貞とか言うなよ!」
なるほど、チャラ男は見た目だけで、陰の者だったのか……。
まぁそれは置いといて。みよっち、すごい絡んでいくな。
会話が弾まないとか言ってたけど、意外と仲いいんじゃないかな。
「吉雄、いい加減黙りなさい。恥ずかしくてかないません」
「うっせババア!名前で呼ぶなっつってるだろ!」
「思春期乙~」
めちゃめちゃ煽って行くみよっちに戦慄を覚えていると、横から双子が口を挟んでくる。
「今日も野蛮人どもはうるさいね、ココ」
「同じ空気を吸いたくないわ、ロロ」
白黒のゴシックな衣装を身にまとっている二人は、息ぴったりに罵倒してくる。
短パンスーツの男の子は、短髪で勝気な表情をしている。
装飾の多い黒ドレスの女の子はツインテールで、けだるげに男の子に持たれている。
「は……野蛮人どもって、私のことも言ってるわけ」
「野蛮人は理解に時間がかかるのね、ロロ」
「野蛮人なんだから仕方ないよ、ココ」
「どもは取り消しなさいよ!インポと一緒にされたくないっつの!」
「勝手にインポにすんじゃねぇ!」
どんどん収拾がつかなくなっていくな。
このまま見ていて大丈夫だろうか。
そんなことを考えていると、軍人風の男が急に円卓を強くたたいた。
「いい加減黙れぇ!」
軍服の帽子から切れ長の目で睨んでくる。
「さっきからなんなんだ、その低次元の会話は!野蛮人だのインポだの、どうでもいいわ!……お前らが家の名を汚そうと俺には関係ない。だがな、姓を貶めることだけは許さん!姓は皇様から賜った由緒あるお役目なのだぞ。ここは神聖な会議の場なのだぞ。お前らはもっと天武八梢である自覚を持て!」
真人さんの啖呵が会議室に響き、辺りはしんと静まり返った。
「しょ、しょうがないから静かにしてようかな……」
吉雄さんは面食らって椅子の上で体育座りをし始めた。
小者感がひどい。
「あ~あ。白けちゃった」
みよっちは飄々とした態度を取る。
やっぱりあれは楽しんでたんだな。
「あの人って名前はなんていうの」
「あの人って?軍人コスの?」
軍人コスって……それはちょっとかわいそうだよ。
「あれは橘家の御曹司。橘 真人」
「真人って、姓だよね。本名はなんていうの?」
「本名も真人らしいよ。小さいころから真人になれ!って言われて育ったんだって。そんなんある意味呪いだよね」
たしかに。
親のそういう執着って、少し怖いなと思う。
「ま、結局コネで真人になったらしいけど」
「そうなの?」
「だって、橘家は一番力のある家っしょ」
「へぇ」
やっぱり家同士の序列なんかがあるんだ。
「ちなみに、隣にいるお面が二番目に力のある由比家の人間。名前は知らない。教えてくれないんだよねぇ」
由比さんは、顔をお面で隠して、ミステリアスな感じだな。
情報が少ない所は稲置さんを彷彿とさせるけど、無口な分、由比さんのほうが印象がいいかもしれない。
稲置さん、口数少ない割に少し口汚いからなぁ。ずっとお前呼びだし、何かと高圧的だし。
橘、花山院、周防、郷萬、由比。安曇家を入れて出てきた家門は六つ。
「じゃあ、朝臣って椅子のところが最後の家なんだね」
「何言ってんの。そこは稲置ちゃんとこのお父さんの椅子でしょ」
「お、お父さん!?」
ということは、安曇 藤次郎の席ってことだろうか?
「え、どゆこと。知らないの」
「いや!そんなことないよ!お父さん遅いなぁなんて……」
「……稲置ちゃんのお父さん一度も参加したことないけど」
「……」
やっちゃった。
春原さん!どうしてこんな大事なこと教えてくれなかったのさ!
基本的な知識より、もっと重要なこと沢山あるでしょ!
あ~、もう知らん。
「じゃあ、一家足りないんだ」
開き直ってしれっと会話を戻してみる。
「……そう。いないのは呉家ね。七つの名家とは言うけど、呉家は半分没落してるようなものよね。家門から姓となれる人物を輩出できないんだし」
良かった。追及してこなかった。
そして、最後の家は呉家か。
序列最下位。
ここでは会えなかったけど、稲置として今後も活動していくのなら関わり合いになることもあるだろう。
それまでに、各家門のことをもっと詳しく知っておかなくちゃかな。
「それにしても、会議ってまだ始まらないの、来てしばらくたつけど」
「進行役の人が時間になったら来るんだけど……」
真人さんなんてイライラしすぎて貧乏ゆすりをしている。
噂をすれば影、という奴だろうか。
入口が開いて、男性が三人ほど入ってきた。
「お待たせしてすみません。進行役の大原が急病で倒れてしまいまして、代わりに私共が会議の進行をさせていただくことになりました」
「遅いぞ!何のために集まってると思ってるんだ!」
「すみません。ただいま始めさせていただきます」
進行役なら一人でいいはずなのに、複数人で入ってきたのには何か意味があるのだろうか。
「それでは、皆様方の身を証していただきまして、会議開催の合図とさせていただきます」
来た。
ここが今回一番の山場だ。
姓を持つ人達は、皆それぞれ肌を露出させ、皮膚に描かれた模様を見せ始める。
この模様は聖痕と呼ばれ、規則の力が込められた魔法陣とは違う、生きた証なのだという。
生きたというのがどういうことかというと——。
隣でみよっちが魔力を込めている姿を見る。
魔力を込めた聖痕は、淡く光りだし、肌から浮き出してくる。
それは形を変え、立体的な姿を取り始める。
鱗のような模様が出始め、尾びれや背びれ、瞼のない瞳。みよっちの聖痕は、少しづつ金魚のような姿になって行き、形が安定する前から空中を泳ぎ始めた。
表面を模様が絶えず動き、形を変える。
この聖痕には、魂が宿っているのだという。
聖痕を体から話している間も本人との繋がりがあるため、やすやすと奪われることはない。
たとえ奪われてしまったとしても、聖痕はその人に合わせて変化してしまう。
この金魚の形は、みよっちだけの姿。自身の肩書を証すのに、これほど明快な物はない。
これが姓を詐称できない最大の理由だ。
ほかの人も同様に聖痕に力を籠め、生き物の姿を象らせていく。それを横目に、僕はちらと後ろを確認する。
稲置さんは、こちらを見ているのか見ていないのか、無表情で前を向いていた。
……上手くお願いしますね。
僕は事前の打ち合わせ通り、服で隠れているお腹あたりに闘気を集め光らせた。
闘気の色は、髪の色に同調して今は紫色の光を出している。
少しの間、光らせ続ける。
……もういいだろうか。もう少し?
光を止めてみる。
……
何もこない。
打合せ通りならお腹辺りに聖痕を忍ばせてくれるはずなんだけど。
い、稲置さん?おーい。忘れてませんかー?稲置さーん?
モゾ
ん?
お腹のあたりで何かが動いた。
もぞもぞと這うように移動している。
ぺたぺたと小さな足がお腹を押す感覚がくすぐったい。
その感覚が徐々に上に上がってきて——。
鎧の首元から顔を覗かせたのは、リスの姿をした聖痕だった。
「か、かわ……」
僕を見上げて顔を傾げるリスに、思わず顔が緩む。
指の腹で頭を撫でてみると、くすぐったそうに前足でぐしぐしと顔をこすった。
仕草までリスそっくりだ。
「稲置ちゃんの聖痕リスなんだ!かわいー!」
「ありがとう。みよっちのもかわいいよ」
「えぇ~、私のなんてただの生魚じゃん。まじぴえんなんだけどぉ」
そんなことないと思うけどな。
空中を泳ぐ魚なんて、幻想的でとても素敵なのに。
「くくく。なんということだ。こんなにもよい機会を得られるなんて!主は私たちを見捨てていなかったのだ!」
進行役の男性は、突然不気味に笑いだした。
「は、急に何?」
「主?なんだクリスチャンか?」
不穏な気配を察知したのか、周防家の女性、道師さんが鋭い言葉を投げかける。
「あなた方、何者ですか。名を名乗りなさい」
「ああ、申し遅れました。我らは、使者にして死者。そして四者。あなた方がエレクスなどと呼んでいる組織の者ですよ」
「エレクスだって!」
吉雄さんが大声を上げる。
その反応にご満悦な様子の男性は愉快そうに笑う。
「それでは皆さん。さようなら」




