16-2話 エナとの初対面
「あ、マオちゃんにエナちゃん。どうしてこんな所に?」
後ろを向きながら背後にいる魔族2人に話しかける文。
マオの身長が低いせいか座りながらでもあまり目線が変わらず、パッと目が合ってしまう。
さらにエナの方を見ると何やら両手に袋を下げており、買い物帰りなのかと予想がつくところ。
そんな予想を立てているとマオの方が『ククク……』といつものように不敵に笑いだして語り始める。
「何、見ての通りこの町で買い物をしてきたところだ。本屋に寄って高度な魔導書や将来魔王として相応しくなるために色々と啓発本を漁ってきたところ――」
「本当はマオ様の好きなラノベの新刊がいくつか出ているのでまとめて買いに……」
「エナ! 黙ってなさい!」
本当の目的をペラペラしゃべりだすエナを叱咤するマオ。
どうやらラノベを読んでいることを隠しているらしい。
たしかに魔王様の愛読書としては相応しくないかもしれないが、むしろ年相応な物を読んでいて微笑ましいかもしれない。
「へ、へー……そうなんだ。あれ? 本が入った袋とは別に何かあるけど、そっちは?」
エナが手に持っているのは本屋の袋だけでなく何やら小洒落た紙の箱を手に持っていることに気が付いた文はそれについても聞いてみることに。
「あぁ……これは少し後方に見えるケーキ屋で買ってきたケーキだ。ククク……先日食べたものが大変美味だったのでな……我が舌に叶う供物として再び頂きに――」
「とか言ってるっすけど本当は元魔王様であるお父様にも食べて貰いたいからお土産用に買いに行きたいって……」
「だから! なんで言うの!?」
魔王という邪悪なイメージからかけ離れた親思いであることを隠したいのか、嘘をついていたみたいだが、再びエナにばらされてしまい普通の口調で叱るマオ。
そんな友達の悪ふざけのような二人のやりとりにクスクス笑う文。
変態との会話に疲弊している文にとって彼女たちの会話は癒しになっているのだ。
だが、一方でそんな文と魔族2人のやり取りにユウキが『あれ?』と首を傾げていた。
「ねぇねぇ、ふーちゃんちょっと聞いてもいい?」
「ん? 何? ゆーちゃん」
「なんでふーちゃんがえっちゃんのこと知ってるの? 初めて会うはずよね?」
「え? …………あ!」
ユウキに尋ねられた文は『しまった!』とやらかしたような表情。
彼女の言っている“えっちゃん”とは恐らくエナのことだろうが、確かにユウキからしたら文がエナのことを知っているのはおかしいことなのだ。
先日誘拐された時にエナと知り合いになっているのだが、勇者一行の中で文以外はその事を知らないため、文がエナを知っていることに違和感を感じるのは当然。
しかし、ここで先日マオの命令によって誘拐されたことを話してしまうと、マオの印象を下げてしまうため良くない……というよりは先日マオにさらわれたことについてはユウキに内緒にすると約束してしまったので言えない。
文はどう言い訳しようか悩み込んでいた。
「ところで何話していたんすか? あ、ここの席空いているので座らせて貰うっすね」
「あ、ちょっとエナ! 席が1つしか空いてないんだからそういう時は私に譲りなさい!」
「えー、なんでっすか? 早い者勝ちっす!」
「そういうもんじゃないわよ! 主人を立たせて自分だけ座るメイドが何処にいるのよ!?」
しかし文が言い訳をする間もなく魔族の2人が喧嘩を始めてそれどころではなくない状態。
文に質問をしたユウキも『まぁまぁ』と2人をなだめており、もう文のことは気にしていない様子で、図らずとも二人の喧嘩によって有耶無耶にできた文はホッとする。
「落ち着きなってマオ。マオはちっちゃいんだし私の膝の上にでも座れば?」
「な……! わ、我は魔王なのだぞ、勇者の膝の上なんか……それにちっちゃいって言うな!」
「まーまー、そう言わずにさ、ほら!」
「ちょ……! 持ち上げるな!」
ユウキは座った状態のまま片手でマオを持ち上げて自分の膝の元へ持っていき、そしてマオはマオで膝の上に乗せられると、先程まで騒いでいたのが嘘のように静かに……
どうやら膝の上に座るのは実はまんざらでもないようだ。
「こうやって一緒に座ると昔のことを思い出すわね〜魔王城にちょくちょく遊びに行ってた頃はマオの方から私の膝上に乗ってきたわよね」
「ち、ちがっ……! 私……いや、我が勇者に甘えることなんて……」
「もう、つれないんだからー……ウリウリー!」
「や、やめ……! や、やわらかぁ……!」
懐いた猫のようにユウキがマオの顔に頬をスリスリ。
思い人にそんなことをされてしまったマオはタジタジ。
しかも身体が密着しているせいでユウキの豊かなバストがむにゅんと触れてしまい、顔が真っ赤だ。
さらにつつーっと鼻から顔よりも赤い血が……
「あー、マオ様ったら……はい、ティッシュあるっすよ」
「あ、ありがとう……エナ」
鼻血を垂れ流しているマオはユウキに抱かれたままエナの方に顔を寄せて鼻血を拭かせる。
小さな女の子が抱かれているだけなら微笑ましいのだが、鼻血を垂れ流しているせいでなんだかよくわからない光景になってしまっている。
「あ、マオとえっちゃんもついでに何か注文する? 私の奢りでいいわよ」
「いいんすか? じゃあ牛乳をお願いするっす!」
「あ……じゃあ私は輸血がわりにトマトジュースで……」
「OK、すみませーん! 注文よろしいですかー!」
二人の飲み物が決まったところでユウキが店員を呼ぶと『はーい!』と元気よく返事をした店員がやってくる。
先ほどの魔族二人の飲み物をユウキは頼み、店員は笑顔でオーダーを取ると、飲み物を取りにいくために店の方へと歩いて行った。
「ところでそのフリフリした服を着た方は? マオさんとユウさんのお知り合いですか?」
初対面であるエナについてシスティアが二人に尋ねる。
フリフリした服というのはメイド服のことだろうが、修道院にずっと居てあんまり世間のことを知らない システィアにとってはメイドのことを知らないのかもしれない。
システィアの質問を聞いて『そういえばシスティアとクロエルはまだエナのことを知らないのだった……』と、思い出した文。
自分の口から紹介しようかと一瞬だけ口を開こうとしたが、本当はエナと面識はないという手前、そういうわけにもいかないことも思い出す。
そんなことを文が考えていたが、エナが『あ、私のことっすか?』と自分から紹介しそうな流れに。
「私はエナという者でマオ様の所で専属メイドやってるっすよ~」
「メイド……? それはどういったお仕事なのですか?」
「うーん……簡単に言えばマオ様のお世話する人っすね! 掃除とか料理とか洗濯とか……あとマオ様のトマトジュース用意したり、色々あるっすよ〜」
「へー、魔王様のお世話だなんてとても立派なお仕事なのですね」
「でへへ、そうでもないっすよぉ♪」
システィアに褒められて自身の頭を撫でて機嫌をよさそうにするエナ。
だが、そんな上機嫌な彼女と比べてマオは曇った表情でエナを睨みつけていた。
「エナ? メイドの仕事の説明としては間違っていないけれど、あなたが今言ったその仕事をちゃんとやってるところを見た記憶があまりないのだけど? 掃除をすると思いきやサボって部屋で本を読んでいることが多々あるし、洗濯や料理なんて大人のメイド達がやっててあなたはやっていないじゃない」
「でも今日は仕事やってるっすよ? ちゃんとマオ様の荷物待ちやってるじゃないっすか」
「よくそんなことが言えるわね。買い物を済ませた時に荷物持ちを頼もうとしたら……『よーし! マオ様! じゃんけんで負けた方が荷物持ちやるっすよ!』とか言いだしたくせに……メイドなら自分が持つって言いなさいよ」
「結局マオ様がじゃんけん勝ったんだからいいじゃないっすかー! 終わったことにグチグチ言うなんて器が小さいっすねー。小さいのは背だけにしてくださいっすよ」
「こんの駄メイドは……!」
とてもメイドとは思えない喧嘩腰の話し方に怒りでプルプル肩を震わせているマオ。
そんな彼女の怒りが爆発しないように『まぁまぁ!』とユウキが落ち着かせている。
「ところでノースリーブの修道服を着たあなたとピンクのツインテの方は?」
怒りで主人が肩を震わせている中、メイドのエナはそんな主人を無視して初対面であるシスティアとクロエルについて話しかける。
主人よりも自分の興味ある事を優先するその様は犬より猫を彷彿とさせる。
メイドとしてそれはマズイ気がすると思われるが……
「あ、私はシスティアと申します。元シスターでしたが、今は訳あってユウさんの旅について行ってます」
「私は美少女黒魔のクロエル! よろしくぅ、エナりん!」
名前を聞かれてそれぞれ自己紹介するシスティアとクロエル。
クロエルに至っては初対面でいきなりエナをあだ名呼びするくらい大胆に接している。
「お? なかなかフランクな方っすね。そういうの嫌いじゃないっすよ」
「うぇーい!」
「うぇーい!」
いきなりのあだ名呼びは普通はどうかと思うところだが、エナのノリが良いのか、いきなりあだ名呼びされても動揺することなくクロエルとハイタッチ。
お互いハイテンションなためか、結構気が合う二人なのかもしれない。
「あ、そういえばマオちゃんのあだ名をまだ決めてなかったね! 私があだ名をつけてあげるよ!」
エナにあだ名をつけて勢いに乗ったクロエルは今度はマオにもあだ名をつけようとニコニコしながらユウキの膝にいるマオに寄っていく。
しかし、マオの方はというと『なんだコイツ……』と言いたそうな冷たい目で彼をにらみつける。
「別にいいし……我にあまり馴れ馴れしくするな」
「そんなこと言わずにさぁ、仲良くしようよ☆ そうだなぁ、マオちゃんはぁ……マオっちで! よろしくぅ♪」
エナに続き勝手にマオのあだ名までつけてクロエルは笑顔でマオの方に手を差し出す。
しかし、ユウキの膝にお座りしているマオはというと、嫌そうな顔をしたまま差し出されたクロエルの手を見つめたかと思うと、しばらくしてからその手をパシンと払い除けた。
「お前、キライ」
「ガーン!!!」
ツンデレのような照れ隠しではなくハッキリとした嫌悪を示されたクロエルは相当ショックを受けて机に突っ伏す。
まだ会ってそれほど面識がないはずなのにここまでハッキリ拒絶されると心が折れてしまうのは無理もない。
そしてそんなショックを受けている彼を大げさに笑うものが1人……
勿論ユウキだ。
彼女はお腹を抱えながら机を叩いて笑っている。
「ぎゃはははは! マオはいい子ね~、あんな奴と絡んだら汚れちゃうもんね~」
マオの頭を撫でて且つ、クロエルを笑うユウキ。
とても勇者とは思えないほど下品な笑いではあるが、それほどクロエルの不幸が嬉しいのだろうということは伝わる。
そしてそんな光景を見ていたエナはクロエルに同情気味に笑っていた。
「はは、マオ様にこんなに嫌われるなんてクロさんなんかしたんすか?」
「うぅ……た、たしかに初めて会った時失礼なこと言っちゃったけど……」
「へー、なんて言っちゃったんすか?」
「小ちゃいとか……厨二病とか……」
初めて勇者一行がマオに会った際、その幼い姿から魔王だと信じられなかったクロエルは彼女のことを『そんなに小さな身体で魔王だなんて厨二病かなwww』といった感じでバカにしていた。
どうやら彼女はそのことを根に持っているらしく、クロエルとあまり馴れ合う気がないらしい。
「あー、確かにマオ様は結構それを気にしているみたいっすね、私がちょくちょく弄ってもいっつもムキになって怒るんすよ」
「え? エナりんは怒るの分かっててマオっちを弄ってるの?」
どうやら普段からマオの怒りに触れるようなことを言ってるらしいエナ。
そんなエナを専属として雇い続けているマオには何か理由があるのではないのかと気になってしまうところ。
「ところで何について話していたんすか? 私達も仲間に入れてくださいすよ~」
自己紹介が終わるとエナが自分たちも話に混ぜてくれとグイグイ割り込んでくる。
だが主人であるマオは勝手に自分も含めて話を進めてくるエナに何か言いたそうだが、エナを見つめるだけで何も言わない。
「実はシスが自分は影が薄いーって言っててさ、その悩みの相談を受けていたのよ」
「へー、シスさんって影が薄いんすか?」
「私達は思っていないけどね。シス自身はそう思ってるらしいわよ」
「ふーん、あまりシスさんのこと知らないっすけどそんな服着てる人がキャラ薄いわけないと思うっすけどねぇ」
若干毒舌気味なエナの言葉に『もっともだ』と文、ユウキ、クロエルの3人は何も言わずにうなずく。
しかし当の本人であるシスティアは『でも……』と不満げ。
「私なんかと比べたらユウさんやクロさんの方がずっとキャラが濃いですから……」
「あー、確かにユウさんとかすごくキャラ濃いっすもんね。んー、シスさんのことはまだよく知らないっすけど、影が薄いというならキャラを作っていけばいいんじゃないんすかね?」
「キャラ……ですか?」
キャラが薄いならキャラを作ればいいと提案をするエナ。
確かに目立ちたいなら目立つキャラを演じるというのは合理的かもしれない。
「例えばぁ、そこのクロさんとかは普段からキャラ作ってるんじゃないっすか?」
「ギクッ……な、なんのことかなぁ? 私は生まれた時からカワイイんだからキャラなんて作る必要ないし!」
少し動揺して、たらりと冷や汗をかきながらも『キャハッ☆』といつものようにぶりっ子ぶるクロエル。
そんなキャピキャピしている彼を良く思っていないのか、隣の席の勇者と魔王が殺気を立てて睨みつけている。
「そもそもどういったキャラを演じれば……」
「そうっすねぇ……セクシーキャラで売っていけばいいんじゃないっすか?」
「せ、セクシーキャラですか? ……何故私にそんなキャラを?」
「おっぱい大きいじゃないっすか」
「え? そ、それだけの理由ですか?」
単純な理由でキャラ付けをするエナに戸惑うシスティア。
キャラを作ればいいと提案したはいいものの雑な対応しかしないエナは本当は何も考えてないのかもしれない。
「それにセクシー要素なら私よりフミさんの方が……」
「私、いつのまにセクシー要因になってるの? めちゃめちゃ不本意なんだけど」
自分よりセクシー要素あるというシスティアに不満げな文。
身体は女子中学生で未熟でとてもユウキやシスティア並みのスタイルを持ち合わせてはいないものの、他のメンバーよりもエッチな目にあっているのは確かである。
これも魔物と出会う度に彼女がヌルヌルネチョネチョの目に合うせいなのだろう。
「でもそんなに気にすることはないんじゃないっすかね? ありのままの自分でいるのが一番っすよ」
「そうですかねぇ……皆さんと一緒にいると存在感がなくなるような気がして……」
「私はそうは思わないっすけどねぇ、シスさん美人ですし変にキャラなんか作らなくてもいいと思うっすよ」
「び、美人だなんてそんな……!」
エナのふいの言葉に顔を赤くするシスティア。
あまり容姿について褒められ慣れていないのか、俯いてモジモジ。
初対面でありながらもグイグイと積極的に来るエナの言葉に少しドキリとしてしまうシスティアであった。





