13-3話 転移の魔法
「えっと……別の世界?」
「あははは、その設定、漫画みたいで面白いっすね〜」
魔族の二人に自分が異世界人であることを伝えた文であったが、二人の反応は芳しくない。
マオには頭にハテナマークを浮かべたような顔をされてしまい、エナにはユウキと初めて会った時と似たような反応をされてしまう。
やはり素直に言っても信じてもらえないみたい。
それにマオの反応からして、恐らくこの世界の最高レベルの地位であろう魔王ですら別の世界について何も知らないようだ。
(はぁ……やっぱりダメだったかぁ……
まぁ、そうだよね。魔王とはいえまだまだ小さい子だし、ユウちゃんより年齢の若い子が知っているわけもないか……)
人間とは違う魔族という種族なら異世界について知っているのではないかと心の中で抱いていた期待があっという間に砕かれてしまい俯く文。
しかし、思ったより絶望感はなかった。
ダメ元で二人に話したということもあるが、この世界に来てから時間が経ったことで慣れてしまったきたせいでもある。
落ち込んでも仕方ない……と顔を上げる文。
顔を上げてマオの方を見ると、マオは文の話に最初は混乱していたものの、話が終わって少したってから口に手をあてて何やら考え事をしていた。
「んー……でも、貴方の話が本当ならば、もしかしたら貴方を転移させた人がいるのかもしれないわ」
「転移?」
「魔法で離れた位置から一瞬で移動したり、させることが出来る魔法は存在するわ。実際貴方も目にしたと思うけれど、昨日私が貴方達の前に急に現れたのも転移魔法の1つを使ってたからなの。貴方が言ってるようにいきなり知らない場所に移動していたっていうのはもしかしたら転移魔法の可能性もあるんじゃないかとふと思ったわ」
「じゃ、じゃあ私はその転移の魔法とやらでこの世界に移されたってこと?」
「うーん……分からないわ。別の世界の住人を転移させることができるなんて魔王である私でも知らないから」
「そ、そっかぁ……」
「そう気を落とさないで。私の方でもちょっと調べてみるから」
どうやらマオは半信半疑ながらも文の言葉に耳を傾けてくれたようだ。
やはり王と呼ばれているだけあって寛大なのか文の悩みに対して真剣な顔をして考えている様子。
ただの痛い女の子だと思って理解しようとしないどこぞの勇者様とは大違いだ。
「マオ様ー、フミさんの話を信じてるんすか? 別の世界なんて漫画やゲームでしか聞いたことないっすよ?」
しかし、そんな文のことを多少気遣うマオを馬鹿にするようにエナが尋ねてくる。
ちょっと酷いのではないかと思うが恐らくこの反応が普通なのだかもしれない。
「何を言っているのよエナ! フミは家に帰れず困ってるのよ!? そんな困っている民の言葉に耳を傾けるのも王の務めよ!」
だが、意外なことにマオはエナに強く反論の姿勢を見せた。
まるでいじめっ子からいじめられっ子を守るクラス委員長かのように頼りがいのある姿だ。
しかし、エナもエナで譲らないとばかりに口をすぼめて主人であるマオに反抗の態度。
「本当に異世界人だったら民とすら言えるか怪しいと思うんすけどねー」
「本当に異世界人ではないとは言い切れないじゃない! この世の中は不思議でいっぱいなんだから!」
「いやいや、それにしても現実的じゃないっすよ……」
異世界人という非現実的なことを言う文のことを半信半疑ながらも耳を傾けるマオとハッキリと否定するエナに分かれた
しかし、普通メイドだったら主人に肯定しそうなところだが口答えする辺りこのエナというメイドは誰に対しても態度を変えない性格なのかもしれない。
それはメイドとしてどうなのだ? と思う所ではあるが……
そんなエナはというとマオがどうしてそんなに文の話を信じようとしているのかと不思議がっているような態度を取っていた。
「なんでマオ様はそんなに異世界人なんて電波設定を信じて……あ、そっか! マオ様って最近流行ってる異世界系小説を読み漁っているから異世界転移って聞いてワクワクしているんすね!」
「な、何言ってるのよエナ! 私がそんな低俗な小説読むわけ……」
「そういえばマオ様が小説に影響されて最近自分でもネットに小説を投稿してるの知ってるっすよー、確かタイトルはー―」
「わあああああああ!! ななななななななんで知ってるのよ!?」
「いやー、この前マオ様の部屋に掃除という名目で色々漁っていたらキャラの設定集とか書かれているノートを見つけたんすよ。最初は『うわっ、マオ様いったいなー』と思いながらペラペラ見てたんすけど、それぞれのキャラに何話で初登場〜みたいな書き方されてるので、もしや……と思ってネットで検索したらマオ様が書いてる小説が引っかかったんすよ」
「何勝手に私の部屋を探っているのよ! 身内にバレるなんて……恥ずかしい!!」
メイドだから部屋の掃除をすることは自然なのかもしれないが、勝手に部屋の中の物を探られてしまったことによる怒りと自分の妄想の産物を見られてしまったことの恥ずかしさでカーっと顔が赤くなる。
恥ずかしさの方が強いせいか、赤くなった顔を手で隠すものの、その小さな手では顔を隠しきれるわけもなく真っ赤になっているのが丸わかり。
「うぅ……少し前に毎回感想を送ってくれる人が出てきて楽しくなってきたところなのに……」
「あ、ちなみに毎回感想を送っているの私っす」
「あれ、あなただったの!? 毎回感想くれるからついに私の小説にもファンがついたかと思っていたのに!」
「でもファンには変わらないっすよー、みんな次の更新待ってるから頑張って続き書いてくださいっすよ」
「ちょ……ちょっと待ちなさい! みんなって誰!? あんた、まさか魔王城のみんなに私が小説書いてるのをバラしてるんじゃないでしょうね!?」
「だってマオ様が頑張って書いたものだからみんなに知ってもらおうと布教してるっすよ? 最近は更新される度にメイド達の話題になってるっすけど、私以外は感想送らずにこそこそ読んでるみたいっすねー。あ! そういえばうちの姉ちゃんが変に格好つけるよりも読者にわかりやすくした文章を書くほうが良いってアドバイスしてたっすよ」
「もうやめて! 私のライフはゼロよ!」
身内に自身の黒歴史をバラされているという話をエナから聞かされてマオのメンタルはもうボロボロ。
メイドが主人を辱めるようなことをするなんて普通はありえないものだが、このエナというメイドは上下関係を意識せずに主人と接しているようだ。
しかも、やることに悪意がなさそうなだけにたちが悪い。
「まぁまぁ、それはひとまず置いといて……マオ様良かったっすねぇ、ユウさんに恋人がいなくて」
「な、何言ってるのよエナ! 私は別にお姉ちゃんのことなんか……」
(お姉ちゃん?
ユウちゃんのこと?
そういえば……昨日も『お姉ちゃんのバカああああああああ!!』って言っていたような……)
魔王様の黒歴史についての話題から切り替わり再びユウキとマオの関係についての話題へ。
すると、先ほどまでマオはユウキのことを『勇者』と呼んでいたのに『お姉ちゃん』呼びへ。
文はマオのユウキに対するお姉ちゃん呼びにどうも違和感を感じてしまった。
マオとエナの二人が言い争っている中、その言葉が気になってしまった文はマオに聞いてみることに。
「昨日から気になってたんだけど、マオちゃんとゆーちゃんってどういった関係なの?」
昨日マオと初めて会った時はユウキとは幼馴染や年の離れた従妹のように感じたが、マオの反応からしてその程度の関係のようではない気がする。
そう思った文は2人の関係が気になってしまいマオに疑問を投げかけたのだ。
しかし、質問を受けたマオは顔を赤くして両の人差し指を合わせてモジモジ。
なかなか答えようとしない。
「私と勇者は……その……」
「マオ様とユウさんは結婚を約束した仲らしいっすよ」
「ちょっと! エナ!」
マオが質問の回答を渋っていると横からエナが回答。
その回答は文が全く想像もしていないものであった。
「け、結婚⁉︎ え……? ほ、本当に?」
「あ……うぅ……」
マオの顔はさらに赤くなり、もう真っ赤になっていた。
漫画であればきっと顔から湯気が出ているところであろうほど。
この反応は本当にそういった関係であることが窺えるものであった。
「で、でもマオちゃんもユウちゃんも女の子でしょ? 結婚できないんじゃ……」
「あれ? 知らないんすか? まぁ、一般的ではないっすけど女性同士で子供が作れるようになってから同性婚も認められたんすよ」
「え!? それ本当?」
「私も詳しくは知らないんすけどねー。うちの姉ちゃんから聞いた話だと私達が生まれるよりも前の時代に都の偉―い女の方が同性同士の結婚を認めて欲しくて法律を変えさせたとか」
「す、すごいね……国も良く認めたね」
「まぁ、その方は世界にもの凄く貢献している方だったらしくて国のお偉いさんも断れなかったらしいっすよ」
「へー……あんまり同性愛ってよく分かんないけど愛する人と結ばれるためにそこまでやるなんてちょっとロマンチックかも」
前にユウキが言っていたからこの世界では女の子同士でも子供が作れることは知っていたが、同性での結婚も認められていることは知らなかった。
だが、よく考えたら元の世界でもデキ婚というものがあるのだからおかしくはないのかな? と納得する文。
(ユウちゃんに魔王の婚約者がいたんだ……
知らなかったなー……
ま、わざわざ言うことでもないとは思うけど
でも……なんかモヤモヤする)
婚約者がいたことをユウキが隠していたことについて文の心にモヤモヤ。
いや、決してユウキとマオの関係に嫉妬しているわけではない。
あれだけ自分に対して『ふーちゃんは私の嫁!』とかあれだけ言っていたのに実はすでに婚約者がいたことを不快に感じていたのだ。
まぁ……その言葉自体は冗談だったにしても婚約者がいるのに自分に対してセクハラ行為をするユウキに対して何か思う所がある様子。
しかし、ユウキに対する不信感を抱きつつもユウキとマオの仲についてはまだまだ興味がある文。
もうちょっと聞き出そうと文はマオにユウキとの関係性について深く聞き出そうと決意した。
「ねぇマオちゃん、ぜひユウちゃんとの昔の話を聞かせて――」
「こちらにフミさんがいますよ!!」
「あああああああああ!!! ふーちゃん今助けるから無事でいてええええええええ!!!」
しかし、文がマオにユウキとの昔の関係を聞こうとしたその時、急にどこかからその当人とシスティアの声が……
居なくなった文を探しにやってきたようだが、声からして文のいる場所がわかっているようだ。
「えぇ……な、なんでここがわかったんすかね? つけられてはいなかったはずなんすけど……」
「ちょっとエナ! この場所がわからないよう注意して文を連れて来なさいって言ったじゃない!」
「い、いや! 私は絶対にバレないように仕事しましたっすよ!」
「じゃあなんでここがバレているの! これじゃあ私が誘拐された文を助けたという体でお姉ちゃんの元に帰してあげることで好感度をあげる作戦が台無しじゃない!」
「うわ! そんなゲスいこと考えていたんすか? そんなこと考えているからバチが当たったんすよ! マオ様のせいっす!」
勇者一行がこちらに向かってきていることをしった魔族の二人は焦りを見せて言い争い。
お互いに責任を擦り付け合う醜い光景だ。
「と、とにかく逃げましょうマオ様! フミさんを誘拐したのがバレてしまったらどうなるか……」
「そ、そうね……今日のところはお暇させていただきましょうか」
悪役のような捨て台詞をはいた魔族の二人は魔法で昨日、勇者一行の目の前で見せた黒いボラックホールのような穴を宙に作り出した。
これが先ほどマオが言っていた転移の魔法のことであろう。
マオとエナはその黒い穴に身体を入れる、最後の別れを言うために顔だけを文に向けていた。
「フミ、今日はごめんなさいね。無理やり連れて来てしまって」
「い、いや気にしないで。それよりも私の話を真面目に聞いてくれてありがとう。ユウちゃんには真面目に聞いてくれなかったから嬉しかったよ」
「まぁ、私も完全には信じてないけどね……でも異世界に転移する魔法についてはちょっと調べておくわ」
「ありがとうマオちゃん」
「あ、あとお願いしたいことがあるんだけど……」
「……? 何?」
「私がフミをさらったことは勇者に内緒にしていて欲しいの……その……嫌われたくないから……」
「あぁ……いいよ、ケーキもご馳走してもらったしね」
「ありがと」
たしかに誘拐こそされたものの、この二日間で話してマオの印象は悪くない。
むしろ初めて自分の話に耳を傾けてくれた子、そんな彼女の簡単なお願いを聞かないわけにもいかない。
そう思った文は彼女のお願いを了承して手を振りながら笑顔で彼女を見送ろうとした。
しかし、手を振ろうとした直前にマオの頭を上から押してエナが顔を出してきた。
「フミさーん、今日はお話できて楽しかったすよー。今度異世界とやらの面白い話を聞かせてくださいっすね」
「あ、あはは……またね」
「ちょっとエナ! 何するのよ!」
「まぁまぁ、私もさよならを言いたかったんすよぉ。それじゃあフミさんまた会いましょうっす〜」
「う、うん、またね」
引きつった笑いで2人に手を振った次の瞬間には黒い穴は消え、2人の声も聞こえなくなってしまった。
しかし、その2人の声の代わりに今度はこちらに木々をかき分けて誰かがこちらにやってくる音が……
もちろんそれはユウキ達だった。
文を見つけた彼女達は一目散に文の元へと走ってきた。
「ふーちゃん! 無事だった!? 何もされてない!? 膜は大丈夫!?」
「ま、膜? う、うん……とにかく大丈夫だよ。そんなことよりどうしてここが分かったの?」
「あぁ……なんかシスが『フミさんの匂いがあちらからします!』って言うからシスの嗅覚を頼りにここまで来たの」
「え? 匂いだけでここまでたどってきたって……犬なの?」
「えぇ、皆さんのペットのシスティアです! ワンワン!」
どうやら3人が文の元へこれたのはシスティアの警察犬並みの嗅覚によるものらしい。
しかし、元々いた場所からここまでまぁまぁ距離が離れているはずなのだが、匂いだけで辿ってくるなんて本当に犬なのかと思ってしまう程である。
「いやー! それにしてもふーちゃんが無事で良かったわ! 汚い男に襲われて身も心も汚されているんじゃないかって心配だったのよね」
「えぇ、無事で良かったですね。あ……でも、私はちょっと滅茶苦茶にされてみたい気も……」
「私もイケメンになら多少乱暴されてもいいかもぉ」
それぞれ文が見つかったことで安心した3人はそれぞれ今の心境を語り出す。
そしてその言葉自体がそれぞれの性癖を物語るもの。
そんな3人を見て文はこう思ってしまった。
(魔族のあの2人……この3人よりはまともな人達だったな……)
寝食を共にする仲間である変態3人よりも自分をさらった魔族の2人の方を信用したくなる文であった。





