9-1話 お届けものでーす
クロエルが同行するようになった勇者一行はさらににぎやかさを増していた。
……と思われたが、クロエルを除いた元メンバーの中で実際に楽しそうにしていたのは文だけであった。
今までパーティ内で年上しかいなかった文にとっては同い年のクロエルが加入したことはとても喜ばしいことであり、今も楽しそうに二人でおしゃべりしている。
そして、そんな二人とは反対に残った二人はあまり楽しそうとはいえない状況のようだ。
年下組の二人……というよりかは文と談笑し合っているクロエルを羨ましそうに睨みつけるユウキ。
そしてそのユウキが暴走しないかハラハラしながら観察しているシスティア。
今の勇者一行の状況は楽しそうな年下組と曇った顔をしている年上組に分かれていたのだった。
しかし、そんな一行に話しかける第三勢力が現れるのである。
「こんにちはー! クロネコヤ魔女の宅配便でーす!」
それは唐突のこと、いきなり頭上から女の人の声が聞えてきたのだ。
見上げるとそこには箒に乗りクロエルと同じ魔女帽子を被った一人の女性。
その人物は箒に跨ったままゆっくりとこちらの方に向かって降下してくる。
「な、なにあれ? 人が飛んでるの?」
「あれ? もしかしてふーみんって宅配やってる魔導士を見たことないの?」
「いやいや! あんなの見たことな……! ……いや、よく考えたら見たことないことはないかな?」
見たことないと言いかけた文であったが、こちらの世界に来る前に見たとある映画を思い出して訂正した。
それはいつかの金曜日の夜にTVで見たとあるアニメ映画。
その映画の中に箒に乗って宅配をする魔女の女の子がいるのだが、文はそれを思い出したのだ。
しかし、それはもちろんフィクションの中での話。
前の世界では実際に箒で飛ぶ人なんていなかったし、そもそも魔導士なんてものもいない。
そのため映画にいるような配達員を目にした文は驚きを隠せなかったのだ。
「あ……そういえば今日届く予定だったわね。すっかり忘れていたわ」
そして、クロネコヤ魔女と名乗る女性が現れたことにより、何かを思い出しかのような表情をしたユウキ。
どうやらこの宅配便とやらは彼女が頼んだものらしい。
「ユウキさんですよね? サインお願いします!」
空から地上へ降りた配達員は箒についていた箱を取って、ユウキに受け取り用の紙を渡した。
「はいはーい、さらさらーっと」
そして、言われるがままに自分の名前を書きなぐるユウキ。
普段から配達を頼んでいるからなのか対応には慣れている様子。
「ありがとうございまーす! それではまたのご利用お待ちしておりまーす!」
配達の仕事を終えた彼女は客であるユウキに一礼すると、再び箒に乗ると空の彼方へと飛んで行ってしまった。
「あー忘れてたけど届いて良かったわ。タイミング的にも良いわね」
そして荷物が入ったダンボール箱を受け取ったユウキはというと、届いたことに安心したのか満足げな表情。
どうやら彼女にとって重要な荷物だったみたいだ。
「あのーユウさん、その荷物の中身は何なのですか?」
先程の配達員から渡された箱をシスティアが指さし気になっていることを尋ねた。
ユウキ以外は箱の中に何が入っているか把握していないため、気になるところである。
「これはね、新しいキャリーハウスよ。シスが一緒に来ることになった時に頼んでおいたものなの」
「新しいキャリーハウス……ですか?」
「そうよ、今のハウスってリビング以外の部屋が二つしかないでしょ? それだと毎晩二人は一緒の部屋で寝ることになっちゃうから今より部屋が多いものを頼んでおいたの」
「そうだったのですか。お気をつかわせてしまい、すみません」
「いやいや気にしないでよ。勝手に頼んでおいたのは私なんだから」
申し訳なさそうにするシスティアを気遣って気にしないようにするユウキ。
最近は男達にブチ切れて怖いイメージがあるが女の子には優しいみたいだ。
「あのー……ユッキー? ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
ユウキとシスティアの二人がそんな話をしているとクロエルが不安そうな表情をしながら横から話しかけてきた
「さっきシスチーが一緒に行くことになった時に頼んだって言ってたけどさ、もしかして私の部屋って……」
「ないわよ」
「やっぱり!」
恐る恐る質問した彼に対してユウキはばっさりと回答。
システィアの加入時に頼んでおいたということはクロエルと出会う前のこと。
当然彼が同居するかも考えていない時期なため、部屋を用意しているわけもない。
予感こそしていた彼であったが自身の部屋がないことが分かると頭の上に『ガーン』と効果音が鳴りそうなほどのリアクションを取って地面に手を着いて落ち込む。
「残念ね、ざまぁみろ……って言いたいところだけど、女の子3人の部屋とは別に客室として使おうと思ってた部屋があるからクロはそこを使ってくれればいいわ」
「よ、よかった……ユッキーのことだから夜になったら寝袋だけ渡して私を外に追い出すかと思ってた……」
「あんた私をなんだと思ってるのよ」
悪気があったわけではなかったのだが、自身の寝床があることにホッとしたことで出た本音。
しかし、それによってユウキの反感を買って本当に追い出されそうになることを考えていないクロエルであった。
♢♢♢♢♢♢
「よーし、じゃあ新しい新居のお披露目といこうかしら。新しいお家ってワクワクするわね! 前のハウスとお別れなのはちょっと寂しいけど……」
届いた箱から新しいキャリーハウスを手に取ったユウキは意気揚々としていた。
これから新居を初めて見ることにテンションがかなり上がっている様子だ。
「ゆーちゃんはワクワクしているけど前のハウスに思い入れもそんなにないし、私は『新居!』って感覚はないなぁ」
「まぁユウさんはしばらく使っていたから色々思う所があるのではないでしょうか? 私も前のハウスにはそれほど長い時間いないので、よくわかりませんが……」
「私に至っては一日しか泊めてもらってないから思い入れもクソもないよ」
そんなワクワク気分の彼女に反して残りの3人は特に前のハウスに思い入れがなく、特に思う所もなにもない様子だ。
しかし、3人を尻目にユウキはそのまま新しいハウスを地面に置いた。
すると前のハウスと同様に人が住める大きさへと巨大化していく。
「おおー、前のやつよりちょっと大きくなったわね! いい感じ!」
巨大化した新しいハウスを目にしたユウキが馬鹿みたいな感想を述べる。
前のハウスより大きくなった新居を見てテンションがガンガン上がっている様子だ。
しかし、彼女以外の反応はというと
「な、なにこれ……前のハウスですら大きいと思っていたけどさらに……というか倍くらいの大きさになってない? 私の見間違え?」
「いえ、クロさんの見間違えじゃないかと……これは凄いの一言しか出ないほどのものですね……これほどのものを手に入れてしまうユウさんはいったい……」
新しいハウスを目にしたクロエルとシスティアの反応は喜びよりも驚きの方が圧倒的に強く、ただただ唖然としてハウスを見上げているのであった。
ただ、そんな二人とは違って文は驚きこそしたものの、二人ほどのオーバーリアクションはない。
それは彼女がいまいちこのキャリーハウスの価値がどれくらいのものかわからないためであった。
そこで文は新しいハウスを唖然と見ている二人に気になっていたことを尋ねてみることにした。
「そういえば前から気になっていたんだけどさ、この持ち運びできる家ってそんなに凄いの?」
「いやいやいやいや! 凄いなんてもんじゃないよ! キャリーハウスでこれだけの大きさのものははっきりいってヤバイよ! 前のハウスですらビックリしたのに!」
「私も前に聞いたことがあるのですが冒険者様の中でのキャリーハウス持っている時点でお金持ちらしいですが、持っていても小さな小屋くらいのものらしいですよ?」
「シスチーの言う通りだよ! 私は色んな冒険者と組んで旅もしたことあるんだけど、その中でキャリーハウス持っている人もいたけど小さな小屋しか見たことないよ。これほどでかいものだと想像できないほどのお金が必要だと思うよ」
「そ、そうなんだ。前から思ってたけどゆーちゃんってもの凄いお金持ちなんだね」
クロエルとシスティアによる説明を受けて納得する文。
冷静に考えると『持ち運びできる家』という時点で夢のような発明である。
そんな夢のような機能がついていながら普通の一軒家並みの大きさとなると想像できないほどの価格となるであろう。
前からお金持ちだと知ってはいたが、こんなにポーンと簡単に家を手に入れてしまう彼女の見る目が変わる3人。
そんな彼女を見つめていると、新居を眺めていた彼女が振り返って3人に声をかける。
「よーし、ちゅうもーく! 今日はみんなにやってもらうことがありまーす!」
3人の方を向いてユウキが急に大声で叫ぶ。
その声といい表情といい、ウキウキ気分なのがうかがえる。
やってもらうこと……もちろん新しい家を得たことが関係するであろうことは3人はすぐに理解した。
そして新しい家を得たことでやることといえば決まっている。
それは……
「今日はみんなで引っ越しをやるわよ!!」
そう、お引越しの作業だ。





