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上司が同行します

 再び残念です。

 

 

 「とっとと訓練に戻って下さい」

 貼り付けたような笑顔で言えば、やや戸惑いながら素直にうなづいて訓練に戻って行った。

 そしてそのまま執務室に戻れば、気になりますと目で訴えているエドと目が合った。

 「期待するほどの修羅場はなかったわよ」

 一応あらぬ予想をたてられないように釘を刺す。

 「仲直りできたんですか?こんな短時間で」

 「仲直りも何も、完全な向こうの勘違いだもの。誤解を解けばすむ話よ」

 「あぁ、第1大隊の」

 すぐさま察したらしい。

 「で、どうしてそんなに不機嫌なんですか?誤解は解けたんでしょ?」

 「そうね、誤解は解いたけど」

 その後がよろしくなかった。

 はぁっとため息をついてチケットを見る。

 「ねぇ、国立植物園って知ってる?」

 「オードルさんの聖地ですね。もちろんですよ」

 とんでもなく詳しそうだな、と予想以上の答えが返ってきた。

 「今度行くんだけど、私詳しくないから」

 「そうですか。オードルさんに聞くと詳しいですが、僕が言えるのは少しですよ。

 国立植物園はヴィオール家が王家になった約400年前、記念として整備された、王侯貴族御用達の憩いの場として誕生しました。代々王家が直轄して管理し、平和のシンボル的な場として約100年程前から、有料で市民にも開放されています。ちなみに入場制限もあります。

 ちなみにオードルさんは騎士団に入団した後から、論文を携え、植物園管理局の局長と園長と激論を交わして、今では騎士団を辞めて管理局にこないかと誘われています。ちなみにオードルさんは、そういう後ろ盾もあって、入場制限にカウントされない年間フリーパスなるものを取得してます」

 「ふ、フリーパス?」

 「はい。これもハミルディオ王子が3年前に始めたもので、1度登録しておけば、年内は自由に出入りできるというカードです。それまでは研究者ですら毎回チケット購入したり、入場制限に引っかかったりして苦労したそうです」

 娯楽施設の定番フリーパス、か。

 ふと植物に覆われた窓の外を見る。

 王城を見ることは出来ないが、確かにこの方向にある。

 「王子様って、いくら騎士団でもそう簡単にお目にかかれないわよね?」

 「無理でしょうね。隊長くらいになれば、可能性はあるでしょうが」

 顎に手を当てて考え込む私を不思議そうに見て、エドが何かを思い出したかのように手を叩いた。

 「あ、そうだ!内緒ですけど、いいこと教えましょうか?」

 「何?」

 「ヒルダさんを信用して教えるんですよ。

 実は近々ハミルディオ王子が、国立植物園を視察されるそうなんですよ。オードルさんも管理局局長のお誘いで行くそうで」

 「いつ?」

 「さぁ、日程は秘密だそうで」

 わかりません、と肩をすくめてみせた。

 私はチケットをの日付を確認し、どうかこの日でありますようにと願った。


 

 非番の日は基本上司も休み。それは分かってる。

 ニコラスさんとの待ち合わせ場所は、王都の名の知れたレストランだった。

 お昼前に店の前で待ち合わせし、食事をして国立植物園を散歩して解散、というのが今日の私のスケジュールだった。

 いつもよりゆっくりな朝を、夢うつつで堪能していたところにそれはやってきた。

 部屋のドアがノックされ、夜着のまま応対に出た。

 立っていたのは女性官舎受付譲の1人。外部からの連絡を伝えにきたのだとわかった。

 「ジェイナスさんが受付でお待ちです」

 「は!?」

 一気に目が覚めて、すぐ行きますとだけ伝言をお願いしてあわてて着替えた。

 着替えたと言っても、いつもの隊服。髪はとりあえず後ろに束ねただけ。最低限の化粧もぱぱっとすませて、受付へ急いだ。

 さして広くない受付ロビーの数席の1つに、彼は足を組んで座っていた。

 その格好は隊服ではなく、黒のダブルスーツにスラックス、白いシャツは首元のボタンを1つ外しており、髪もサイドをきっちり撫で付けている。

 「どうした?」

 ぽかーんと離れて立っていた私だったが、はっと我に返るとささっと近づいて聞いてみた。

 「どうしたんですか?お出かけ前に何か御用でも?」

 質問をした私をぶしつけに上から下までしっかり見た後、ジェイにはぁっとため息をつかれた。

 「お前の用意をしに出かけるだ。その格好で行くのか?」

 「わ、私のですか?」

 「時間がおしいから、このまま行くぞ」

 立ち上がってそのままぐいっと手を引かれた。

 「ま、待ってください!荷物も、服も着替えますから」

 「大丈夫だ。全部手配する」

 「はぃい!?」

 朝ごはんもまだなんですけど、とは言えずそのままズルズル引きずられるように官舎を後にし、外出届けを提出して、一般門と言われる外門から外へ出た。

 数ヶ月ぶりに城の敷地内から出た。

 すでに人や馬車の往来で騒がしく、少し離れたところでは朝市のようなテントの集合体も見えた。

 「こっちだ」

 少し離れた道の片隅に1頭立ての馬車が止まっていた。

 御者がドアを開けて頭を下げている横から、ジェイに引っ張り込まれるように乗せられた。

 「ど、どこ行くんですか?」

 「言っただろう、今日の準備だ。頭から靴まで全て揃えに行く」

 「ええ!?」

 がくんっと揺れて馬車が動き出した。

 向かい合うように座り直し、もう1度尋ねる。

 「あの、今日のこと怒ってたのでは?」

 目線を窓の外から私に移して、むすっとしたまま口を開く。

 「俺の勘違いなんだろう。侘びのかわりに、お前の準備をすることにした」

 そういうのって、普通私に聞いてからじゃないですかね、とは言えず黙っておく。

 「昼食の場所もある程度用意していない入れない場所だったし、そもそも元メイドのお前が装飾品を持っているか気になってな」

 貴族御用達って感じのレストランだったので、やはりドレスコードが存在したか。

 外出着を1着だけ持っていたが、上等とはいえないので、ニコラスさんにお会いした時に、上手くいけばレストランに入らずに済むかもと期待してた。むしろその場で解散もいいな、と思っていたし、町を探索できると期待していたのだけど。

 「お前に恥をかかせるのは嫌だからな」

 「はぁ、ありがとうございます?」

 「……なんで疑問なんだ」

 言われてうーんと考えたが、やはり嬉しい気持ちが沸いてこない。

 「いえ、私は長年お嬢様達を着飾ることしかしてないので、自分が着飾るといった実感がないのです。今日もお会いしてがっかりされたら、その後は町でも楽しもうかと思ってましたので」

 「……そうか」

 「でも、1番分からないのはジェイのこの行動ですね。いくらお詫びだって言われても、普通異性に合うのに着飾らせたりしません」

 言ってて段々腹が立ってきた。

 しかもなぜかジェイまでめかしこんでるし、一体何がしたいんだろう。

 「そうか?だがこうでもない限りお前は着飾ったりしないだろう?それにニコラスと2人にするつもりはない」

 「は?」

 「同行するからな」

 「はっ!?」

 当然といったように胸を張る上司に、思わず目が丸くなる。

 「同行ですか!?」

 うそでしょう、と焦ったように早口な私を見てやや目を細める。

 「なんだ?何かやましいことがあるのか?」

 「ありません!」

 首をぶんぶん横に振って否定してから、深呼吸して落つかせる。

 「ニコラスには言っておいたから大丈夫だ」

 「えぇ!?」

 せっかくおさまった驚きが再び噴き出す。

 「黙って同行するわけにもいかないだろう」

 腕を組み、さも当然と言い放つ。

 確かに事前連絡は大事ですが、普通その発想はないと思う。

 「何か言われました?」

 「なぜか笑われた」

 「でしょうね!」

 どうやらニコラスさんはまとものようだ、と安心する。

 やがて馬車が止まったのは貴族街の中にある、高級店も立ち並ぶ大通り。その中でも目立たないが、年季が感じられるやや小さな服飾店フェッテルという店の前だった。

 「義理の姉が利用している店だ。連絡はつけてもらってる」

 「は、はぁ」

 冴えない返事をしつつ、場違いな隊服で馬車から降り周りを見ると、ドアの両脇のガラスのショーウィンドウには素敵なドレスが展示してあった。

 りんっと鈴の音がして、ドアが開かれた。

 オレンジの髪を高く結上げた年配の綺麗な女性が、うやうやしく頭を下げた。

 「ようこそおいで下さいました。店主を務めますアン・コンサリッチでございます」

 「朝からすまない」

 「いいえ、どうぞお入りくださいませ」

 歩きだしたジェイに続いて中に入れば、右には様々な布地が置いてあり、左にはズラリと飾られたペンダントやブレスレットなどの装飾品と小物、ドレスが並んでいた。

 アン夫人に通されたのは店舗の更に置くにある、いくつかある応接室の1つだった。

 部屋は楕円(だえん)のテーブルにソファが1組。その先はカーテンで仕切られていた。

 メイドのようなエプロンをした女性がお茶を持ってきてくれ、すすめられるがままに空腹の胃にお茶を流し込む。

 いくつかのお菓子も頂こうかと思っていたところで、アン夫人がでは、と話し始めた。

 「既製品で良いとのことでしたので、お好きな色がありましたらお持ちしますが」

 ジェイが目線で聞いてくるが、急に言われても思いつかない。

 「えっと、特にありません。すみませんが、お任せしてもいいですか?」

 ジェイとアン夫人の顔をちらちら交互に伺いつつ尋ねると、にこりとアン夫人が笑った。

 「お任せいただければ、早速ご用意しますわ。ジェイナス様もよろしいでしょうか?」

 「あぁ、好きにしてくれていい」

 「では」

 さっと立ち上がると、静かに部屋を出て行った。

 それからお菓子を摘んでお茶が空になった頃、トントンと部屋がノックされアン夫人が戻ってきた。

 「お待たせいたしました」

 アン夫人に続いてドレスを持ってきた人が4人、お針子さんも3人、メイク道具や小物を持ってきた人が4人とぞろぞろ入ってきて、狭くないはずの応接室が急に狭く感じる。

 さすがにジェイも呆気にとられた顔をしていた。

 「うちの精鋭ですわ。フェリアーナ様からくれぐれもよろしくと仰せつかっております」

 一斉に頭を下げる。

 「あ、よ、よろしくお願い致します」

 失礼ながら座ったまま頭を下げた。

 ささっと皆さんが動き出す。

 仕切られていたカーテンを開ければ、そこには鏡台の他に大きな姿見の鏡、空の棚や大きな机も用意されていた。

 「お昼のお出かけとお伺いしておりますが。具体的にはどちらへ参られる予定か、お伺いしてもよろしいでしょうか」

 「あ、あぁ、カルドーニュで昼食後、国立植物園へ行く予定だ」

 「かしこまりました」

 ちらりとアン夫人がお針子さん達を見ると、彼女達は心得たとばかりにうなづいた。

 「こちらへ」

 「は、はい」

 緊張しながら立ち、アン夫人に背中を押されてしきりの向こうへ進む。

 「ジェイナス様はそちらでお待ちください」

 そのままシャッとカーテンは閉められた。

 「さぁ、始めますわよ、お嬢様」

 手をわきわきさせるお針子さん達と、メイクさん達に顔が引きつる。

 (昔は私もあんな楽しそうな顔してたのかしら!?)

 読んでいただきありがとうございます。


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