公開演習と交流会
長いです。
説明多くてすみません。
進行表を見て演目の確認をする。
御前試合のオープニングイベントは式典正装での隊列。国王陛下からお言葉を頂くとある。
王城内のメインバルコニー下の広場は、円形の闘技場のようになっている。城に近い半円をテーブル客席が3段に渡ってズラリと並び、そこに着飾った人々が座っている。外門へ続く石畳の側は上がテーブル席、下段は立見席となっている。
昨日1日でセット組立した職人さん、お疲れ様です。
今回入城門とされるのは、この外門へ続く石畳の先にある正面門。
選手は二重壁の間で待機することになっている。
どこで見ようかと補佐官3人で話していたら、警備に就くオードルさんが、隊服着てるなら貴族席の端で警備のふりして立ってろと言ってくれた。で、不審者がいたら、私が取り押さえろとのこと。
「すっごい人だかりね」
私と同じく初めて見るサリーが、帽子調整道具一式が入ったカバンを抱きしめてつぶやく。
いつフランドールさんの要請がきてもいいように、とのこと。
確かにあの金細工の塔は、ちょっと激しく動いたら壊れそう。
「こうやって見れる位置に来たのは、僕も初めてなんですよ」
着飾った人たちが近くにいて、なんだか落ち着かない様子で辺りを見る。
私は、彼らとは全然違うところを見ていた。
溢れる人の間を迷いなく歩き回るメイドさん。外部からの雇い入れはなく、全て城内の使用人でまかなっている。
(すごい!なんて上品なメイドさんなの。城使えのメイドってここまですごいんだ)
思わず食い入るように見ていたら、サリーが袖を引っ張った。
「もうすぐ始まるわよ」
やがて音楽隊の指揮者が現れると、広場はざわめきを小さくした。
パァーパッパラ…!
金管楽器の音に続いて、打楽器の音が重なる。
門の扉が開いて選手入城となった。
ここで黄色い歓声といものを初めて聞いた。
先頭は騎士団団長アウグスト様。ナウリード侯爵様だそうです。
嬉々として手を振る女性達、そして歓声を上げる立見席。私達の周りは立ち上がることもなく、静かに手を振る御婦人やご令嬢、拍手を送る男性など落ち着いたもの。
団長様に続くのは騎士団第1大隊から第5大隊。ちなみに王族の警護をする近衛隊は今回参加していないらしい。
第1大隊は城や王都中心に警備を受け持つ、別名貴族隊。カラーは白。所属隊員は貴族の子息のみ。
第2大隊は地方を巡回することが多く、平民や下位貴族が多く、女性も所属する。実力主義が強い。カラーは緑。
第3大隊は魔法部隊。白薔薇部隊、紅薔薇部隊もここに属している。厳密に言えばこの隊は騎士や兵士とも違う独立部隊だが、権力のある騎士団、数が圧倒的に多い兵団と並ぶには難しいので、騎士団に取り組まれているらしい。カラーは赤。
第4大隊は主に平民が所属する隊で、一番人数が多い。カラーは青。
第5大隊は10年程前に新設されたらしく、所属する者は元第1、第2、第4大隊、兵団の出身者。完全実力主義で、騎士団長や将軍の推薦者で構成されている。遊撃隊もここに所属している。一芸に秀でたものが多数居るので、個性が強い。カラーは黒。
ちなみに諜報部は騎士団長直属の部隊で、構成員は不明となっている。
それぞれの隊色の隊服を身に纏い、諜報部女性陣オススメのイケメンが総勢60人が並んだ。
ちなみに女性も10人程参加している。これは男性陣オススメらしい。
「うわぁ、目立ってるフランドールさん」
「1人だけ帽子着用って、大丈夫なの?」
「いつものことですから」
さっそく個性だしてるな、第5大隊。
音楽隊の演奏が終わり、白の中腹のバルコニーから別の管楽器隊が現れた。
「国王陛下、並びに王妃殿下のおなりー!」
メインバルコニーの奥から金髪の両陛下が現れる。優しい顔立ちのお2人には3人のお子様がいる。
しかし、年相応の陛下に比べ王妃様の若々しさといったら、とても17才の王子を筆頭に3人いる子持ちの母には見えませんよ。アンチエイジングでもしているのだろうか。
両陛下の奥に出て来たのは17才の皇太子と、神童と名高い14才の王子、11才の王女。
みんな親譲りの鮮やかな金髪で、優しい顔立ちの美男美女だと聞く。
陛下が選手へお声をかける。
全員で選手の健闘を祈る拍手を送り、選手は一度退いた。
「初めてお見受けしたわ~」
「私も。王妃様のおかげでいいデザインが浮かびそう」
うっとりしているサリー。
どんな帽子ができるのか楽しみだ。
「まずは剣術魔法試合があって、一騎打ちの騎馬戦が5試合。その後この場で社交タイム、か」
試合は観客を飽きさせないように、一試合約5分くらいで行われる。ちなみに勝ち抜き戦ではないので、時間内に勝敗がつかなくても問題ない。審判もいるが勝敗を告げることは少ないらしい。
きゃああああ!
悲鳴ではなく、女性の歓声が響いた。
にこやかに手を振って現れたのは騎士団長様と副騎士団長様。
ちなみに騎士団長様は若い頃の伝説がある。
国主催の剣技大会で、19才から26才まで優勝し続けたそうだ。27才の時は負けたのかというと、実は連続優勝が仇となり、前代未聞の出場禁止を言い渡されたそうだ。それからすぐ副騎士団長となったらしく、出場する暇がなくなったとも言われている。
騎士団長と副騎士団長の服はカラフルだ。裏が白の赤のマントに白い隊服、房がついた金の肩章に金糸の飾緒が2本と赤が1本。勲章は胸元にズラリと並んでいる。
2人の剣技は舞っているように優雅だった。大きく剣を振り、観客を楽しませるかのようにゆっくり振りかぶったり、すばやく身を翻したりしていた。
盛大な拍手が送られ、次に出て来たのは白い隊服の2人。キラキラが似合う細身の選手は第1部隊で、やはり似たような試合になったいた。
選手が持っているのは装飾された模造剣。柄の先端には所属隊カラーの房がついている。
真剣さが出て試合らしくなってきたのは、4試合目だった。
緑の第2隊の選手と第4隊の選手は、ほぼ真剣に打ち合った。時間を使いきり、結局引き分けだった。
そして7試合目に第2隊の選手を相手に、金細工の塔の帽子を被ったフランドールさんが入場した。
どよめきと黄色い歓声があがる。
「ねぇ、ものすごく浮いてるよ、フランドールさん」
「注目度抜群でしょう。ふふふ」
「絶対落ちるって、あの帽子…あれ?落ちない!?」
「ふふふ」
意味深に微笑むサリーの横で、私は始まった試合を食い入るように見ていた。
本気で打ち込んでくる第2隊の選手に、フランドールさんは柔らかな笑みを浮かべたまま右に左にと剣を受け流していく。
ほとんど動かないまま、何度目かの突きで彼の模造剣が弾かれ宙を舞った。
「それまで!」
審判が声を上げて試合が終わる。
「…強いんだか変なんだかわかんないわ」
「フランドールさんは強いんですよ、帽子も落とさず戦えるくらいにね」
なんですか、その絶妙なバランス感覚。
「あ、次ジェイさんですね、怖いなぁ」
どうやらエドはあの冷笑を思い出しているようだ。
「このくらいの試合じゃ、ジェイさん満足しないわ。大丈夫よ」
「そうね、あの冷笑を見たらここのお嬢様方の夢が崩れるわ」
ついでに王族の前なので勘弁して欲しい。
第4隊の選手に続いて現れたのは、やや不機嫌な顔をしたジェイ。愛想笑いすらしない。
それでも歓声の中試合が始まった。
相手が打ち込んできた一撃目を横に薙ぎ払うと、返す剣先で相手の剣を叩き落した。
「それまで!」
審判の声に混じり、近くからもう終わりかと聞こえたが、即効で終らせてしまったジェイに不満の声は出なかった。まだまだ試合は続くのだし、両名は拍手で見送られ退場した。
試合の終わりには、魔法部隊同士の対戦があった。
その時は選手意外に観客を背にして、万が一に備えて隊員達が待機した。
魔法使いにって、限られた場所で戦うのは苦手と言われる。なので、魔法使い同士の試合は、もはや技の見せ合いになる。
大技をいくつか披露することで勝敗がつく、というわけだ。
派手な演出の試合に、やや飽き気味だった観客は再び歓声をあげる。
その興奮が冷めぬうちに。騎馬戦が始まった。
騎馬戦には第5隊からは4人出る。
風魔法使いが観客を背に待機し、僅かな風を送って、砂埃が観客席に舞い込まないようにする。
フランドールさんは騎馬戦も出場し、やはり帽子を落とさずに勝つ。2人の第5隊の選手も勝ち、終盤戦でとうとうジェイの番が回ってきた。
おおぉぉぉ!!
黄色い歓声より、男性の歓声が響いた。
「ベジャンコードだぁ!」
「アイザンクライ号!」
次々に上がる声。
威風堂々としたその姿に、熱烈なファンが多いらしい。
相手の前に立つと、馬体の差は歴然としていた。
むしろ馬が逃げ出すんではないかと心配になった。
「始め!」
合図で構える騎士。
ジェイも構えたが、興奮したアイザンクライ号が嘶き、両前足をほぼ垂直に高く持ち上げた。
ドンッと重低音を響かせて両前足を下ろすと、鼻息荒く地面を片方の前足で削りだした。もはや闘牛のようだ。
一方乗り手は無表情を決め込んでいる。
その姿におもわずエドが「怖い」とつぶやいた。
「相手の馬がかわいそう」
「ですね。だいたいの馬は尻込みしますもの」
「僕は馬より…」
「「あぁ、魔王よね」」
と、サリーとはもったらエドはこくこくとうなずいていた。
選手というより、馬同士の勝ちが決まった試合という感じだった。
結局相手の馬は逃走こそしなかったが、戦意はなくかわすのが精一杯であった。
試合が全て終わり、陛下から労いのお言葉を頂いて公開演習は閉式となった。
だが、本当に選手が活躍しなくてはならないのはここからだ。
交流会という名のお茶会だ。
それなりの貴族ならほとんど問題ないが、そうでない貴族や平民出身の騎士にとって、この場はパトロンや推薦者探しの重要な社交の場となる。
推薦している貴族にとっても、この場で自分の推す選手を介して更なる繋がりが持てるのだ。
「最後のお仕事頑張って下さい。これが最終リストです」
隅っこにいた私とエドのところへ、ジェイとフランドールさんがやってきたので、懐から贈り物リストを2人に見せた。ちなみにサリーは用事と言って消えた。
「今日出ているフェリペさんは東のソワー男爵、キリックさんは北のメイビット子爵の推薦を受けていますので、お2人とも上司としてのご挨拶をお願い致します」
「わかった」
「とりあえずその2人の挨拶から回ろうかな。サリアナ」
「はい、こちらに」
いつの間にか戻ってきていたサリーが、肩で息をしながら差し出したのは新しい帽子。
黒いハットの形で鮮やかで、大きな鳥の羽が両脇に2本刺してある。帽子の縁は銀の小さな星が連なっており、キラキラと陽の光を反射させていた。
「まぶしいぞ、お前」
「そうかい?ちょっと失敗だったかな。まぁ、いい、行こう」
他人の迷惑は露知らず、フランドールさんに背中を押されてざわざわとした客席へと向かっていった。
さて、と観客席を見渡して、メリアランお嬢様と同じ年頃の方々が目に入る。
来年はご招待出来ても、果たしてこの社交の場まで有効に使えるだろうか。
今日ここにいる間にあの事件の噂をしている声は聞こえなかったが、いったいどこまで広がっているのだろう。
「ヒルダさん、戻りますよ~」
エドの声に振り返ると、そのまま門に向かって歩き出そうとした時だった。
「カブ、というものらしいですよ、それは」
「何でも出資者を集めて資金提供してもらい、商売をして儲かった利益をそのカブという数に応じて分配していくそうですよ」
「斬新ですな」
「考案されたのはハミルディオ王子だとか」
「さすが神童と名高い方ですな」
「議会の承認を得てまずは試されるようで」
それは近くで話している数人の紳士の会話だった。
(カブ?株式のこと?)
この世界に株式は存在していない。
商売を始めるにしてもパトロンとなってくれる人を探すか、自分で資金調達をするかで始めることが多い。パトロンにしても利益配分などはなく、一定の利子と担保を付けた貸付によるものだと聞く。
私以外に記憶を持った人がいてもおかしくないが、何だか嫌な予感がしたまま2人の後を追いかけた。
本日もありがとうございました。




