12-1話 刮目せよ! 我こそが魔王様だ!
「あー、なんか暇ね。ちょっとクロ、私達を楽しませるために軽く爆散してくれない?」
「ちょっと面白いこと言ってよ、みたいなノリで言わないで。何よ爆散って」
「打ち上げ花火みたいにたかーく上がってバーン!って肉片を飛び散らせるの。血が空に広がって綺麗だと思うわ」
「想像するだけでグロいんですけど」
暇だと言っていつも通りクロエルをいじるユウキと、そんな彼女の弄り……いや、暴言に付き合わされているクロエル。
「あの……フミさん、ちょっとよろしいですか?」
「ん? どうしたの?」
「実は今日の私、いつもと違うところがあるのですが気づきました?」
「えー……ごめん、全然わかんないや」
「正解はー……パンツをはいてない、でしたー♪」
「…………」
「あぁ! その軽蔑するような目つきいいですぅ!」
軽蔑されるためだけに文に話しかけるシスティアと変態に絡まれて疲弊している文。
それぞれがくだらない話をしている勇者一行のいつもの光景である。
だが、そんな彼女達の会話を遮るかのように……
「ククク……見つけたぞ。勇者とその仲間達よ……」
どこからともなく謎の声が聞こえてきた。
勇者とその仲間達……と名指しされた4人はビクッとなり、辺りをキョロキョロ見回してその声の持ち主を探す。
だが辺りに人の影はなく、勇者一行はその声の主を探し出すことができずにいる。
その声が聞こえてきたことでさっきまでワイワイ話し合っていたのに全員黙ってしまい静かになった空気の中、徐々に一行は口を開いた。
「今、なんか声聞こえなかった? ふーみんは聞こえた?」
「う、うん……確かに聞こえたような気がするけど……」
「私も聞こえました。でも誰もいませんよね?」
謎の声の主を探す勇者一行であったが、その姿は辺りを見渡しても全然見当たらない。
すると再び『ククク……』とどこからともなく笑い声……
それは自分を見つけられない彼女達をあざ笑うかのような笑い声だった。
「おやおや、我の姿を探しているのか?だが、見つけられないのもしょうがない。我は今姿を隠しているのだからなぁ……いくら探しても無駄だぞ?」
謎の声の主が言うには姿を隠しているから見えてないとのこと。
どうやって姿を隠しているのかはわからない上に全く人の気配を感じない、それが不気味であった。
全員がキョロキョロ辺りを見回している中、システィアがどこから声を出しているかわからない謎の人物に尋ねる。
「だ、誰なのですか?姿をみせてください!」
システィアに尋ねられた謎の声の主は『ククク……』と再び不敵な笑い声をあげたあとに返事を返す。
「そんなに我の姿を見たいのか……?いいだろう……我は優しいからなぁ……生の魔王様を見れることを光栄に思うが良い」
「ま、魔王?」
その声の主は自身のことを魔王と名乗り、姿を見せると宣言した。
魔王というおぞましい肩書を聞いた文、システィア、クロエルの3人はゾッと背筋に寒気のようなものが走る。
そして、3人が心の準備も済ませる間すら与えず、急に空間に亀裂のようなものが出来てその亀裂から黒い穴が宙に浮く。
黒い穴は底が見えずに穴の中に何があるのか全くわからない。
例えるなら小さなブラックホールのようなもの。
そして、そのブラックホールのようなものから人の身体が出てきたのだった。
初めは足だけが見えていたが、徐々に身体を見せ始め、やがて完全に身体を全て現した。
姿を現したその魔王様は仁王立ちして勇者一行の前で不敵に笑っていた。
「ククク……出てきてやったぞ。どうだ、生の魔王様を見た気分は?」
「「「…………」」」
「おや?驚いて声も出ないか? それはめったに見れない生の魔王様を見て感動しているのか? はたまた恐怖で怯えているのか? ふっ……どちらにせよ無理もない。我は偉大なる魔王様なのだからなぁ」
黙っている4人を前にしてその魔王様(?)は不敵に笑い続ける。
確かに勇者一行が黙っているのは驚いているからだ。
そりゃあ、まだ物語は序盤も序盤なのに魔王様というラスボスが出てきたら当然驚くだろう、と思うかもしれないが、彼女たちが一番驚いたのはそこではない。
では何に驚いたのか? というとそれは彼女の姿であった。
目の前に現れた魔王は文達の想像しているものと少し……いや、かなりかけ離れた姿であったのだ。
イメージの魔王といえば身体が大きくどっしりとしたものであるのだが……
「ちっさ」
文が思っててもあえて言わなかった事をクロエルがあっさりと言ってしまった。
そう、目の前に現れた魔王と名乗る人物の見た目は小柄であるクロエルや文ですら小さいと思うほどの体格……小学校低学年くらいの身長の女の子であったのだ。
「うぐっ……ふ、ふふん、見た目で判断するとは哀れだな、愚民よ。見たところ貴様は魔導師みたいだが、どうやら相当未熟のようだな。この我の姿を目にしても我が体内に宿る恐ろしい魔力量に気づけないとはなぁ」
「こんな小さな子供の身体にそんな凄い魔力があるわけないよ〜。っていうか……い、一人称が、わ……『我』って……ぷっ……あっははははは! まだそんな小さいのに厨二病こじらせちゃって!あはははははは!あー、おなかいたーー」
ピシャァン!!
痛い発言の数々に魔王と名乗る少女を指差してお腹を抱えて笑うクロエルであったが、鼓膜が破れそうな程の音が近くから急に鳴ってその笑い声が遮られる。
強烈な音がした方向を見るとそこには燃えカス と化した木がそこにはあり、プスプスと燃えるような音が小さく鳴っていた。
それは雷が落ちたかのような木の跡だった。
「んー? これでもまだわからないと言うか? 次は貴様の身体に我が魔法を嫌という程刻み込んでやろうか?」
発言からして先程の雷はこの魔王様によるものだということがわかる。
そして、文字通り木っ端微塵となった木の跡が魔王様の底知れない魔力を証明していた。
魔法を繰り出してきた彼女はクロエルの方に手のひらを向けて脅す。
「は、はわわわわわわわわわ……!」
脅しを入れられて泣きそうな表情をして尻餅をついているクロエル。
自身が馬鹿にした少女が繰り出した凄まじい火力の魔法を見せつけられ、それを打ち込むと言われたのだ。恐怖するのも仕方ない。
魔王様はそんな恐怖で怯える彼の前に仁王立ちして見下ろしていた。
「ククク……どうやら理解したようだな? 貴様と我との圧倒的な力の差ってやつをな……」
「はいぃ! 痛いほどわかりました魔王様ぁ!」
もの凄い魔法を見せつけられて恐怖したクロエルは土下座の態勢。
先ほどまで彼女を馬鹿にしていたのに今では真逆の態度を取る彼を呆れて見ていた文。
しかし、文にはとある違和感があった。
それは魔王様を目にした時からずっと気になることであり、それについて考え込んでいた。
(……この子……どっかで見たことあるような……)
そう、何故かは分からないがこの魔王様をどこかで見たことがあるような気が文にはあった。
この世界に来てからあまり時間も経っておらず今まで会ったことはないはずなのに何故か見覚えがある。
そんな訳はないのだが、どうにも違和感を覚えてしまう。
なんとか思い出そうと文が必死に記憶を探って思い出そうしていたその時、
「マオー! ひっさしぶり〜!」
「わっ!い、いいいいいいきなり何よ!?」
文が魔王様に対する違和感を感じているといきなりユウキが彼女に抱きついた。
あまりにも唐突に抱きかかえられた魔王様は先程までと声色を変えてジタバタ。
だが小さな彼女はユウキにぎゅーっと抱きかかえられてしまい、まるで赤ん坊のように身動きが取れなくなっていた。
そんな2人の様子を残った3人はポカンと見ていた。
「え? ユウさんってこの魔王(?)さんと知り合いなんですか?」
じゃれている彼女達を眺めているとシスティアが質問。
その疑問は文もクロエルも感じていたもの。
確かにユウキの反応からして明らかに初対面ではない上にフレンドリーな様子だ。
「うちのじーさんとこの子のお父さんが仲良くってさー、この子が住んでいる魔王城にも何回か遊びに行ったことがあるのよねー。その時にこの子の面倒を見たりしたもんだわ〜、あの時のマオは結構泣き虫だったわね〜」
「な、何を言う!我は幼少の頃から立派な魔族で人間の世話なんて……」
「もー、昔みたいに私に甘えてくれたらいいのにぃ」
「な、何を言って……むぎゅぅ!?」
否定しようとした魔王様の身体をぎゅっと抱きしめるユウキ。
魔王様は小さな身体をユウキに強く抱きしめられると顔をユウキの胸に埋められてしまい、喋れなくなっており否定できずにいた。
この二人、どうやら小さい頃からの知り合いらしい。
そして2人が子供の頃からの知り合いであることがわかった文は先程の違和感の正体を理解した。
(あ!思い出した!ハウスの引っ越しの時に見たゆーちゃんのアルバムにあった写真に写っていた子だ!)
そう、先日ハウスの引越しでユウキのアルバムを見せてもらったのだが、その中にユウキ以外の女の子がいた。
小柄な体型、薄紫色の髪、頭に生えている角。
全てがアルバムに載っていた小さな幼女の容姿と一致している。
そのことに気がついた文は改めてアルバムに乗っていた幼女とこの魔王様が同じ人物か確かめるために彼女の方を見ると……
「む……むむむ胸が……!」
しかし、その魔王様は何故かユウキに抱きかかえられたまま鼻から血を垂れ流していた。
ユウキの大きな胸に顔を埋められていた彼女は顔から耳まで真っ赤にして慌てている。
まるで少年誌のハレンチ漫画でヒロインと身体が密着してしまった時の主人公のような反応だ。
「えっと……鼻血出てるけど大丈夫?」
「こ、これは鼻血じゃなく少し前に飲んだトマトジュースが鼻から出てるだけだわ!」
「え?どんな身体のつくりしてるの?」
トマトジュースって鼻から逆流してくるものなのだろうか。
魔王様は普通の人間と身体の作りは違うのかもしれないが……いや、それでもトマトジュースが鼻から流れるなんて不合理的な身体になるわけがない。
恐らくただの言い訳だ。
「も、もう! 子供扱いするな! 我はもう立派な魔王なのだ!」
魔王様は抱きかかえられているユウキの腕の中で激しくジタバタし、あまりにも嫌がっている様子を見てかユウキも残念そうに彼女を手放す。
ユウキの高速から解放された魔王様はポケットから取り出したティッシュで鼻血を拭き取ると指をパチンと鳴らす。
すると魔法が発動したのかティッシュは燃え上がりあっという間に処理された。
その動きはまさに熟練の域であった。





