10-2話 貴重な体験
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「ふーみん、落ちないようにしっかりと私に掴まっててね」
「う、うん」
「あ、落ちたらヤバイからもっと強く捕まっていた方がいいよ」
「わかった……これくらい?」
「うん、それくらいなら大丈夫」
指示通りに文はクロエルの腰に手を回して『ギュッ』と掴まる。
その光景を見てユウキも嫉妬で『ギュッ』と歯を食いしばり、それを見てかシスティアも彼女が暴れ出さないように彼女の服を『ギュッ』と握る。
「それじゃあ行っくよー」
クロエルは掛け声をあげると先ほどまでのお気楽な感じが抜けて真剣な表情へ……
先ほどの説明からしても箒で空を飛ぶのはそう簡単ではなく、集中力が必要らしい。
そしてクロエルが真剣な表情をしてから数秒経つとどこからかふわっと風のようなものが発生し、地面に砂ぼこりが立つ。
それによって箒にまたがっている二人の足がゆっくりと地面から離れていく。
「わわっ! 浮いた!」
「これからもっと浮くんだから驚くのは早いよー、ふーみん。それじゃあ私達先に町まで行ってるね、ユッキー、シスチー」
「わかりました。私達二人は歩いて後を追いますね」
「オッケー、ふーみんはまかせてちょ」
「私の見えないところでふーちゃんに何かやったらマジで許さないかんな、お前」
「しないわよ……少しは私のこと信用しなさいよ……」
ユウキはあまりクロエルを信用しておらず彼に文の身を預けるのが嫌な様子。
しかし、文自身が彼の箒に乗りたいと望んでいるため箒に載せること自体を反対はできないためクロエルに対して嫌味を言うことしかできないのだ。
「じゃあふーみん本当に飛ぶよ? 準備はいい?」
「うん……だ、大丈夫……」
二人に別れを告げた後に本格的に空を飛ぶことを文に教えるクロエル。
大丈夫と言葉ではいうものの不安がないことはない。
夢のような体験であるが、命綱も何もない状態で空を飛ぶのだ。
全く怖くないと言ったらウソになる。
その証拠に浮いている足の感覚がなく、足元を見てみるとぶるぶる震えている。
「それじゃあ飛ぶからね、しっかり掴まっててよー」
しかし、身体が震えている文に構わず飛ぶ準備をするクロエル。
次の瞬間にもの凄い風を受け、身体が一気に浮き上がっていくのを文は感じた。
あまりにも急に身体が宙に浮いていく感覚に思わず目を閉じてしまう文。
まぁ、実際にいきなり身体が空に浮いたら怖いに決まっているから無理もないだろう。
「ふーみん、目をつむってたら景色が見えないよ? 良い景色だから見てみなよ」
「う、うん……」
クロエルから言われて恐る恐る目を開けてみる文。
そこには済んだ青い空、豊かな自然の緑の絶景の景色が一面に広がっていた。
「す、すっごい……私、本当に空飛んじゃってるんだ……」
空を飛んでいる事実に感動してしまい、うまく表現できずに事実そのままを言葉にする文。
中学生で元々人生経験の少ない彼女にとっては飛行機にすら乗ったこともなく、空から見える景色というのは新鮮そのものだった。
(これがこの世界の風景なんだ……)
空から異世界の美しい光景を見て感動し、しばらくの間空の旅を満喫し、異世界の風景に見とれていた文であった。
「あ、町が見えたよ! あともう少しだよ!」
周りの景色を堪能している文にクロエルが声をかける。
声を聞いて前を向くと一面の緑の森の中にポツンと町があるのが見えた。
その光景はまるで絵の具の緑で塗られた中に一部だけ塗り残されたキャンバスのようだった。
そして、そんなキレイな光景もあと少しでおさらば。
だが、元々の目的は早めに休むために早めに町に着くことなのだ。
この景色と別れるのは惜しい気はするが、それもしょうがない。
空を飛ぶという良い体験をさせてもらった。
文がそう思った時だった。
ギャアギャアギャア!!
急にどこからか、騒がしい音が聞えてきたのだ。
「な、何? この音……」
「なんだろう……何かの鳴き声みたいな……? あ、なんかこっちに来る!」
前方から何やら騒がしい鳴き声らしきものが聞えてきて不安になる二人。
目を凝らしてよく見ると黒いなにかがこちらへ向かってくるのがわかった。
「と、鳥!?」
二人の目に入ったのは鳥の魔物の群れだった。
二十匹近くが群れになって飛んでおり、二人の進行方向と逆側から勢いよくこちらに向かってきていた。
「ちょ! ぶつかる!」
鳥の魔物達は二人を認識しているのか、していないのかはわからないが、避ける様子が全くない。
クロエルが避けようとしたものの、避けるのが遅れたからなのか間に合わずに箒に乗った二人に鳥の群れが突っ込んでくる。
魔物達は自分達より少し小さいくらいの大きさであったものの、二人に勢いよく突っ込んでいったため身体にビシビシと痛みが走る。
ただ、その痛みも数秒だけであり、少し時間が経ってから魔物の群れは過ぎ去っていった。
「うぅ……鳥の魔物の群れに偶然ぶつかるなんて……大丈夫だったふーみん?」
後ろにいる文に対して声をかけるクロエル。
だが……それに対する返事はなかった。
返答をしばらく待っていたクロエルだったが返事が返ってこないことに背筋がゾワリとした。
(ま、まさか……)
気が付くと先ほどまで自分の腰に回していた文の手の感覚がないことにも嫌な予感がし、ゾッとしながらも後ろを振り返る。
そこには誰もいなかった。
……一旦前を見る。
そしてもう一度後ろを振り返る。
……やっぱり誰もいない。
「や、やばばばばばばばばばあ!!!」
現実を受け入れられずに奇声のような声をあげるクロエル。
先ほど後ろについていたはずの友達の姿が消えた。
そして、ここは上空、落ちたらひとたまりもない。
その二つの事実が彼を絶望へと叩きつけた
「う、うそでしょ!? さっき鳥の魔物の群れとぶつかった時に落ちちゃった!?」
さっきの鳥の群れに遭遇した際に文が手を放してしまい、箒から落ちてしまったのではないかと考え下を見る。
しかし、文の姿はなく、もうすでに地面まで落ちてしまったのではないかと思い、クロエルは絶望したそんな時だった。
「たすけてえええええええええええ!!!」
甲高い悲鳴がどこかから聞こえる。
それは紛れもない文の声。
しかし、その声が聞えてきたのは下からではなかった。
どこから聞こえたのか耳を立てると、それは後ろの方から聞こえてきたのがわかった。
「ど、どこ!?」
旋回して声のする後ろを向いて声の元を探すクロエルであったが、文がどこにいるかはすぐに理解して。
だが、それと同時に再び絶望に叩きつけられた。
先ほどぶつかった鳥の魔物の群れの中に数匹が文を咥えて飛んでいた。。
「くーちゃんたすけてえええええええええ!! 食べられちゃうよおおおおおおおおお!!」
魔物の群れに掴まってしまった文は恐怖で叫び散らかし、クロエルに助けを求める。
だが、救助を求められたクロエルはというと、あの大勢の魔物に対して自分一人では勝てないことを察して無闇に群れの中に飛び込むこともできないまま、上空で戸惑っていた。
鳥の魔物達はそんな彼を気に留めるわけもなく、文を咥えたまま町とは逆方向へと飛んで行ってしまった。
「ど、どどどどどどうしよう……私だけじゃふーみんを助けることはできない……と、とにかくユッキー達に助けを求めなくちゃ……!」
自分一人では何もできないことを察したクロエルはユウキとシスティアに助けを求めるべく、猛スピードで二人の元へと箒を走らせていった。
「……この事説明したら……私、殺されるんじゃないかな?」
二人の元へ急いで戻る彼であったが、ユウキに文が攫われたことを説明した時のことを想像すると、背筋にゾワっと鳥肌が立つ。
だが、説明をしないわけにもいかないため、彼はもの凄く不安な気分で二人の元へと向かうのであった。





