17-1話 苦手なタイプ
先日魔族たちとカフェでお喋りを楽しんだ勇者一行は次の町へ向かう道中で家を建てて休みを取っていた。
そして今は、辺りがもう真っ暗になっており、良い子は寝る時間。今の時刻はだいたいそれくらいの時間であった。
そんな時間の中、文の部屋では電気がついており中から何やら楽しそうな二人の声。
一人部屋の持ち主の文、もう一人はクロエル。
二人はベッドの上でお互い座ってキャッキャッとガールズトーク(?)に花を咲かせていた。
「ふわぁ……」
しかし、話が盛り上がってきたところなのに文から大きなあくびが……
「あれ? ふーみん眠い?」
「う、うん……いつもはもう寝てる時間だから……」
あくびをした文に気遣ってクロエルも自分の部屋に戻ることにし、夜のお喋りもお開きの流れに。
時間も時間であるため仕方がないだろう。
「じゃあしょうがないね~、私も寝るとしますか」
「ごめんね、せっかく楽しくなってきたところなのに」
「ううん、気にしないで。また明日話そうよ」
「うん……ありがと」
「それじゃあ私も部屋に戻るね」
クロエルはベッドから立ち上がって部屋の扉を開く。
文もクロエルを見送るために目をこすりながらも扉まで歩いて行った。
「じゃあねふーみん、おやすみー」
「ふわぁ……おやすみぃ、くーちゃん」
クロエルは文の部屋から出て行き、パタンと部屋の扉が閉められて文はそのまま眠りにつく。
部屋から出たクロエルは『ふぅ……』と小さく息をついていた。
「さてと……ユッキーに報告へ行くとしますか」
文の部屋の前で小さくそう呟いたクロエル。
そう言った彼は1階にある自分の部屋に帰るのかと思いきや、向かっていったのは文の部屋の隣にあるユウキの部屋。
どうやらユウキに何か用事がある様子だ。
ユウキの部屋の前に立ったクロエルは部屋の扉を小さくノック。
すると中から『入りなさい』と上から目線のようなセリフを吐かれてから、クロエルはゆっくりとドアノブを回して部屋に入る。
「ごくろうね、ふーちゃんからちゃんと情報は落としてきたのかしら」
言うまでもないが部屋の中にいたのはユウキ。
彼女は部屋着でベッドで携帯を弄りながらクロエルに尋ねる。
しかし、質問するものの目線は携帯の方に向けており、クロエルと目を合わせようとしない。
「うん、ちゃんとお願いされた通り色々と恋愛に関することに聞いてみたよ」
「“お願い”じゃないわよ? “命令”よ」
「あ、はい……」
「あと、私が見てない間にあの子に何かしてないでしょうね?」
携帯を見つめていた目をパッとクロエルの方に向けて睨みつけるユウキ。
殺気だった目つきを向けられてしまいゾッと背筋に寒気が走るクロエル。
なんだか彼女の家に遊びに来たものの、うっかり父親と二人きりになってしまった彼氏みたいな状況になってしまっている。
「し、してないわよ。私のタイプとか知ってるでしょ?」
「どうだかねぇ……男って興奮してあそこがおっ立つとHすることしか考えられなくなるんでしょ? ふーちゃんと二人きりで話してるとムラムラしてそういうことがあるかもしれないじゃない」
「相変わらず男に対する偏見がすごいわねぇ……というか私が仮にそうだったとしてもユッキーに殺されるリスクを負ってまでふーみんを襲ったりしないわよ」
ただただ自分が嫌いだからてきとーな言いがかりをつけられていることは分かっているクロエルではあるが、『そこまで信用されていないんだ……』と肩をがっくり落とす。
だけど彼女にはいつものことであることも思い出したクロエルは床に向けていた目線を彼女に向けて本題に入ろうとする。
クロエルがユウキから受けた命令というのは『文から恋人にしたい人の条件を聞いてほしい……いや、聞いてこい』というものだった。
普段から自分の扱いが最悪なユウキの命令なんて聞くこともないだろう、と思うかもしれないが、クロエルは一応この勇者様のおかげで生活ができていることから彼女の命令に従うしかなかった。
とはいえ、この程度のことなら文が嫌な気分になることもない。
引き受けても問題ないとも考えてクロエルは先ほどまで文の部屋でお喋りをしていたのだ。
そして今はユウキの部屋でその結果報告というところだ。
しかし、報告の前にクロエルは彼女の命令を聞いた時から一つ気になったことがあり、本題に入る前にユウキに一つ質問をすることにした。
「そもそもなんでこんなに回りくどいことするの? ユッキーが直接聞けばよかったんじゃない?」
「馬鹿ね、私は普段からふーちゃんに好き好き言ってるのに私が直接ふーちゃんに聞いてもまともに答えてくれるわけないじゃない」
「そうかな?」
「あと悔しいけど私よりあんたのほうがふーちゃんから本音を聞けそうだからね。それにあんたを仲間として連れて行くときの条件として『私の恋に協力する』って言ったじゃない。これくらいは手伝ってもらわないとあんたにかけている生活費が勿体ないわ」
「う、うーん……そうだね……」
一応命令を受けた理由は聞けたものの、ある程度ユウキの役に立たなければすぐ追い出されてしまうことを再度認識したクロエルは少し冷や汗をたらして生活の危機感を感じていた。
そしてユウキは腰かけていたベッドから立ち上がりドアの付近にいたクロエルの元へとグイグイ向かっていく。
「で? で? で? で? どうだった? ふーちゃんはどんな子がタイプなの?」
「ちょ……落ち着いてって、そういう食い気味に聞いてくるのやめなさいよ。あんまりガツガツいくと女の子からよく思われないわよ」
「普段ならぶっ飛ばしてるところだけど、ふーちゃんから聞き込みしてくれた話を聞かせてくれるまでは我慢してあげるわ。聞いた後にぶっ飛ばすけど」
「結局ぶっ飛ばすんじゃない。じゃあ教えないわよ?」
「…………冗談よ、冗談」
「目がマジだったんだけど……」
「そんなことはいいからさっさと聞いてきたことを全部喋りなさい。あんたと無駄なお喋りをする気はないのよ」
「はいはい、私もお肌のために早く寝たいしさっさと報告しますよ」
クロエルはそう言うとパジャマのポケットに入れていた携帯を取り出す。
どうやら携帯の方に文から聞いてきた内容をメモしていたみたいで、その内容を改めて読んでいた。
「えーっとね……好きなタイプは優しくて一緒に居て安心する人なんだって。案外外見より内面気にしているのかな? 面食いな私とは違うみたい」
「あんたの情報は別にいいわよ……でも、ふーちゃんのタイプは優しい人かぁ……じゃあ私は結構当てはまってるのね」
「…………何をどう捉えたらそう思うの? 私目線から見たふーみんにとってのユッキーって毎度のようにセクハラしてきて落ち着かせる暇も与えない迷惑人なんだけど」
「あれはセクハラじゃなくてスキンシップ! 女の子同士なんだしなんの問題もないわ」
「どう見てもふーみん嫌がってるけどねぇ……やりすぎはダメよ?」
「はん! 偉そうにアドバイスするとか言ってたけどあんたも乙女心が分かってないわねぇ。女の子はグイグイ来てくれる子に惹かれるものらしいわよ? 特にふーちゃんみたいな大人しめな子ならきっとそうだわ!」
「たしかにリードしてくれる人の方が女の子にモテるだろうけど、ユッキーの場合グイグイ行き過ぎて惹かれてるんじゃなくて引かれてると思うわよ?」
自身満々に自分がモテる人格であることを語るユウキ。
こういう所を勘違いしているのがダメなんだと思われるが、彼女にその自覚はない様子。
好きな子の嫌がることをするという、小学生の男の子のような恋愛知識を持ったユウキにこれからアドバイスしなければならないのか……とクロエルも頭が痛くなるところである。
そこでクロエルはユウキにお灸を据える意味合いもこめて、彼女にとって悪い情報を次に出すことにした。
「そうそう、参考になるかと思って『こういう人は苦手』っていうのも聞いてきたんだけど聞いとく?」
「もちろん聞くわよ。もし私に当てはまる点があるならあの子と結ばれるためになんでも治すわ!」
「そう、それは良かった。ユッキーにがっっっっっっつり当てはまってることだったから」
「は? 何よ? 美形で強くてお金も持っている私に何があるって言うのよ? え? 死にたいの?」
「ちょちょちょ!! 落ち着いて! さっきまで治すところあれば治すって言ったのに!そもそも、ふーみんから聞いたことなんだから私は何も悪くない!」
ユウキが文の苦手なタイプに当てはまることを大げさに伝えるクロエルだったが、彼女に逆上されてしまい逆に自分の命が危険なことになって焦って弁明。
逆上したユウキもクロエルの反論を聞いて落ち着いたのか、彼から離れて自分のベッドに再び腰掛ける。
「で? その苦手な人って何? 私に”ちょっと”あてはまってるって言ってたけど……」
さっきは怒ってクロエルに詰め寄ったが、よくよく考えれば文の苦手なタイプに自分が当てはまっているのは致命的。
今後好かれるためにも自分のダメなところは直さなくては……
そう考えたユウキは神妙な顔をしてクロエルに尋ねる。
「えっとね……エッチな人は嫌なんだって」
「…………」





