9-3話 ベッドの下に隠すアレ
「これ、ゆーちゃんのもの? 何が入ってるの」
「ん? 見る?」
ダンボール箱を前にしたユウキが3人に向かってそう言う。
ベッドの下に隠してあるものなので何やら恥ずかしいものなのではないかと一瞬思ったが、ユウキの反応からしてそのような気配はない。
「これ……本?」
何が入っているのか気になっている3人が期待しながらも開かれたダンボール箱の中には、本が箱一杯に詰まっていたのであった。
「うわぁ、いっぱいあるわねぇ、これ漫画?」
「うん、あとはノベルとか」
「へー…………なんか女の子が映ってる表紙が多い……っていうかそれしかなくない?」
「そりゃあそうよ、百合しか集めてないもん。ちなみに登場人物の女の子が家族以外の男と絡みがあったら全部燃やしてるわ」
「それはやりすぎでしょ」
どうやらこの百合勇者様は現実の世界だけでなく空想の世界ですら男はダメなようだ。
男がよほど嫌いなのかそれともフィクションと現実の区別がついていない残念な人なのかは分からないが……
そんな残念な勇者様のコレクション……ダンボール箱いっぱいに詰まった本の一冊を一つ文は取ってみる。
(へー、この世界にも漫画や小説ってあるんだー)
百合というジャンルについてはあまり詳しくないが、元の世界ではそこそこ漫画が好きだった文は異世界の漫画ということもあり少しワクワクしながら開いてみた。
適当に開いたページで目に入ったのは二人の女の子。
その女の子達は頬を染めてお互いを見つめ合っている。
そして、その二人は服を脱いで裸になり、お互いに身体を寄せ合い口づけを――
「……って、これエッチなやつじゃん!」
明らかなエロシーンを目にしてしまった文はビックリして思わず本を閉じる。
声を張り上げて恥ずかしさを誤魔化すが顔が赤くなっており恥ずかしがっているのがバレバレ。
「あ、それ懐かしいわね~いっぱい使った覚えあるわ」
「うわっ汚っ!」
「……流石にそれは酷いわよ……私だって傷はつくんだからね」
大好きな文に汚い呼ばわりされてしまい、流石に傷ついてしまいユウキはシュンとする。
しかし、そんな彼女にお構いなしでシスティアが本について質問をしようとしていた。
「あのー、主人公が調教されるみたいな内容のものはありませんか? あれば是非貸していただきたいのですが……」
「……うーん、基本的にイチャイチャものが多いけれど何冊かあったと思うわ。見つけたらシスに渡すわ」
「ありがとうございます!! 是非使わせていただきます!!」
「うるさっ」
オカズを貸してもらえることが嬉しかったのか耳元でシスティアが叫んできたのでユウキは耳を抑える。
修道院ではこういった本は読めないだろうし、よほどうれしいのかもしれない。
「みごとに女の子同士のエロ本しかないわねー。ノーマルなやつはないの?」
今度はクロエルが本を漁りながらユウキに尋ねる。
彼もエロ本には興味があるみたいだが、百合の方には興味がなさげで無造作に本を取ってめくっては戻したりを繰り返していた。
「私にとってはこれがノーマルなのよ。というかあんたってホモなんだからBLが好きなんじゃないの?」
「だからホモって言うな! 気分は女の子なの!」
「きっしょ」
「その歳でエロ本大量に持ってるあんたも大概だと思うんだけど」
気が付くといつの間にかエロ本の話題で大盛り上がり。
しかし、盛り上がっているのはユウキ、システィア、クロエルの3人であり、あまりそういった知識がない文にとっては嬉しくない状況だ。
皆さんは下の話題になった途端喋らなくなる友達がいたりしないだろうか?
今の文がそうなのである。
「もう! そんな本は後で見て! 早く引っ越しの続きしよ!」
「ふーみんの言うとおりね。さっさと引っ越し終わらせましょ」
「そうですね。……それはそうとユウさん、後でお願いしますね」
「はいはい、わかったわ。調教もの見つけたら貸してあげるから」
「わーい♪」
♢♢♢♢♢
見つけたエロ本でワイワイした後はというと、4人はそのまま淡々と作業を続けていった勇者一行。
エロ本騒動の後は特に作業が止まることはなく、すべての荷物を新しいハウスへ運び終えて引っ越しは終わってしまった。
最後に文の部屋のベッドを運び終えたユウキ以外の3人は疲れながらも達成感を感じているような表情をしていた。
「ふー、やっと終わったねー。くーちゃんもシスもお疲れ様」
「うん、お疲れー。久しぶりに重労働したかも」
「私もです。明日は筋肉痛かもしれませんね」
「というかさー、このハウス凄くない? 二階建てだよ? まぁ、私の部屋だけ一階だけどさ」
クロエルの言葉通り新居のハウスは二階建て。
一階はリビングや浴室、そして二階は女子3人の部屋がそれぞれあるという間取りになっていた。
そして、元々用意していなかったクロエルの部屋はなかったため、彼だけは一階にある客室を使うこととなったのだ。
「そういえば、さっきユウさんに聞いたのですけどこのハウスって買ったのではなくてただで貰った物らしいですよ」
「え? それはそれで凄くない? だってこんなものをくれる人が知り合いにいるってことでしょ?」
「確かに……ほんとゆーちゃんって何者なんだろうね……」
「まー……何者かって言われたら勇者なんじゃない?」
気づくと3人の中で再びユウキが何者かという話題になっていた。
確かに彼女には不思議なところがある。
すでに一週間近く彼女と共に行動をしている文でもあまり彼女のことは知らない。
強いて知っているのはせいぜい百合好きの変態勇者ということだけであるのだ。
「ところでその勇者様はどこにいるんですか?」
「あー、さっき隣の部屋に居た気がするよ。なんか本みたいなのを読んでたような……」
「まーたエッチな本? 見るにしてもこんな明るい時間帯はやめて欲しいな……」
「まぁまぁ、私達3人以上の働きはしているのでそれくらいは許してあげましょうよ」
そもそも18歳未満がエッチな本を見てもいいの? と今更ながら思っていた文であったが、それに対してツッコミを入れるのも野暮だと思い黙っていた。
そして3人はユウキの元へ向かおうと部屋を出て、隣の部屋のドアを開けるとそこには何かを読んでいる彼女の背中が見えた。
「ゆーちゃーん、私たちの部屋の荷物運び終わったよー」
「ッ!」
声をかけられたユウキは慌てたように手に持っていた何かを後ろに隠す。
明らかに挙動がおかしく、このハウスの持ち主でなかったら不審者にしか見えない。
「……今、なんか隠した?」
「い、いや? 何にも隠してないわよ?」
「ふーん……じゃあその後ろに回した手を前に出してよ」
「え゛!? …………ご、ごめんなさい。本当は隠れてエロ本読んでましたー♪ てへぺろ!」
「(……なんか怪しいなー)じゃあそのエロ本とやらを見せてよ」
「だ、ダメ! これは……そのぉ……そう! ふーちゃんくらいの子だと表紙を見ただけでイっちゃうレベルのエロ本だから見せられないの!」
「なにそれ怖い」
表紙だけで使えるエロ本なんて中身はどれほどのものなのか気になるものだが、反応からしておそらく背中に隠しているのはエロ本ではないのだろう。
なんとなくそのことを察した文は彼女が何か良からぬことを企んでいるのではないかと思い無理やり彼女が背中に隠したものを引き出そうと画策していた。





