討伐開始です
血の表現があります。
生き物が死にますので、苦手な方は・・・。
後半にR15いきます!
ジェイの気配に気づいたのか、右前足の白いポンブリックがゆっくり頭を上げた。血に染まった鼻先をぬぐい、ヒクヒクと匂いを嗅ぐようにあたりを見回す。、他の2頭はまだ仕留めた1頭を貪っている。
--死んだ人いませんから--
エドの言葉が蘇る。
目の前の光景を照らし合わせると、とてもそうには見えない。いや、怪我も怪我ではなくて重傷という意味だったのかもしれない。
「先にアレを仕留める。小さいのは隊員用に残す」
小さい、ですか。話によれば、一般的なポンブリックの大きさだそうで、2メートルあるそうですよ。確かにあの右前足の白いのは更にでかいですがね。
すっとジェイが動いた。
ゆっくり畜舎の方へ歩いていく。
その先には気が付いたリーダーと思わしきあのポンブリックが、牛から離れて唸りながらやはり前に進み出る。残る2頭はその場に残り、唸り声をあげる。
月光に照らされた剣が鈍く光り、黒い隊服に黒い胸当てや手甲などの軽装で近づいていくジェイ。後ろから見たら、まんま魔王です。生ぬるい風もいいシチュエーションだ。
「ガァアアアアア!」
血と涎を飛び散らせながら、リーダーが咆える。
ダダッと少し手前に走ると、後ろ足だけで立ち上がる。ジェイの2倍はありそうだ。
両手の10本の爪が、一瞬にして数十センチの長さに変わった。
ジェイも構えた。
それから先は早かった。
リーダーは両手を振り上げて思いっきり振り下ろしてきた。
それを横に飛びかわす。ちなみに地面は大きくえぐれた。
巨体に似合わず俊敏な動きで2撃目、3撃目を打ち込んでくる。
それをかわしながら、徐々に間合いを詰めていく。
ガキィン!
とうとうリーダーの右手の爪を剣で受け止める。
ぐぐっと体重をかけてくるリーダーに対し、ジェイは両手でしのいでいる。
「ガァアッ」
左手を振り上げるリーダー。
危ないっと悲鳴を上げそうになりながら、動こうとした時だった。
一瞬だった。
右手を剣から離し、腰元から鋭利な小型ナイフを取り出して、リーダーの眉間に投げつけた。
至近距離で投げられたそれは、見事に深々と突き刺さる。
「ゴアァアア」
おもわず後退し、頭を振る。
その隙に再び間合いを詰めたジェイが、喉下から剣を突き刺した。
ぶしゃっと口、鼻、耳から血が噴出す。
力が抜け、体勢が前屈みになったところで更にぐいっと押し込めば、リーダーはビクビクと体を痙攣させてそのままドンッと音を立てて地面に転がった。
「すげっ…」
後ろからの声に振り返ると、そこにはポカンとして見守る隊員の姿があった。
「うぅっ」
ミディアが口元を押さえる。
あぁ、そうだ。彼女は伯爵家の令嬢。血を見慣れてはいない。
一方アリア平気に見える。そして私も平気だ。
こちらの世界では肉は肉として売っているが、かなり生々しいものだ。ミードソン家でも養鶏や狩猟後の下処理を使用人がしていたし、血抜き現場に遭遇したのも1度や2度ではない。だからこそ食べ物のありがたさが良く分かる。
「動けるもので2頭を仕留めろ」
すでに息絶えたのだろう。
剣を地面に刺し、倒れたリーダーの腹の上に腰掛けている。
毛皮の王座が良く似合あう魔王が命令すれば、ホワードとジョンがすぐさま動き出した。
リーダーが倒れても2頭は逃げていなかった。
むしろ敵意剥き出しで唸っている。
「アリア、火炎で威嚇して注意をそらして」
「はい」
指示を出して走る。
すぐさま2頭の周りに火が広がって消える。
ひるんだその隙に2人同時に切りかかる、がポンブリックもすぐに爪を振り下ろす。
ガキィイン!とジョンは何とか剣で受け止めたが、少し大きめの右のポンブリックに挑んだホワードは受け止め切れずに弾かれる。
そしてそのまま右のポンブリックが私に気づいて突進してきた。
とりあえず避けようと地面を蹴ったが、振り回された右手が腹部に食い込む。
みしっと嫌な音がしたが、全身強化済みだったので大したことはないだろう。
「かはっ…!」
それでも肺から一気に酸素が抜け、呼吸が一瞬できなくなる。
が、反射的にその毛深い右手にしがみつき、地面に叩きつけられる瞬間に体勢を変え、足から着地する。
腰を落とし、右手を懐深くに引き寄せ、腰を回し込み渾身の力を入れて背負い投げよろしく投げ飛ばした。
(重い!)
わずか数メートルしか投げ飛ばせなかったが、頭から地面に叩きつけられて脳震盪を起こしたようだ。
ぐるるっと唸りながら僅かに四肢を痙攣させている。
肩で息をしている私の横を、ジェイが通り過ぎた。
そして痙攣しているポンブリックに近づくと、そのまま剣で首を薙いだ。
「ガァ!」
「わぁっ!」
ジョンが押し負けたようだ。
尻餅をついたジョンに右手を振り上げたポンブリックだったが、すかさず横からホワードがわき腹を刺した。
「ギャオォ」
剣は深くは入らなかったようで、体勢を崩して四つんばいになった。その隙に2人は距離を置いて構えた。
「手負いにするな。必ず仕留めろ」
魔王様が淡々とした口調で言う。
「はい!」と返事がしたが、どうやらポンブリックは攻撃するよりどうにか逃げようとしているようだ。すっかり尻込みし、体勢を低くして唸っている。
「逃走した場合はゼフェリー、アリアで仕留めろ。消し去るくらいでやれ」
「わかりました」と、ジェイと私の間に2人が並んで杖を構え、先にある魔石に力を溜め始める。
勝ち目がないと分かったのか、ポンブリックは大きく1度咆えた。
そして先ほど力勝ちしたジョンめがけて突進する。
その鬼気迫る迫力に僅かにジョンの動きが止まった。
「ジョン!」
反応したのはホワードだった。
自分の剣をポンブリックの顔めがけて投げつけると、そのままジョンにタックルするように押し飛ばす。
「いけっ!」
と、ゼフェリーの声がした。
彼の魔石が黄色く輝いて、そこからシュンッとつぶての様なものがいくつも放たれる。それがポンブリックの足元で派手に爆発する。
足が止まったところに、アリアが火炎を放った。
「グァアアアアア!」
ボオッと体が燃え上がったものの、黒焦げにならずにその場で荒い息をして立っていた。
「燃えない?」
私がつぶやくと、すかさずゼフェリーが叫んだ。
「あああ!せっかくの毛皮が!ランク落ちだ!」
ランク?何の心配をしているんだろう。
「アリアさん、いくら耐火性の毛皮といっても多少は焦げるんですよ!価値が落ちます」
「え?あ、ごめんなさい」
なんだか責められてあわてて謝る。
「バカね。価値なんてどうでもいいじゃない。あんたわざと当てなかったわね」
呆れたように言いながら、顔色が悪いミディアが私の横に並ぶ。
「外傷はなさそうですが、一応腕を見せてください」
白く淡い光を放った魔石の付いた杖を両腕にかざしていく。
「やぁああ!」
2人の掛け声がして、ポンブリックは声を上げることなく倒れこんだ。
みれば首下とわき腹に深々と剣が刺さっていた。
「あぁ、Bランク確定」
天を仰ぎつつつぶやくゼフェリー。
そういえば商人の子だったね、あんた。まさかこの場でも商魂がしゃしゃりでてくるとは、恐れ入ったわよ。
緊張した面持ちで、倒れたポンブリックの側にいる2人。ジェイが歩み寄り、首をやはり1撃で切り落とした。
「良くやった」
その声にほっと安堵の笑みを浮かべる2人。
「あら、やだ本当に気持ちいいわ」
さっきまで青い顔をしていたミディアが、私が投げたポンブリックの毛を触っていた。
こっちはすでに毛皮として認識されたようだ。
「ミディア、ホワードとジョンをお願い」
「あ、はい、すぐ行きます!」
あわてて駆け出す。
やがてこの騒動にダンフォード侯爵家の家人が集まってきたので、経緯を話していく。
半壊した畜舎からポンブリックを別の場所へ全員で荷台に乗せ移動させ、血のついた土を破棄して地面をならし、ようやく落ち着いた牛達を元に戻す。
「ゼフェリー、手を抜いた罰として畜舎の監視を命じる」
「えぇえええ!?」
当然よ、とミディアが言えばみんな笑ってうなづいた。
畜舎の管理者にゼフェリーを預け、官舎へ戻っていった。
玄関ロビーで解散となったのだが、深夜過ぎにもかかわらず、ゼンゲさんの好意で温泉と軽い夜食が用意されていた。
「ヒルダ、寝る前に部屋に来い」
「あ、はい」
ポンブリックの処理についてかな?まぁ、侯爵家に長く置いてはおけないだろうからなぁと思いつつ、言われたように夜食を軽く摘み、温泉を堪能した後に部屋に行くことにした。
すぐに寝入ったミディア。アリアは興奮してまだ寝れないと本を読んでいた。
「どちらかお出かけですか?」
まだ夜着ではなく、隊服を着ている私に首を傾げる。
「隊長とね。侯爵家にあの3頭を長くおけないだろうから、多分その話」
「あぁ、そうですよね。夏ですし」
いってらっしゃいとベット上から見送られて、私はジェイの部屋へ向かった。
ノックして中に入れば、1人部屋の中に立っていた。
湯上りらしく肩にタオルがかかっていたが、隊服姿なのでやはり仕事の話だろうと察した。
「ホワードは?」
「隣に行かせた。
ヒルダ、ちょっと来い」
「はい」
やっぱり仕事の話か、とどこか残念な気持ちを持っていることに気づいた。そのことに急に恥ずかしくなり、ジェイの顔を見ないようにして近づいた。
「怪我はないのか」
「はい、体中強化しましたので。それにミディアが治してくれました」
「治した?前足を抱え込んだ時か?見せてみろ」
「は?」
がしっと両肩を掴まれたと思ったら、そのまま視界が反転した。
背中にあたったのは固めのベッド。覆いかぶさるように目の前にあるのは、険しい表情をしたジェイの顔。
「な、なんですか?いきなり…」
なるだけ冷静に問う。
「隊員の前ではお前を贔屓きする事はできない。だが、あぁいう無茶なことはするな。逃げろ」
どうやら背負い投げたのがお気に召さなかったようだ。
「だ、大丈夫ですよ。すぐ引くような跡しか…」
「跡?」
肩を押さえつけていた手が襟元に伸び、そのまま一気に服が引き裂かれた。
ビクッと体が震えた。
ボタンが弾け飛んで、床に転がる音がやけに響いた。
「これか」
胸骨のところに紫色に3個所ある打ち身のような、小さな跡。
皮ふを強化したものの、鋭い爪は食い込み跡をつけた。
「だ、大丈夫ですょ…」
叫びたいのを我慢して、とにかく冷静にと自分に言い聞かせる。
「ここの壁は薄いぞ」
「は?」
何の話ですかと聞こうとしたが、ジェイの顔が胸に近づき生暖かいものがぬるりと跡を舐めた。
その感触に思わず出そうになった悲鳴を、なんとか自分の口を両手で覆って言葉を飲み込んだ。
次回もR15・・・。
よんでいただきありがとうございます。
過度の期待はNGです(笑)




