17-3話 ムラムラ勇者ちゃん
「ちょっとユッキー! ボーっとしてないでふーみんを助けてあげて!」
文がスライムに襲われているというのにすぐに文の元へと向かおうとしないユウキにクロエルが叱咤する。
だけどユウキはそれでもなお、足を止めたまま文の方を見て歯をくいしばっているだけだった。
「私だって今すぐ助けたいけど……! で、でも今ふーちゃんの近くに寄ったら私……」
「そんなことどうでもいいでしょ!? ふーみんが危険な身にあってるのに助けない方が悪いわよ! 好きなんなら今すぐ助けてあげなさい!」
「そ、それもそうね!」
クロエルに激を入れられたユウキは猛スピードで文の元へと向かう。
愛する人を助けるために懸命に走る……といえば聞こえはいいが、実際は自分のムラムラを抑えるために愛しの文の側を離れてしまった結果、文がスライムに襲われてしまっている。
結局は彼女が自分の理性を抑えられないせいで文に悲劇が襲ってしまっているのだ。
そのことはユウキ自身も分かっているみたいで、自分の不甲斐なさに歯を食いしばって文の元に向かっていく。
しかし、ユウキが文との距離が近くなるにつれ、ユウキの顔がどんどんと引きつっていく……いや、どちらかというとニヤケているようにも見えるおかしな表情へとなっていく。
(や、やばい……!
ふーちゃん成分が不足しているせいでちょっと近くに寄っただけでなんだか顔がニヤケちゃうわ!
邪念を払え! 下心を抑えろ! 我慢しろ、私!)
文の元へと駆けていく中、手をにやけた口元に持って行ってむりやり口角を下げようと努力するユウキだったが、にやけ面が修正しけれないながらも文の元へとたどり着く。
そこには身体のあちこちにスライムが張り付いている文と、そのスライムをなんとかひっぺがそうと奮闘しているシスティアがいた。
「あ、ユウさん来てくれたのですね! 私の力じゃとてもスライムを剥がせなくて……」
「ゆーちゃんお願い! 早くなんとかしてぇ!」
ようやく対魔物の戦力になるユウキがやってきたことに『助かった』と安堵した表情になる文とシスティア。
だが、その助けに来た勇者様はというと不思議に少し顔を引きつらせている。
恐らくスライムでぬるぬるになっている文の姿に自分の理性が奪われそうになっているのを必死で耐えているのだろう。
しかし、彼女は曲りなりにもこの世界の勇者様。
魔王と互角に戦った元勇者の孫であり、まだ16歳という若さでその元勇者から数々の修行を耐えてきた人間である。
そんな彼女の精神力は常人よりも計り知れないものを持っているはず。
きっとその精神力でこのピンチ(?)も切り抜けるであろう。
「ま、任せなさい! このスライムめ……! なんてうらやま……けしからんことしてるのよ !!」
若干本音が漏れている気がするが、彼女に下心はないはず。
多分……
しかし、なんだかんだで気持ちを抑えながらも淡々と文にくっついていたスライムを引っ張って取り除いていくユウキ。
肌にくっついていたスライムがはがれる度に文から小さな声が漏れ、その声にビクッと反応するユウキではあるものの、欲望を抑えて文にくっついていた全てのスライムを剥がすことに成功。
なんとか文の危機を救えることができたのだった。
「ふーちゃん大丈夫!?」
「う、うん……ありがとゆーちゃん……ぴゃぁ!」
「ど、どうしたの!? ふーちゃん!」
「ぃゃ……まだ服の中にスライムが入っていたみたいなの……ふわっ……気持ち悪いよぉ……!」
全てのスライムを退治したかと思いきや、どうやら文の服の中にまだ一匹いた模様。
服の中でスライムが動いててムズムズするせいなのか、文は身体をくねらせて肌にくっついているであろうスライムをなんとか振り払おうとしているが、服の中に入ってしまっているのでなかなか取れないみたい。
すると我慢ができなくなったのか文はユウキに上目遣いでとあるお願いをすることに。
「ゆ、ゆーちゃぁん! 気持ち悪いから服の中にいるスライム取ってぇ……」
「え゛っ゛!!?」
なんと、文から涙ながらの上目遣いで身体をまさぐって……いや、服の中のスライムを取り除いて欲しいというお願い。
そんなまさかのお願いに普段出ないような声が出てしまう程驚くユウキ。
普段の彼女だったらよだれを垂らしてスケベ顔で引き受けるところではあるが、ユウキはつい昨日にエロ禁することにしたのだ。
あまりのタイミングの悪さに神を恨みたくもなる。
しかし、ここで文の身体(しかも直)に触れてしまうことになるとせっかくエロ禁を始めたばかりなのにまたムラムラしてしまい、色々我慢できなくなってしまうのではないか? と心配になる。
でも文が困っているのにここで何もしないで眺めているのも辛いこと。
この相反する二つの気持ちをどうすればいいのだ!?
と心の中で葛藤するユウキ。
でも、やっぱり好きな子が困っているのに見捨てるわけもいかない! と忘れかけていた正義感を取り戻し、ユウキはやっぱり文のお願いを聞き入れることに。
「じゃ、じゃあ……スライムを取るために服の中に手を入れるけど……いいよね?」
「そんなこといちいち確認しなくていいから早く取って!」
「は、はい!」
服に素手を入れることに了承を得て、ユウキは両手で自分の頬を思いっきり叩いて気合を入れて文の上着の裾に手を置いて深い深呼吸。
そして文の扇情的な姿を見てムラムラしないように目を閉じると、手を文の服の中に入れて服の中にいるスライムを探すことに。
そしてユウキが文の服の中に手を入れて数秒後、手に何かやわらかいものに触れた感触が……
「あ、これかしら? プニプニしたものがあったわ」
「ちょ……! そこじゃな……!」
「あれ? なんかスライムと違ってポッチみたいなものがあるような……」
「きゃああああああ!! どこ触ってんの!!!?」
「ぶへらぁ!!!」
どことは言わないが、知らずに文の大事な部分に触れてしまったみたいで、顔を真っ赤にした文にぶん殴られてしまい、数十メートル離れた断崖へ叩きつけられてしまうユウキ。
よほど勢いよく叩きつけられたためか、断崖に人の型がくっきりと残ってしまっている……
「あわわ……だ、大丈夫ですかフミさん?」
「うぅ……魔物には襲われるし、ゆーちゃんには変なとこ触られるし……もういやぁ……」
この数分間で魔物とユウキに恥辱を味わわされてしまった文と、その文を慰めるシスティア。
ここ数日は魔物に襲われていなかったこともあり、改めて魔物に対する恐怖を思い出してしまったせいなのか、文はシスティアの胸に顔をうずめて子供みたいに泣きじゃくっている。
そして断崖へまで吹き飛んだ勇者様はというと、彼女は彼女で地面に倒れこみながら1人寂しく泣きだしていた。
「なんで……なんでこんなにうまくいかないのよぉ……」
どうやら彼女の涙は叩きつけられた痛みによる涙ではなく、更生して下心なく文と接したつもりだったのに、結果として文にエッチなことをしてしまい嫌われるようなことをしてしまった後悔の涙を流しているのだった。
普段の彼女だったら文にセクハラをして自業自得の制裁を受けても同情しようが無いが、今回は少し可哀想に思えてくる。
「……え? 何があったの?」
そしてそんなカオスな現場に遅れてクロエルがやってきた。
か弱い文が泣いているのはともかく、強靭なユウキが泣いているこの状況に理解が追い付かなく、何があったのか想像がつかないクロエル。
だが、状況が呑み込めてないものの、彼はユウキの元へとかけていく。
文にはシスティアがついているが、ユウキの方は一人寂しく泣いていしまっているこの現状、ユウキを一人にしておくと彼女のメンタルが危ないと察してあえて彼女の元へと行く方が良いと判断してのことだろう。
「ゆ、ユッキー大丈夫? なんか私が知らない内に色々大変なことが起きてる気がするんだけど……」
「……クロ……私って死んだ方がいいのかな……?」
「しっかりして!!」
ユウキのメンタルを案じて彼女の元へと向かったがどうやら正解。
せっかく文に好かれようとエロい気持ちを抑えてきたつもりだったのに、このザマ。
努力が全く実らないこの現状にユウキのメンタルはドン底にまで落ちてしまっていたのだった。
「ユッキー、いつもより調子悪そうだし、ふーみんもあんな感じだから今日はもう町まで歩くのやめない? ハウス建てて早めに休もうよ」
唯一と言ってもいい戦力である彼女がこんな調子では、今日はもう町まで歩くのは危険だと判断したクロエルは今日はもう休むことを提案。
「……うん……そうね……今日はもう休むわ……」
クロエルに嫌味を言う気力すらなくなった彼女はゆっくりと頷いて彼の提案に頷くのであった。





