8-3話 クロエルの交渉
「はぁ……どうやってゆーちゃんを説得しようか、シス?」
「そうですね……思ったより簡単にいかなさそうですね」
男が嫌いになった理由が大分馬鹿馬鹿しいが、それでも彼女の男に対する嫌悪は激しい。
それ故に文とシスティアの二人による説得は停頓していた。
どうやって彼女を説得しようかと相談していた二人だったが、そんな中、
「……ねぇ、ユッキーの説得は私に任せてくれない?」
と、クロエル本人が彼女の説得に名乗り上げた。
「え? くーちゃん自身が説得するの?」
「もしかしてユウさんを説得できる策でもあるのですか?」
「うん、ちょっとね。その上で二人にお願いがあるんだけどいいかな? ユッキーと二人きりにさせて欲しいんだ」
「え? だ、大丈夫? 二人きりなんかにして……もし、ゆーちゃんに襲われたりでもしても私達が止めることはできないよ?」
「まぁ……確かにそうなんだけどさ、覚悟の上だよ」
もし、ここでユウキの説得ができなければ行く当てがなく途方に暮れてしまうことになるのだ。
だったら説得できるワンチャンスにかけるしかないと彼は考えていた。
「わかりました。クロさん自身が望むのであれば私は少しの間席を外します」
「私もわかったよ。でも、そのかわりにちゃんとゆーちゃんを説得して一緒に旅しようね!」
「うん、任せて」
クロエルの指示に従って二人はその場を離れていき、離れていく彼女達を心配させないようにクロエルは親指を立ててウインクしながら見送っていた。
こうしてクロエルとユウキの二人の空間が出来上がったのだった。
「ほーん、私と一対一になるなんて良い度胸してるわね? 二人はもういないから容赦なくあんたをボッコボコにできるわけね」
二人が離れた途端、ユウキは指をポキポキ鳴らしながらクロエルを見下ろしていた。
彼女が威圧的に迫ってくることも多少は考慮していたのだが、実際に自身より20cmくらい身長が高い彼女からこうも迫ってこられると流石に身体が震えるクロエル。
しかし、怖がるわけにはいかない。
そうも思っていた彼は勇気を出して彼女の説得を開始した。
「ご、誤解しないで! 私はユッキーと交渉するために二人に少しの間離れてもらったの!」
「交渉? 何の交渉か知らないけどあんたと話すことなんてないわよ。いいから大人しくボコらせなさいよ」
「待って待って待って! さっきユッキーは『連れて行く上でメリットもない男を連れて行くわけにはいかない』と言っていたよね!? 交渉っていうのは私を連れて行く上でのメリットを話すことよ!」
クロエルの交渉というのは自身を連れて行くことで彼女にとって得になることをアピールすることみたいだ。
先ほどの彼女の発言から彼は自身を連れて行くことのメリットを思いついたらしく、こうやって交渉の場を作ったようだ。
「そんなこと言ったかしら? まぁ、言ったとしてもあんたにそんなものがあるとは思わないけどね」
「き、聞くだけ聞いてよ! 私も一応命に関わる問題なんだから!」
「チッ……まぁいいわ、聞くだけ聞いてあげる。さっさといいなさいよ」
「ふぅ……ありがとう。まず私がメリットを出す上で確認しときたいんだけどさ、ユッキーってふーみんのこと好きなんだよね?」
「もちろん! あんな可愛い子を見て惚れないわけがないよ!! 目と目があう瞬間に好きだと気づいたわ!!!」
「あぁ……うん……そうなんだ」
「なにちょっと引いてんのよ」
「いや、別に引いてないよ……」
「まぁいいわ。で? 結局あんたを連れて行くメリットって何?」
「じゃあ言うね。私を連れて行ってくれたら私がユッキーのその恋に協力してあげるよ」
彼女の文に対する異常な好意を見て、彼女と文の恋を発展させることができればそれは間違いなく彼女にとってのメリットだと思ったのだ。
だが、その提案を受けた彼女は眉間にシワを寄せて再びクロエルに尋ねる。
「私とふーちゃんの恋に協力? あんたに何ができるのよ?」
「ふっふっふっ……乙女心を理解している私が居れば、ふーみんに対してどんなアプローチをすればいいかわかるんじゃない? 色々アドバイスしてあげる」
「はぁ? 男のあんたに乙女心の何がわかるのよ?」
「でも私の方がユッキーより女の子の気持ちがわかると思うもん」
「おい、あんたマジで殺されたいの?」
まさか男に言われると思っていなかったセリフを真顔で言われてしまい、再び怒りのゲージが上がりクロエルの襟首をつかみ上げる。
何も知らない他人が見るとカツアゲの現場のように見えるような光景である。
「そういうとこ! 女の子はそういうこと言わないし、人の襟首掴んだりもしないの!!」
だが、鬼気迫る表情をしたユウキに対してクロエルも果敢に人差し指をつきつけ正論を叩きこむ。
たしかに普通の女の子であれば『殺す』だの物騒な発言はしないし、こんな簡単に暴力を振るおうともしない。
まともな正論を突きつけられた彼女は『うぐっ……』と黙り込んでしまった。
「どっちかっていうとユッキーって女の子っていうよりかはおっさんみたいだよ?」
「お、おっさん……? この私が……!?」
おっさんと言われたためか、掴み上げていた襟首を思わず離してしまった。
自分が嫌いな男、それもだいぶ歳のいった者のことを指す『おっさん』と言われて相当なショックを受けているみたいである。
「その荒々しい言葉とかさ~ふーみんに対するセクハラじみた発言とかさ~、直した方がいいんじゃない? あんまり女の子からも良く思われないよ?」
呆れたような表情をしたクロエルの追撃。
どれもユウキにとってクリティカルヒットする。
「うぅ……で、でも! あんたは男じゃない! あんたに女の子の何が分かるって言うのよ!」
女の姿をしているとはいえクロエルは男。
女を装うと書いて女装。
あくまで男の彼に女の子の気持ちを語られたことに屈辱を感じたユウキは反論。
だが、クロエルはユウキが予想もしていない切り返しをしてきた。
「魔導士って男の子より女の子の方が多いんだけど、その理由って知ってる?」
「は? 唐突に何よ?」
「いいから、答えて」
「……聞いたことはあるわよ。魔法を発現する元となる魔力っていうのは女の子の方が質が高いから男よりも女の子の方が魔導士に向いている……だっけ?」
「その通り。私の実家は代々魔導士を受け継いできたんだけど、男の私も魔導士を目指すことになったの。そうして子供の頃から魔導士として育てられてきたんだけど、魔導士として育てられる上で女の子として育てられたの」
「だからあんたって気持ち悪い女装したり口調が女々しかったりする……ってことなの?」
「そうっちゃそうなんだけどさ……もうちょっと言い方なんとかしてよ……」
だいぶ落ち着いた彼女であるが、やはりクロエルに対しては言葉に棘がある。
ただ、クロエル自身も彼女の暴言については耐性が付いきていた。
「それにさー、ユッキーが男の子が嫌いなのは自分の(?)女の子が取られるのが嫌だからでしょ? 私は別に女の子にそういった興味ないんだからそんな心配はしなくていいと思うよ」
「まぁ、確かにあんたってホモだったしね」
「だ・か・ら! ホモって……! ……まぁ、それはいいわ。それで、どうなの? 私を連れて行く気になれた?」
「うーん……でも……」
クロエルとの交渉に対して彼女は腕を組んで考え込んでいた。
自身に対するメリットも提案されたし、文に手を出さないことも分かっている。
彼を連れて行ってもいいのではないか、と思い始めているようだが、その反面でやっぱり男をパーティに入れるのにも抵抗があるようだ。
彼女が考え込んでいたおかげでしばらくの間その空間が静寂に覆われたその時、
「あれ? もうくーちゃんを連れて行くか決める交渉はもう終わったの?」
少し場から外れていた文が二人に声をかけてきたのだった。
どうやら交渉をしているはずの二人が静かになったことから話が終わったのかと思ったらしい。
話が止まっているタイミングでの文の乱入。
クロエルはこれを『チャンス』と考えとある行動を起こすことにした。
「うん、そうなの! それで、ユッキーが私を連れて行ってもいいって!」
その行動とはユウキが許可もしていないのに彼女が同行を許可したかのように言ったのであった。
「本当? よかったね、くーちゃん!」
「ちょ! まだ、いいって言ってな――」
「ほんとほんと! ユッキーが困っている私を見捨てることができないって!」
ユウキが否定しようとしたところ、すかさずクロエルは文の手を握り、『これから一緒に旅することとなった』と決まったかのように続けて言う。
「へー、やっぱりゆーちゃんもなんだかんだ言って見捨てはしないんだねー。おーいシスー、くーちゃんの説得は成功したみたいだよー」
彼の言葉を信じた文はすでに彼と同行することが決定したと思い込んだのか、そのことを伝えるためにシスティアの元へと駆けて行った。
彼のこういう所は男をだました時と同じような狡猾さが見える。
「おい、お前……!」
「ふふっ……ふーみんはもうその気みたいだね? ここで『やっぱりクロは追放よ!』なーんて言ったらふーみんガッカリするしちゃうよ?」
「あんた、本当に憎ったらしいわね……! マジで殺してやろうか?」
「ご、ごめんって! でも落ち着いてよ! ここでまた私を怒鳴るよりも器の大きさを見せておいた方がふーみんの好感度上がると思うよ? ね?」
「うぐっ……うぅ……」
クロエルからさっそくのアドバイス。
話の引き合いに文を持ち出されてしまうと弱いユウキは丸め込まれてしまった。
「わかったわよ……! 連れてってあげる! その変わりに私とふーちゃんがラブラブエッチできるまでちゃんと協力しなさいよ!?」
「いや……そこまでは協力できないよ……」
こうして、不機嫌ながらも彼女は自称美少女魔導士(♂)クロエルの同行を許可したのであった。





