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デートに誘われました

 今週もよろしくお願い致します。

 ハミルディオ・ハンス・ヴィオール・ベラドール第2王子、14才。ベラドール国王家の神童と名高い王子様。王室直営事業の展開を発表し、来年春より物流会社なるものを開始する。

 目的は現在個々の商人がそれぞれの方法で荷を運んでいるが、それでは物の価格が定まらない。そこで、各地に点在する兵や国の施設を結んだ荷の運搬ルートを設定し、安全で早い安定した供給をもたらす目的で発案する。

 

 「以上が、ハミルディオ王子が提案されたカブシキ運搬商白馬の概要です」

 「白馬?」

 「白は誠実、馬は早いという意味だそうです。いやぁ、最近戦争もなくて兵士の大半は別の仕事と兼業して所属したり、辞めて他の仕事しなくちゃならないとか多いですからね。この事業はそういった兵士の活用を目的にしてるそうですよ」

 平和はいいことなんですけどね、とエドが笑う。

 「兵士ってことはある程度訓練も受けてるから、荷の護衛にもなるってことよね」

 「兵士がウロウロするから、治安も良くなるかもって話です」

 「本当に14才なの?」

 「だから神童って騒がれてるんですってば」

 窓際の植物に囲まれたエドの補佐用の机の横に立ち、じっとその提案書の写しを見る。

 公開演習日から3日たっても気になったので、エドに話すとすぐに写しを用意してくれた。春先に配られたものらしく、ジェイの資料にはなかったような気がしたので、おそらく失くしていると思う。

 「ヒルダさん、訓練はいいんですか?」

 「今日は女の子の日でお休みなの」

 本当は痛くないけど、朝エドから書類が見つかったと言われて、すぐメイグ教官に申し出たらすぐ休めた。

 ふと顔を上げると、エドが口をへの字にして黙っていた。

 「どうしたの?」

 「……あんまりそういうこと男の前で言わないほうがいいですよ。恥じらいがないと思われます」

 「そうね、気をつけるわ」

 女が生理あるのは当たり前じゃん、何が恥ずかしいのと思ってるのは、自分が精神年齢60才近いからかしらね。

 多感なお年頃のエドの前では失態だった。

 「そういえば、ヒルダさん第1大隊の人から花束貰ったって聞きましたけど」

 「あぁ、勲章や飾緒直すのに手間取ってたみたいだったからお手伝いしただけよ」

 エドが見ているのは、執務室のドア近くに飾られた花。

 それは会場から門へ歩いていた時のこと。

 白い隊服の隊員が、隅でもたもたしていたから、つい声をかけて身だしなみを整えたのだ。

 貴族隊の隊員だし、と一応名乗ってからお手伝いしたのだけど。顔すら忘れてた私のところに、お礼として花束が届いたのが昨日。オードルさんに許可をもらって早速飾った。

 「ジェイさんに言いましたか?」

 「何を?」

 「花がどうして送られてきたのか、とか」

 「聞かれてないから言ってないわ。別に言うことないでしょ?」

 その前に花束が届いた時、執務室にジェイはいなかった。

 「あの人独占欲強いですよ」

 紙面から目をエドへと向ける。

 その視線を受け、こくっと小さくうなずく。

 「ジェイさんの態度丸分かりなんで、多分遊撃隊全員知ってます」

 「……え?」

 嫌な予感にひくりと頬が引きつる。

 「第5大隊の中でヒルダさんにちょっかい出す人はいないと思いますが、フェミニストな第1大隊は感覚が違いますからね。お礼で花束贈って、お茶に誘ってなんて王道ですよ?」

 「え、ちょっと、知ってるって何を!?」

 がしっとエドの肩を掴む。一緒に紙もぐしゃっとなるが、今はそれどころではない。

 「い、いや、ジェイさんがヒルダさんを好きだってこと」

 「うそ!!そりゃお昼はご馳走になりっぱなしだけど、みんなの前では、訓練で叩きのめされてるんですけど!?」

 あれ見てどうして好意を持ってるとわかるんだ。

 「好きな子いじめたい男の欲求が…」

 「いい大人がそんなもん滲み出してるっていうの!?」

 がくがくと揺さぶる。

 「…恥ずかしいわ」

 「今更ですよ。

 そういえば僕も彼女できたんですよ」

 「は!?」

 急な話題の切り替えと、告白に驚く。

 「初めて彼女が出来たんで、いろいろ相談に乗って下さいね」 

 「わ、私が!?」

 「女心は女性に聞くのが一番じゃないですか」

 にっこりと笑顔を見せられ、肩を掴んでいた手の力を抜く。

 「皆さんには内緒ですよ。ところで聞きたいことがあったんですが」

 「な、何?」

 「キスってどこでしてます?」

 とんでもない質問をされて、大きく一歩後ろに下がった。

 「人目につかないとこってあるのかなぁって。まさかここでしてます?」

 「してません!」

 「じゃあどこで?」

 「してません!そもそもそんな関係じゃないってばっ」

 首と手を横に振って否定すると、みるみるエドの顔が曇った。

 「まさかの放置ですか?自分は他の男性から花束貰ってるのも隠して?」

 「どこの悪女よ、私はっ!」

 「まさか、体だけの関係とか?」

 「どっからその発想でたの!?」

 「これです」

 ポケットから手帳サイズの本を取り出して見せた。

 本の題名は”さまざまな愛のかたち”とあった。

 「フランドールさんに感付かれてお話したら、これを読んで柔軟な考えを持て、と」

 「さっさと返したほうが長続きするわよ、きっと」

 十代半ばの初々しい恋愛に、なんてもの参考として渡してるんだろうか。サリーに愚痴ってやりたい。

 「で、どうなんですか?」

 「何がよ」

 「付き合ってないんですか?」

 うぐっと喉を詰まらせる。

 こういう話題になるとすぐさま、あの討伐の夜の出来事が鮮明に思い出される。

 そのたびに羞恥で赤面しそうになるのを、必死でこらえてるんだけど。

 「……まだ、私に覚悟がないから…保留中よ」

 さっきまでの勢いはどこへといった感じで、小さくゆっくりと顔をそらしてつぶやく。

 「初心ですね」

 くすりとエドが笑った。

 かっと顔が熱くなる。

 「あんたに言われたくないわよ!」

 「でも、キスまだなんでしょ?」

 ぐうの音も出ないとはこのことかっと拳を握り締めた。

 ふっふーんと、妙に勝ち誇った顔をして仕事を再開したエドを睨みつつ、私も机でお礼状を丁寧に清書していく。

 今から直面していくであろう恋愛の失敗談について、しかも女性に嫌われてしまいがちなうっかりミスを脅し半分で忠告してやろうか、なんて大人気ない考えを展開していた時だった。

 がちゃっとドアが半分開き、その隙間に普段より数倍目つきの悪…鋭いジェイが立っていた。

 ぶわっとなぜか鳥肌がたつ。

 「ヒルダ、ちょっと来い」

 「はい!?」

 低い声にほぼ反射的に返事を返す。

 どうして外へ?と嫌な予感しかしないまま立ち上がる。視界の端にエドが座ったまま、そっと手を合わせていた。

 廊下に出ると、すぐ隣の会議室のドアが開いており、中をのぞけば入り口近くにジェイが立っていた。

 「し、失礼します」

 黙ってはいることができずに、やや小さく断って中に入る。

 そっとドアを閉め、おそるおそる顔を見上げると、顎で座れと促された。

 心の中で何を失敗したかと考えるが、特に思い当たらない。まさか今日のズル休みがバレたのか。しかし半分は本当だし、と考えたところでかちゃりと音が鳴った。

 それがこの部屋の鍵だとすぐに分かった。

 部屋の中央にある会議用テーブルは大きな楕円(楕円)で、厚めのクッションがついたイスが8つ並んでいる。

 すぐ手前のイスに座ったが、ジェイはイスに座らずツカツカ歩いてきて真横に立った。

 ふわっと土ぼこりの匂いと汗の匂いがした。

 訓練中にやってくるなんて、よっぽどなんだなっと、いまだに思い当たらない失敗を探す。

 重い沈黙の中、とりあえず見つめるテーブルの上に、一通の手紙が乗せられた。その手紙をとんっと1回指先で叩いてから話が始まった。

 「ニコラスとはどういう関係だ?」

 言われた言葉が良く理解できず、たっぷり間を置いて顔を上げた。

 「はい?」

 しかし、あいかわらず射抜くような視線で見下ろされるだけで、私はもう1度ジェイの言葉の意味を考えた。

 「ニコラス…。すみません、どなたでしょうか?」

 「第1大隊のニコラス・ダライ・ビュリッテルだ」

 「第1対隊の知り合いなんておりませんが」

 何を言ってるんだと首を傾げる。

 「礼がしたいので、この手紙をお前に届けて欲しいと言われたんだがな」

 「はぁ、お礼ですか?」

 そこでようやく「あっ」と思い出した。

 「もしかして毛先が軽く巻いた金髪の方ですか?」

 「知ってるじゃないか」

 なるほど、理由が分かった。

 私は冷静になり、仕事のミスではないのだからいいだろうと立ち上がった。

 「もし私が思い出した方がその方なら、お礼の意味はわかりました」

 「あぁ、そうか」 

 「公開演習の交流会の時に、身だしなみのお手伝いをした方だと思います。先日花もお礼として届けられていまして、ドアの近くに飾っております」

 やや鋭さが丸くなった目で、まだ無言で見下ろしている。

 私ははぁっとため息をつきたいのを我慢して、机の上の手紙を見た。

 「で、これはなんて書いてあるんですか?」

 「見るわけないだろう」

 「やましいことなんてありませんので、どうぞ読んでくださいな」

 「嫌だ」

 何だ、嫉妬かと思う反面、エドと恋愛話なんてしてたせいか妙に意識してしまう。

 さっきは保留中だとエドに言ったが、これじゃあ保留も何もないなと思う。

 「じゃあ開けます」

 皺になるのも構わず手紙を掴むと、そのまま中を取り出した。

 「はっ?」

 「どうした」

 「お礼状かと思ったのですが、国立植物園へのお誘いみたいです」

 ほらっと手紙を差し出す。

 封筒の中にはチケットまで入っていた。

 「お断りしていいですか?」

 指定された日は確かに非番だったが、これ以上ジェイの感情を逆撫でるのも危険だし、何より乗り気じゃない。

 「構わんが、この日お前は休みだと伝えた」

 「あんた馬鹿ですか!?」

 さっきまで嫉妬してあんな不穏な雰囲気出してた奴が、相手に聞かれて素直に答えるなんて。

 「知らない人に私の休日を教えないで下さい!」

 「お前の名を知っていたからな。それにニコラスは俺の知り合いでもある」

 「やっぱりあんた馬鹿です!」

 はぁっと頭を抱えてイスに座る。

 「お前が隠さず言っていれば対処した」

 「私が悪いと?言うほどのことはしてませんよ」

 先程エドが言っていたようにお礼の王道らしい。

 「……ジェイ、あなた本当に…」

 私が好きなの?と聞こうとして止めた。

 「何だ?」

 「いいえっ!デートの一つも誘ってくれませんねって話ですよ」

 遠まわしに伝えてみたが、どうだろうか。

 言われて顎に手を当てて何かを考えていたが、ふと目線が重なった。

 一瞬ドキッとしたのだが、

 「来週、軍馬の視察に行くが一緒に行くか?」

 まさかの仕事とデートの掛け合わせを提案された。

 読んでいただきありがとうございます。

 

 エドがませてきました(笑)

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