2-17
週末になり、いつも通りかづきちゃんと食材の買い出しに出かけた。
ただ、今日は少し足を延ばして那須乃坂市まで来ていた。
気が向いたから、という理由で来るには少し遠いこの場所をかづきちゃんが選んだ理由は。
「へぇ、最近はこんなに色々選べるんだ。うきのちゃんはどれがいいと思う」
また女の子の格好をさせられているからだ。
「どれって言われても、わからないよ」
「でも見た目の違いは分かるでしょ。直感でいいから」
「……じゃぁこっち」
「メガミ盛りね」ピッ
今日のファッションはオーバーサイズの濃い藍色のスウェットに、その下から少し覗く白いミニスカ、とシンプルな服装だった。
もっとフリフリの物を着させられるんじゃないかと思っていたので、正直意外だった。
これならまだいいか。と思ってしまったことが、きっと僕の敗因だったのだろう。
いずれはもっと甘いコーデを……などと不穏な声が聞こえたのは、全力で聞かないふりをした。
ちなみにかづきちゃんはいつものパンツスタイル。
僕だけこんな格好をさせて、自分だけズボンなんて絶対不公平だと思う。
街に来て買い物だけして帰る、というわけにもいかず、こうしてかづきちゃんに付き合ってプリクラを取るハメになってしまった。
しかも、こんな格好で。
『右の撮影場所に入ってね』
「よし、行くよ」
今日のかづきちゃんは実に楽しそうだ。
『それじゃ撮影始めるよ。まずは顔に手を当て小顔のポーズ3・2――』
「こ、小顔って!?どうするの!」
「ほら、画面に映ってるポーズだよ」
『パシャ!次はみんなで羽ハート3・2――』
「ちょ、ちょっと早すぎない」
『パシャ!』
「こんなものだよ。ほらちゃんと合わせて」
『ハートの中に入っちゃった3・2――』
「こ、これはどうしたら……」
「私じゃなくて、ちゃんと画面見なよ~」
『パシャ!』
め、目まぐるしい。
できた写真は散々なモノだったけど、かづきちゃんは笑っていた。
「ほら、うきのちゃんすごい顔してる」
かづきちゃんはスマホカバーに入れた出来立てのプリクラを楽しそうに見せてくる。
『うきのちゃん』という名前が気に入ったのか、かづきちゃんは僕が女の子の格好をしている時はそう呼ぶようになった。
区別されていることをむずがゆく感じもするが、新鮮に思う気持ちもあって。病弱設定もあり、どこかコスプレをしているような心持ちになってくる。
「すごい顔って言うか……これ、目大きすぎない」
「こんなの序の口だよ」
プリクラを取った後は、少し街を散策した。
屋台で買ったバナナロティを食べながら、ウィンドウショッピングを楽しむ。
かづきちゃんは、やれこの服に合わせるアクセサリーはどうだ、やれうきのちゃんにはこのチークがこうだと女の子らしい話題を振ってくる。
僕はどれもさっぱりなので相槌を打つばかりだけど、かづきちゃんは楽しそうだ。
かづきちゃんは、僕が女の子の格好をしているときはいつも上機嫌になる。
どうしてそこまで女の子の格好をさせたがるのか、僕は不思議で仕方がなかった。
ただ、いつも無償で買い出しに付き合ってくれていることを思うと、どうにも断りずらいのだ。
急にビル風が吹き、スカートがはためく。
僕は慌てることなく、ロティの持っていない手でスカートを抑えた。
……こんなことも、ずいぶん慣れてしまったな。
正直、もうスカートをはくことに抵抗を感じなくなってきていた。
ダンジョン探索の時に、不可抗力的にはいていることが大きいのだろうとは思う。
そのことに僕はもっと危機感を感じるべきなのだろう。
だけど……僕はもう半ば諦めを感じていた。
どうせこれからも、きっと着続けるのだろうから。
ところ変わって、ダンジョン九階層。
この階層は、ほかの階と少し様相が異なっている。というのも、洞窟内が明らかに整地されているのだ。
地面にはレンガが敷かれ、壁や天井には特異な模様が描かれている。人工物のようなもので岩肌が隠れているが、もちろん青白い光はレンガの隙間から漏れ出し、洞窟内は明るい。
その代わりなのか、この階はあまり広くはないようで、幾つかの大広間と狭い小道があるばかりだった。
ここの地図埋めも、そろそろ終わりそうだ。
僕は最後の道と思しき通路の先を見やる。
奥は広い空間になっているのが目視で確認できる。
そして、敵の姿も。
この階の敵は、赤く透明な骨で出来た骸骨だ。
身長は僕より高く、百八十センチほどだろうか。
骸骨は剣や槍、弓などの原始的な武器を持っており、それを自在に扱う。
今目視で確認できる骸骨も棍棒を持っており、何も持っていない骸骨は今のところ出くわしてはいなかった。
複数体の骸骨がいることが見て取れるが、僕は臆することなく広間に足を踏み入れる。
カタカタカタ
敵は一斉にこちらに注意を向けた。
広間に入ってすぐ、状況を確認する。
斧を持っているのが一体、棍棒が一体、弓が一体、そして剣と盾両持ちが一体の計四体。
骸骨同士の間隔はどれも開いていた。
最優先は飛び道具を持っている弓。
僕は弓の骸骨を強襲する。
骸骨は弓を番えるのに少し時間がかかっているようだ。
打たれる前に仕留める!
〈蒼月歩法 レーヴェ〉
踏み出す足に力強さが宿る。
足から伝わる地を蹴る力が、背中へせり上がってくる。
それが振りかぶる右手に、剣の切っ先に伝わっていく。
僕は、骸骨から矢が放たれるのも気にせず、矢ごと骸骨を叩き切った。
バキャァ!
骸骨の骨は、ハンマーで力任せに叩き割ったような音を立て、砕け散った。
敵はすかさず左右に周り、こん棒と斧で同時に攻撃を仕掛けてきた。
息の合った連携攻撃に、僕は少し驚く。
だがモンスターの連携は前にも見ている。
盾を使って横振りのこん棒を受けながら骸骨の懐へ潜り込み、斧を回避。
そのまま剣で骸骨をひと撫で。
キィン!
しかし剣は骨の中ほどで止まってしまう。
「やっぱり力が乗っていないと切れないか、なら」
僕はそのまま骸骨の後部へ周り、先ほど剣で切れ込みを入れた左腕骨を逆側から切り上げた。
パキン!
「よし」
このまま畳みかける!
が、斧骸骨の攻撃が右から迫り、バックステップで距離を取った。
「あぶな……」
別のダンジョンから出てきた機械のモンスターもそうだったが、モンスター同士の連携が結構上手い。
互いの攻撃の隙を埋めるような息もつかせぬ攻防。
さっきも一体仕留められそうな状況だったのに、図ったように攻撃が来た。
三体以上だったら、結構危なかったかもしれない。
二体の骸骨をけん制しながら、僕はもう一体の骸骨に目をやる。
剣と盾を身に着けた骸骨は攻撃する素振りを見せることもなく、戦いを傍観しているだけだった。
……あれは気にしなくていいか。視線を戻す。
二体の骸骨は、一体は無傷だが、もう一体は片腕落ちの状態だ。
先ほどよりはやりやすいだろう。だが、油断はできない。
僕は慢心せず、攻撃の構えを取る。
剣身が光り立ち、仄かに音を立て始めた。
攻撃が来ることを認識した骸骨は、縦に並ぶように陣形を組み、僕へと襲い掛かってきた。
骸骨の迫る速度は速い。
しかし何度か技を繰り出していた経験から、骸骨の攻撃が来る前に技の準備が整うことを確信する。
骸骨の攻撃が僕へと届く。
その数舜前、青い光がはっきりとした形を帯び、その技の姿があらわとなった。
〈青鎧剣術 四之剣 アムソニア〉
振り抜いた剣は骸骨を一刀のもとに切り伏せた。後ろで隙を伺う骸骨もろともに。
振り抜いた剣身を見ると、光を纏った剣は剣先からさらに光が伸び、一つの長大な剣となっていた。
四之剣は剣の長さをを自在に伸縮させる剣だった。
光の剣。なんてかっこいい響きだろう。
崩れ落ちる骸骨。
が、なおも未練がましく動きを続ける骸骨たち。
骸骨の胸についているクルミほどの大きさの魔石を剣で砕くと、彼らはようやく動きを止めた。
それを見届けた剣盾両持ちの骸骨は、ようやく重い腰を上げたように僕の方へと歩みだした。
……強キャラ感を出しているこの骸骨だが、別に特段強いわけでもない。
剣盾両持ちの骸骨とは何度か遭遇しているが、どれも騎士にかぶれているかのように一対一の戦いに執着しているのだ。
こちらとしてはやりやすくていいのだが……モンスターにも趣味趣向があるのだろうか。
どうにも不思議でならない。
カタカタカタ
「っと」
考えいている間に騎士かぶれの骸骨が攻撃を仕掛けてきた。
まずは上からの振り下ろし。
僕はそれを盾で受け、右下から袈裟斬りをお見舞いする。
骸骨はそれを上体をそらすように躱し、盾で僕を殴りつける。
やっぱりだ。と剣を叩きつけながら僕は思う。
この骸骨、僕が使っているのと同じ剣術を習得している。
僕の剣術スキルは、どう動けば剣が振りやすいか、次に繋げやすいかが何となくわかる。といった曖昧なものだった。
しかし、技術が習熟していくと、次第に型のようなものが見え始めてきたのだ。
青鎧剣術は闘気を使った技が単体であるようなもので、型のようなものはない。
どのように当てるか、次の技に繋げるかは、剣術スキルが教えてくれていたのだ。
剣を使う僕の生命線。
それを、この骸骨も使えのだ。しかも、僕より上手く。
総合力では僕の方に軍配が上がるけど、剣術という一点においてはこの骸骨のほうが上なのだ。
それが少し癪だった。
力任せに倒すことは容易いが、フィジカルで勝ってもあまり嬉しくはない。
なのでこの騎士かぶれの骸骨と戦うときは、なるべく余計なことはせず剣術のみで戦うことにしている。
骸骨と僕。共通点はダンジョンなので、ダンジョン流と勝手に命名。
ダンジョン流剣術の稽古の始まりだ、と僕は暫く骸骨と切り合いを続けた。
集中力が切れかかってきたころ、僕は力任せに骸骨を叩き切った。
崩れ落ちる骸骨と共に、僕も力尽きて膝をついた。
「ふぅ、……まだまだだな」
大分上達したとは思う。だが、まだ骸骨の技術を上回れたとは思えない。
もっと精進しないとな。
骸骨を倒した後で広間をチェックするが、ここには何もなさそうだった。
宝箱がないことに肩を落としたが、少しだけ気になる部分もあった。
「ここだけ窪んでる」
何か置いてあったかのような不自然な壁のくぼみがあった。
大きさからして、何か大きなもの……そうだな、天使の像が置かれていたのかもしれない。
ラッパを吹いている天使の像は、一階で最初に見つけたものばかりでなく、別の階層にも不規則に置かれてあった。
誰かが設置したのか何なのかわからないけど、きっとここにもあったのか、これから設置する予定だったのだ。
「これも十階層へ行けばわかるのかな」
この広間で九階層の地図埋めは終わり。
あとは例の巨大な扉だけだった。
僕は少しだけ歩き、巨大な扉の前までやってきた。
「……これ、絶対ボス部屋だよなぁ」
重厚感のある金属の扉は幾何学模様が彫り込まれ、豪華な装飾が施されていた。
掘り込まれている模様はどこか錬金術の魔力回路に似ている気がして、少しだけ興味をひかれた。
……どうしようか。
僕はボス戦をする時、攻略サイトを読み込んでから始めるタイプの人間だ。
しかし、ここはダンジョン。攻略サイトなどどこにもないのだ。ぶっつけ本番で行くしかない。
でもここは理不尽の宝庫、ダンジョンだ。絶対強敵が待ち構えているに違いない。
だから絶対に万全の態勢で臨まなければいけない。
もっと剣術を上達させるべきだし、あまり使っていない身体強化も練習するべきだ。
それに時間も。
今は日曜の深夜三時。
登校時間までもうあまり時間がない。
最短で地上まで出るのに、最低でもダンジョン内の時間で四時間はかかる。
この先がどんな状態かわからない状態で、時間に追われて進むわけにもいかない。
次の週末だ。
次の週末、この扉の奥に行く。
それだけを決め、僕は速足で地上へ帰るのだった。




