16-1話 ポジション
先日携帯ショップで携帯の契約をした勇者一行は、本日、今後の旅のために生活に必要なものを町で買い物をする日となっていた。
一通り買い物を済ませた後、4人は明日からの旅に向けて休憩を取っていた。
カフェのテーブルについて各々好きなものを注文してはリラックスタイム。
『もう買うものはないよね?』、『次の町はどこに行く?』と今後の予定や雑談を合わせてワイワイ楽しそうに話し合っていた。
だが、そんな楽しそうな空気の中、浮かない顔をしているものが一人だけいた。
「はぁ……」
その浮かない顔をした者の小さくはあるが重いため息。
そんなため息がカフェのテーブルを支配し、他の3人はピタリと話題がストップ。
そのため息の主以外の3人はその人物の方を同時に見ていた。
「ん? どったの? シスチー、元気なさそうじゃん」
「ため息なんかつくなんて何かあったの?」
「珍しいわね。シスがため息なんかつくなんて」
そう、ため息の主はシスティアだった。
普段は精神的にも肉体的にも辛いことですら快感に感じる彼女に悩み事なんて無縁そうなものなのだが、なにやら思いつめたような表情に3人は心配そう。
「あ……す、すみません! 変にご心配をおかけしてしまいましたね。私のことは気にしないで良いですから」
ため息について言及された彼女はハッとした顔をして頭を下げる。
反応からしてうっかり漏れたため息だったらしく、3人を心配させてしまったことに申し訳なさそう。
「何か思い詰めるようなことでもあったの? 話聞くよ?」
「まぁ、もうシスは私達の仲間だからね、一人だけ抱え込むことないわ」
「うんうん、そうだよ私達もう友達じゃん☆ なんでもいいから打ち明けちゃいなよ」
謝るシスティアに3人は笑いかけて優しい言葉を投げかけて相談するように持ち掛ける
すると3人の優しさに安心したのか、システィアは先ほどまでの曇った顔が消え、安心した表情へと変わっていた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えて話を聞いてもらってもよろしいでしょうか?」
システィアは3人に頭を下げてお礼を言うと真剣な顔立ちへと変わり、ゆっくりと口を開いて悩みを打ち明ける。
「最近、皆さんと一緒にいる時にふとおもうことなのですが……なんというか……私の影が薄くなっていないですか……?」
「「「…………?」」」
システィアが3人を見つめがら言った悩みというのは『私の影が薄い』というもの。
しかし、そんな悩みを打ち明けた彼女以外の反応は微妙なものだった。
「え? そうかな? シスチー、キャラ濃いと思うけどね」
「うん、私もそんなことないと思うけどなぁ……」
システィアの『影が薄い』と言う発言にクロエルと文は『そんなことはない』という意見の文とクロエル。
文に吹き飛ばされても平気だった真性のドMである彼女が影薄いなんてことはないだろう、という考えだ。
「いえ! ありますよぉ!」
急にテーブルを『ダン!』と強く叩きながら席を立って否定するシスティア。
急に声を荒げたので文とクロエルはビクッとして椅子がガタッと揺れる。
「び、ビックリしたぁ……シスチー急に大きな声出さないでよ」
「ちょ、ちょっとシス落ち着きなよ……なんか怖いよ……」
普段はおとなし目な彼女が急に大きな声を上げたので少し声色が震える年下組二人。
ユウキならまだしも彼女が声を荒げることは珍しいことな。
システィアも『すみません……』と二人を驚かせてしまったことに反省してゆっくりと席に着席。
だが、逆に言うと普段おとなしい彼女がここまで声を荒げるということは、本気で自身の存在感について悩みを抱えている様子だ。
「でも私はシスにはすごい特徴あるし、存在感あると思うけどなぁ……それに比べたら私なんかなんの特徴もないし……」
だが、そんな悩みを抱えているシスティアの話を聞いているはずなのに今度は文が愚痴を零す。
キャラの濃いシスティアがそんなことを悩んでいるなら私は……と、自分の特徴のなさに落ち込んでいる。
「そんなことはないです。フミさんは私達の中ではすでにツッコミのポジションが確立していますから。私達一行の中では一番欠かせない存在だと思いますよ?」
「あ、ありがとう……でも、喜んでいいのかわかんないんだけど……」
システィアに慰められる文であったが、ツッコミというポジションの地位が他人から見ても確立してしまっている事実にガックシと肩を落とす。
たしかに他の3人が変人であるせいで文のツッコミはかなり負担が大きく、苦労人ポジションであることも明らかであることから落胆するのも無理はない。
「ちなみに私はシスから見てどうなの? その口ぶりだとやっぱり自分よりは影が濃いと思ってる?」
文に続いて今度はユウキが自分とクロエルの影について質問。
質問を受けたシスティアは『勿論!』とばかりに頷く。
「ユウさんは言わずもがなで私達の中では中心の存在です。みんなを引っ張っているリーダー的存在ですね」
「な、なんかそんなこと言われると照れちゃうわね、へへっ」
まさか褒められると思っていなかったのか、少し顔を赤くして顔をポリポリ掻くユウキ。
しかし、セクハラの被害者側である文はシスティアによるユウキの評価には不満げ。
いつもセクハラされている身からしたらこんな変態勇者がリーダーというのは改めて考えると嫌なのだろう。
「じゃあ、私は私は? やっぱりカワイイポジションかなぁ?」
ユウキに続いてクロエルも自身のポジションについてシスティアへ質問。
よほど自信があるのか、確信ありげにニヤニヤしている。
「そうですねぇ、クロさんは弄られポジションですかね」
「え?」
「自信たっぷりな性格なのに色々と弄られて落とされてしまっておいしいポジションですね。正直私はうらやましいです」
「スーパー美少女の私が弄られポジ……そんな芸人みたいに思われていたなんて……」
システィアからは羨ましがられつつも、全くうれしくなさそうなクロエル。
望まない弄られポジが定着されていることに動揺し、落ち着こうと飲み物をいったん口にしようとしているが、カップを持っている手が震えている。
「それにクロさんはユウさんといつも楽しそうにお喋りしているじゃないですか。一番影の濃いユウさんと仲が良いですから」
「「ぶふっ!!」」
システィアの発言によって飲み物を含んでいたユウキとクロエルは同時に吹き出し、『ゲホゲホッ!』と咳き込み、お互いに指をさしてにらみ合う。
「はぁ!? どこをどう見たら私がこんな女装ホモと仲良くしているように見えるのよ!?」
「ちょっと! 仲良くないってのはユッキーと同じ意見だけどホモって言うな! それを言うならユッキーだって百合じゃない!」
「お前……!ホモと百合を一緒にするっての!? 汚い男達が絡み合う地獄絵図と綺麗な百合を一緒にするなんて万死に値するわよ!」
「なんで男は汚いって決めつけてるのよ! そんなこと言うならユッキーなんかいつもセクハラに暴言三昧でよっぽど汚れた人間じゃない!」
システィアに仲良し発言にすぐさま席を立って声を荒げて反論してきた二人だったが、論争の元となった発言をしたシスティア本人をそっちのけで喧嘩しだす。
片手でクロエルの胸ぐらを掴んでガクガク揺らすユウキと胸ぐらを掴まれて宙に浮きながらも果敢に反抗するクロエル。
ユウキとクロエルが喧嘩するなんていつもの光景ではあるが、システィアは何故か不満げに頬を膨らませていた。
「もー! そうやって楽しそうにしているじゃないですかぁ! お二人がそうやって長いことお話するから私の影がどんどん薄くなっていくんですよぉ!」
二人が喧嘩することでどんどんと自分の影が薄れていくことを危惧して二人に文句をつけるシスティア。
そして、システィアにそんな反応されてしまっては喧嘩を続ける訳にもいかなく、ユウキはクロエルを掴んでいた手を放して二人とも着席。
「なんだかクロさんが付いてくるようになってからはさらに私の影が薄くなっている気がするのですよ……それにこの前フミさんが鳥の魔物に誘拐された時なんて私一人だけ置いてけぼりにされたじゃないですか……」
「あ……た、確かにあれに関しては本当に申し訳ないと思ってる……」
先日、文が鳥の魔物に誘拐された際(10話参照)、
ユウキも愛しの文の命の危機ということもあり、システィアのことなんか全く頭の中になく、彼女を独りぼっちにしたまま、クロエルと共に文の元へと飛んで行ったことがあった。
緊急事態であり仕方のないことだったとはいえ、何も言わずに彼女を置き去りにしたことについては多少反省しているらしく、ユウキは申し訳なさそうにシスティアに頭を下げる。
確かにあの時はシスティア以外の面子だけが色々ワチャワチャと大騒ぎをしていた。
彼女はその時のことを引きずっているのかもしれない。
「それに最近はマオさんという濃い方も出てきたじゃないですか。新たな知り合いが増える度に」
どうやらどんどん新たな濃いキャラが登場してきたことに自分のキャラが薄れている気がして不安と感じているらしいシスティア。
彼女の後に勇者一行に加わったクロエル、そして最近ではチビ魔王のマオに加え、システィアは知らないが駄メイドのエナも出てきたところ。
確かにキャラの濃い連中ばかりだ。
「でもシスも十分濃いと思うよ? なんなら3人の中で初めて会った時に一番ドン引きしたのはシスだからね?」
「そ、そうですか? そう言ってもらえると嬉しいです」
「褒めてない」
文の言葉になぜか顔を赤らめて嬉しそうに返事するシスティアと皮肉を言われていることに気づかないシスティアにあきれる文。
なんだかんだでいつも通りのシスティアに対して『本当に悩んでるの?』と言いたくなるところだ。
「お? フミさんとユウさんじゃないっすか。奇遇っすね」
なんだかんだで平常運転のシスティアにあきれていると後ろからと特徴のある語尾で名前を呼び声。
振り返るとそこには小さな身体をした紫髪ショートと身長の割に小さな胸の青髪ポニーテールの女の子。先ほど話に少し上がったマオと、そのメイドのエナの2人だった。





