13-2話 泥棒猫!
「エナ! これ紅茶じゃなくてお茶じゃない!」
「え? お茶はお茶っすよ? マオ様が入れろって言ったんじゃないっすか」
「ケーキを出してるんだからお茶と言ったら紅茶に決まってるじゃない! それにただのお茶に砂糖入れる馬鹿がどこにいるのよ!?」
「あ〜、それもそうっすね〜。次からは気をつけるっす」
「前も同じこと言ったわよね!? これで3回目よ!」
「あれ、そうでしたっけ? でも案外ケーキとお茶も合うと思うしいいんじゃないっすかね?」
「本当にあなたは悪びれないわね……もういいから新しいの入れてちょうだい。今度はちゃんと、こ・う・ちゃ……でね!」
「はいはい、わかりましたっすよー! あ、ついでにこちらの方も入れ直しますね」
「あ、ありがとう」
メイド服を着たエナと呼ばれた少女はテーブルに文とマオの前のカップを取ると、少し離れた茶葉やポットが置かれたワゴンの元へゆっくり歩いて紅茶を入れなおしに行き、テーブルには文とマオだけが残された。
「ごめんなさいね? あの子は私の専属メイドなんだけど、いっつもあんな感じで……」
「そ、そうなんだ……結構苦労してるんだね」
「えーっと……名前は聞いてなかったわよね?」
「あ、私は文っていうの。よろしくねマオちゃん」
「よ、よろしくフミ、えーっとぉ……今日は呼び出してごめんなさいね?」
「うん……どっちかっていうと無理やり連れてこられたって感じだけど……」
「あ……ご、ごめんなさい」
「い、いや気にしてないよ」
「ありがとう……」
「…………」
「…………」
自己紹介が終わった後に何故か会話が途切れる。
恐らくお互いおとなし目の人物のため、あまり面識がない中、会話が盛り上げづらいのだろう。
文はマオのことを詳しく知らない上に小さいとはいえ魔王様との対面に緊張。
マオは昨日は昔から知り合いであるユウキ、今日はメイドがいたから喋っていたようだが、文との面識があまりないためなかなかしゃべりかけ辛いのだろう。
(どうしよう……会話止まっちゃった
な、何か話題ださなきゃ……!)
気まずい空気に耐え切れなくなった文は一応12歳である彼女よりは年上であることから自分から話題を振らなければと気張り、口を開く。
「えっと……このケーキ美味しいね」
「そ、そうね……あれ? でも、さっきも言ってなかったかしら?」
「あ……そ、そうだね、ごめん」
「い、いや! 別にいいのよ!」
「うん、ありがとう」
「…………」
「…………」
なんとか会話を盛り上げようと変に気張った文であったが、どうやら失敗。
再び沈黙が生まれてしまった。
(また会話止まっちゃった!
お願い……誰でもいい……流れを変えて……
誰でもいい……悪魔でも……!)
「おろ? なんでそんなにシーンとしてるんすか?」
そしてこの重たい空気で救世主現る。
先ほどお茶を入れなおしたメイドがやっと帰ってきたのだ。
「ちょっとマオ様―、魔族の王である自覚があるなら人見知り直してくださいっすよー、せっかくその子連れてきたのに喋らないなら意味ないじゃないっすか―」
「う、うるさいわよエナ! それよりもちゃんと紅茶入れたんでしょうね?」
「はいはい、ちゃんと入れましたっすよー! あ、お茶どうぞーっす」
しばらく二人がしゃべらない時間を過ごした後、先ほどのメイドが紅茶の入ったティーカップを持ってやって来たことでシーンとしたした空気がなくなる。
そしてエナと呼ばれた少女は紅茶のいれたカップを文の前に差し出してきた。
「ありがとう……えーっと、名前は……」
「そういえば名前言ってなかったっすね〜。私はマオ様の専属メイドをやっている者っす。エナと呼んで欲しいっす」
「よろしくねエナちゃん、私は文って名前なの」
「よろしくっす! フミさん!」
「ちょっとエナ! なんで私の紅茶を持ったままフミに挨拶しているの!? 冷めちゃうから早く渡しなさい!」
「もー、うるさいっすねー、どうせ冷まさないと飲めないくせに……」
やはり大人しい二人だけだとなかなか会話が弾まないので彼女のようなグイグイ話しかける人がいた方が場の空気が良いみたい。
彼女が来たことによって二人の重い口が開き、徐々に明るいムードが戻ってきた。
しかし、メイド服を着た彼女がマオの専属メイドであることはわかったが、とても仕事の出来や態度からしてそうとは思えない。
現に紅茶を催促されてちょっとイラついているのか、マオに用意したティーカップを雑に置き、そのせいで白のテーブルクロスに紅茶が少しこぼれて染みが……
どちらかというと主人とメイドというよりかはただの友達同士みたいな会話。
そんな二人の会話を聞いていると、2人が自分に危害を加えることがないことを理解した文はホッと胸をなでおろした。
しかし何故こんなところに連れてこられたのかわからなかった文はエナに質問することに。
「ところで私はなんでこんな所に連れてこられたの?」
「いやー私はマオ様から『勇者のところにいるメガネかけた子を連れてこい』って頼まれただけなので……詳しくはマオ様に聞いて下さいっす」
どうやらここに連れてこられたのは魔王のマオが文に用があったかららしい。
しかし、冷静に考えてみれば今日初めて会ったエナが文に用があるわけもなく、あるとすればマオの方。
とは言っても文に呼び出される心当たりはなく、『何の用があるんだろう?』と疑問を抱き続けていた。
「えっと……マオちゃん? なんで私はここに連れてこられたの?」
「その……おね……勇者と貴方の関係を教えて欲しいの、それで呼び出させてもらったわ」
マオが文を連れてきたのはユウキとの関係について聞きだしたいからだったらしい。
しかし、何故マオが誘拐をしてまでそんなことを聞きたいのかがよく分からない。
そしてもう一つ気になることがあった、それは……
(おね……? 何を言いかけたんだろう)
文はマオが最初に言いかけた言葉に少し気になったのだ。
しかし、それに対して変に追求すると身が危ない気がしたのでおとなしく答えることへ。
「ゆーちゃんとは旅の仲間だよ、私が故郷に帰れるように一緒に――」
「嘘を言わないで!!」
「ひぃっ!」
ダン! とテーブルを叩いて椅子から勢いよく立ち上がり文に対して声を荒げるマオ。
さっきまで文と二人きりでいた時と違って今は強気の態度。
小さな身体とはいえ魔王。
ただならぬ威圧感を感じた文は思わず身体を仰け反らせてしまい、何故さっきの発言でマオの怒りを買ってしまったのかが理解できずビクビク。
「いや……嘘じゃないよ」
「昨日この耳で聞いたわよ! 勇者が貴方の事を、よ……よよよよよ、嫁だって!」
「え……いやいや! あれはゆーちゃんが勝手に言ってるだけだよ! まだ結婚してないし……いや! そもそも結婚する気はないけど!」
「嘘言うんじゃないわよこの泥棒猫!! 私と勇者はねぇ!」
「まーまー、落ち着いてくださいっすよ、マオ様」
椅子から立ち上がり興奮しているマオと小さな彼女に気圧されてビクビクする文。
そんな2人の光景を見かねてエナが興奮したマオを落ち着かせた。
「マオ様ー、フミさんが嘘言ってる様には見えないっすよ?」
運良くエナからフォローが入りマオの問い詰めの勢いがなくなり、椅子に座り込んで落ち着きを取り戻した様子。
そしてしばらく黙り込んだ後に、再び口を開いた。
「……本当に?」
「本当本当!」
「その……恋人同士……とかでもないの?」
「ち、違うよ! 私はそんな気はないし!」
「……よかったぁああああ」
文がユウキとの間にそういった関係がないことを知ってか肩を撫でおろすマオ。
しかし、文からすると何故自分とユウキとの関係についてマオが気にしているのか分からない。
そもそもユウキとマオはどういった関係があるのだろう?
そんな疑問を抱いた文はマオに質問を投げかけようとしたが……
「そもそもフミさんはなんで旅してるんすか?」
質問する前にエナから別の質問が飛んできた。
確かに彼女やマオからしたら勇者様と一緒にいる文が何者なのかがわからないからそういった疑問が生まれるのかもしれない。
しかし……だ、ここで正直に言うとまたユウキの時と同じように痛い奴だと思われるかもしれない。
それもしょうがない、『実は私……異世界人なんです!』なんて普通は誰も信じないのだから。
だけど文はとある期待を抱いていた。
もしかしたら人間とは違う魔族である彼女達なら何か知っているのではないのではないかと思ったからだ。
また信じてもらえないかもしれない。
話そうか悩んだが、まだ魔族と呼ばれる人達には話していないことを思い出した。
それにマオは小さいけれど一応魔王だ。
もしかしたら何か知っているかもしれない。
そう思った文は思い切って正直に話すこと。
「実は……」
文は自分がこの世界の人間ではないこと、この世界に来てしまった事の経緯を説明することにしたのであった。





