《12話予告編》 ククク……
ここは先程の勇者一行がいた街からかなりかけ離れた北の大地。
そこには大きく、禍々しい形をした城がある。
城の名前はあるらしいがほとんどの人はその正しい名前を知らない。
だが、多くの人はその城をこう呼んでいる。
魔王城……と。
そしてその魔王城の中のとある一室では大きな椅子……いわゆる玉座に座り込んだ1人の女の子がでワイングラスを片手に優雅に佇んでいた。
彼女はグラスに口の中へ傾けると、中に入っている赤くドロッとした液体を口に含む。
ごくりと小さな喉音を鳴らせ、彼女は口角を少しあげて小さく笑った。
「ククク……いつ飲んでも絶品ね……」
ワイングラスに入った謎の赤い液体を口に含みながら上機嫌な彼女。
その笑みからは妖しい雰囲気を漂わせており、只者でないことが窺える。
「それにしても……遅いな……! 奴が旅立ってから結構たったはず……なのに未だに来ないとは……。この我を待たせるなんていい度胸をしているな……!」
舌鼓を打って機嫌が良いのかと思いきや、一変して彼女は不機嫌に。
その機嫌を現すかのようにワイングラスの液体に波が立ち、グラスもぶるぶる震えている。
どうやら何かを待っているらしいが、遅れていることに怒っているご様子。
しかし、彼女は『ふっ……』と小さく笑うとグラスに入ってる液体の波が止まった。
「そうか……我に怯えてこの魔王城にまで来れないのだな! ククク……いいだろう……! お前がその気でいるのなら、この偉大なる魔王……マオ様が直々に出向いてあげるわ! 精々今のうちに平和な一時を楽しんでいるんだなぁ……勇者よ!」
椅子から立ち上がり意気込んだ彼女は『パチンッ』と指を鳴らす。
すると彼女の目の前に小さなブラックホールのようなものが穴が宙へ浮き上がった。
彼女はその穴へと歩みを進め、身体全体が穴にまで入り姿見えなくなる。
やがてその黒い穴自体が部屋から消えてしまい、部屋は静寂に包まれた。
♢♢♢♢♢
ガチャリ
「マオ様〜おかわり持ってきたっすよ〜」
先ほどの女の子が部屋を出てからしばらく経ってから扉を開けて部屋に入ってくる人物が現れた。
入ってきたのはさっきの女の子とは別の女の子。
彼女はフリフリした服に短いスカート、頭にカチューシャ……いわゆるメイドといった格好をしており、先程の女の子の名を様付けで呼んでいることから彼女はこの城に仕えるメイドであることがうかがえる。
「あれ〜? マオ様いないじゃないっすかー。せっかく私がわざわざおかわりのトマトジュース持ってきてあげたのに……って、おろ? マオ様がいっつもぼーっと座ってるところに紙が置かれているっすね」
メイドの女の子は魔王様がいなくなったことで自分の仕事が無駄になったことにブーたれていると先程まで魔王様が座っていた椅子に手紙があったことに気がつく。
彼女はそれを手に取ると口に出して読み上げた。
「えーっとなになに〜
『我が従順なる下僕へ
急に居なくなって悪いけれどちょっと勇者のところにまで行ってくるわ!
奴が旅立ったと聞いてから待っているものの、いつまで経ってもこの魔王城に来ないからこの我が直々に出向いてあげるのよ!
ククク……奴が我を目にした時、どんな反応をするだろうなぁ?
驚きのあまり腰を抜かしてギックリ腰になるか、恐怖によって花粉症のように涙と鼻水が止まらなくなるか……
どちらにせよ楽しみだわ!
あとで勇者を痛ぶった話をゆっくり聞かせてあげるから楽しみに待ってなさい
あっ、晩ご飯までにはちゃんと帰ってくるから安心して
それじゃあ行ってきます
偉大なる魔王様マオより』」
手紙の内容はこれから勇者の元へ行ってくるというだけの内容を長々と書いてあるだけのものだった。
だが、それだけの内容を書いてる手紙を読み上げた彼女は何故か肩をわなわな震わせている。
「ま、マオ様が一人で出かけた……ってことは! しばらくの間、仕事サボれるっす〜!」
メイド服を着た彼女は仕える主人の不在を喜ぶと、先程主人が座っていた玉座にドカッと座り込み、主人に用意していたはずのトマトジュースを口にする。
仕える相手である魔王様の玉座でくつろぐその姿はとてもメイドとは思えないものであった。





