4-2話 防具屋でファッションショー
「わー、本当に洋服屋みたい」
店に入り、辺りを見回すとカラフルな模様をした服……いや、防具が掛けられている。
「どの防具も性能は一級品だから普通に私服を選ぶ時と同じ感覚でいいと思うわよ」
まさか異世界に来て服を買いにくるなんて思ってもいなかったなぁ……
文はそんなことを考えながら店内をきょろきょろしていた。
「わ、私あまりこういうオシャレな所に来たことないのですよね……」
そして、普段から修道服ばかり着ているためか、システィアはあまりこういった場所に慣れていないようで、文と同じように当たりを見まわしてうろうろしていた。
「あ、これ可愛い、ふーちゃんに似合いそうだから着てみてよ」
店に入って早速ユウキは一つの防具を手に取って勧めてきた。
それは薄いピンク色の生地のものであり、可愛い色が好きである文は少しワクワクしていた。
「そ、そう? 地味な私に似合うかな?」
「絶対に似合う! 確信してる! 試着室あるから着替えて来なよ!」
ユウキが指さす方向を見ると、カーテンで隠れた個室がある。
彼女の言われた通り、着替えるためにその試着室に向かっていく文であったが、
「あ、覗いたら本気で怒るからね」
と、念のために釘を刺す。
「の、ののの覗きなんてしないわ!! 覗きなんて最低で卑劣な行いだよ!!」
ユウキはビクッとして震えた声で否定した。
どうやら図星だったようだ。
目が泳いでいる彼女を睨みながら文はカーテン閉め、着替えることとする。
「あ……結構硬い……」
個室の中で渡されたものをじっくり触ってみると、硬くしっかりとしており、多少引っ張っても伸びないようだ。
恐らくは、この素材によって普通の服とは違い、魔物との戦いで負傷を軽減させているのだろう。
と文は納得した。
ささっと着替えてカーテンを開けて外にいるユウキに見せてみる。
「やっぱり私の見立ては間違ってなかったわ! 可愛い!!」
彼女は手を合わせて『パン!』と鳴らすと笑顔で文をほめる。
「そんなに褒められると恥ずかしいんだけど……」
「いいよいいよ~」
ユウキはスマホのようなものを取り出すと、『パシャパシャ』とカメラ音を鳴らして撮影を始めた。
それに対して、文もなんだかモデルになった気分でまんざらでもない気分にであった。
「可愛いよー」
ユウキは撮影を止める気があまりなく、右に回っては左に回ったりと色んな角度から取っていく。
水平からの撮影に満足すると、今度は膝を曲げながらカメラを向け、撮る角度がどんどんと低くなっていく。
「あ~、いいわねぇ~」
やがては頭が床に付きそうな程のローアングルで文にカメラを向けていた。
先ほどはモデル気分になって、彼女のことを『カメラマンみたいだ』と思った文であったが、今の彼女の様子を見ているとどちらかというと露出の高いコスプレイヤーに群がっているカメコのようだ。
「……お店に迷惑かける前に止めてよね」
文は握った拳をユウキに見せつける。
「あ……はい……ごめんなさい」
その冷たい声にビクッとしたユウキは即座に立ち上がった。
「それはそうと、こんな良い物を買って大丈夫なの?」
「別に私がお金出すんだし、ふーちゃんが気にしなくていいよ~。あ、これも可愛いし着て着て」
ユウキは手当たりに気に入った装備を取っては文に手渡していく。
文は改めて手渡された装備に目を落とすと、それぞれ値札が付いていた。
値札には6桁の数字が羅列されており、末尾に『K』と記号が書かれてある。
日本では『円』や『¥』と表記されていたが、それと比べてこの『K』というのがどれくらい相場が違うのかはわからないため、値段が高いのか安いのか文にはピンとこなかった。
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文の防具をいくつか購入を決めた後、二人はシスティアの様子を見に行くこととした。
少し店の中を回ると彼女はすぐに見つかり、ユウキが声をかける。
「シスー、買う防具は決まった?」
「いえ、決められなくて……」
「そうなんだ、私が選んであげようか?」
「そういった問題ではなくて……」
システィアは胸にかけた銀色の十字架を手にかけると、
「私は神様に祈りを捧げた身ですから、入浴や睡眠の時以外は修道服を着ていないと……なんだかピンとこなくて……」
と言い出した。
「信心深いのね……と少し思ったけど、女神様の像の前でオ〇って教会から追い出された人のセリフとは思えないわね」
「ほんとそうだよ……」
二人はそんなシスティアに呆れた表情をするが、そもそも罰当たりな行動を起こした結果、たまたま二人の旅に同行することになったのだ。
そのため、『神に祈りを捧げたから』と言われても関心しないのは無理はない。
「あ、そうだ!」
ふとユウキが『そういえば』と何かを思い出したかのような表情をした。
何かを思いついた彼女は『すいませーん』と店員を呼びつけると、どこからともなく女性の店員が『はーい!』と言い颯爽と駆けつける。
文は『なんだなんだ?』と思っていたが、二人は何か相談をしており、しばらくその様子をみていると、
「じゃあ、お願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
その言葉を最後に店員は再び見えない場所へ消えていった。
「何を話していたの?」
「ちょっとね、シスが気に入るかもしれない防具があるかもしれないの」
何のことかわからない文とシスティアは顔を見合わせる。
先ほど修道服でないとダメだといったシスティアが気に入りそうなものというのがわからなかった。
「私が気に入りそうなもの……ですか?」
「冒険者志願者の中には『形から入りたい』って子がそこそこいてね。このお店はそのニーズにこたえるためにコスプレのような見た目の装備も扱っているの。もしかしたら修道服の見た目をしたものも扱っているかもしれないと思って店員さんに聞いてみたわ」
ユウキが説明が終わると丁度良いタイミングで先ほどの店員がやってきた。
「お待たせしました。先ほどご相談頂いたものについてなのですが、こちらなんかいかがでしょうか?」
「あ……ありがとうございます。わざわざ持って来ていただいたものですし、着てみますね」
システィアは店員から畳まれた黒い防具を受け取り、試着室のカーテンを閉める。
「こ、これは……!」
カーテンに阻まれているが、中から小さな呟き声が聞こえてきた。
その意味深な声に、何も知らない文はどんなものを着せられているのか気になり、文は閉められたカーテンをジッと見つめていた。
しばらくするとカーテンがゆっくりと開いて彼女が再び現れた。
「あ、あの……これ、丈が短すぎないでしょうか?」
システィアが元々着ていた修道服はゆったりとしたロングのワンピースであったが、今着ているモノはその丈をかなり短くしたようなものであった。
また、ベールも短くなっており、先ほどまで被っていたものは髪の毛まで覆っていたものであったが、今では前髪がハッキリ覗かせている。
今まで隠していた部分を露出させた彼女は膝まで生地のない防具の裾を掴んでもじもじして顔を赤らめる。
「いいんじゃない? それならさっきの服より動きやすそうだし私は可愛いと思う」
「私もふとももが覗けてそっちの方が好みよ」
「恥ずかしい……恥ずかしいです……」
あれだけ恥ずかしいことを口走る彼女が恥ずかしがっている光景に二人はニヤニヤする。
「ダメです……あぁ……! そんなに見られては恥ずかしくて死んでしまいそうです……! お願いします、そんな舐めるように見ないで欲しいです……!」
システィアは身体をくねらせながら何度も二人に懇願するが、
「…………シス、本当は見られたがってない?」
「恥ずかしいとか言いつつも全然着替えようとしていないもんね」
見られたいがために『恥ずかしい恥ずかしい』と言っていることがバレてしまい、『てへっ』と舌を出して笑う彼女であった。
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「これに決めました! 修道服みたいですし気に入りました」
元の服に着替えたシスティアは先ほどの防具を手に持って嬉々とした表情をしていた。
「修道服っぽいものならなんでもいいの?」
「店員に持ってこさせてなんだけど、それ全然清楚じゃないわよ」
元シスターとは思えないような露出した防具を気に入る彼女に、二人は彼女がドMであることを思い出し、それ以上は相手しないように買い物を終わらせようと会計に向かっていった。
「じゃあ店員さん、会計お願いね」
防具を全て店員に渡すと、装備はレジに通される。
「全てで519800Kになります」
店員が金額を言うと、システィアは手を口に当てて驚きの表情をしていた。
いまいちどれくらいの金額かわからない文は驚いている彼女に聞く。
「ど、どうしたのシス?」
「いや、店員さんの言っているお値段! 半年くらいは生活できるほどの金額ですよ!」
「えぇ! そんなにお金かかるの!?」
魔物との戦闘に優れた性能を持ち、かつ、デザインにも配慮したもの。
よく考えれば普通の装備とお値段が高いのは当たり前だ。
あまりの高額に『ど、どうしよう……』と慌てている二人を尻目にユウキは、
「カードでお願いしまーす」
何事もなかったかのように一枚のカードを店員に渡し、店員も同様に何事もなかったかのように受け取り『ありがとうございました』と言い頭を下げた。
「ゆ、ゆーちゃん支払いできたの?」
「うん、会計も終わったしお店出よ?」
それだけ言うと防具の入った袋を両手に持って店の出口に向かって歩いて行く。
残された二人はその後ろ姿を茫然と立ち尽くしながら見ていた。
「ゆーちゃんってお金持ちだったんだね……」
「勇者って儲かるのですかね?」
あっさりと高額の防具をぽーんと買うその姿に彼女を見る目が少しかわった二人であった。





