17-2話 犬並み
夜が明けて太陽が頭上まで昇った時間帯、勇者一行は昨日に引き続いて次の町へと続く道を歩いていた。
だが、今日の一行の様子はいつもとどこか違うものだった。
いつもは雑談しながらワイワイ楽しそうに歩いている4人だが、何故か今日はいつもより静かなのだ。
その原因を生み出しているのは一行のリーダー格の勇者様。
いつもは率先して先頭を歩いているはずの彼女はなぜか今日は一番後ろを歩いている。
いや、歩いている……というよりかはふらふら揺れながら前を歩く3人になんとかついてきているという感じだ。
周りから見たら危なかっしいと思われるような歩き方をしている。
「はぁ……はぁ……」
しかも、走っているわけでもないのに彼女はなぜか息を荒げて苦しそう。
一番遅く歩いているから疲れているわけでもないし、一行の中で一番体力がある彼女がこんなに息を荒げているのは明らかに異常。
3人もユウキの様子がいつもと違うことは勿論察しており、ワイワイ雑談ができる雰囲気でもないため、この静かな空気が出来上がってしまっているのだ。
そして、そんな彼女を心配に思ったのか、文は後ろにいるユウキの元へと歩みを進め、心配そうにユウキの顔を覗き込む。
「どうしたの、ユウちゃん? 今日はなんだか元気がないみたいだけど……」
「ぐっ……! あぁ……!」
文が心配そうにユウキの元へと歩み寄ったものの、文が近づくにつれてユウキは胸に手を当ててながら苦しそうにうめき声のような声をあげる。
その普段と全然違う彼女に文はさらに心配になってしまう。
「だ、大丈夫!? 今日なんかおかしいよ?」
「き、気にしないで! それより……そのぉ……ふーちゃん、もう少し離れててくれない?」
「え……何? 私が近くにいるのは嫌ってこと? ショックなんだけど……」
「ち、違うの! その……ふーちゃんの方から寄ってくれるなんて嬉ションするレベルで嬉しいのだけど、今は違うというか……」
悲しい目で見つめられてしまい、文の目を合わせることができないユウキ。
普段なら自分から文に絡みにいくのになぜか今日は明らかに文を避けている。
文のことが大好きな彼女の態度がおかしいのは回りの目から見ても明らかだ。
何故彼女が今日だけは文を避けているのか?
その理由は昨日、彼女の部屋でクロエルから聞いた話のせいだ。
実は彼女、昨日『文がエッチな人が苦手』という情報を聞いて、やらしい気持ちを抑えようとしているのだ。
しかし、彼女は文の側にいるだけでやらしい気持ちになってしまい、ついついセクハラ行為をしてしまうくらい我慢ができない人間なのだ。
そんな彼女が文の近くにいながらセクハラを我慢するというのは至難の業だった。
「ふーみん、ユッキーにも色々あるんだよ。今はそっとしておいてあげなよ」
文がユウキを心配そうに構っているところにクロエルが横から入り、諭すように文にユウキから離れるように言う。
昨日、ユウキに『文はエッチな人が苦手だよ』って自分が伝えたこともあり、彼女が何かに耐えていることを察したらしく、ユウキの手助けをしようと思ってのことだろう。
すると、文も自分が何か悪いことをしてしまったのではないかと思ったのか、少し困った表情でユウキの方を見て頭を下げた。
「うん……よくわかんないけどごめんね、ゆーちゃん」
「い、いや! こっちこそ心配させてごめん! ちゃんと後ろからついていくから!」
文はユウキのことを心配そうにしながらも先頭にいるシスティアの元へと歩いて行ってしまった。
そして文が離れていくのを確認したクロエルは昨日ユウキの部屋でした話について聞き出そうとした。
「ユッキー……もしかして昨日のこと気にしてる?」
「……当り前じゃない。私がふーちゃんの苦手なタイプに入ってるなんて知ったらね……」
「そ、そっかぁ……それにしてもなんで今日はそんなに苦しそうなの? 昨日の話が関係してるんだろうけど……」
「うん、ちょっと禁断症状出てるの。私、ふーちゃん成分を補給しないと色々と身体がおかしくなる体質だから」
「何よそれ……身体よりも頭がおかしいと思うんだけど……というかそれならふーみんの側にいたらいいじゃない。 別にそこまで離れなくてもセクハラしない程度で普通に接したらいいだけだと思うんだけど……あれだけ露骨に避けてるとふーみんも気にしちゃうわよ」
「だってぇ……ふーちゃんの側にいたら無意識に匂いを嗅いじゃうし、ふーちゃんの匂いでムラムラするんだもん。正直近くにいたら色々我慢できる気がしないわ」
「えぇ……そんな発情期の犬みたいなこと言われても……」
獣並みの性欲を持つユウキにドン引きするクロエル。
だがユウキがこうなってしまったのも昨日の夜に自分が文の苦手なタイプを教えてしまったことにある。
別に自分が悪いわけでもないが、ここまで苦しそうなユウキを見ていると罪悪感を感じてしまっているみたいだ。
しかし、罪悪感を感じると同時にクロエルの中でユウキに対して印象が変化していった。
「でも、そうやって好かれるために何かを変えようとするのはいい事だと思うよ? 正直ユッキーのこと見直したよ」
今までは文にボコボコにされても懲りずにセクハラを続けていた彼女だが、自分から変わろうとしているその姿にクロエルはユウキに対する印象が少し変わっていったのだ。
ある時は自分に暴言と暴行をお構いなしにする暴君。
ある時は友達の文にセクハラで困らせるスケベ女。
クロエルはユウキにそんな悪い印象しかなかった。
しかし今の彼女はどうだろうか?
方法はともかく文に好かれようと努力しようとしている。
今までにないユウキのその姿勢に交換を持ったクロエルはユウキのことを褒め称えた。
しかし、そんな優しく語りかけてきたクロエルに向けてユウキは『あ?』と何故かキレ気味に彼を睨みつけていた。
「なに上から目線で話しかけてきてんのよ、私のこと舐めてんの? ぶん殴るわよ」
少しは改心したと思われたユウキだったが、クロエルの扱いは相変わらず。
クロエルもクロエルで見直したはずだったが、相変わらずの態度に『前言撤回』と言いたくなる。
そんなクロエルがぶん殴られそうな危機になっている一方で前を歩いていた文とシスティアの方で異常事態が発生していた。
「あぁっ! スライムの群れがフミさんにいっぱい群がってます!」
「いやあああああああっ! 服の中に入ってきたぁ!!」
ユウキとクロエルが先頭の方を見ると身体の節々にスライムがくっついている文の姿が……
システィアはなんとか文にくっついているスライムを引きはがそうとしているが、力が弱い彼女にはなかなか剥がせないらしく、苦戦している。
「あ! 自分の欲を払うことに必死で忘れてたけど、ふーちゃんを前線に立たせたら魔物の餌食になるんだった!!」
いつもはユウキが先頭に立って寄ってくる魔物を薙ぎ払っていたので、これまでなんとか文が魔物が襲われることは少なくなってきていたが、今日はユウキが後衛にいたため久しぶりに文が魔物の餌食になることになっていたのだった。





