11-2話 あーん
飲み物を揃えた4人達はそれぞれメニューに目を向けて何を食べようか考え込んでいた。
「ほへー、色々あるんですね!」
「ファミレスはメニュー多いからなに頼むか迷うよね」
「まぁ、味はいうほどだけどねー」
「これから食べるところだっていうのにそんなこと言わないでよ……」
ユウキの空気を読まない発言で少しテンションが落ちる文とクロエル。
確かにファミレスは一般的にもの凄い美味しいレストランという認識はない。
安価で多くのメニューがあることが強みの一つではあるが、食べる前から『味はいうほど』なんて言われてしまうとそうなってしまう。
「まぁ、でも皆さん腹ペコでしょうし何食べても美味しいはずですよ」
「それもそうだね」
「空腹は最高の調味料って言うしね」
システィアがフォローするかのようにテンションが下がった二人を盛り上げる。
だが、戻ったテンションを下げるかのように再びユウキが口を開いた。
「その言葉たまに聞くけどさ、それって食べ始めだけなんじゃないかしら? ちょっと食べたらそうでもなくなってくると思うのよね」
「なんでさっきからゆーちゃんはテンション下げるようなことばかり言うの? 楽しく食事する気あるの?」
「思ったことすぐ口に出す癖やめた方がいいよ、だから女の子にモテないのよ」
「やめろ、その言葉は私に効く」
クロエルがこれ以上辛辣な言葉を投げてこないように彼に向けて手のひらを突き出してやめるように言うユウキ。
多少は反省しているのか、ユウキはそれ以上小言を言わずに黙ってメニューを見つめていた。
空気を壊すユウキが黙ったことにより他の3人も再びメニューに目を向けて何を頼むか再び考え始める。
「よーし、私きーめた」
「私も」
「うん、そろそろ店員さん呼んでもいい?」
しばらく経ってからユウキ、文、クロエルの3人は頼むものが決まったようでメニューから目を離して店員を呼んで注文をしようかと呼び出し用のベルに手をかけようとする。
だが、システィアだけがまだメニューを見ていたのでユウキが彼女に尋ねた。
「シスは決まった?」
「うーん……すみません、まだです。私、あまり外食ってしたことがないのでちょっと悩んじゃいます」
「ふーん、なんかシスって辛いの好きそうだと思ってるけど実際どうなの?」
「えーっと……それはどういう意味ですか?」
「いや、あんまり気にしないでいいわよ、私の中でのイメージだから」
「はぁ……ご期待に添えずに申し訳ありませんが辛いものは結構苦手でして……」
「へー、意外ね。あなたなら『かりゃい! かりゃいでしゅぅ!』って言いながらムシャムシャ食べそうと思っていたわ」
「な、なんですか? そのイメージは……」
ユウキが持っている自分のイメージ像に困惑するシスティア。
しかし、よく分からないイメージではあるものの黙っていた文とクロエルも『ちょっとわかるかも……』と心の中でユウキに同意していた。
「そんなに決まらないならオススメ教えてあげようか?」
「いえ大丈夫です。もうちょっとだけ待ってください……あ、決めました!」
「シスチーも決まったみたいだし店員さん呼ぶよー?」
『ピンポ-ン』と厨房のほうからベルの音が聞こえ、少し経つと先ほどと同じ店員が4人の元へとやってきた。
「はーい、ご注文伺いまーす」
「えーっと、ハンバーグステーキとオムライス」
「私はミートスパゲティとトマトサラダ」
「青豆のサラダとシーフードグラタン」
ユウキ、文、クロエルの順に好きなものを店員に注文をしていく。
そして、先ほど悩んでいたシスティアが注文する番がやってきた。
「あ、私はこの超激辛カレーをお願いします」
「「「……………」」」
「かしこまりました。それでは少々お待ちください」
先ほどのシスティアの発言を聞いていない店員はなんとも思わないまま注文を聞いていたが、テーブルについている3人はもの凄く何か言いたげな表情をしていた。
だが、ここでまた大声でツッコムと店員を困らせてしまうため3人は必死にこらえていた。
そして、店員が厨房の方へ向かっていくのを見送るとユウキが口を開いた。
「シス、ちょっといいかしら?」
「……? はい、なんですか?」
キョトンとした顔で3人を見つめるシスティア。
どうやら3人が何を思っているかわかっていない様子。
「馬鹿なの?」
「ついさっき辛いのは苦手って言ったよね?」
「なんでさっきからあえて苦手なもの選んでるの? それボケてるの? ツッコミ待ち?」
ユウキの発言から皮切りにクロエルと文もシスティアに対して思っていることをぶちまける。
ファミレスに来てから苦手なものばかり選んでいる彼女の頭の中でどういう考えに至ってこんな注文をしたのか3人には全く分からなかった。
「す、すみません。私も何であれを頼んだのかよくわからないのですが、もしかしたら私だけ注文決まっていなくて焦っていたのかもしれません……」
「はぁ……まぁ、別になに頼んでもいいけどさ、残すのだけはやめてね?」
「それは勿論です! 神様に誓って!」
「いや、修道院追い出されたあんたがそれいっても全然説得力ないわよ」
丁寧な口調のせいで忘れがちだが、このシスターは勤めていた修道院で神様を侮辱するような行為を見つかって追い出された結果、ユウキ達と出会ったのだ。
そんな彼女の『神様に誓って』発言なんて信用ゼロであった。
♢♢♢♢♢
「かりゃい……! かりゃいでしゅぅ……! み、みず……ってこれ青汁でした! にが! にがいですぅ!」
全員分の注文が届いてからそれぞれ自分の頼んだ料理を口に着けていた。
その中でシスティアは自分で頼んだカレーと青汁で辛さと苦さで悶絶し、汗と涙を流しながらカレーと青汁を頬張っている。
辛さと苦さで辛いはずなのに妙に楽しそうにしている彼女を見て呆れる3人。
「もう私はツッコまないから」
「うん、いちいち反応してたら疲れるもんね」
彼女の行動にイチイチ構っている気力はもう3人には残っておらず、システィアを無視してそれぞれ自分の食べ物を食いつく。
そんな中、文はユウキが頼んだ卵がふわふわしててデミソースがトロリと垂れてて美味しそうなオムライスが少しに気になってじーっとユウキの皿を見つめていた。
「ゆーちゃんのオムライス……美味しそう……」
「あ、食べる? はい、あーん♪」
もの欲しそうな文を見てか、ユウキはオムライスをスプーンですくい文の方へと持っていく。
そして、オムライスの味が気になっている文は出されたスプーンに口をつけてオムライスをパクリ。
「あ、美味しい!」
「そ……そう? よ、良かった……」
ユウキから差し出されたオムライスが美味しかったのかご機嫌な文。
しかし、その一方でユウキはなんだか微妙な表情をさせ、少し頬を赤らめていた。
「……何その反応」
「いや……だって普通にあーんして食べると思わなかったから……」
「自分からやっておいてなんなの……改めて言われると恥ずかしくなってくるんだけど……!」
ユウキの発言で彼女と同じように顔を赤くする文。
友達からオカズを分けてもらう軽いノリで頼んだつもりで全くそんな気がなかったのに、ユウキの発言で恥ずかしくなってしまう。
「じゃ、じゃあさ……私がふーちゃんの頼んだもの食べたいって言ったら、あーんしてくれる?」
「……別にいいけど……」
「マジすか!? お願いします!!!」
目をキラキラさせてお願いするユウキ。
鼻息荒くしてガツガツくるユウキにクロエルは呆れてため息をつく。
「ユッキー、必死すぎてキモいよ」
「ファミレスから出たら覚えてろよお前、一発ぶん殴るから」
「ひえっ……せめて顔はやめて欲しいです……」
嬉しそうな表情をしていてもクロエルに対する嫌悪は変わらず、ニコニコした表情のまま暴行を予告。
クロエルもこれ以上痛い目に合わないようにあまり余計なことを言わないようにしていた。
「じゃあ私のミートスパでいい?」
「なんでもいいわよ! なんならそのジュースを口渡しでも……」
「あぁ、わかった。じゃあスパゲティあげるね」
なんか余計にハードルの高い要求をしてきたような気がするが文はスルー。
フォークとスプーンでスパゲティをくるりと巻いたスパゲティをユウキの前へと出し、恥ずかし気に『あ……あーん……』と言って顔を赤くする。
しかし、ユウキはというと恥ずかしそうにあーんしてくれた文とは違って、恥ずかしげもなく自分の手前に出された瞬間にスパゲティをパクリと食べてしまう。
嬉しいのは分かるがもう少し落ち着いて欲しいところだ。
「はぁ……うっっっま……なにこれ……美味しすぎて涙が出ちゃう……」
文にあーんしてもらったことが余程嬉しかったのか、俯いたまま手をブルブル震わせて感涙してしまうユウキ。
ただのミートスパゲティでここまで感動されてしまうとそれそれで反応に困ってしまう。
「さっきあれだけ味が微妙とか言ってたくせに……」
「本当に考えがブレッブレね」
先ほどまでファミレスの料理を散々に言っていたのに、手のひらを全力で返すユウキを見て文とクロエルは呆れてため息をついていた。
ちなみにそんな3人の脇でシスティアはまだ汗と涙を流しながら激辛カレーを頬張っていた。
♢♢♢♢♢
「ふー……食べた食べた」
「デザートも美味しかったね」
「最初に味がどうこう言っちゃったけど、久しぶりに食べると案外わるくないわねー」
「私は大満足です!」
「始終辛い苦いしか言ってなかったのに?」
デザートまで食べ終わった4人はそれぞれ空腹を満たした余韻にひたりながらおしゃべり。
それぞれ今日起こった出来事やファミレスの食べ物について話し合っていた。
しかし、他の3人がおしゃべりで盛り上がっている中、文はとあることがきになっていた。
それはこの世界の技術のこと。
ファミレスにきてとり理解したが、この世界の技術はあまりにも現代的だ。
元の世界とあまり変わらない技術で違和感はあまり感じなかったけれど、冷静に考えてみるとおかしい。
前に見たことがある異世界とかの漫画や小説では元の世界より大分技術力が落ちた世界であることがほとんであったが、この世界では違う。
(本当にこの世界の技術って進んでるよね……
携帯電話という技術の化身もあるし、このファミレスに来てからわかったけれど元の世界と同じようにドリンクバーや呼び出しベルもある……
……もしかして、元々いた世界から私以外の人がすでにこの世界に居て、この世界に色々と技術を教えた……とか?)
「ふーみん、どうしたの? 眠いの?」
「確かにふーちゃん静かだね、眠いなら私の膝で寝る?」
「あ、私を抱き枕にしてもいいですよ!」
「いや……大丈夫だよ……」
(考えすぎかな……
前に見た漫画の異世界が現代的でなかっただけでこの世界は違うんだろうね。
気のせい気のせい)
この世界の謎についてある仮定が思いついた文だったが、3人から様子を心配されてしまい、考えるのを中断。
その後は3人とのおしゃべりに加わり、ディナーの余韻に浸る文であった。





