14-1話 はじめまちて
今回は過去編のお話となります。
それは今から約8年前、ユウキが8歳の頃の話。
ある日ユウキは勇者である祖父と共にとある場所へとやってきていた。
その場所は”魔王城”。
勇者が魔王城に行くということは……勇者と魔王の決戦か? と想像するかもしれないがそうではない。
この世界では勇者と魔王の和解によって平和が訪れたのだ。
つまりこの世界の勇者と魔王は友好関係にある。
勇者であるユウキの祖父が魔王城へとやってきたのは友達である魔王様に久しぶりに会いに来たため。
ユウキはついでに祖父についてきたという感じ。
二人はとある大きな扉の前に立ち、2回ほどノックしてから扉を開く。
「おう! 久しぶりだな。よく我が城へとやってきてくれたな」
二人に挨拶してきたのは巨大な姿をした1人の男。
口ぶりやその圧倒される程の巨大な姿からしてどうやらこの方は魔王様らしい。
しかし、その魔王様は厳つい見た目と反して朗らかに笑って二人を歓迎。
そしてユウキの祖父も片手をあげて魔王様と同じように笑顔を返した。
「久しぶりだな、元気してたか?」
「俺の方はな、お前は?」
「あぁ……最近ちょっと腰が……な」
「まだ60くらいだろ? 老いが早いんじゃないか?」
「おいおい、あんたら魔族と違って人間だともう還暦近い年齢なんだぞ」
「おぉ、そうだったな。すまんすまん」
久しぶり会ったのが嬉しいのか、互いに楽しそうに笑い合う二人。
そんな楽しそうにしている祖父の横にいたユウキは二人の会話よりも気になることがあった。
それは何かと言うと巨大な魔王様の足元に小さな女の子が魔王様の背後から半分だけ身体を出してこちらを覗いていたのだ。
その子はユウキとばっちり目が合うと慌てて魔王様の後ろへと隠れてしまった。
「あー……その後ろの女の子は?」
「おっと……紹介するのを忘れてたな。この子は私の娘だ! 可愛いだろう!」
ユウキのお爺さんが魔王様の足元にいる女の子のことを指摘すると魔王様は足元にいる娘『ほらっ』と後ろにいた女の子の背を優しく押して二人の前へ。
するとさっきまで魔王様の身体に隠れて半身しか見せていなかった女の子の姿が露わに。
しかし、女の子は恥ずかしいのか俯いて何も言おうとしなかった。
「可愛いじゃないか。でも……お前変わったよなぁ、昔は“子供なんて絶対いらない!”ってあれだけ言ってたのに」
「ははは! お前のとこの孫を見ているとなんだか跡継ぎが欲しくなってな! 実際作ってみるとこれが可愛くて可愛くて」
嬉しそうに娘のことを話す魔王様。
勇者のおじいさんの口ぶりからは前までは子どもに興味がなかったようだが、今は我が娘を愛する子煩悩な親になっている様子。
そして娘のことを話して機嫌がよくなった魔王様は今度はユウキの方を向いて挨拶をした。
「おぅ! ユウちゃん久しぶりだな! 元気してたか?」
「魔王のおじさんこんにちは! 元気だよ!」
「大きくなったな〜。今何歳だっけ?」
「8歳!」
「おぉ、そうかぁ……前に会ったのは随分前だったからなぁ……そりゃあ大きくなるわな……この子、名前はマオって言うんだが仲良くしてやってくれないか?」
「いいよ!」
魔王様に娘と仲良くしてほしいと頼まれたユウキはマオの前へと歩いていき挨拶。
相手は自分より小さな子どもということもあり、怖がらせないように笑顔を向けた。
「はじめまして! マオちゃん! 私はユウキっていうの」
「は、はじめまちて……」
この頃は幼かったマオは舌足らずながらユウキに対して挨拶。
しかし、そんな彼女はユウキと目を合わせようともしない。
それが箱入りお嬢様だからあまり外の人と話すことに慣れていないからなのか、ただの人見知りなのかはわからないが、どうやら知らない人と話すのは苦手なようだ。
そして、そんな娘を見た魔王様はこれからの娘の成長に不安を感じている様子。
そこで魔王様はとある事を思いき、ユウキにお願いすることにした。
「そうだ、ユウちゃん、マオと一緒に遊んであげてくれないか? ちょっと大人同士での話がしたいからさ」
「いいよ、おじさん。私に任せて!」
お願いというのは自分の娘と友達の孫を遊ばせるということ。
人見知りだからなのか、箱入りお嬢様だからなのかは分からないが、おそらく魔王様の狙いは城の外の人と繋がりを持ってもらいたいという親心があってのことだろう。
「頼むよ。お姉ちゃん」
「お姉ちゃん……えへへ……」
魔王様に娘のお守りを頼まれたユウキは『お姉ちゃん』という言葉の響きが気に入ったのか嬉しそう。
一人っ子で姉妹への憧れがあるためなのだろう。
そしてユウキに娘の面倒を見てもらうことにした魔王様は今度はマオの方へと顔を向けた。
「マオ、部屋でお姉ちゃんと遊んでなさい」
「え? パパは?」
「あー……パパはちょっとそこのお姉ちゃんのおじいちゃんとお話しするから。子供同士で遊んでなさい」
「……やだ、パパといっしょにいゅ……」
「こらこら、これからもずっとパパが一緒にいられるわけじゃないんだぞ? 友達くらい作っておかないと困るぞ」
「や、パパといっしょがいい……」
「もう……困ったなぁ……」
自分のそばから離れようとしない足元の娘に魔王様は困った表情。
父親である自分に懐かれているのは悪い気はしないが、親離れできなくなってしまったらそれはそれで困る。
やむを得ない……可愛い子には旅をさせよ、そういう気持ちで魔王様は断腸の思いでマオとユウキを2人きりにさせることを決意した。
「ごめんユウちゃん、マオをお願いな。マオの部屋はこの部屋を出てから少し右にいったところにあるから」
「やー! パパといっしょにいゅー!」
巨大な魔王様はマオの服を指でつまんで小さな身体を持ち上げると、ユウキの方へ持っていき、お願いを受けたユウキは魔王様から渡されたマオを抱っこで受け取った。
「おっけー、おじさん!じゃあ行こ! マオちゃん!」
「あ……パパ……」
魔王様から頼まれたユウキは無理やりマオの抱きかかえ、マオはユウキに抱っこされたまま魔王様の方を見て助けを求めるような表情。
そんな2人は魔王様と勇者のお爺さんがいた部屋を後にし、廊下に出ていった。
そして、魔王様はというとようやく娘とユウキを一緒にできたことに一安心して息をついていた。
しかし、そんな安心している魔王様とは相反して勇者のお爺さんは心配そうな表情。
「大丈夫なのか? 大事な娘から目を離しちゃって」
「まぁ……ユウちゃんが一緒なら大丈夫だろう……それに……」
「それに?」
「娘は私達両親と一部のメイドにしか心を開いていないからなぁ……ユウちゃんが来てくれたこの機会に城の外の者とも触れ合ってもいいんじゃないかと思ってな」
「でもいいのか?大事な娘だろう?ユウキに影響されてやんちゃになったりしたら……」
「ははは、ユウちゃんみたいな元気な子になってくれるなら歓迎だよ」
「お前……俺が普段あいつの面倒を見るのにどんだけ苦労しているか知ってるのか? 元気すぎて逆に困るぞ」
「それはあんたが年老いただけなんじゃないのか?」
「はは、それは言えてる」
子ども二人が部屋から出て行った後、談笑して過去の思い出話やお互いの現況について楽しく話しあう大人の勇者と魔王であった。
♢♢♢♢♢
大人達が談笑している一方、幼い勇者と魔王様はというと、例のマオの部屋へとやってきていた。
初めて来た部屋だからなのか、ユウキは物珍しそうに部屋の中をキョロキョロ見渡している。
「へー、ここがマオちゃんの部屋かぁ……私の部屋よりずっと大きいなぁ……ねぇマオちゃん!何して遊ぼっか?」
「…………」
子供2人きりとなり何をして遊ぶか笑顔で聞くユウキであったが、その一方でマオの方はムスッとした表情。
どうやら大好きなパパと離れてしまった事が不機嫌らしく、ユウキの質問にまともに答えようともしない。
そんな彼女はユウキを無視して本棚にある本を一冊取り出してそれを読み始めた。
「わたし、おほんよむから」
「あ、じゃあ私も読んでいい?」
「……べつにいいよ」
ユウキの方も自分があまり好かれていないことは薄々感じており、嫌われないよう、邪魔にならないようにマオに合わせて読書をすることにし、本棚からテキトーに一冊を手に取り、本のページをペラリとめくる。
だがそんな彼女は本の内容が理解できないのか、頭にハテナマークを浮かべていた。
「げぇ……難しいことばっか書いてて理解できないんだけど……マオちゃん、これなに?」
「パパからもらったまどうしょ。これよんでりっぱなまおうになりなさいって」
「ほえー……まだ小さいのにこんな難しい本読んでるんだ……すごいね」
「べつに……これくらい、ふつうはよめるよ」
「あ、あはは……私、全くわかんないや……」
遠回しに馬鹿にされたような気もしたユウキだったが、相手は4歳、反論するのも大人げないかと思って笑ってすごした。
しかし、まだ4歳であるのに難しい内容を読み込んでいるマオの才能が気になったユウキは本に顔を向けているマオの方を向いて話しかけてみることに。
「それにしてもこんな難しい魔道書を読めるなんてマオちゃん将来有望だなぁ。近いうちに魔法も使えるようになるんじゃないかな?」
「……もう、まほうできるよ」
「え?まだ4歳なのにもう魔法使えるの!?」
「べ、べつに……ふつうじゃないの?」
「いやいや!そもそも魔法を使えるのは元々素質がある者だけだし、マオちゃんくらいの年の子で魔法使えるようになった子なんて聞いたことないよ!すっごいことだよ!」
「そうなの?」
「そうだよ!流石あの魔王様の娘って感じ!」
ユウキは自分より小さな子が魔法を使える事を知ってか、大げさなほどにマオを褒めちぎる。
とても年上とは思えないほど大はしゃぎっぷりだ。
しかし、ユウキの反応はマオにとって悪い気はしないものでもあり、マオは徐々に彼女に対する警戒心を解いていくのが見えた。
「マオちゃんの魔法是非見てみたいなー。ねぇねぇ!ちょっと見せてよ!」
マオが魔法を使える事を知ったユウキはマオに魔法使ってよとお願い。
しかし、先ほどまで褒められて気分が良さげだったマオだったが、ユウキにお願いされてから顔は曇り顔だった。
「で、でもおしろのなかでまほうやったらパパにおこられちゃう……」
「いいじゃん、ちょっとだけだって!」
「だ、ダメ!まえにおしろでまほうであそんでたらなぜかすっごいおこられたの……」
「そっかぁ……しょうがないかぁ……」
一度断られて再びお願いするユウキだったが、
まぁ、あの魔王様が怒ったら怖いだろうなぁ……と想像し、無理やり使わせるのはマオに悪いと感じても事だ。
だけど、やっぱりマオの魔法を見てみたい。
その気持ちはまだユウキの中にあった。
そこでユウキは1つの考えが浮かび上がり、マオに提案を持ちかけた。
「あ、じゃあさ。今からお城を抜けて外に出て見ない?外なら魔法使ってもいいでしょ?」
「え?おそと?」
「うん、外なら魔法使っても問題ないでしょう?」
「で、でもかってにおそといったらパパが……」
「大丈夫だって!バレなきゃ問題ないよ!ほらっ行こっ!」
そう言うとユウキは再びマオの手を取って部屋の外へと連れ出す。
8年後、16歳になった彼女もそうだが、この頃からアクティブな性格だったようだ。
そして部屋を出て廊下を歩いて玄関へ向かう2人。
しかし、その道中にマオがユウキに尋ねてきた。
「で、でもおねえちゃぁどうやってみつからずにおそとにいくの?」
そう、部屋を出てきたのはいいものの、どうやってマオを隠して外に出るか、という答えをユウキから聞いていない。
幼いマオからしたらその方法は想像も付いておらず、どのような画期的な方法を取るのか気になっていた所であった。
「あ……そういえば考えてなかった……うーん、どうしよ」
しかしながら、この幼き頃の勇者様、何も考えておらず。
どうやら思いつきで外に行こうと提案したのはいいものの、マオを隠して外に出る方法は全く考えていなかったようだ。
「どうするの?このままじゃみつかっちゃう……」
「うーん…………そうだ!マオちゃん私の後ろに来て」
「……?う、うん……わかった」
マオは言われたままにユウキの後ろにピタリとつく。
そして次の瞬間、マオの身体全体が布で覆われた。
それはユウキのつけていたマント。
マントはユウキの首から地面すれすれまであるものであり、幼いマオくらいであればギリギリ隠れて周りから見えないようになっていた。
「ほら、こうしたら周りからマオちゃんは見えないでしょ?これならバレないで外までいけるよ!」
「で、でもおねえちゃぁ、まえがみえない……」
「うん、だから私と合わせて歩いて。転ばないように気をつけてね」
「……わかった」
こうして幼い勇者と魔王様はこっそりと城を抜け出そうと画策し、2人で歩みを合わせて白の玄関へと向かっていく。
小さな冒険の幕が開いたのであった。





