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2ー21


 屋敷からどうにか逃げ帰ってきた僕は、今後どうしようかと頭を悩ませた。

 彼女らと関わるメリットは何かあるだろうか。

 ダンジョン関連の情報を得られるかもしれないということだけだろうか。

 ダンジョン関連のことは、九階層の先(ボス部屋らしき扉の奥)へ行けばわかるとキアミ師匠は言っていた。

 であれば、リスクに対してのリターンが少なすぎる。

 

 身バレのリスクに、当主の三男、界成に殺されそうになったこと。それに透明な生き物。

 透明ということは、後をつけられていたとしてもわからないかもしれない。あんな大立ち回りをしたのだ。偽物が屋敷に紛れ込んだとバレ、追手が差し向けられている可能性も否定できない。髪の毛の色で勘違いされていたようなので大丈夫だとは思うけど、いつどこで襲われるかを考えると、もう接触はしたくない。

 ただ、カナちゃんたちを騙しているという罪悪感が僕の心に深く根ざしていた。

 成り行きで勘違いされてしまったわけだが、積極的に誤解を解かない時点で騙しているようなものだ。

 事実を知った時に何て思われるかを考えると、体をじたばた動かしたくなるような不快感に襲われる。

 でも、このままというわけにもいかないし……折を見て、謝りにいかないとな。


 でも、まずはダンジョンだ。

 これが何かを知っていたほうが、謝るにしても相手方の状況を飲み込みやすい。

 それから……学校に行ってモリミツと仲良くしよう。

 

 そんなことを考えていると、僕の頭に黒いヘッドドレスが乗せられた。


「なかなか良いね。うん、すごくかわいいよ」

 ヘッドドレスを乗せた張本人(かづきちゃん)はしたり顔で頷く。

 僕は今日も、かづきちゃんのおもちゃになっているのだった。


「……僕みたいな男が着たってかわいくないよ」

「そんなことないよ。うきのちゃんのポテンシャルは高いよ。下手な女子よりずっとかわいいんだから」

 かづきちゃんに褒められて、僕は少し満更でもない気になった。

 どんなことでも、褒められるのはうれしいものだ。

 それよりも――

「……こんな服、どこで見つけてきたのさ」

 今日着せられている服は、真っ黒な衣装に白の飾り模様の入ったドレスだった。

 細部にはレースがふんだんに使われ、大仰な袖口のフリルに、これでもかと波立たせたティアードスカート。

 いわゆるゴスロリというやつだ。

「最近はネットでどこでも売ってるよ」

 そういいながら、かづきちゃんは脱ぎ捨てられた衣服を畳んでいく。

 後ろを見ると、脱ぎ捨てられた服が山のように積み重なっていた。

 今日はこれを、さっきまで着せられていたというわけだ。

 

「高かったんじゃない?」

「まあ、それなりに。安いものもあるんだけど、どれも生地が薄かったり安っぽい質感の物ばかりでね。そんなモノうきのちゃんに着せるわけにはいかないからね」

 この服は僕のサイズにぴったりな物だった。

 明らかにかづきちゃんのサイズをオーバーしているし、最近買った物なら、最初から僕に着せるために買われたんだろう。

「お金出すよ。あんまりないけど、仕送りのお金が少し余ってるから」

「お金をもらうなんてとんでもない!」

 かづきちゃんは僕の提案を即座に拒否する。

「趣味にお金を使うのは当然のことだよ。私もおも……んんっ。うきのちゃんに着てもらうのが楽しいんだ」

「今オモチャって言おうとしたよね!」

「気のせいじゃないかな」


 その後は予定通り買い物に出かけるはずだったのだが、母さんが置いていった一眼レフカメラを見つけたかづきちゃんが歓喜し、写真撮影が始まってしまった。執拗にローアングルから撮影しようとするかづきちゃんには辟易したが、小物を持たされたり、ポーズを取ったりするのは少し楽しかった。

 

 一通り遊ばれた後、ようやく買い物に行く段取りとなった。

「今日はこのまま行ったりしないからね」

 こんなゴテゴテの衣装を着て買いものに行くなんて自殺行為だ。憤死してしまう。

 それに、ワンピースのまま商店街に連行されたこと、僕は今でも根に持っているのだ。

 

 ドレスの脱ぎ方が分からないので、かづきちゃんに手伝ってもらう。

「このまま行ってもよかったんだけどなぁ」

 コルセットの紐を緩めながらかづきちゃんはため息を吐く。

「行くわけないでしょ」

「残念」

 

 ある程度服が緩んできたので、かづきちゃんには退室してもらい、黒いドレスを脱ぎ捨てた。それから山になっていた服の中から比較的落ち着いた印象の服を出してきて着た。

「準備できたよ」

 出かける用意を済ませ居間に戻ると、かづきちゃんは一瞬目を瞬かせた。

「……これはうれしい誤算だね」ボソ

「どうしたの」

「……ううん。なんでも、じゃあ行こうか」


 はき慣れすぎていたからか、僕は自分でスカートをはいてしまったことに気づかないまま買い物に出かけてしまった。



 


 


 買い物から帰った後、僕は直ぐに準備をしてダンジョンに入った。

 

 ダンジョンに入るとすぐ、いつもの電子音が鳴った。

【ピロリ】

【熟練度が一定を超えたため、気配察知 を獲得しました】

「ん?まだ何もしてないのに」

 これは、どういうことだろうか。

 安曇の屋敷での戦闘経験が熟練度としてカウントされてスキルが手に入った、ということだろうか。

 そうなると、ダンジョンに入ったことで情報がアップデートされたということになる。

 ダンジョンの中にしかWi-Fiが通ってないって感じだろうか。

 お姉さんが外で話しかけてきた時もあったけど、それはオフラインでも使えるアプリってところかな。

 ちょっと考え方が俗っぽいかな?

 ま、今はそんな認識で十分かな。

 

 それよりも、今回は週末の内にダンジョン十階層まで到達するのだ。

 気合を入れていかないと!

 僕は頬を叩いて気合を入れると、一気に九階層まで駆け下りた。


 

 

 九階層に降り、騎士風骸骨と戦闘をこなすこと二日、ようやく剣術で骸骨を上回ることができるようになってきた。

 油断していると足元を掬われてしまうが、集中しているときは有利な立ち回りを取れることが増え、剣の読み合いも制することが多くなった。

 努力のお陰も充分あるが、〈気配察知〉のスキルがとても優秀だったからというのもある。

 視界の端の見えずらい部分からの攻撃に反応し易くなったので、〈見切り〉と合わせて骸骨の動きが格段に読みやすくなったのだ。

 

 骸骨は倒しても倒してもどこからともなく現れるので倒しきる心配がない。

 もう充分かもしれないが、余裕をもってあと一日修行の時間を設けることにしよう。

 僕はボス戦前はレベルを上げ切ってから戦うタイプなのだ。

 

 戦闘の合間に錬金術の勉強を欠かさず行い、〈錬術師の工房〉でぐっすり休み、そして当日。

 僕はいつもよりもゆっくり朝の支度をして、それから装備を身に着けた。

 インナーの上に青いスカートと白の上着をはき、髪飾り、銅鎧(プレートメイル)、前腕までを覆う籠手(ガントレッド)、マントのような布の付いた腰当(フォールド)。それから新しく手に入ったブーツ型の鉄靴(サバトン)、盾を持つ左側のみの肩当(ポールドロン)。そして剣と盾。フル装備だ。

 新しい装備の肩当は、肩の上まで出っ張るような形をしていて首を守りやすい形になっていた。左のみで右側は肌がむき出しの状態なのが少し心持ない気もするが、左右非対称に出たということはきっと片側のみの装備なのだろう。

 鉄靴は膝までを守れるようすね当やひざ当が一体となった装備で、これも僕の足にちょうど合うサイズだった。鉄靴とは言うが、スニーカーのような履き心地であまり蒸れず快適な着心地だった。

 

 装備を着て鏡の前に立ってみると、壮観だった。

 甲冑全体が白い光沢を帯び、細部の青い飾り模様がよく映える。一輪の大きな花の髪飾りからは二束の鈴なりの花が垂れ、甲冑という無骨な装備に柔らかさを添えていた。髪飾りのせいか髪はやっぱり桜色だけど、それがより一層白い甲冑によく合っていて、異国情緒を感じさせる。

 だけどやっぱり、コスプレのようだとも思う。

 右肩と太ももは肌が露出しているし、腰当にはよくわからないおしゃれな布が垂れてるし、髪飾りは可愛いし。

 これはやっぱりお姉さんの趣味なんじゃないかと思うんだよね。

「……」

【……黙秘します】

「まだ何も言ってないんだけど……」

 怪しいなぁ。

 

 

 ここまでの宝箱はすべて開けて来たので、装備はこれで完成なのかもしれない。

 装備を揃え、レベルを上げ、スキルを磨き。すべて順調。

 あとはボスを倒すのみ。

 

 〈錬術師の工房〉から出ると、すぐ目の前に見上げるほどの大扉が見えた。

「大きいよなぁ」

 あれから少し調べてみると、やはりこの扉に描かれているのは錬金術で使われる魔力回路だった。

 師匠の本に載っているものとは違う体系のものなので詳しくはわからなかったが、似た構造の模様を探すと、どうやら禁足となんらかの妨害の力が働きそうだと推測できた。

 今は魔力が通ってないので何ともなさそうだが、入った途端脱出できない!とかは十分ありそうだ。ボス部屋から出られないのはあるあるだからね。

 ためしに魔力回路を壊せないかと剣で切り付けてみたが、傷一つ付かなかった。

 まあ、ダンジョンの壁が壊せない時点でお察しだよね。


 悪あがきはここまでにして、ボス戦に挑むことにしよう。

 少し緊張しつつ扉に手を置くと、扉は光を帯び独りでに開いて行った。

 ゴゴゴゴ――

 音を立て観音開きに開いた扉。

 その奥には暗い空間が広がっていた。


 僕はそっと部屋の中に足を踏み入れた。 

 すると、ゆっくりと内部が青く光りだした。

 体育館ほどの広さの丸い空間だった。

 天井もドーム状になっており、地面には魔力回路のような丸い幾何学模様が描かれている。

 

 そしてその奥には大きな石で出来た玉座があった。

 そこに頬杖を突くように座り込む一体の骸骨。

 九階層にいた骸骨と変わらない赤く透明な骸骨だが、その頭蓋骨には王冠がそっと乗せられていた。

 

 ドォォン!


 大きな音を立て、扉が閉まる。


 カタ

 

 そして、骸骨の顔が僕の方を向いた。

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