遭遇しました
遅くなりました。
待っていてくださった皆様、ありがとうございます。
「攻め方を変えようと思う」
それは翌朝の第一声だった。
「は?」
ここはジェイとホワードのいる部屋で、朝の挨拶をしようと部屋を訪れたのだが、彼はベットに腰掛けたまま1人腕組みをしていた。
攻め方も何も、まだ外にも出てない。
だが、魔獣のおおよその種類は、書類に上がっていたのを思い出した。
(あぁ、そうか。頭の中でシュミレーションしていたのね)
実はこの解釈は間違っていたのだが、一生気づくことはなかった。
朝食を終え、すぐさま被害報告のあった場所へ移動する。
まずは何といっても、貴族の方々の別荘の集まる地域での討伐となる。
北西に馬で1時間進み、小さな林の丘の上から下を見下ろす。
自然豊かな中にポツリポツリと邸が建っている。
「この一帯にでる魔獣はポンブリックです。右前足が白いままのオスが良く出ていて、体も大きくて数頭のメスを引き連れているとのことです」
ポンブリックは熊みたいな魔獣で、冬は白毛、夏はクリーム色の毛に生え変わる。大きな牙とツメが鋭く、特にオスは2メートルを越し、体当たりされた木が根こそぎ倒れたとの話もある怪力凶暴熊だ。
しかし毛皮としては上質で、高値で売買されている。
目に見えて引きつっている隊員を見て、気休めになるかなっと言葉を続ける。
「なお、この討伐で仕留めた魔獣についての所有権はその隊にあります。したがって、毛皮や肉を売買したことで得た報酬は、そのまま隊の報奨金となります。以上です」
おぉ、と隊員の目にやる気が戻ってきた。
「これからこの辺りの地形の確認を行う。しっかり頭に入れろ」
「「はい!」」
そしてジェイを先頭に、隊員を挟んで私が並んで先を進む。
全員でぞろぞろ動き回ったのはここまでで、二手に分かれて別荘を訪ね回り、家人から情報を収集していった。
割り当てられた7件を回って、別荘地帯半ばにある噴水のある公園に戻ったのは昼過ぎだった。
噴水の水を馬が飲み、別荘へ物資を届けに来た、荷車を引いた馬も反対側で休んでいる。
あちこちで昼の休憩がされているが、私とアリア、ゼフェリーの3人は、植木に囲まれた公園入り口をじっと見つめている。
「遅いですねぇ」
つぶやいたのはゼフェリー。
「8件回るのにこんなに時間がかかるかしら?」
「何かあったんでしょうか」
心配そうにアリアがつぶやく。
「仕方ないわ、もう少し待ちましょう。今のうちに聞いた情報をまとめておけば、そのうち戻ってくるわよ」
しかし彼らがもどってきたのは夕方だった。
さすがの私も文句を言ってやろうと思ったが、不機嫌極まりない顔をしたジェイと、ぐったりした3人を目にするとさすがに怒鳴ることはしなかった。
だが理由は聞きたい。
「お疲れ様です。随分大変だったようですが」
「あぁ」
ジェイに近寄った時、ふと嗅ぎなれない匂いがした。
それが香水だと分かったが、いくつか混ざっているようでただ臭いだけになってしまっている。
「ジェイ、臭いです」
彼だけに聞こえるように小さく言う。
「だろうな。自分でもそう思う」
「何があったのか予想はつきますが、一応聞いていいですか?」
「聞き込みに行った先々で、くだらん世間話に巻き込まれた」
簡潔で結構ですが、他の隊員を見る限り、一緒に引き止められて付き合わされたのだろう。
見目もいいが、身分もある。優良婿物件だからな。
「とにかくその匂いを消さないと討伐なんて行けませんよ。今夜は匂いをつけないように石鹸はつかえないんですから、帰ったら1人じっくりお湯に浸かってください。報告は私がまとめておきます」
「わかった」
お昼ごはんまだなんです、と訴える隊員尻目に再び馬に乗る。
「戻るぞ」
「えぇー!」
と、叫んでぐったり地面に膝をつく3人。
「馬上で食べるしかないよ」
ゼフェリーがホワードの肩を叩いているのが見えた。
官舎に戻ったら、すぐさまジェイはお風呂へ。残りも汗は流すくらいはするが、今夜は見張りにでるので夕食を済ませたら、食堂横の談話室へ集まった。
昼間の話から被害が2度出ている個所が、集中して3個所あった。
ここの駐屯兵も見回りなどに出てはいるが、追いついていないようだ。
貴族は不満げだったが、別荘地だけ警備するわけにも行かないし、もともと夏意外は静かな所なので駐屯兵も少ない。だからこうして私達が派遣されるんだけど。
「こっちの見回りとは話が付いた」
談話室に入ってきたのは、まだ濡れた髪をしたジェイ。
長湯のせいか頬に赤みがさしている。
「………」
言葉がなくなる一同。
(無駄に色気を出すな!!)
はっと気づいて歩み寄る。
「さっさと髪乾かしてきてください!」
ジェイが持っていたタオルを奪い、そのまま頭にかぶせてわしわしと拭く。
ちょっと見惚れてしまった隊員もいるようで(ホワードなんかいい例だ)、私も一瞬ドキッとしたがバレていないだろうか。
私の理想はダンディなおじ様。
騎士団長様なんかドストライク。
(まぁ、ジェイが40近くになったら、かなりいい渋みがでそうだけど)
ちょっと妄想していたら、がしっと強い力で手首を掴まれた。
我に返れば、ぼさぼさの髪が顔の半分を覆ったジェイがゆっくり口を開いた。
「もっと優しくできんのか、お前は」
「あ、すみません。摩擦で毛根痛みますもんね」
「いらん世話だ」
最後は低~い声で言われた。
とにかく髪を手櫛で整えた後、被害が集中しているダンフォード侯爵の私有地を中心に見回ることになった。
私有地にある森から出てくるのだろうが、被害は別荘裏手にある牧場の牛が2回襲われ、養鶏も1回。そして見回り中の使用人が1度遭遇し逃げきり助かったらしい。残り2件は隣接する別侯爵の私有地で、養鶏が2度襲われたとのことだった。
馬はダンフォード侯爵家で預ってもらえた。
ランプ片手にみんな緊張しながら見回る。
風はあまり吹いておらず、少しむっとした空気があたりに立ち込めている。
雲も多いようで、満月がぼんやりと霞んでいる。
雨が降りそうだわ、と思った。
最初は緊張していた隊員も、一時間何事もなく歩けば余裕が出てくる。
今日は出ないだろうと、早くも勝手にきめ付けていた時だった。
ブモォオオオ!
騒がしく牛の声が響いた。
すぐさま反応して、牧場の家畜小屋へ走る。
牧場を取り囲む木柵の中には、牛が次々に走り出してきていた。
「ミディア、アリア、ゼフェリーは後方支援。ホワードは俺に、ジョンはヒルダにつけ。
行くぞ」
「「はい!」」
気合の入った返事の後、すぐさま駆け出す。
走りながら思った。
(あれ?私も実戦初めてなんですが…)
「ヒルダ、訓練を思い出せ」
「え?」
そう言って走るスピードを上げて、あっという間においていかれる。
続くホワードも必死だが追いつけない。
しかも前方からは牛が突進してくる。
(訓練…)
思い出したのはメイグ教官、ではなくてジェイとの訓練。
にたりとしたあの冷笑は、一気に不安を消し去ってくれた。
ジェイをいかに尊敬しているか熱く語るホワード。
リーダー気質でしっかり者のジョン。
おっとりだが、希少な雷魔法の使い手ゼフェリー。
”紅薔薇”へ内定しているアリア。
”城薔薇”入隊を夢見るミディア。
(まずい…)
あの冷笑を騎士団に憧れる、未来溢れる若者に見せるわけにはいかない!
脚力を強化する。
全力で走ると牛を避けられないだろう(そこを避けていくジェイって一体)。
「先行くわ!怪我するんじゃないわよ」
そう言って、私に付けられたジョンすら放置して突っ走った。
ちなみに、いきなり豹変した走りを見せた私に隊員が唖然となり、みるみる速度が落ちてしまったそうだ。
数頭の牛が彼らを避けて走り去って、彼らが我に帰った頃、私はジェイに追いついて畜舎にいた。
そこにいたのは、牛2頭を仕留めたポンブリックが3頭。
すらりと抜刀したジェイに気が付いて見上げると、満月の光でぼんやり照らされ冷笑している。
怖さ倍増ですね。
あぁ、昼間のお嬢様達に見せてあげたい。
そしてうちの隊員には、絶対見せたくない。
1頭ならジェイを気絶させて、みんなで退治しようと思ってたけど、これはどう考えても無理。
(ごめんね、みんな。夢を捨てないで騎士団に残ってね!)
祈る思いで、私も抜刀した。
次回お分かりかと思いますが、流血シーンあります。
今週も読んでいただき、ありがとうございました。




