10-1話 疲れた!
「あー!! もう疲れた!!」
いつものように道を歩いていると文が急に声をあげた。
普段おとなしい彼女が叫び出すこと自体珍しいが、それがあまりにも唐突な叫びだったために文以外の3人はビクッとなる。
「毎日毎日歩いてばかり! いい加減疲れた!」
急に癇癪を起した彼女はその場で座り込む。
元の世界に帰る方法を探すためとはいえ、歩き続ける日々であったためか、溜まりに溜まった不満が爆発したようだ。
確かにこの一週間は歩き続ける日々が続いており、女子中学生だった彼女にとって疲れるのはしょうがないのかもしれない。
「だったら私の背中に乗りますか!? 馬車馬のように扱っていただいてもいいですよ!」
「私がだっこしてあげようか!? 安心して! やらしいことは何も考えていないから!」
そんな疲れ切った文を見てチャンスだと思ったのか、システィアは四つん這い、ユウキは手を広げ、ここぞとばかりに自分の欲求を叶えようと鼻息を荒げながら提案を出す。
「うぅ……今ならそれもありな気がしてくる……」
しかし、文は嫌そうな顔はするもののはっきりと拒絶はしない。
普段ならツッコミをいれるところだが日々の疲れのせいかそんな気力もないようだ。
「た、確かに歩き続けないといけないのはキツイわ……私も足が棒になっちゃいそう……」
文がその場に座り込んだことでついでに休憩しようとクロエルも座り込む。
彼も文と同じくらいの体型であり、この長い道のりを歩き続けるのはキツイ様子。
そんな彼の様子を見てか、先ほどまで文に対して優しく(?)していたユウキがそんな彼を見て嘲笑っていた。
「はん! もやし乙! なっさけないわねー」
「うっさいわね、普通の女の子はあんたみたいにムキムキじゃないの」
「そもそもあんた男じゃん、ちったぁ鍛えなさいよ」
「私はどっちかっていうとマッチョのイケメンにモテたいから華奢な体型保ってんの」
「そんなに男にモテたいなら生まれ変わった方が早いわよ。手伝ってあげようか?」
「ちょぉ! 剣抜くなし!」
いつもの通りブラックすぎるジョークをかますユウキ……いや、彼女の場合本気で言っててもおかしくないため、ただの殺人予告にしか聞こえない。
そんな彼女と暮らすことになったクロエルはハラハラが止まらない毎日を過ごしている。
「はぁ……あの二人また喧嘩してるよ……」
「あのぉ……フミさん、背中、乗らないのですか?」
「いつまで四つん這いで待機してるの!? 乗らないから立って!」
「そう言わずに……ちょっと休憩がてら座ってみてくださいよぉ」
喧嘩しているユウキとクロエルの一方で文とシスティアも騒がしくなる。
ただでさえ疲れがたまっている文にとって騒がしくなるのは好ましくない。
憂鬱な気分になった文は、『はぁ……』と大きめのため息をつくと、
「あー……何か乗り物があったら便利なんだけどなー……」
と、ポツリと呟やいた。
すると、その呟きが耳に入ったのか、クロエルが何かを思い出したかのように『あ!』と声をあげた。
「そうだ! 私の箒で飛んでみる?」
クロエルが言い出したのは第3の提案、『箒で空を飛ぶ』というものであった。
その提案に対して文は食いつく。
「え!? くーちゃんって飛べるの!?」
「ま、一応魔術師だかんねー」
興味津々に尋ねてくる文に気をよくしてクロエルは『えっへん』と胸を張って誇らしげ。
胸はないが。
「でも箒で飛ぶって言ってるけどさー、あんた箒なんて持ってないじゃん」
ユウキの指摘通り、クロエルが普段箒なんか持ち歩いているところなんて3人は見たことがない。
そのため、箒で飛ぼうなんて言われてもピンとこない。
しかし、その指摘を受けてもなおクロエルの誇らしげな態度は変わらない。
「箒はいつも持ってるよ、ただ普通に持ってると邪魔だから普段はちいさくしているの」
そう言うとクロエルはツインテールの片側の髪を引っ張る。
するとツインテールの片側が簡単に抜け、抜けた髪がいきなり箒になった。
また、抜いた右側から『ニュッ』と新しい髪の毛が生えて元のツインテールへと戻る。
「はい、これが私の箒」
「どこから取り出してんの⁉︎ そして髪の毛どうなってんの⁉︎」
まさにハンカチが一瞬にして杖になるような手品的取り出し方と異様なスピードで髪を生やしたクロエルに3人は驚きを隠せなかった。
「というかさー、今までなんでそれ使っていなかったの?」
移動するときに使えばいいのに、とユウキがクロエルに対して尋ねる。
確かに普段から箒で飛んでいれば移動は楽だが、彼がいままで箒を使ってるところ見たことがなく、3人にとっては疑問であった。
「いや、魔物に向けて放つ攻撃魔法と違って飛ぶには身体を浮かす程の強い風力を生み出すためにこの箒に魔力を補給しないといけないの、しかも飛び続けるのに継続して魔力を消費するから私みたいな見習いの魔術師は長時間飛ぶこともできないしあまり使えないんだよね」
今までこの箒を使っていなかったのはクロエル自身の魔力量がなかったためらしい。
どうやらこの箒はそんなに長時間使えるものではないみたいだ。
「え? だとしたら大丈夫なの? 町に着くまで魔力切れたりしない?」
「まぁ……ここから次の町までの距離をだったら十分飛んで行けると思う」
「本当!? じゃあ乗せて乗せて!」
携帯で現在地から町までの距離を測りながら魔力切れの心配がないことを伝えるクロエル。
それを聞いてか、嬉しそうに文は頼み込む。
歩かなくていいという安心もあるが、空を飛べるということにワクワクが隠せずに、いつもより声が張っている。
「ちょっと! 今度私も乗せなさいよ! 空飛んでみたいし!」
「わ、私もよければお願いします!」
空を飛ぶことに興味があるのか、ユウキとシスティアも目を輝かせてクロエルに頼み込む。
文やクロエルより年上の彼女達だが、誰しもが夢見る『空を飛ぶ』という願いを叶えられるかもしれないと子供のようにはしゃいでいる。
しかし、そんな二人の願いを受けたクロエルはというと『うーん』と手を口に当てて考えていた。
「いやー……ふーみんくらいの体格の子ならいけると思うけどユッキーやシスチーはどうだろうなぁ……」
小柄な文に対してユウキとシスティアは一回り身体(胸も)が大きいため重量のことを考えると『うん、いいよ』とはクロエルはすぐ答えられなかった。
それを聞いたシスティアはというと『そうですか……』と残念そうに諦めたが、お願いしたもう一人は口を尖らせて不満げであった。
「えぇー! いいじゃん! ケチ! ホモ!」
「チッ……うっるさいわねぇ、だったらまずその胸についてる脂肪の塊を切り落としてから言いなさいよ、デブ」
「それセクハラじゃないの?」
「ユッキーがそれ言う?」
「……」
攻撃をしかけたつもりだったが、クロエルから思わぬカウンターを受けて黙ってしまったユウキ。
確かに普段文に対してセクハラをしている彼女が言うセリフではない。
セクハラをするものはセクハラをされる覚悟をしなければならないのだ。





